東方虚真伝   作:空海鼠

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サブタイが全く思いつきません。


ストーカー退治

「ねえ、貴方がよく口にする、『にーと』ってなあに?」

 

「きみのように、周囲からの貢ぎ物などによって悠々自適生活ライフを満喫する才能のある人々のことだよ」

 

「そ、そう?そう?」

 

僕の吐いた嘘に、顔をにまにまと綻ばせてかぐや姫は勘違いを加速させる。案外、綺麗だ美人だ結婚してくれなどと言われることは多々あっても、容姿以外のことで褒められることはあまりないのかと推測してみた。いや、誰かに口説かれるときにお世辞くらいは言われるか。

 

「うん、きみは類い希なるニートだよ。それはもう、自称をしてもいいくらいには」

 

まあ、したとしても自傷にしかならないが。

 

「……そうね。何か響きも格好いいし、名乗ってみようかしら。永遠のにーと、とか」

 

「………………すごくいいと思うよ」

 

眼球が意図せずぐるぐると泳ぎ始めたが、目の前の幻覚に意識を集中させることで、僕の目玉は親父として覚醒することなく固定される。不条理の塊くらいにならなってもいいかもと考えたが、生憎名字を魔頭にする気はなかったので断念した。ガイアは僕に何も囁いてこない。

かぐや姫は、そんな僕の様子を知ってか知らずか、くすくすと笑って顔を緩めている。もしこれが全て彼女の掌の上だとしたら、彼女が稀代の悪女だというのも頷けるのだが、正直、彼女がそんなに考えているとはとても思えない。

いや、偏見なのだけれど。

 

「それで……今日僕を呼び出したのは、ニートの意味を聞きたかっただけかよこの腐れニートが」

 

「う、うん……?何故だか、貶されている気がするわね。……まあいいわ。今回貴方を呼び出したのは、貴方に頼みたいことがあったからよ」

 

頼みたいこと、ねえ。嘘でなんとかできることならいいんだけど。いや、頼みだから後先の関係を考えなければ断ることもできるのか。一応、思考の片隅に入れておくべきだな。

 

「何だね?言っておくが、僕は脳も心も勇気もなければ機械の体さえ持ってないポンコツだ。できることと言ったら鉄道にゆられてぶらりと途中下車することくらいだぜ」

 

「……貴方の使う言葉は、難解なものが多いわね」

 

「精神汚染がAランクだから、僕の頭と同等の精神汚染がなければ会話が成立しないらしい。常に頭の中から電波を発信している人間としか僕の真意は察することはできないのさ」

 

「……とりあえず、貴方とまともな会話をするのは諦めた方がいいっていうのは、伝わったわ」

 

かぐや姫は額に手を当てて頭痛が痛そうなポーズを取ると、生暖かそうな溜息を吐き出した。最近、こんな反応を返されることが多いような気がする。同じ頭痛持ちとして負けるわけにはいかぬ、と僕の中の競争本能が発憤してくることはなく、虚しさと情けなさと心許なさだけが僕の心に巣を張って遠くの景色を眼球に映そうとする。

 

「どうしたの?目が据わってるわよ」

 

「馬鹿言え、僕の眼球は起立礼着席をこなせるほど器用じゃないんだ。そういうことは風呂好きの親父さんに言えよ」

 

かぐや姫が僕の言ったことを理解できずに頭と首を捻って、フクロウを模倣する。

僕はそんなかぐや姫を尻目に、目の前に置いてあるお茶菓子に手を伸ばして、一口で食べる。少々贅沢な食べ方だが、どうせかぐや姫は金持ちなのだ。お茶菓子を少しくらい僕の腹に収めても、彼らの手元には、都の役人一人一人に山吹色のお菓子を差し出してもまだ生活できるほどの財があるに違いない。

僕が高級そうなお菓子を食い散らかしていると、かぐや姫が思い出したかのように言った。

 

「それで、頼みっていうのは」

 

「よくこの流れで元の話題に戻そうと思ったな」

 

「頼みっていうのは!」

 

かぐや姫が声を荒げる。鼓膜が揺れて若干痛んだ。

 

「ある妖怪を退治しても」「あ、僕もう帰っていい?お菓子は持って帰るから」「聞けよ!」

 

