東方虚真伝   作:空海鼠

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静乱さんの『東方事反録』とのクロスです。
あと、地味に五十話目だったりもします。


クロス回

さて先日、玉藻前の件が解決した後に僕は、『まともな主人公のいる世界でも見てきたらどうですか』と岬ちゃんに強制的に異世界へボッシュートされた……あれ?『別の世界の常識人でも見てきたら』だっけ。まあ、どうでもいいだろう。どっちにしろ結果は同じ、モヤッとした僕は別世界へと投げ入れられて、あやわや地面に叩きつけられて死亡する直前に想也くんにお姫様抱っこで救出されたのであった。まる。

 

「まあ、ここまではいいだろう」

 

頭の中でこれまでのあらすじを纏めて、その関節部を口から吐き出す。

その後、懐かしのミスドをご馳走になって、想也くんの……能力的なもので返された。誤字じゃねえぜ。

 

「で、ここどこだよ」

 

眼球を最大限まで働かせても、僕の知っている景色は視神経に干渉してこない。どこまでも荒廃した大地が広がっているだけで、どことなく世紀末を思い起こさせる。

ふむ、想也くんが僕を謀ったのかな。人から謂われのない恨みを買ったりするのには慣れているけど、まさか異世界の住人まで僕を嫌ってくれるとは思わなかった。全宇宙に僕の気持ち悪さが伝わっている結果だと言えよう。

能力で想也くんの能力を調べたら、意外と簡単にヒットした。

 

「『事実を反対にする程度の能力』……ねえ。思うんだけど、曖といい小雪といい想也くんといい、僕以外の転生者のチートレベル高すぎないだろうか」

 

この中で能力に制限があったりするのって、僕だけなんだよな。

さらに調べると、「うわあ……」何だこの主人公。鈍感、一級建築士、お人好し、チート。絵に描いたようなヒーローっぷりに、情報の読み込みを中断してぎょろぎょろと忙しない目玉を落ち着かせる。頭が痛くなってきた。

 

「さてと、彼の不始末でこうなったんだから、これは彼に責任を取って超高級壺を買ってもらわなければならないかな」

 

もう一度能力で黒ローブとか、魔方陣とか出してみようかな。とも思ったが、僕の心の中のエコロジーが無駄遣いは良くないと脳内の資源を無駄に使う幻覚幻聴の皆さんを殲滅するところまで行って、第七次僕大戦が始まるところまで嘘だけど。

では、しょーかーん。

 

「うわっ!?」

 

目の前に、学ランを着たイケメンが現れた。視界の端に『倒す』のコマンドが無いか注視してみたが、『戦う』『道具』のコマンドさえなかった。これがゲーム脳というやつなのか。

「新鮮味のない陳腐で使い古されたリアクションをありがとう」とか言葉にしかけたが、相手がやって来てすぐに喧嘩に半額のシールを貼り付けるほど度胸はないので、一般人を装ってリアクションのお手本を見せる。

 

「う、うわー。何だべ、オラの目の前に急に人が現れただよ。ひ、ひえー。天狗だべ、天狗の仕業なんだべ」

 

「うっわー、さっき別れたばかりだっていうのに、そろそろ僕は本気で君の頭に螺子を突き刺したくなってきたよ!」

 

おお、何だ。攻撃的だなあ。しかし惜しい、僕がアロハ服を着ていたら「何かいいことでもあったのかい?」と聞くこともできただろうに。

やりきれない気持ちを下腹部に抱えて、どうしようもなくなったので、とりあえず「はっはー」と言ってみた。想也くんの視線が鋭さを増した効果が見受けられた。

 

「まったく、僕をどうやってここに呼び出したんだよ、能力?」

 

「いや、知り合いを召喚できる特殊な腕時計を使ってだね……」

 

ちなみにその腕時計は、普通見えないものまで見えるというオマケ付きだ。幻覚とか、錯覚とか。

 

「まあまあ、主人公くん。落ち着いてくれ」

 

「その主人公君っていうのはもしかして僕のことなのかな?出来ればやめてもらいたいんだけど」

 

目の前の真っ黒黒助が何か言っているが、おそらく気のせいだろうと断定して話を続ける。

 

「さてさて、主人公くん」「その呼び方、やめてもらえるかな」「じゃあ峰岸くん」「誰だよ峰岸君」

 

峰岸くんが不満そうに自分の名前を反復するが、彼は記憶喪失だっただろうか。今なら代わりに宇宙から来ましたとかいう記憶を植え付けて、将来的に電波さんとして僕らのお仲間として迎えることを考えてみた。誰が得するんだろうか。

