東方虚真伝   作:空海鼠

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最近、ネタが尽きてきました。


散策

岬ちゃんを揉んでみた。

少し手狭な我が家の一室において、僕が岬ちゃんの雑用係のごとく、肩もみという労働をしているという現在の状況を簡潔に表してみた。

別に岬ちゃんは揉めるところがないとか、そういったことを考えながら思っているわけではないのであしからず。

特に他意はない。

本意もない。

悪意はある。

少し嘆息したように、岬ちゃんが呟いた。

 

「解決すべきなのは、鵺じゃないです。今、都で話題になっているのは、不気味な鳴き声の連続殺人鬼ですよ。……殺人鬼、文字通りの意味に取ってしまっても構いません。人間ではない可能性も十分にはありますからねえ」

 

「つまり、犯人は伝説の超戦士だと」

 

「違います」

 

「犯人は雷攻撃で防御力が下がるディノサウロイドだと」

 

「違います」

 

「犯人はガチャピンだと」

 

「違い……いや、あれ中に人入ってるじゃないですか」

 

「いや、あれは明らかに人間の動きじゃない」

 

「閑話休題、ですね」

 

ふむ、一息の入れ方がちょうどいい。だが、言わなくてもいいことをわざわざ言うことに、岬ちゃんのささやかな自己顕示欲を見たような気がした。このままでは魔女になって『Look at me!』とか言いかねないので、今の内に魂の宝石を破壊することに努めることにする。大体嘘だけど。

岬ちゃんが小さく口を開けて、可愛らしい欠伸をしながら言った。

 

「ふぁうぅ……人の話をちゃんと聞かなかった罰として、えーと……何でしたっけ?そうそう、『真実を照らす程度の能力』の使用を今回の事件において禁止します。とりゃー」

 

岬ちゃんのやる気のないかけ声と共に、僕の能力が使えなくなるのがわかった。

 

「ぐあー」

 

僕もついでとばかりにやる気のない声を出して、こてんと人体の側面を床に擦りつける。岬ちゃんが手を銃の形にして、ふっと吹いているのが見えた。人で遊ぶなよ。

 

「ばーん、ばーん」

 

岬ちゃんがさらに追撃を加えてきた。死人に鞭を打つどころか、銃を撃つとは、慈悲の心というものがないのではないかと岬ちゃんの内心を勘ぐってみる。

僕も「ぐぎゃー」と適当な悲鳴を上げて、そうしてから起き上がる。

しかし、『真実を照らす程度の能力』が使えないのは痛い。こうなったら地道に聞き込みなどをして原因を探るしかなくなってしまうじゃないか。

僕の嫌いな言葉は一番が『頑張る』で二番目が『努力』なんだぜー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っつーわけでパルたん何か知らない?」

 

「何がよ!というか、誰がパルたんよ!」

 

自分の名誉を著しく侵害された、と言いかねない形相のパルスィを前に、僕は小さく肩を竦めて見せた。最近、この動作が多いような気がする。岬ちゃんの影響かな。

「ぐるるるるる」と狂犬化するパルスィをどうどうと宥める。ついでに頭を撫でる。パルスィが言葉にならない思いの丈を言葉にしようとして、結局何を言っているのかわからないような言語を言うが、気にしない。凶暴な動物には愛情を持って接しないと、死神と仲良しになってしまうのだ。嘘だけど。

 

「や、うにゃ、ぐる、ど、うに、やめ、なっさい!」

 

手を振り払われた。パルスィの頬は羞恥と怒りからか、若干紅潮している。このままでは怒りに身を任せたパルスィが僕に肉体言語を駆使して会話を試みる可能性があるため、十分に距離を開ける。

だが、予想通りとはいかず、パルスィはこちらを睨みつけてしっかりと僕の防御力を下げた後に、溜息をついて乾いた笑いを漏らした。どうやら、落ち着いたらしい。

 

「ええ、そうね。あなただもの。わかっていたわ、わかっていたのよ」

 

「そりゃあ、僕は僕だろ。この前までは違ったかもだけど」

 

「へ?」

 

「ああ、気にしなくていいよ。あっちの話」

 

素っ頓狂な声を出すパルスィに要領を得ない返答を返してから改めて質問する。

 

「それで、最近巷で噂の通り魔について、何か知らないかとね。端的に言うと、僕はその事件の解決を命じられているんだよ」

 

「あなたって……仕事、あったのね……。ただの暇人だと思っていたけど」

 

「失礼だな。僕はこう見えても都一の陰陽師と呼ばれ……ている?のかな……」

 

「陰陽師だったのね。………………見えない」

 

さらっと失礼なことを重ねてきたような気がしたが、おそらくそういう意図で言ったのではないだろうと解釈を歪曲させてみることにした。

パルスィは意味ありげに何度かうなずくと「残念だけど、力になれそうにないわね。ごめんなさい」と申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「全く、使えないな」と言うわけもなく、好青年風に似合わない笑顔っぽいものを貼り付けて社交辞令的な言葉を言う。

 

「いいさ、気にしてないよ」

 

「……やっぱり、あなたは笑わない方がいいわね」

 

「クールでニヒルなキャラ付けだからね。僕を笑わせたいなら独りでに転げ回る箸を用意してくれ」

 

