東方虚真伝 作:空海鼠
感想がついていて嬉しさのあまり奇声をあげたら妹に『頭のおかしい人を見る目』で見られました。
「ただいま~……」
すっかり遅くなってしまった。それもこれも全部アイツが悪い。僕は悪くない。
『僕は悪くない』
括弧つけて言ってみた。空しいだけだった。括弧つけるなら、せめて誰かが見てる前でやろうと思った冥利なのであった。後編へ続く。
「続くかどうかは永淋の僕に対する処遇次第だけどね…」
すでに十二時まわって一時二時。正直ただですむとは思ってないんですけどね。うふふ。
玄関で靴と上着を脱ぎ、音を立てないように進む。気分はスネークだ。ただし見つかったら即死って難易度設定間違えたんだろうか。いやでも能力使ったら見つからないで済むかいやいや能力使って何かしらの機械に何かしらの反応でたらよりひどい目にあうよなとか考えつつ匍匐前進で前へ。
その時。
「出来たああああああああああああああああっっっっ!!!」
「ぎゃああああああああああああごめんなさいいいいいいいいいいいいいっっっ!!!」
永淋の仕事場から突然ハイパーボイスが聞こえてきたのである。僕がゴーストタイプだったら効かなかったのだろうが、どうやら僕はゴーストタイプではなかったようだ。
つられて大声をだしてしまったため、もうバレただろう。
ざんねん! ぼくの ぼうけんは ここで おわってしまった!
「ってあれ?冥利帰ってきてたの?ずいぶん早かったわね」
「いや、もうすでに真っ暗なんですけど」
「嘘っ!?もうそんな時間なの?」
どんだけ集中してたんだよ。まさか僕が出て行った直後からやっていたのだろうか。
「ところで永淋、一体何が出来たんだ?」
「ふふ、秘密よ。ヒ・ミ・ツ」
出ました。何かを質問したときに返ってくる答えの中でイラッとくるランキング三年連続堂々一位の「ヒ・ミ・ツ」です。まあ、永淋ほどの美人がやるとそれほどイラッとくるわけではないわけではない。イラッとくる。
しかしさっきから永淋、超笑顔。しかも実験のときとかに見せる何とも言えない恐怖を感じる笑みじゃなくて、にこやかで見ているこっちが癒されるような笑みだ。最近永淋悲しそうな顔してるときが多かったから慰めてやろうかとも思っていたが、その必要もないんじゃないだろうか。
「そうかい。じゃあ永淋、おやすみ」
「ええ、おやすみなさい」
僕はお咎めがなかったことに、始めて神に心から感謝した。
「そういえば貴方、知ってるかしら?もうすぐ妖怪がまとめて都市へ襲いに行くらしいわよ?」
所変わって妖怪の森である。もっとも、出てくる妖怪なんてこいつくらいのものだが。
「妖怪が都市へ?…なるほど。人妖大戦か」
「何なの?その腎尿大戦って」
「ずいぶんと便所が近そうな大戦だね」
どんな戦争なんだろうか、腎尿大戦。ちょっと見てみたい気もする。わりと嘘。
「人妖大戦。人が月へ移住するときに起きた戦争だよ」
「へ?つ、月ですの?でも月には月人がいるんじゃありませんこと?」
どうやらこいつは東方に関してはそれほど突っ込んだ知識はお持ちでないようである。
「移住した人が月人と呼ばれることになるんだよ」
「知りませんでしたわ…。ワタクシ、東方に関してはキャラの概要を広く浅く知っているていどですから」
僕も原作は紅魔郷と妖々夢、風神録をハードモードまでしかクリアしたことはない。EXできるほどシューティングは上手くない。
「そういえばきみ、名前何ていうんだよ。いつまでもきみじゃ呼びにくいし、なにより名前がなかったら久々に現れたときに『誰だよお前』ってなることになる」
「あら、それは『ずっと一緒にいてくれ』という遠回しなプロポーズかしら。ごめんなさい。私心に決めたバッタがいるのよ」
小さく微笑む鈴木キラ(仮)。それは『ずっと鈴木キラ(仮)と呼んでくれ』という遠回しなアピールだろうか。(仮)って言うのが面倒だから「きみ」や「こいつ」で統一してるんだよ。察せ。
「それは残念。バッタに嫉妬して思わず顔面の筋肉が緩んでしまうよ」
「イラッとくるほどの満面の笑みですわね。ワタクシの名前が知りたいのならまずは自分から名乗るのが道理とうものではなくて?」