 

「峰岸くんに来てもらったのは他でもない、ここ、どこだよということだ」

 

「…………え?ここって、君の住む世界じゃないの?僕はてっきりそうなんだと思っていたけど……」

 

「やだよこんな世紀末。さすがの僕もこんなところに好んで住もうなんて考えは思考のせいぜい70%くらいしか占めてないしね」

 

「考えてんじゃねえか」

 

想也くんの眉とか頬の上部がピクピクと痙攣していて、思わず魚釣りですかと声をかけてみたくなった。だが、それを言ったら僕が釣った魚のごとく捌かれるのは目に見えているので、独立した口の行動を脳からの軍事的脅迫で止めた。

 

「落ち着けよ。きみはどんな者にも友好的ってキャラ設定だろ。ほら、僕だって生きてるんだぜ、生きてるから友達なんだぜ」

 

「君とは友達になれそうもないな!」

 

手厳しいツッコミを受けて、遠くを眺めるついでに目を逸らしてみた。僕が自らの眼球を鮪の一生に例えていると、想也くんが頭を掻きながら短く溜息をついた。どうやら、僕は彼の気分を程よく害せたようだった。

 

「まあ、僕の手違いでこんなところに飛ばしたんだったら、元の世界に戻すくらいのアフターケアはするよ。どうやら、非は僕にあるようだしね」

 

そういえば、想也くんは能力を行使して僕を元の世界に戻そうとしたんだよな。……だとしたら、何で僕はこんな辺境にいるんだろうか。

彼の能力はチートだ。『事実を反対にする程度の能力』、それを使ったのなら、僕は今ごろ岬ちゃんの皮肉を聞いているんではないだろうか。

気になって、能力を使って調べてみた。頭の中に情報が次々流れ込んでくるような感じは、未だに慣れない。

 

「……あ」

 

「どうかしたの?」

 

「いや、ボールを足で蹴って相手側のゴールに入れるっていう画期的かつ革新的なゲームを思いついただけだよ、気にしないで」

 

「それ、サッカーだよね?」

 

想也くんの問いかけを無視して、頭の中に流れてきた情報に思考を巡らせる。ここは確かに僕の転生した世界だ。だが、その西暦は五桁だった。

つまり、想也くんは『元の世界に戻る』ようにはしたのだが、『元の時代に戻る』ようにはしなかったわけだ。あくまで事実を反転させるだけなのだから、元となる事実を細かく設定しないと上手くいかないのかなと、彼の案外アバウトな能力設定を少し憂いてみた。使い勝手の悪さでは僕の能力と、どちらが上なのだろうか。

首筋をボリボリと掻いて、真新しい皮膚を剥がして爪に付ける遊戯に熱中していたら、想也くんが顔を近づけて、鼻をひくひくと動かしていた。近い近い。

 

「……君って、妙にいい匂いがするよね……。……いや、僕にそういう趣味はないけど」

 

なるほど、こういう一挙一動がフラグへと繋がっていくわけか。男にまでフラグを立てようとする想也くんの貪欲さに背筋が寒気を訴えてきた。水分と塩分を放出することも、僕の背中は忘れない。

ちなみに、いい匂いがするというのは、おそらく僕特製のシャンプーの所為だろうと推察。シャンプーは基本売ってないから、僕が作るしかないのだ。

 

「ああ、僕の能力は『いい匂いのする球を出す程度の能力』だからね」

 

「しょぼい!?……いや、君を侮辱しているわけじゃないんだけどね?」

 

「能力名は『紫の芳香剤(ブルー・レッド)』」

 

「それ絶対嘘だよね?」

 

「ところがどっこい」

 

「本当なの!?」

 

嘘だけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かくかくしかじかで、つまり元の場所に帰してほしいのだよキミィ」

 

「何一つ伝わっていないことに目を瞑れば素晴らしい説明だね」

 

数分経過。面倒な説明はカットして、これで伝わればいいなという希望的観測を前面に押し出してみたが、やはり上手くはいかないようだった。

仕方がないから、要点を掻い摘んでアバウトに適当な感じで説明をした。想也くんは「あー……そういうこともあるのか」と顔をしかめた後、「わかった。僕が責任を持って君を元の時代……平安時代だっけ?に、帰そう」とコンニャクくらいの柔らかさの表情で言った。

 

「それもいいんだけど……そうだね、一回勝負してみないかい?」

 

「勝負?」

 

想也くんが首を傾げて反復する。

 

