東方虚真伝   作:空海鼠

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陰陽師編はわりと長くなる予定です。


橋姫

『前回までのあらすじ』

 

魔王城地下一階にて『伝説の剣』という名前のちくわを入手した勇者カジョウは「こんなもんいるか!」とちくわを溶岩の中に投げ捨ててしまい大魔王ミサキを倒す術を失ってしまう。しかし得意の嘘八百の命乞いによりなんとか一命を取り留めたカジョウ。牢屋の中で妄想や想像を膨らませて破裂させることで牢を破壊する脱出方法を思いつくが残念ながら妄想力が足りない!

頑張れカジョウ、負けるなカジョウ。世界の命運はきみに託された!……いや、嘘だけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、何でいるんだよ、岬ちゃん」

 

「何でとは酷いですね。私は檜垣さんの助手だというのに、あんまりですよ」

 

前回、ラスボスじみたことを言って『僕』を返してくれた岬ちゃんは、まだ僕の家にいた。

何が起こっているのか、いまいち僕にもよくわからないので、ポルナレフにありのままを説明してもらうことを待ち望んでいる状態だ。だけど、ただ待っているだけというのも暇という字が目の奥でチカチカと点滅するので、こちらから行動を起こす。

 

「岬ちゃんは主人公とラスボスが仲良く談笑しているような物語が好みなのかい?」主人公ってキャラじゃないけど。

 

「いいえ、私が好きなのは面白いものと檜垣さんだけですからね」

 

白々しく、にこにこと微笑んだまま心にも無いであろう台詞を口から落とす岬ちゃん。彼女の言葉は全て、中身がないようにも思えるし、本心のようにも思える。どっちつかずで、この世から浮いているようなものだ。

 

「……失礼なことを考えられている気がしますねえ……」

 

バレていた。もしかしたらエスパーの素養があるのかもしれない。

 

「胸についている脂肪の量がそんなに重要ですか」

 

バレてなかった。もしかしたら本当はラスボスじゃないのかもしれない。

ふむ、昔と同じような思考ができているのかは確かめようが無いが、少なくとも、僕が本物であることは確認済みなので一安心と言ったところだろうか。ここで、僕はいつも通り絶不調だ、とか気取ったような思考に持ち込むのが昔の思考だったような気もするが、最近は絶不調とかいうレベルではなかったために自重。

 

「大体ですね、この時代では大きい胸は下品とされていてですね、私のような慎ましやかな胸が望ましく、人気な訳です。そもそも何故胸に余計な脂肪が付いているのが人として優秀という思考に至ったのでしょうか。いざというときに素早く動けない生物としての欠陥じゃないですか。どうしようもないじゃないですか」

 

「いや、胸の話はもういいよ」

 

こうも必死で捲し立てる様子を見ると、岬ちゃんは案外胸が小さいことを気にしているのかもしれない。少し可哀相に思い、胸の話題を打ち切る。いや、胸の話題も僕発信じゃないけど。

 

「あ、そういえば、予想よりも早く色々と正解していたので、他の転生者も本物に戻しておきました。サービスです」

 

「僕に全くと言っていいほど利益がないサービスだね。どうせなら無料のクーポン券とかでもおくれよ」

 

「マックのなら持ってますけど、期限が何世紀も後ですよ?」

 

なぜこんな時代にまで持ってきたのかと聞いてみたい衝動に駆られたが、僕は本来受動的な人間だと思いとどまる。世の中には聞いてはいけないこともあるのだ。それがこれとは思わないけど。

岬ちゃんとの会話を適当に打ち切り、僕たちの冒険がまだまだこれからになったところで、朝食を用意する。

 

「……しかし、檜垣さんって意外と料理上手いですよね」

 

「まるで僕が料理が壊滅的な腕なように見えると言っているように聞こえるけど、気のせいにしておくよ」

 

「檜垣さんをけなすような人なんて、この世に存在しませんよ。まったく、檜垣さんは被害妄想が過ぎますねえ」

 

「……もしかしてだけど、それはひょっとして檜垣と被害をかけているシャレだったりする?」

 

「そんなわけないじゃないですか。どうしようもないですね」

 

おい、言っていることが二秒前と違うぞ。思いっきりけなしてんじゃねえか。

……いや、一応岬ちゃんは人の枠組みには入らないのか。この人でなし!

