東方虚真伝   作:空海鼠

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こんにちは、空海鼠です。
3話連続更新です。


八意永淋

と、いうわけでやってきました未来都市。

唯一の気がかりであった「人に無意味に嫌われる能力」も門番の人が別段嫌な顔をしなかったばかりか僕と数分話してくれることから無くなったことがわかった。これでようやく友達が作れる!

友達ができるよ!やったね冥ちゃん!

……冗談である。まず、僕の性格で、友達とかそういうのを期待する方が間違っているのは言うまでもないだろう。嫌われ者根性が身についている、とでも言えばいいのか。この性格を好ましく思うような人は、おそらく世間一般では変態とか変人とか『変』の付く呼称に自らの立場を置いている可能性が高い。

正直、変なのは生前の知り合いでもうたくさんである。

適当なところで思考を打ち切り、僕たちの戦いがまだまだこれからになったところで、周囲を見渡す。未来形都市とは言っても、どこぞの22世紀のように人が竹とんぼ型飛行ユニットで、お空を自由に飛んでいるでもなく、人々はラバースーツ風の衣服を着ている訳でもない。いや、現在のファッションセンスから見るとおかしいのかもしれないが。

 

「…で、永淋の家ってどこよ」

 

詰んだ。デレない。デレないツンデレって何の需要があるんだよ。僕の元の世界ではそんな奴らばっかりだったぞ。おめーの需要ねーから!……ふう、取り乱してしまいました、失礼。と架空の何かに向かって優雅とは対局の位置にあるような礼をする。

「人に無意味に嫌われる能力」が無くなったため、今回は本来のテンションの七割り増しでお送りします。嘘なんだけどね。

 

「過去なのに未来都市……うん、駄目だね。これ。笑えないや」

 

未来都市を散策。建物の造形とかは元の世界とほぼ変わらない。こうして建物が並んでいる様子を見ると、童心に帰ってピンポンダッシュをしたくなる。ちなみにこれは本当である。僕だっていつも嘘ばかりついているわけではないのだ。

意外と友達いなくても楽しめるものなんだぜ、ピンポンダッシュ。

眼球の可動域を最大まで広げて、とりあえず一時的に身を置く場所を探す。スラムなどの不健康な場所にはあまり行きたくないが、背に腹は替えられないだろう。最終手段として一応覚悟しておくことを脳内に住み込んでいる誰かが指示してくる。

とりあえず、永淋に会えばいいのだ。

大体、そうだろう。二次創作やら何やらでは、とりあえず永淋に会って、彼女の家に住み込めばいいのだ。……まあ、僕だし、失敗も視野に入れるべきだとは思うけど。

さて、問題は永淋とどうやって出会うかだ。この妙に広い未来都市に住む無数の住人の中から彼女を捜すのは、まさに洗濯物の中からどこかの衣服に入っているギザ十を探すに等しい難易度だろう。だからとりあえず、拠点を捜して…………いたよ。あの赤青ファッション目立ちすぎだろ。

しかしこうも簡単に出会えるとは、今の僕には主人公補正でもついているんだろうか。主人公ってキャラでもないけど。むしろ僕には主人公に倒されるモブとかかませの方が相応しい。

不躾に永淋をじろじろと見て、記憶との相違点を捜す。

白髪交じりのものとは比べものにならないほど綺麗な銀髪、モデルを志したならほぼ叶うといっていいだろう端正な顔立ち、そして、よくわからないセンスの赤青ファッション。

僕が記憶している通りの、八意永淋である。

まあそんなわけで、とりあえず声をかけてみる。

 

「あの…すいません」

 

「何か用かしら?」

 

永淋の声は、わりと予想通りだった。当たり前だろう、ここで予想外の声をかけられたとしたら、少なくともそいつは常識人とはほど遠い存在だ。はてさて、では僕は予想外の声をかけよう。

 

「雇って下さい!」

 

土下座した。それはもう、華麗な土下座だと思う。永淋を見ろよ、見惚れて声も出せてないぜ。嘘だけど。おそらく呆れて声も出せない状態なんだろうなと勝手に永淋の心情を予測する。

 

「………」

 

「………」

 

気まずい沈黙が流れる。さすがにいきなりこれはちょっとアレだったか?アレってどれだよアレはアレだよと一人でくだらないことを考えていると、若干引き気味に永淋が口を開いた。

 

「や、雇う…のはいいけれど…それほどお給金高くないわよ?」

 

自分でやっといてなんだか…こんなので成功するとは思わなかった。一旦断られて理由を聞かれ住居をなんとかする…みたいに考えていた僕が馬鹿みたいじゃないか。そういえば小学生とかが「馬鹿って言った方が馬鹿」という謎理論を持ち出してくるがその言葉の途中で二回も馬鹿って言っちゃってますよ?つまり馬鹿って言われた方が言った方より二倍馬鹿。異論は認める。いや、そんなことはどうでもいいんだ。駄目だな、短時間の間に色んなことが起きすぎているせいか、思考が纏まらない定まらない。少し冷静になろう。びーくーるだ。

しかし、こんな変な奴を詳しい話も聞かずに雇うなんて永淋は人が良いのだろうか。ならもう少し図々しいお願いをしてみるか。

 

「給料はいりません。その代わりといっては何ですが貴女の家に僕を居候させて下さい。住居が無いんです」

 

さて、どうだろうか。失敗したらそのへんで野垂れ死ぬことになりそうだ。こんなにも死が身近に感じられるなんて実に30分ぶりだ。

永淋はというと最初こそ取り乱したようだったがすぐに落ち着きを取り戻すと、

 

「ええ、かまわないわ」

 

