東方虚真伝   作:空海鼠

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そろそろ「日常」の方も書かなきゃなと思いつつもこちらを書いてしまう不思議。


加護

思い切りが足りない、しかし小さいというわけでもないような悲鳴で、目が覚めた。

右肩と右目が痛い。というより、右肩と右目がない。

……え?マジでどういう状況?脳が理解をするまでに、目を再び閉じて数秒。その間も継続的な痛みが目と肩を襲う。

………ああ、昨日はっちゃけ過ぎただけか。そう結論を出し、ゆっくりと起き上がる。

遠目で見れば少年と間違われかねない、亜麻色の髪をした巫女服の少女が、口を押さえて絶句していた。

 

「せ…せんぱい……?いやほんとどうしたんですかその腕と右目」

 

目だけ右をつけ腕はそのままなことに若干の不公平感を感じ得ないが、とりあえず治療を……そういえば、もう僕が神だってことバレてたんだっけ。

種族の嘘を元に戻し、神力を解放(二割程度)して、ついでに能力で右目と右腕の治癒を開始する。

 

「……おお、本当に神様だったんですか」

 

「嘘だと思ってたのかよ」

 

「そりゃあもう」

 

おい、結局僕が暴露した意味ないじゃねえかよ。

 

「ところで、何があったんですか。異常を通り越して超常まで行くかもしれない状態でしたけど」

 

「あー…なんと言うかな……」

 

どうも、説明が難しい。最終定理の証明の説明ならばすぐにでも話せるというような嘘を思いついたが、さすがに僕も無意味なボケにいつまでもノーリアクションでいられるのは辛い。普通に比喩を使って説明することにした。

 

「例えば、クマムシっていう生き物がいる」

 

「……また話を逸らそうとしてますね?」

 

「いや、いいから聞いてくれ………別に聞かなくてもいいけど。そのクマムシっていう生物は、灼熱の環境でも、極寒の環境でも、水がなくても、空気がなくても、生きていけるんだ……何でだと思う?」

 

楓は、少し言いよどみ、考えるような仕草を見せ、見当違いの予想を口に出す。

 

「……神力が宿っている…とか」

 

「残念ながら不正解。クマムシは、命の危機が迫ると仮死状態になって死亡を免れるんだ。面白い習性だよね、死なない為に仮に死ぬ」

 

「…で、それがせんぱいの目と腕に何の関係が?」

 

「だから、僕はクマムシなんだよ」

 

昔、鎌田だか真田だかに『昆虫もどき』と評されたことを思い出す。…あれ?山田だか浜田だか、どっちかだっけ。

 

「………は?」

 

「わけがわからないよ」といったような惚けた表情を見せて口を半開きにさせる楓。もしくは、「こいつ、頭おかしいんじゃねえの」あたりだろうか。

 

「…まあいいです。ところで、昨日のお札ですけど、何が録音してあったんですか?」

 

便利な日本語だな、ところで。

 

「僕の身長体重とかの個人情報だよ」

 

「うわ、死ぬほどどうでもいいですね」

 

死んでしまえ。

 

「じゃあ、僕はまた旅に出るから」

 

僕には、一つの場所に三日間以上留まることをしないという自分ルールがあるわけではないのだが、それでも旅を……あー、うん。思いつかなかった。狂ったばかりだからか、キャラが乱れてきているな。

 

「え……ちょ………………まあ、いいです」

 

「おお、わかってくれたか。僕はものわかりのいい奴は好きだぜ」

 

「私は、せんぱいを好きになれません」

 

唐突に、言ってきた。

そりゃそうだ。僕みたいなのを好きになるなんて、よっぽどの目が節穴……そういえば、霊華って目が節穴だったな。節穴治療は眼科でやっているだろうか。そもそも天国に眼科があるのだろうかなどと益体もないようなことを考える。

好きという言葉を否定するためにこんな思考をしているのかもしれない。きっと僕は、怖いんだ。好意を向けられたり、厚意に頼ったりすることが、とてつもなく怖い、のだろう。生まれてからずっと嫌われていたような僕だ。そんな可能性も十分にあり得るだろう。