どうでもいいような雑談に一息入れて、岬ちゃんが社会の歯車としての会話を切り出す。

 

「そういえば、鵺はどうするんですか。この前現場に行きましたけど、無能でどうしようもない檜垣さんは何一つ手がかりを見つけられなかったんですよね、確か」

 

確かめついでに僕を貶めるなと内心言いたい気分だったが、表面上「そうだよ」と同調する振りをする。ついでに斜め上に向かって、「独創的ですね」とレポーターに苦笑いで言われかねない伸びをする。

 

「独創的な伸びですね」

 

言われてしまった。これで岬ちゃんの将来がレポーターに決まってしまった。若者の就業の自由が損なわれたことに責任を感じて、心の電波塔から紐無しバンジーを試みたくなってしまう。嘘だけど。

 

「あー、これは必殺技を使おうとする構えで……む、いかん、ガッツが足りない」

 

「檜垣さんはガッツが溜まるのが早そうですよね。そして防御力や回避力は上がらなそうです」

 

「僕はピクシーかよ」

 

モンスターファームか、いい趣味してるな。

さて……食事もし終わったし、お仕事しますか。真面目にするとは言い難い方法だけど、僕の前に道はない。僕の後ろに道はできるのだ。

いつだって、僕の方法は僕以外はやらないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、僕もようやく登り始めたのか、この果てしない嫉妬坂をよ……。……あれ?未完の文字がどこにも見えないのは仕様なんだろうか。僕の物語は打ち切りにはならないのかな」

 

「……頭がおかしいと疑われるから、そういった言動は控えるのが吉だと思うわ……」

 

呆れたように水橋パルスィが忠告をしてきた。思いっきり日本発祥の妖怪、『橋姫』なのに金髪、緑眼、エルフ耳と日本人離れした容姿を所持している。いや、紫とか他の東方キャラもだとは思うけど。

 

「しかし、不思議よね。あなたには全く嫉妬心が湧いてこないの。というか、それなりに長い付き合いなんだから、いい加減に名前を教えなさいよ」

 

そりゃそうだ、嫉妬心とは「こうなりたい」というような願望からくるもので、誰も進んで僕みたいな失格人間もといロクデナシにはなりたくないだろう。自ら進んで苦況に身を置きたくなるのは、馬鹿かマゾか登山家……ん?このネタ前にもやったか?

名前に関しては、名前も知らない()ですからー、と歌いたくなるほど気になる訳ではないだろう。スルーの方向で話を進める。

 

「話やすくていいじゃないか。これでも僕は、結構きみとのお話を楽しんでいたりするんだぜ」

 

「えっ……あ、うん。そ、そう……」

 

出し抜けに打たれたような表情をして、頬を赤らめるパルスィ。その表情は、友達が全くいない人間がカラオケに誘われたものと同種の雰囲気を醸し出していた。

……これはまた、霊華とは違う種類の癒し系なのかもしれない。

 

「そ、それよりも!」

 

パルスィが顔の赤みを誤魔化すように音声をスピーカーモードに切り替えた。

 

「私に何か用があって来たんじゃないの?買い物帰りでもなさそうだし」

 

「そうそう、実は聞きたいことがあったんだよ」

 

「私は聞かれたいことはないけどね」

 

「月夜の丘って知っている?」

 

パルスィの言葉を無視して、一方的に聞きたいことを質問にして投げつける。人類の友人の形となった文字はパルスィの耳にキャッチされ、口から投げ返される。投げ返す際に目線が左へと動いたことから、左投げなのだろうなと納得してみた。嘘だけど。

 

「月夜の丘……?ああ、あそこね。……地元民でも知っているか曖昧なことを質問しないでくれるかしら。私は基本ここから動かないのよ」

 

「でも知っているんだろ」

 

「一応ね」

 

パルスィから月夜の丘への詳しい道のりを教えてもらい、そこへと向かう。今から向かうと到着は夜になるそうだが、まあ、いいだろう。僕の能力で、ぬえがそこにいることはわかっている。あとは見つけてサーチアンドデストロイするだけ……いや、乱暴なのは良くないな。喧嘩を売りつけられたときだけ、暴力との物々交換で購入しよう。

一応、人捜しも探偵業に入るだろう。

さて、誰の名に懸けようか。

 

 

 

 

 

 

 

 




長期連載のコツはとにかく引き延ばすことだってばっちゃが言ってた。

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