と、キリッという擬音が聞こえてきそうなほどキメ顔でそう言った。例外の方が多い規則(アンリミテッドルールブック)とか使えるんじゃないだろうか。

そんな内心を隠しつつ好青年を装い永淋にお礼を言う。

 

「あ、ありがとうございます!頑張りますので、よろしくお願いします!」

 

そんな訳で、僕の助手生活が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

助手生活が始まったと言ったな、あれは嘘だ。

正しくは、モルモット生活だった。永淋が新薬を開発する度に実験台になるだけの簡単(に死ねる)お仕事だった。あれから三年、実に五千にも昇ろうという数の地獄を味わった。薬自体は別に普通だ。例えば、流行病の特効薬とか、風邪を治すなんていうふざけた効能のお薬とか。効能は凄いのだが、所謂オクスリ的なものがなくてとりあえず一安心はした。

だが副作用がヤバイ。まじでヤバイよ、マジヤバイ。

思わず言語野に支障をきたしてしまうほどの副作用だったんだ。このままでは、「ヤバイ」のみで会話をするリア充という部族になってしまうのも時間の問題だろう嘘だけどといったところだ。

ベッドから体を起こし、すっかり見慣れてしまった天井の模様を見る。何かと目があったような錯覚が舞い降りていて、僕のSAN値をガリゴリと削っていく。……まあ、元から無いに等しいSAN値だから、削れても全く問題はないのだが。

そんなことを考えていると永淋から呼び出しが来た。

さて、今日も大人しく、逝きますか。

ドアを開けて、十三階段を昇る死刑囚の気持ちで廊下の踏み心地を噛みしめる。もしくは余命三日を告げられた人の気持ちかな、これは。

永淋の研究室へと入り、なるたけ永淋と目線を合わせないようにしながら全身を気だるげに垂らして遺憾の意を表明してみる。

えいりんには こうかが ないようだ・・・。

 

「冥利、今日はこの薬の投与をしてみたいのだけれど…」

 

「はい」何故か敬語になってしまった。

 

「この薬の副作用は腕や足を中心に刺すような痛みがあるだけだから、いつもよりは大丈夫ね」

 

だいじょばねえよ。毎回死にそうになんだぞ。『あらゆる薬を作る程度の能力』使って副作用の無い薬作れよ。体中の筋肉が恐怖からそう訴えてきたので、それをそっくりそのまま永淋に告げる。

 

「あら、あらゆる薬と言っても、副作用の無い薬を作ろうとしたら副作用がないだけの毒にも薬にもならないものができあがるだけよ。目的は病気を治すことなんだから、多少の副作用には目をつむってもらわないと」

 

「その多少の副作用で体弱い爺さんとかは死にかねないよ?病気治す代償で命奪ってどうするのさ」

 

「てへっ☆」

 

「可愛らしいのは認めるけどそれですまされるレベルじゃねえよ」

 

「大丈夫よ。冥利で実験しているのは『ギリギリ死なないライン』の薬だから」

 

「実験してるってことは『死ぬかどうかわからない』ってことじゃあないかな」

 

何なんだよ本当。永淋は……僕を虐めているのかい?僕の心が源さんのところのバイオリンのようにギコギコと、鋸と工事音を無理矢理結合させて分離に失敗したような不協和音を放ち始める。

たまには絶望したっていいじゃない、人間だもの。

そんな僕の考えを華麗にスルーして永淋が話を始める。

 

「そういえば冥利、貴方に一週間の休暇を与えるわ」

 

「休暇?それはありがたいけど…どうして?」

 

鬼の永淋と主に僕に呼ばれている永淋が僕に休暇を与えるとは何か心境の変化があったに違いない。

三年間軽く軟禁状態だったから良心が痛んだのだろうか。それとも、良心を悼むようなことがあったのか。

 

「貴方で試せる薬がこれで最後なのよ」

 

嘘だ。『嘘をつく程度の能力』を持ちつつ、自身も嘘つきであるプロの嘘つきの僕の目はごまかせない。永淋は嘘をついている。だが根掘り葉掘り聞くような真似はしない。誰だって秘密の一つや二つあるだろう。僕だって永淋に『嘘をつく程度の能力』を隠している。

……いや、特に意味はないんだけどね。一度僕が能力を持っているかについて、聞かれたことがあったけど、虚言癖はすぐには直らず、勿論ないぜと脊髄反射で僕の四枚くらいありそうな舌が脳の許可をとらずに勝手に返答。それ以来、一度も能力については言及していない。僕が能力を持っていないと思っているが故の気遣いだろうか。

眼球の作用を正常に復帰させて、今まで聞き流していた言葉を耳から再入力する。

 

「だから一週間、外に出てもいいから貴方は仕事場には入らないでね?」何の話だろうか。

 

「勿論入るよ!」

 

僕、笑顔っぽいもので返す。永淋も笑顔。そこから流れるようなキック。痛い。

 

「嘘嘘!嘘だから蹴るのをやめぐえっへる!!」

 

的確に人体の急所を蹴りつけてくる永淋の戦闘技術には目を見張るものがあり、ずっと眺めていたいが、僕は生憎被虐的な趣味嗜好を持ってないので蹴られるのはあまり好ましくない。

永淋を宥めるべく、働かない脳に代わって唇に全てを託す。

 

「待て、永淋、落ちぐげががが、落ち、着け」

 

駄目だ、話が通用しない。その暴れっぷりは将来バーサーカーのクラスで聖杯戦争へと参加することを強制されそうな見事なものだった。

一通り痛めつけられた後、喉まで迫り上がってくる今朝の朝食を喉の奥へと再びボッシュートして、仕方なく配置につく。

はあ、生前と、どっちがマシかが問題だよな。

目の前には、怪しい液体を注射器に入れてにっこりと微笑む、永淋の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 




わりとキンクリ多めで進行しています。

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