東方虚真伝   作:空海鼠

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時々書いてて、主人公ってこんなキャラだっけ?と思います。


玉藻前

パチン、パチンと、将棋の駒が将棋盤に叩きつけられて悲鳴を上げる音が、部屋の中に響き渡る。

そんな中、八雲藍こと玉藻前が口を開く。

 

「つまり、帝が私を妖怪ではないかと疑っていて、貴方はそれを調べに来た、と」

 

パチン。

言葉の上では平静を装ってはいるが、駒を持つ手が微細にバイブレーション機能を強めてきている。まあ、穏やかではないだろうな。事実はどうであれ、今まで一緒に暮らしてきた相手に疑われているという状況は。

怒りが強いのか。

悲しみが強いのか。

その心中は、心の一部が欠損している僕では、とても想像できない。

 

「だが、それをどうして貴方は教えてくれるんだ?貴方は知っているのだろう?私は、妖狐だぞ?人を喰ったことだってあるし、これからいかなる害を及ぼすかもわからないんだぞ?……退治こそすれ、陰陽師である貴方が私に情報を与える謂れは無いのではないか?」

 

「それこそ、退治するような謂われもないよ。僕の仕事は調査だし、それを証明できるような証拠だってないしね。こういうのは、清明に任せた方がいいよ」

 

「清明……、安倍晴明までいるのか」

 

玉藻前は深く考え込むような動作をした後、パチンと自分の持ち札から歩を置いて、僕の角取りを狙ってきた。真正面だけど、角じゃあ取れないから、まさに死角ということか。HAHAHAHAHA……つまらん。ギャグはあまり言わない方がいいな。僕のセンスとかオウギとかのなさが露呈されてしまう危険性がある。

 

「それ、二歩だよ」

 

「……おや、本当だ。ははは、これは失礼」

 

玉藻前は快活そうに笑うと、歩を戻して別の駒をパチンと動かす。今度は僕の飛車がピンチだった。

流石と言うべきか、原作の情報に劣らぬ天才っぷりだと言えよう。

……僕が弱いだけだとか、そういうことは、あまり信じたくない。

玉藻前の持つ駒は、僕の陣の桂馬とか香車とか銀将を次々と取っていき、僕の玉将を追い詰めていく。……どうでもいいけど、この時代ってまだ王将はないんだな。僕の陣地にある総大将も、玉藻前の陣地にいるトップも、どちらも玉将だ。もし、どこかの時代で、間違えて『王将』と誤植をしなければ、あの餃子の有名チェーン店はできなかったのかなと一考。僕が社会的に多くの関係があることについて考えていたら、いつの間にか王手をかけられていた。

 

「どうした?次は貴方の番だが」

 

「ん……、いや、これどうやっても詰みじゃないか」

 

盤上には、僕の王様が龍、銀、香、桂によって逃げ道を塞がれて、角によって王手をかけられている。ここから脱出しようとしても、すぐに相手の持つ金によって詰まれるだろう。どう見ても、王一人を討ち取るには戦力過多だと言わざるを得ない。

 

「参った、投了だよ」

 

「ふふふ、私は妖怪だからな。生きている年数が違うのだよ」

 

……おそらく、僕の方が長生きをしていると思われるのだが、これ以上言うと僕の無能さが浮き彫りになってしまうため、思考を中断して脊髄に会話の主導権を受け渡す。

 

「しかし、清明はどこで何をやってんだかね。僕が小一時間ほど玉藻前と将棋をしているというのに、まだ来るような気配さえもない。職務怠慢とか言われても仕方がないんじゃないかな、これ」

 

「まあ、安部殿が職務を真剣にこなしてくれると、こちらも困るからな。多少の不真面目はご愛敬というものだろう」

 

「愛嬌も何もあったもんじゃないよ、……愛想も愛嬌もないキャラでやってるっていうのにね」

 

おっと、これは僕のことか。どうもこの部屋へ入ったときから頭がボーっとして……まあ、単なる眠気であることは疑いようもない真実なんだけど。くぁあ、と大きく欠伸をして自らの口が、常人よりも少し大きめに開くことをアピールする。ついでに、限界まで息を吸い続けようとして、咽せた。玉藻前が、一部の倒錯した趣味をお持ちの方にしか有り難みがわからないような視線を投げかけてくるのが、地味にきつい。

今更だが、このままでは変な奴と思われてしまう。弁明を頼むぞ、脊髄。

 

「玉藻前の匂いが充満しているこの部屋の空気を全力で吸い込もうとして失敗しただけさ☆」

 

いかん、これじゃあただの変態だ。返事さえも聞こえない。

 

「……くすっ」

 

突然、玉藻前が口から空気を漏らして顔面の筋肉を緩めた。僕の脊髄による、変態的かつ頭のネジが変形しているのを疑われるような弁明が功を奏したというのだろうか。そんなバハマ。

 

「ふふ……ありがとう。私が落ち込んでるのを見て、励まそうとしてくれたのだろう?」

 

そんなつもりは一切合切なかったんだけど、好意的な誤解は誤解のままにしておいた方がいいだろう。僕は何も言わず、肩を竦める。その際、アメリカンテイストな表情を顔に貼り付けるのも忘れない。

 

「……どうかしたのか?まるで『父親の形見の品を無くしてしまい、必死で探してそれらしきものが見つかったと思ったらただの石ころだった』みたいな顔をして」

 

「…………」

 

