東方虚真伝   作:空海鼠

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短いうえに内容が薄いうえにいつもと何か違います。


かぐや姫

諦めたとは言っても、屋敷に入るのを諦めたわけではなかった僕は、通り抜けフープと透明マントの合わせ技で屋敷内に入ることに成功した。

 

「……にしても、随分と使用人が少ないな……」

 

僕が昔住んでいた家が七つ入ってもまだ余裕がありそうな大きさの屋敷だというのに、未だ使用人らしき人物は二人しか見ていない。みんなで腕を大きく上に上げて背伸びの運動をやっているのか、使用人全員で朝礼でもやってるのかどちらかではないかと考えが浮かぶ。だが、よく考えたら僕が外にいたときに見た太陽は、真上からの直射日光で世の男性の毛髪を減らそうと尽力していたことを思い出す。朝ではないのなら、さっきの二つは違うだろう。

 

「単に使用人の人数が極端に少ないだけかな」

 

安易な推測を漏らしても、その振動を誰かの鼓膜に届けるには、コードレスの糸電話が必要だ。もう姿を消さなくても見つからないのではないかと調子に乗りつつ、がらりとした廊下をのっそりと歩く。

なんとなく窓を覗いてみると、正面玄関だと思われるところに、男たちが火に集まる虫よりも密集していた。そのまま燃え尽きてしまえ。

窓の隅を指でつつーっと触ってみた。意外なことに、埃は全く付かなかった。未来の帝の屋敷よりも使用人が少ないのに、未来の帝の屋敷よりも掃除が行き届いてるとは。月の科学ってすげーと感心しながら歩みを進める。いや、人類の努力なのだろうか?

塵一つ落ちていない廊下の粗を探しながらしばらく進んでいくと、いかにもな扉を発見した。これまでに見たどの扉よりも大きいし、この世界が漫画だとするなら背景にゴゴゴゴゴという擬音が浮かんでいても不思議ではないような雰囲気を放っている。

扉をゆっくりと少しだけ開けると、中には絶世の美しさを持ったかぐや姫がいて、僕はそのあまりの美しさに魅了されてしまった。なんてことは一切無く、そこには頬杖をつきながら寝っ転がって、ぼけらーっと天井を見ている少女がいた。その少女に覇気は全くと言っていいほど無く、下手すれば僕レベルに目が死んでいる。

少女は、十二単のような豪華で煌びやかな衣装を身に纏っていて、その服に着られないだけの美し外見を持っていた。光り輝くような美しさと形容したらいいのか、高貴なオーラのようなものを全身から発していて、これなあ多くの男が求婚をしてくるのも、なるほどと頷ける。間違いなくかぐや姫だった。……まあ、それを台無しにするだけのだらしなさを所有しているのも確かなのだが。

扉をもう少し開けて、その隙間から体をにゅるんと入らせようと試みる「誰っ!?」音が出て気づかれてしまった。ううむ、僕に忍者の素質はないようだ。

 

「誰と聞かれても僕は通りすがりの僕としか答えようがないんだけど」

 

能力を解除して、出来る限り不敵に笑おうと心がけながら姿を現す。だが、自分が思っているよりも口角は上がらなかったようで、かぐや姫がほうれい線がバキバキと音を立てて折れそうな引きつった笑みを浮かべる。

かぐや姫の死んだ目が好奇と警戒に彩られ、生気を取り戻していく。だが、自分の立場やらその他諸々のしがらみを思い出したのか、その目にふっと諦めの色を浮かべると、大きく息を吸い込んで。

 

「……くせも」「いやちょっと待とうよお嬢さん」

 

かぐや姫が叫んで人を呼ぼうとするのを、彼女の口と僕の掌を密着させることで妨害した。おそらく、後にも先にも、僕が誰かを『お嬢さん』呼ばわりするのはこれっきりだろう。

 

「僕は決して怪しい者……だね、うん。いや、うん、怪しい者だけど、きみに危害は加えないから、うん。取りあえず人呼ぶのやめて」

 

やたらと「うん」を連呼して、かぐや姫に怪しい印象を植え付けつつも、弁解を試みた。かぐや姫は僕の言葉に不信感と大志を抱いたような顔になって、「信用はできないけどとりあえず言うとおりにしておこう」という思考が目に見えるような感じでコクコクと頷いた。

 

「……何が目的なの?言っておくけど、私は力ずくでもモノにはならないわよ」

 

僕から解放されたかぐや姫は、とてててと僕から少し距離を取ると、どことなく尊大なポーズを取って優雅に言い放った。自分の美しさに絶対の自信を持っていて、僕がほぼ間違いなく求婚に来た友鋳込んでいる態度だ。ここは乗るべきだろうか、いや、それだとこの娘のためにならないと教育パパな考えが僕の父性を覚醒させたのは嘘だけど、とりあえず否定しておこう。