僕の放った言葉はパルスィの耳に入ったとたん疑問符となって消えてしまったようだった。

 

「くーる……?にひる?」

 

「やめて反芻しないで会話なんだから流そうよ」

 

「無表情でそういうこと言われても……」

 

困ったように笑われてしまった。この笑いを嘲笑と取れる人物が、将来無差別殺人に手を染めるのだろうなと下らないことを考えてみた。うーそー。

さて、この辺で唯一の当てと言ってもいいパルスィが何も知らなかった今、僕にはどうしようもない。ふむ、どうしたものか。

 

「パルスィ、このことについて知ってそうな人がいるとこ知らないか?」

 

「……私の交友範囲は基本、あなただけよ」

 

「……あー、ごめん……?」

 

何だかいたたまれない気持ちになってきた。

本当に、どうしたものか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吾輩は嘘つきである。

名前はあるけど。いや、それはどうでもいいんだ。

ここで重要なのは僕が嘘つきだということで、そしてここが東方の世界だということだ。

例えば現代社会では、嘘つきはそれなりに生きやすい。……僕は例外として。

詐欺師などは一般のあくせく働いている人よりも遥かに儲けて、現代に蔓延る所謂『正論』は全て詭弁や屁理屈や嘘で脆く崩れ去り、そのような嘘もまた『正論』に成りうる。

例を挙げてみよう。

正論その一。「みんな仲良くしましょう」。

正論と言うか、一般的に挙げられる目標のようなものだけど、それが成し遂げられないことは全人類余すとこなく知っている。

人間は自分より劣っているものを見下し、自分より優れているものを妬む生き物だからだ。そのような不確定的かつ即興で誰でも思いつくような言葉でも、それが正しいことなのだと思いこむ。

正論その二。「義を見てせざるは勇なきなり」。

だが、この場合の「義」とは「人として当然の行いのこと」という意味で、やはり人としては、他人よりも自分を優先する方が人間らしいと言わざるを得ない。

勿論このような理屈は全てにおいて正しいとは言えず、間違っているだろう。

それでも、その間違いを許容して正しくしてしまうような環境に、現代社会はあるのだ。

だからこそ。

この目の前にいる左右非対称の緑色の髪をした少女から全力で逃げ出したいのであって。

 

「すみません僕用事を思い出したんですけど」

 

「いいえ、駄目です。まだお礼を言い終えてません」

 

普通こういうのってお礼を言われる側の都合に合わせるものじゃないのかと。そう思うのですが。あ、違うんですかそうですか。

僕の頭の中で『どうしてこうなった』が疑問を投げかけてきたために、一時回想シーンへと入ります。ご利用の方は、計画的なご利用をお願いいたします。

 

 

 

 

 

パルスィと別れた僕は、何をするでもなく、その辺を散策していた。

何か有益な情報が聞けそうな相手を探していたのだから、何をするでもなく、といった表現には些か語弊があるようにも思えるが、その辺は、まあ、いいだろう。

散策を始めて二時間ほど経ったと思えるような頃。

一つの倒れた地蔵を発見した。

おそらく倒れてからそれなりに時間の経っているであろうことが、草が地蔵に絡まっていることからわかる。

信心深さが欠落している僕は素通りしようと思ったけれど、『倒れた地蔵を戻さない』という世間の風調があるならば、それに逆らってみようと、僕の中の反抗心や反骨精神が諸手を挙げて大賛成したので、絡みついている草をブチブチと千切って起こしてみる。

 

「鶴の恩返しや笠地蔵ほどの過剰な恩返しを要求……は別にしなくてもいいか」

 

よく考えてみれば、僕の能力を使えば、いくらでも金持ちになれるのだ。それに、現時点でもそれほどお金には困っていない。むしろ余っている。パンがなくとも米は食べれる。

地蔵に付いている土を払い、偽善ゲージを溜めていく。必殺技を使える日も近いかもしれない。

地蔵が大分綺麗になり、僕も偽善行動にそれなりに満足したところで背を向けて、今日はもう家へと帰ろうとした。

 

「待って下さい」

 

呼び止められた。

くるりと振り向いて声の主を確認する。そこには、地蔵の姿は既に無く、代わりと言ってはあまりにも等価交換がなされていないような少女がいた。錬金術で登場したわけではなさそうだ。

その少女は、真面目そうな顔つきと緑色の左右非対称の髪をしていて、もうこれ言うだけで帽子被ってなくても誰だかわかるじゃねえかというか四季映姫だった。

以上、回想終わり。

 

 

 

 

 

その後、お礼を数十分に渡り聞かせられ、後半はもう、最近の若者への愚痴となっていた。

能力的に僕の嘘が映姫に通用するかどうかは不明であり、ましてや既にあの鏡を持っていたらなんて、考えたくもない。いや、おそらく、あの鏡は閻魔になってから手に入れたものだろうけど。

 

「ところで」

 

映姫の話を遮って言葉を介入させてみた。

 

「最近、都で通り魔が流行ってるそうだけど、何か知らないかな」

 

「ああ、それなら知っていますよ。ここが現場でしたから、しっかりと見ました。私は恥ずかしながら、何もできませんでしたけどね」

 

というわけで。

ようやく、ヒントだ。やっふー。

 

 

 

 

 

 

 




パルスィは書いてて楽しいですね。

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