「と言っても、僕が勝負するわけじゃないんだけどね。僕はトレーナーとかマスターとか、そういった指示を飛ばしておいて自分は動かないチキンのお手本だから」

 

そう言って、ボールから小雪を召喚する。召喚のオプションに、小太刀も着けておいた。これで、小雪は目に付いたものを全て切り裂くバーサーカーのクラスになった。

想也くんはまだ状況を頭の中で整理している様子はなく、僕の言葉を吟味して咀嚼している最中なのかもしればかった。

 

「ゆらぁ……?あれ、おお、刃物が手元に」

 

「え、え」

 

動揺して狼狽する想也くんを尻目に、小雪はゆらりゆらりと見た目とスピードが合わない速度で彼に接近する。

小雪が小太刀を振り下ろした瞬間、想也くんの手元に剣が出現して、瞬く間に小雪の小太刀に切り裂かれる。資源の無駄という言葉が僕の脳内で自己主張を始めた。

 

「ええっ、や、やばっ!?」

 

「ゆらー」

 

想也くんが後ろに大きく飛んで、小雪と距離を取る。そしてまた剣を出現させ、ぶつぶつと何かを呟く。

 

「これでもうこの剣は折れないよ……!」

 

そう言って、小雪に剣を叩きつけるべく、跳びながら腕を振り下ろす。

想也くんの剣は、小雪の小太刀に半紙よりも容易く斬られて地に落ちる。信じられない、といった風の表情だ。そりゃあ、折れない剣でも、斬られたら真っ二つになるだろう。

 

「ゆららららら……ゆぅらりぃ」

 

小雪がこっちを向いて、僕に攻撃しようとする。一応、予想通りだ。

急に僕の方を見た小雪に隙を見い出して、攻撃をする想也くんだが、後ろを向いたままの小雪に、軽く切り裂かれてあしらわれる。自動迎撃装置が付いてるのかも。

いつも通りに偽って、『視線を合わせた者の向きを反転させる能力』が使えると嘘をついた。

小雪の向きをぐりんと反転させ、想也くんの方向を向かせる。今の小雪はバーサーク状態だ、目に付いたものなら、何でも切り裂いてしまうだろう。おそらく、目の前にあるものを優先して。

 

「               」

 

甲高い、金属を擦り合わせるような鳴き声が僕の鼓膜を直撃する。鳴き声が聞こえなくなった後も、頭の中に妙な耳鳴りが残り続ける。想也くんも鳴き声の回避が出来なかったのか、しきりに片目を細めて耳を気にしている。鼓膜が破壊されている可能性も考えられるな、当社は責任を一切負わないけど。

 

「あー、あー……よし。声は聞こえてるな」

 

何だ、破れてなかったのか、つまらん。などと思うようなことは一切無く、よかったあの主人公さんの鼓膜を破ったりなんかしたら彼のハーレムメンバーに幻想抜きでぶち殺されてしまうと心の片隅で十円ほどの価値の安心を見いだした。嘘にするほどの価値もねえなと落胆した。

 

「ゆら、ゆら、ゆららら、ゆらー……」

 

小雪が想也くんを分割して彼のハーレムメンバーに配って回るべく、小太刀を連続で振り下ろす。動機の部分は嘘ね、これ。

想也くんも、それなりに戦い慣れしているのか、ひらりと躱すまではいかなくても、よろりと小太刀に当たらない程度の軌道で動き続ける。

 

「うぐうっ!?」

 

と思っていたら、小太刀が偶然か故意かはともかくとして軌道を変え、彼の指の数本の名称を『肉塊』へと変えた。弾け飛んだ指がピクピクと動き出して想也くんの手に帰るかと思ってしばらく注視してみたが、特に変わった様子は見受けられない。返事もないし、ただの指だと断定してもいいかもしれない。

 

「ちょ……!本当に殺す気かよ……!?」

 

「そりゃあ、『殺人鬼』だしね」

 

「殺人鬼……!?って、くそっ、危なっ!」

 

再び想也くんが後ろに飛んだ。一度距離を取ってから作戦を立てるつもりなのかもしれない。

 

「反射『リフレクトソード』投擲版っ……!」

 

「ゆらぁぁ……?」

 

僕の予想は見事に裏切られ、剣が小雪へと向かって投げられた。技の名称から判断するに、おそらく反射性能を付属させた剣を投擲する技なのだろう。わかりやすいというのは、戦闘では弱点にしか成り得ないと思うのだが、わざわざ忠告や進言をしてあげるほど僕は心優しくなかった。