そんな具体的な顔をしていたのか、僕は。

ちょっと、いやかなりショックだ。嘘だけどと素直に言えないのが悲しい。

僕が地味に落ち込んでいると、急に駆け足のような音がこっちに向かってくるのが聞こえてきた。だが、帝の后の部屋に許可無く入るようなアホはいないと踏んで、姿は別に隠さなくてもいいと判断する。

 

「お義母さま!大変で……す…………?」

 

扉がガラッと開いて、どこかで見たような少女が姿を現した。案の定、その少女はこの場での異物を凝視して、あり得ないものを見るような視線を向ける。

扉がガラッと閉じられる。

一呼吸置いて、またまた扉がガラッと開いた。

 

「あれ……?お義母さま……?今ここに不審人物というか、いかにも『私すごく怪しいぜー』みたいなオーラを全身から放っている殿方がいませんでしたか?」

 

「い、いや、いなかったな。見間違いじゃないか?」

 

扉が閉められてすぐさま姿を消した僕を庇うために、玉藻前が非常に無理がある嘘をついた。しかも、将棋盤は片付けていないし、問い詰められたらすぐにバレてしまうだろう。

 

「……なあんだ、見間違いでしたか」

 

……それで納得してしまうのもどうだろう。いや、納得してもらわないと困るんだけどね。

 

「ところで恂子(じゅんこ)、どうしたんだ?さっき、大変だとか言っていたが……」

 

「はい、それが、屋敷内に侵入者がいるようなんですよ。大変です。暗殺とか超怖いです」

 

玉藻前と、恂子とやらが話している間に、恂子をじっくりと気持ちの悪い目つきで観察する。容姿は100人に聞いたら、一部の特殊な性癖を持つ5人ほどを除けば、残りの95人が満場一致で高評価を下すであろう、人生がイージーモードに早変わりしそうな容姿。詰まるところ、非常に愛らしい。

すこし紫のような色が混じっているような長い髪は目を引き、思わず引っ張りたくなってくる……のは僕だけなのだろうか。まあ、僕個人の意見はともかくとしても、万人の目を引くような容姿で、大変希有な美貌の持ち主であることには変わりないだろう。

髪色が黒でないところは減点対象に入るが、長い髪の毛や十二単的な着物はプラスだ、うん。

外見だけなら結構好みの位置にいたりするけど、よく見たらさっき僕に蹴躓いて転んで見えない相手に文句を言ってたあの子だったので、やはり中身は残念なんだと、二物を与えない天を呪ってみた。

何故、外見と中身が両方素晴らしい女の子がいないのか。

……そうすると個性がないからですかそうですか。

気がついたら、玉藻前が恂子を落ち着け終わって、膝の上で寝かしつけていた。……待て、僕の姿がまだ消えていることから、思考に入ってから十分も経ってないと思うんだけど。

姿を消したまま、玉藻前に声をかける。

 

「……えっと、僕はもう帰った方がいいんだろうか、ねえ」

 

「あ、ああ。そうしてくれるとありがたい」

 

「あー……、清明にはくれぐれも気をつけろよ」

 

「ああ、ありがとう」

 

簡単な忠告をして、再び能力をかけ直して、屋敷から脱出する。

さて、この後どうなろうとも、僕は知ったこっちゃありませんよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ということがあったのに、いまだに玉藻前が妖狐だとバレてないんだよ、パルえもん!」

 

「知らないわよ!どうしてそこで私に振るの!?」

 

安定のギャグパートである。

やはり僕には中途半端にシリアスなど入れずに一生、とち狂ってんじゃないかと疑われるようなぢんせいを送っていくのが本来あるべき姿なのだろう。人生とは違うのだよ!……受け売りだけどね。

 

「というか、いつまで経っても玉藻前イベント起きないから、イベント発動フラグとかを奮起させたりする道具を出してよ、パルえもん」

 

「訳のわからない単語を列挙すれば私が折れるとでも思ってるの!?つーか私は便利屋でも貴方の暇潰し屋でもないわー!」

 

「冗談だよ、一割以下だけど」

 

「それほとんど本気よね!?」

 

「失礼な、僕はいつだって本気で巫山戯たことなどほんの一度もないことを嘘としている」

 

「そうでしょうね!私はむしろ貴方が嘘以外を口から出しているのを見たことがないわよ!」

 

「嘔吐物とか吐瀉物とかトランプぐらいは出すさ」

 

「真実を出しなさいよ!」

 

ぜえはあと息を荒くするパルスィ。何だ、もう息が上がってしまったのか。僕はまだあと二回変身を残していたりするんだぜ、これくらいで疲労しているようなら、まだまだ僕の高みへ上ってくるのは先のことになりそうだな。嘘だけど。

 

「それで……どうすればいいんだろうね。僕としては昔エアーマンと呼ばれたほどの空気男だから、能動的に動くのは僕の美学に反するし」

 

まあ、美学なんてないんすけどね。なんとなくよ、なんとなく。

 

「知らないわよ……。それなら、適当に火種でも用意して自分には関わりのない人間に投げかけて、焚きつけてみたらどう?」

 

適当に言うパルスィだが、割と正鵠を射ているかもしれない。

 

「さて、パルスィくん。僕は急用が出来てしまった。面白いことをさらに面白くするために、ちょっと化学反応が起きそうな部分に謎の液体を注いでみるぜ」

 

「え……ちょ、おーい……」

 

ふははははは、たまには、黒幕ぶってみますか。

 

「たまに来たと思ったら!私は無視か、このやろー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、主人公、悪役になる、の巻。

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