 

「あ、結婚とか、興味無いんで。僕は人生の墓場に入るよりも先に本物の墓場に入りたいと思っている人種だとご近所で評判なのだ」

 

「…………嘘ね。この私の美貌を前にして惚れない男なんて、枯れた老人くらいのものよ」

 

……それは、竹取の翁のことなのだろうか。自分を育ててくれた恩人を枯れた老人扱いとは。かぐや姫、恐ろしい子。

 

「じゃあ僕は枯れた老人ということで。……まあ、あながし間違っちゃいないんだけどね」

 

「えーと、歳を取っているようには見えないけど、もしかして仙人だったりするのかしら?」

 

かぐや姫が興味と好奇に目を輝かせて聞いてくる。

 

「まあ……似たようなものかな」

 

かぐや姫の疑問を、曖昧に肯定する。かぐや姫の目の煌めきがいっそう強くなり、目の中に星を入れていた。目に入れても痛くない星とは、どれほどのものなのだろうか。僕も夜空の星の思いをはせて、可愛くて仕方がない星を見つければ少女漫画に出演することができるのだろうかと見当違いな考えを廻らせてみた。

 

「そうなのね!仙人は初めて見るわ!」

 

先ほど開けられた距離をつめられ、肩を掴まれてがくがくと揺さぶられた。頭の中身がいい感じにシェイクされて、僕の頭がまともになることを少し期待してみたが、結果は期待はずれに終わった。

かぐや姫の揺さぶりから解放してもらって、少し鳥肌がたった肌を落ち着ける。最近、生前よりもこのアレルギーが進行している気がしてならない。

 

「仙人……と言っても、ろくな術は使えないけどね」

 

術を要求されても面倒なので、保険をかけて「いいわ、どんなのでもいいから、やってみて」かけきれなかったようだ。

 

「………………じゃあ、増えます。分裂します」

 

「おー」

 

ぱちぱちぱち、と手を叩いて無邪気に微笑むかぐや姫。マジックを楽しみにする子供のようだ。

むむむむむ、と精神集中する振りをして、能力により分裂したように見せかける。うにゅんと気持ち悪く、単細胞生物風に分裂をする。

 

「おお」

 

かぐや姫が目を球状に広げる。二次元風の美少女でも、眼球の立体感はあるんだなあと感心してみた。

 

「おおお」

 

僕が完全に分裂したのを見て、かぐや姫は目の中にサーチライトでも入れたのかのように目を輝かせ、僕は星の進化形はサーチライトなのかと学習した。嘘だけど。

 

「面白いわね、仙人って!」

 

「みんながみんなこんな術を使えるってわけじゃないんだけどね。僕はちょっと、おかしいから」

 

言いながら、分裂を戻す。嘘の体力消費だって、積み重ねれば馬鹿に出来ないくらいはあるのだ。

 

「おかしくないわ!素晴らしいわよ!一週間くらいなら結婚してあげてもいいくらいには!」

 

かぐや姫が興奮したように言うが、正直、すごいのかどうか、例えがよくわからない。意訳すると、一週間で離婚するという意味だろうか。

かぐや姫は鼻息を荒くしながら、彼女の隣の畳をバシバシと叩いていた。それほどまでに大爆笑だったのだろうかとかぐや姫の精神状況の安定性を危惧してみた。

バシバシ。かぐや姫はまだ叩いている。

バシバシバシバシ。畳が痛まないか、心配になってきた。

バシバシバシバシバシバシ。かぐや姫の顔が、不機嫌そうに歪んだ。

 

「早く来なさいよ!私が呼んでるのよ!」

 

かぐや姫が唐突にキレた。むきゃーっと顔を怒りによって紅潮させて、縦方向に若干縮ませる。だが、美人は多少崩しても美人という評価が得られるのか、美人の最低限のラインからは十分に余裕があった。これが格差か。

いつまでも観察をしていると、変態の汚名を着せられてしまうので、これ以上汚名を着せられたら着ぶくれになってしまう僕は、速やかにかぐや姫の隣に座った。

 

「ねえ、まだ他に術ってあるの?」

 

「無いことはないけど、一日一回の制限がついてしまうという持病があるんだ。すまないねぇ」

 

「ふぅん、じゃあまた明日来なさい!」

 

密かに「それは言わない約束でしょ」という返しを期待していたのだが、この時代の人にそれを求めるんは酷だっただろうか。

 

「じゃあ、また明日」

 

かぐや姫に手を振って、入ってきた扉から出て行こうと、横にスライドする。

 

「……だ、誰じゃ、お主」

 

「…………はろー、翁」

 

ぼくは にげだした!

 

 

 

 

 

 

 

 

 




パソコンが、フリーズしました。
文章は、一太郎で書いていました。
保存は、していませんでした。

絶望した。

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