「僕はこれまでのルールや常識に囚われない新しい人間を目指しているのさ」
「用はそれただの問題児よね」
失礼な。常識に囚われない人間達を集めて作った新世界の神になるという僕の夢を侮辱しているのだろうか。もしそうだったら例え同類であろうとダイナマイトを飲ませて腹の中で爆発させるぞ。
嘘に決まってるけど。
「わかったよ。僕が名乗ったらきみもきちんと名乗れよ?勿論偽名は無しだ」
「できるかぎり前向きの方向で検討するよう善処します」
「確約しろ」
汚い大人の言葉を使うんじゃないよ。
「…わかったわよ。このままじゃ話進まなそうだし、司会進行役としてもこのままじゃ駄目だしね」
いつから司会進行役になったのだろうか。話脱線しまくりで一時間の尺じゃ収まりそうもないな。
むしろ僕が司会進行役になればきっと話はスムーズに進んで名司会者の称号を勝ち取ることができるだろう。
「名前だけじゃなく持ってる能力も言うことにしよう」
「……わかっt「ダウト」……わかったわよ!」
僕に嘘は通じない。いい加減学習しろよ。昨日夜まで語り合ったときにわかってたことじゃないか。
「じゃあ僕からだ。僕は加城冥利。能力は『嘘をつく程度の能力』、趣味は蟻に神様気取って砂糖の恵みを与えること」
「『嘘をつく程度の能力』…?現実に嘘をついてみたりでもするのかしら。ドラえもんの秘密道具の『ソノウソホント』みたいに」
…こいつ、本当に僕と同じ発想してるな。こいつと似ているだなんて、うっかり自殺しそうになる。
残機が一つ無駄に消費されるところだった。危ない。
というか蟻のくだりはスルーかよ。
「違うよ。嘘をつけるのは自分と相手の脳にだけだ」
「自分と相手の脳…?」
鈴木キラ(仮)が僕の言ったことをそのまま反復する。うむ。人にものを教える立場とは実に気分がいい。
「自分っていうのは擬似的な『皇帝特権』みたいなものだよ。自分を騙して空を飛んだり、自分を騙して超人的な身体能力を手に入れたり出来る。もっとも、強い能力であればあるほど消耗は激しいけどね」
「じゃあ相手の脳というのは?」
「これは簡単だよ。嘘をついて相手に幻覚幻聴ありもしないことを見せる。トラウマ引っ張り出すことだってできるし消耗も少ない」
「なんですのそのチート。間違っても主人公にはなれませんわね」
何だよ。確かに主人公に向いてる性格や能力じゃないと思うけど、チートでも主人公やってる奴もいるんだぞ。ケンシロウとか、キリトとか。
「そういうきみはどうなんだよ。僕に言わせたんだ。きみもきちんと言えよ」
「…いいでしょう。そのかわり、後悔しても知りませんとのことよ?」
「いいからさっさと言えよ」
そろそろ温厚な僕でもキレるぞ。鈴木キラ(仮)は少し不満げな顔をしたがすぐに何事もなかったかのように話し始めた。
「…私は朝霧曖。愛するとかそっちの愛じゃなくて曖昧模糊とかの曖よ」
「それはまた的確に名は体を表しておいでで」
僕を無視して鈴木キラ(仮)もとい朝霧曖は続ける。無視するなんてひどいや!
「能力は『嘘にする程度の能力』よ」
……嘘にするってもしかしてアレか?アレなのか?だがしかし今回はアレって何だよという脳内戦争は起こらなかった。アレがわかりきっているからなのだろうか。議論の余地ありだ。
「能力の概要は…そうね。『めだかボックス』の球磨川禊の『
まさしくチートであった。昨日の括弧つけた僕の言葉は伏線だったのか。
「存在を嘘にすることと大きな概念、それに能力そのものなんかは嘘にはできないのよ」
能力で出した炎なんかは嘘にできるんだけど、と続ける曖。僕もその能力欲しかったな。
『きみの視力を』『
その後も他愛もない話をしたが、特に中身が無いので割愛。
そして、妖怪の襲ってくる日にちを聞くのを忘れたのを思い出したのは、布団に入ってからのことであった。
嘘だけどね。本当は次の日まで忘れていた。
というわけで、冥利と曖の能力はチートです。
特に冥利の能力は、「擬似的な『皇帝特権』」だと書かれていますが、
成長すれば安心院さんみたいなことになりかねません。主人公マジチート。