永淋に『家族』と呼ばれたときでさえ。

感動より先に、

興奮より先に、

驚愕より先に、

歓喜より先に、

何より、恐怖がきてしまったのだから。

僕がこの世で唯一嫌いなアイツは僕を、『誰よりも臆病』だと評したことがある。そう、僕は臆病者だ。骨なしチキンだ。フライドチキンにはなれないし、ましてやスペアリブなんて以ての外だ。

こうやって、狂っていたら、巫山戯ていたら、僕を保てるんじゃないかなんて考えている。壊れることが怖くて、傷つくことが怖い。そんな臆病者が、僕だ。

だから。

 

「でも……嫌いじゃないです」

 

『好きにはなれないが嫌いじゃない』こんな言葉に誰よりも救われる。

好意ではないけれど、悪意ではない。そんな言葉に誰よりも報われる。

僕らしくないけど、神様としても失格だろうけど。

 

 

「……ありがとう」

 

 

彼女の頭を撫でるこの手に、ほんの少しでも加護がありますように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いやはや、久しぶりだね。会いたくもなかったぜ』

 

大変遺憾ながら、同感だね。霊華はどうした、霊華を出せ。ついでにきみは消えろ。

 

『霊華ちゃんは前回出しゃばりすぎたからね、お休みを満喫してる』

 

……僕の夢って、どんな構造してるんだよ。

 

『私が知るかよ』

 

むしろきみが知ってなきゃおかしいだろう。きみは僕の夢なんだから。

 

『ほーう、冥利くんは自分の身長体重スリーサイズ足の大きさ臓器の位置筋肉繊維の本数細胞の数脳の皺の数骨の太さ髪の毛の本数眼球のサイズ全て全部エブリシング知っているわけだね?」

 

おい、何か台詞が長すぎて途中から音声がクリアになってきてるぞ。

 

「おっと、いけね』

 

……やっぱ、僕の夢って適当に作られてるんだな。

 

『当然だろ。きみの夢なんだぜ?適当じゃない方がおかしい』

 

待て、まるで僕の人生や、僕そのものが適当なように言うじゃないか。

 

『違うのかい!?』

 

驚くな。

 

『違うのかい…?』

 

疑うな。

 

『違うのかーい!』

 

突っ込むな。……おい、これそんな面白くないぞ。

 

『あ、やっぱり?私も微妙だとは思っていたんだけどねー』

 

なら決行するなよ。僕まで滑ったみたいな雰囲気になっちゃっただろ。人を巻き添えにしてスケートリンクに革靴で立つんじゃねえよ。

 

『ふふふ、滑ってもただでは転ばぬ女なのさ』

 

誇れるようなことじゃないけどな。実際やってることはただのお手々繋いで車道ダッシュだし。

 

『よく言うだろ、旅は道連れ世は情けって』

 

どっちかって言うときみの頭が情けないけどな。

 

『そういえばさ、「おお勇者よ、死んでしまうとは情けない」ってあるだろ』

 

あるな。

 

『あれって、勇者の死を「情けない」の一言で済ませてしまう王様の方が情けというものが無いんじゃないかな』

 

正しく、他人事だしな。

 

『一言だけにか』

 

おい、やめろ。僕が言ったギャグの解説をするな。

 

『それよりも冥利くん、きみのキャラ崩壊が激しいのは仕様かい?正直言って、気持ちが悪いぜ』

 

あー、うん。気にするな。僕だってキャラが掴めなくて気持ちが悪い。

 

『気持ちが悪いぜ』

 

何故繰り返した。

 

『反吐が出るぜ』

 

何故悪化させた。

 

『しかし、神様的にあんなことしていいのかい?』

 

あんなこと?…ああ、楓に僕の加護をつけたことか。

 

『神様が贔屓をするなんて、私は現実に絶望したぜ』

 

元々希望なんて持ってたのかよ。

 

『さあね。少なくとも私は知らないな』

 

まあ、僕の夢だしな。

 

『で、どういう風の吹き回しなんだい?あの子に加護をつけるなんて』

 

僕の夢のくせに、僕の内心は知らないんだな。

 

『何せ、私は私だからね』

 

そして、僕は僕だ。

 

『はっはっはっは。さて、今週の「冥利くんの夢ラジオ」はここまで、では、また来週ー』

 

できれば、今回で打ち切りになることを切に願っておくよ。

 

 

 

 

 

 




ストーブをいくらたいても部屋の温度が上がらない。超寒い。

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