小雪が投げられた剣を切り裂く。

予想通り、剣は三センチ間隔で輪切りになったが、ここからが予想外だった。

 

「ゆら、ゆゆゆ、ゆらぁぁ……」

 

小雪の持つ小太刀から、小雪の腕までが三センチ間隔とまではいかなくても、七センチ程度の間隔を空けてスパッと切れた。だが、完全に切断されるまではいかずに、薄皮一枚程度で繋がっていて、やけにグロテスクなかまぼこが出来上がっていた。シルエットだけで見れば滑稽に見えないこともないので、グログログロッキという名前でゆるキャラ化するのはどうだろうか。うん、ないな。

ところでその剣に付属された意味は、反射じゃなくてカウンターじゃないのかと疑問を投じてみたくなったが、ここはぐっと我慢して大物ぶって拍手をする。

 

「いやあ、素晴らしい戦い振りだったよ。思わず感激して血の涙が僕の目からぽろりと落っこちそうで鱗も僕の眼球で待機しているぜ」

 

「どういうつもりなのか説明してもらえるかな……。返答によっては…………いや、君に理由なんてないんだろうから、どれにしろ諦めるしかないんだけどね……。はあ……」

 

溜息をつきながら、切断された指を案じるように見る想也くん。次の瞬間には、指が再生していた。能力チートは伊達じゃない。

 

「えっと……その、彼女にも治療を……」

 

名前がわからなかったためか、何故か言いよどんで小雪の治療を申し出てくる想也くん。敵にまで気を遣うとは、呆れた主人公精神だ。僕が吐き気を催したらこれも邪悪にならないかなと一計を立ててみたが、効果は見受けられない。主人公補正が強すぎるのかな。

 

「大丈夫だよ、命のうどんに苺豆腐、スパイシーな干し肉も持ってるから治療は万全だ」

 

僕も小雪を回収しながら、彼女の傷を治す。無料で治療をしてくれる施設でもあればいいのだが、僕の目の前は真っ暗ではないので、行き方がわからなかった。

 

「まあ、これはドーナツのお礼ということで、取っておいてくれ」

 

「君は僕に何を渡したというんだよ……」

 

「経験値」

 

「このゲーム脳め!」

 

キャラの崩壊を気にせずに、罵倒された。「もう少し自分を大事にしようぜ」という言葉が思い浮かんだが、きっとこういうときに使う言葉ではないのだろう。

経験値ではお気に召さなかったようなので、手持ちの何かをあげてドーナツのお礼としよう。

 

「じゃあキングバナナいる?とても食えたものじゃないけど」

 

「何の意味があるというんだよ、それ……」

 

彼は浅く溜息をついて、僕の手からバナナをひったくるように取ると、くんくんと匂いをかぎ始めた。食えたものじゃないという言葉を気にしているのかもしれないが、生憎それはただのバナナだ。別に普通に食べれる。

 

「というわけで僕を元の時代に戻してくれるかな」

 

「時代……?ああ、そういえばそうだったね……」

 

「そういうのもういいから、ほら、能力使って。『僕が転生した世界のきみの世界に飛ばされた時間に戻れない』っていうのを逆にしてね。事故起こったらまたきみ呼ぶぜ」

 

想也くんが苦笑いしながら答える。

 

「何で僕の能力を知ってるかはともかくとして、まあ、うん、いいよ」

 

僕も苦笑いというものをしてみようかと画策する。あえなく失敗して、顔面凶器というか、顔面狂気の見本みたいな顔になった。想也くんの顔が引きつって、世界びっくり人間みたいな感じになる。

 

「じゃあ」「さて」

 

「「もう会うこともないだろうけど」」

 

やはり二人同時とは、どこかで似通っているのかなとありえない妄想を夢想した。

 

「次会うときには死んでてくれ」「次がないことを祈ってるよ」

 

「…………」

 

「…………何か?」

 

さようなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「主人公はどうでしたか?」

 

「吐き気がしたよ、いい意味で」

 

「その言葉にいい意味があるとは驚きですよ。今日も聡明な檜垣さんは無知蒙昧なる私に知識を与えて下さいましたねえ。与えられてばかりの身としては、心苦しいばかりです」

 

「そんな殊勝な心がけをしているなら、きみはとっくに自殺でもしているんじゃないか?」

 

「ええ、そうかもしれませんね」

 

「うん…………?」

 

「いえいえ、私はすでに死んでいる、とかいうオチなら面白いかなと思ってみただけです。他意も本意もありませんよ」

 

「そうかい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




静乱さん色々とすいません。

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