帰ろうとした僕を、かぐや姫がおおよそ淑女とは思えないような口調で引き留めた。

まずはその幻想(キャラクター)をぶち壊す!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、美味しいお菓子(聞いた話によると、かぐや姫に一目惚れした菓子職人の特注らしい)に釣られて、妖怪退治を引き受けることになってしまった。

今回の標的は、かぐや姫の美しさに目を奪われてついでに心までも盗まれましたと訳のわからないことを供述するであろう妖怪。まあ、言ってしまえば、かぐや姫のストーカー妖怪だ。

困ったことにそのスターカーは実力も伴っているらしく、彼女が頼んだ専門家は軒並みやられて、手首だけとか目玉だけとか、部分的な帰還を果たしていたそうだ。

 

「悪質なストーカー、ね……」

 

今のところは屋敷に数人がかりで結界を張っていて、妖怪は近づけないようになっているそうなのだが、肝心の結界を張っている陰陽師が結界の外にいる。つまりそいつら皆殺しにすれば結界が解かれて、妖怪はやはり運命だ天恵なのだと電波を受信しながらかぐや姫を攫うことになりかねない。

そこでかぐや姫は様々な術(大体は嘘)を使えるうえに、死んでも代わりがいる僕をダメ元で妖怪にぶち当ててみることにしたそうだ。

要するに僕、捨て駒よ。

倒せたら万々歳、死んじゃったらああ残念だったねというとこだろうか。

 

「嗚呼、捨て鉢人生万歳っ……と」

 

無事、目的地に着いた。あたりは一面禿と表現していいくらい、毛髪が少ないことを嘆いていそうな不毛の大地だった。地面にはどろどろとした気持ちの悪い黒い物質が散乱しており、これがあの妖怪の気持ちを体現しているのかと思ってみる。

目の前には簡単に作られた竪穴式の住居もどきがあって、明らかに妖怪の住みかであることをどろどろした物質と一緒に妖気がアピールしていた。妖気はどろどろした物質から放出されていて、なんとなく触れてみたとしたら、僕の体が復讐者へと成り果てて繰り返す四日間に身を投じそうな気がしてきた。気のせいだけど。

能力によると、あと十分ほどでここの宿主が帰ってくるらしいのだが。

 

「しかし……ここで十分も待ちたくないな……」

 

魔法の筆で巻き散らかされたかのようなどろどろは、どことなく生理的な不快感を刺激してくる。ポンプがあればどろどろをどうにかできそうなのだが、生憎と手元にそんなものはなかった。

仕方なく住居もどきの中に入ると、中は見た目よりは広く、まるで青狸の腹の中にいるような感覚を味あわせてくれる。どろどろのぐじゅりとした感覚が足下に広がって心地悪い。

 

「ここまで不快だと、逆に心地良いような気がして…………こないな、うん」

 

立ったままだと疲れるが、座るのもどろどろに触れないといけないので、嫌だ。二つを天秤の上に乗せてみると、ゆらゆらと揺れたまま均衡して釣り合ったので、間を取って空気椅子をすることしにた。より疲れたので、やめた。

 

「この世に意味のないことなんか無いって言うよりは、意味のないことにしちゃいけないって言う方が真理だよな……」

 

その点、僕は大いに失敗しているわけだけど。

僕の人生はすべからく意味のないことなのである。

 

「……あれ?すべからくって、全てって意味じゃなかったっけ」

 

ううむ、記憶力の欠如の問題なのか、僕の学習面での問題なのか、今となってはもう判断がつかない。いや、どうでもいいんだけど。

僕が住居もどきの壁に寄りかかって待つこと十分。

この竪穴式住居もどきの主にして、かぐや姫のストーカーをしているという妖怪が帰ってきた。

が。

 

「……ちょっとこれは予想外だったかな」

 

そのストーカーさんは。

 

「……はん。久しぶりにオレの家に帰ってきたと思ったら、そこが占拠されてましたってか?……いやあ、笑えねえな」

 

どう見ても、完璧に、女性だった。

……いや、同性愛を否定するわけじゃないけど、笑えねえのはこっちだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




スランプと言うほど元が良くありませんが、文章が思いつきません。
いや、本当に。

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