東方虚真伝 作:空海鼠
早いときは二、三十分で治ります。
『キング・クリムゾン』。
時間を二日間だけ吹っ飛ばした。その時間内のこの世のものは全て消し飛び、残るのは二日後の『結果』だけだ。途中は全て消し飛んだのだ。
嘘だけど。
「知ってる天井……ってこのネタもうやったか」
どうも最近ネタが不足し気味だ。メディアに三年間も触れていなかったからだろう。どうしよう。このままだと僕のあいでんててーが不足するというか無くなってしまうんじゃないだろうか。
「シリアスをシリアルに変える能力者…それが僕だ。………いかん、つまらなくなってきてる」
転生する前はもう少し面白いこと言えたはずなんだけど…。
布団から起き上がる。布団に「もうきみを一生離さない」とか言う時間はもう終わったのだ。具体的に言うと、三時間くらい前に。
「あー…そういや昨日えーりんと話さなかったな…」
この家に来てからは少なくとも一言くらいは毎日話していたので、昨日は僕史上初の快挙となるかもしれない。話さないのが快挙とは僕いよいよニート街道まっしぐらじゃねえかと思いつつお着替え。
そういえば最近、筋肉増えたな。たまに薬の実験台になるくらいで、あとはほぼニートと同じなのに。
「ねえ知ってる?ニートって『教育を受けておらず、雇用されておらず、職業訓練も受けていない者』のことだから社長もニートに入るんだって」
雇われてないもんね、社長。僕は永淋に雇われてるから、非ニート。
謎の食材を利用しての調理も慣れたものだ。レストラン開いたら以外にほそぼそと食べていけるかもしれない。しないけど。
「さてどうしよう……暇だ。暇だ暇だ暇だ今田島田山田鎌田…やっぱつまらんな」
本格的に駄目だ。自分がつまらない人間になってきているのをひしひしと感じる。つまらない大人にはなりたくないです。
「そうだ、京都行こう」
いや、未来都市行こう。そういえばじっくり見たことなかったや。あと二日で見納めだし、今の内に見ておかないと。
思い立ったが吉日、れっつらどん。
「と、いうわけでやってきました。えー……なんかでっかい建物!」
名前はまだ無い。と、勝手に思っている。
とりあえず一番でっかい建物に来てみたけれど、コレ見学とかできる系だろうか。
門番っぽい人に話を聞いてみる。
「すいません、ここってどんな建物ですか?」
「月夜見様の屋敷だ。そんなことも知らないのか?」
おおう。初対面の奴に馬鹿にされたぜ。でもこいつすぐやられそうな顔してるからそんなにむかつかないぜ。雑魚顔だぜ。世紀末顔だぜ。ヒャッハー。
「はあ、知りませんでしたね。僕、少し頭がいかれてるといいなと前々から思ってますので」
「…何言ってるんだお前は」
「譫言です。どうぞお気になさらず」
「そ、そうか……」
…あれ?何か引かれてる?どうしてだろう。何も引かれることを言った覚えはないのに。
フシギダナー。ナンデダロナー。
「で、ここって見学とかできます?」
「できるわけねえだろ!ふざけてんのか!」
激昂する雑魚面さん。怒り方も雑魚っぽくてまたグッド。
「むしろ僕がふざけてないときがあると思ってるんですか?そっちこそふざけないで下さいよ」
「ぬがああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
あ、雑魚面さんがキレた。これが現代のキレやすい若者というやつか。カルシウム足りてないんじゃないだろうか。牛乳(っぽい飲み物)ちゃんと飲めよ。
「落ち着いて下さいよ、雑魚面さん。高血圧になって早死にしますよ?」
「雑魚面って俺のことかあああああああああああああ!!!俺のことなのかああああああああああああああああああ!!!!!」
どうやら雑魚面さんは自分自身をよく理解しているようだ。しかしこの人、弄りががあるな。
「じゃあモブ面さん」
「言ってる意味はわからないが何となく俺を馬鹿にしていることだけはわかる!」
「むしろかませ面さん」
「さっきと同じだこの野郎おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
『お前なんだか』『戦場に出たら五秒で死にそうな顔だよな(笑)』
「うがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
雑魚面さんは泣きながらどっか行った。まったく、きちんと門番としての仕事をしないと駄目じゃないか。もし侵入者に入られたらどうするんだ。
「おじゃましまーす」
豆腐メンタルさんがいなくなったので、すんなり入れる。入場無料っていいよね。
迷った。
ここどこだろ。案内役として世紀末面さんを連れてくればよかったけどどっか行っちゃったし…。
とりあえず目についた大きな部屋へ入ることにする。
「おっじゃまっしまーす」
「どうぞー」
案外フランクなお答えをいただいた。
部屋の中には美少女が一人。白髪でセミロング、アホ毛、ぶかぶかの服を着ている……萌えポイントを理解してやっているのなら、末恐ろしい。
「どうも、八意家在住の加城冥利です」
「あー××……永淋が話してた子ね、きみ」
おや、どうやら永淋の知り合いらしい。
「で、そちらは?」
「あー、私?月夜見って言うんだけど…知らない?」
「知らない」
口が勝手に嘘をついちゃうんだ。
「そっかー…私ここの創設者なのになー…」
しょぼんと落ち込む月夜見。心なしかアホ毛も萎れる。何この可愛い生き物。持って帰りたい。
「今知ったからいいんですよ」
少し可哀相になってきたから適当なことを言ってお茶を濁す。
そう言うと月夜見のアホ毛に元気が戻ってきた。どういう仕組みなんだろう。
「そうね!そうよね!別に私が無名すぎるわけじゃないもの!」
「そうですよ。ここの門番の雑魚面さんも知ってるみたいでしたし」
「…そういえばきみ、どうやってここ入ったの?」
「普通に話してたら雑魚面さんが泣いて逃げ出しました。失礼にもほどがありますよ」
「そ、そう………。まあ、仕方ない…のかな?」
……僕との会話は逃げ出すのが仕方ないと捉えられるほどなのか。
「ま、何はともあれよろしくね」
僕よりも少し小さいくらいの手を差し出してくる月夜見。握手だろうか。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
月夜見の手を握った瞬間、月夜見が急に手を離し、信じられないようなものを見る目で僕の手を見てきた。僕との握手がそれほど気持ち悪かったのだろうか。
「貴方…本当に、人間…。よ、ね」
月夜見がシリアスな顔をする。今こそ能力を発動して、シリアルにすべきだろうか。ちなみに僕の好みはグラノーラだ。
「はあ、よく『人でなし』とは言われますが、一応」
「……二日後に月に行くのは聞いているかしら」
「はい。地上の穢れがうんたらかんたらで、月に行って寿命無くしたいんですよね」
「…驚かないで、よく聞いて」
月夜見は相変わらず真剣な瞳でこちらを見つめてくる。
「貴方」
そして月夜見が。
「月へは行けないわ」
決定的な台詞を吐いた。
ようやく物語が進行したような気がします。
超古代パートはあと二、三話で終わる予定です。