東方虚真伝   作:空海鼠

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まあ、全然謎じゃあないですけど。


謎解き

滞在、十一日目。

博麗神社からの呼び出しが来た。

おそらくいたずらか何かではがされたか、村や神社の一大事か、変態出没警報発令中かのどれかだろう。正義感の強い僕としては、すぐにでもルーラで飛んでいきたかったけれど、これまた責任感の強い僕としては、神子たちに何も話さずに行くなんて言語道断の極みであるために、一応話しておくことにはした。

 

「急用ができたので、一旦故郷に帰ります」

 

無駄を省いて、速やかに率直に要点だけ話した。

ちなみに現在、八時レベルに全員集合状態にはなっている。右から、口をあんぐり開けて絶句している神子、デレ期(おそらく友情的な意味で)に入ったためか呆然としている屠自古、おそらく全く別のことを考えて呆然としているであろう布都、あらあらうふふと顔に適当な笑顔を貼り付けている青娥の四人だ。

神子はしばらく金魚の真似のように口をぱくぱくと開いたり閉じたりしていたが、一度深呼吸をして落ち着くと「なっ……!いや、どっ………!?」いや、落ち着けよ。

 

「太子様、一旦落ち着きましょう」

 

茫然自失タイムから見事リカバリーを果たした屠自古が、神子を落ち着かせる。だが若干目がぐるぐると忙しそうに動きまわっているあたり、まだ落ち着いている訳ではないのかもしれない。自分がまだ落ち着いていないのに、主人を落ち着けることを優先するとは、従者の鑑だと、そんなことを思った。

 

「……ありがとう、屠自古。少し落ち着いたわ」

 

本当に落ち着いたのだろうか。よし、試してみよう。

 

「神子、好きだー。結婚してくれー」

 

「はい………ってぇええええええええええええええええ!?」

 

駄目だ。全く落ち着いていない。冷静な判断も下せないとはねえ。僕と結婚とか、イエスと言うのが間違っているのはもう公然の事実であり、教科書とかにも載ってるぞ。嘘だけど。

何か「あうあうあうあう」とか壊れている神子よそに、屠自古と話し合う。「…屠自古、神子は全く落ち着いていないようだけど」「うーん……太子様はあんたに…………恩……を感じているからね」若干溜めが長かったのは、何だったのだろう。もしかして「貴様に感じる恩なぞねぇ!」みたいなニュアンスだったのだろうか。

そこに、「あら、酷い人ですね。くすくすくす」「何じゃ?何の話をしておる?」青娥と布都も入ってきた。カオスになるのを恐れた僕は、神子を頭を軽くチョップして、正気に戻す。

 

「はっ…!はうぅ………」

 

今までのあうあうを思い出したのか、赤面して縮こまる神子。何とも和む風景である。

 

「落ち着け、神子。あれは嘘だ」

 

「へ……?嘘…………?」

 

「いえす。全部オールエブリシング嘘」

 

「はぅう~………」安心したように、肺から息を一気に空気中に放射する神子。そんなに僕との結婚は………、ってこの流れ一回やったな。

 

「で、落ち着いた?」

 

「は、はい。大丈夫です……」

 

確かに落ち着いてはいる…けれど、落ち込んでいるように見えるのは気のせいだろうか。心なしか耳(に見える髪の毛)もへにょんと元気がなさそうに曲がっている。

 

「さっきも言ったけれど、急用ができたから、僕は故郷に帰らなくちゃならなくなったんだ」

 

「そうですか……」

 

「……そうだね、神子が仙人になったら、呼んでくれよ。きっと、聞こえるから」

 

「でも………」

 

「大丈夫、僕は耳がいいからね」

 

神子はしばらく押し黙ったが、観念したように「………絶対ですからね?」と、念を押してきた。如意棒は、それほどまでに魅力的なものだっただろうか。まあどれにせよ、一応原作キャラと繋がりが持てたので、良しとしよう。

 

「あ、そうだ、きみも一緒に来てくれ」

 

「………?」不思議そうな顔をしているが、おそらく、内心ではわかっているのだろう。

 

「少し知恵を借りたいだけだから、すぐに解放するよ」

 

嘘だけど。僕がするのは、一方的にべらべらと話すだけのことだ。

 

「じゃあ、外で待ってるから」

 

 

一方的に言い放ち、外へと向かう。

 

 

 

さあ、カンニングの答え合わせといこうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この前、僕と神子は、何者かに暗殺されかけた」

 

いつもよりも丁寧に言葉を選んで、口を開く。

せっかくの大舞台、僕の下らない言葉で台無しにしたら勿体ない。

 

「結果は、見ての通り。僕は背中に傷を負ったけど、この通り生きている。けれども、この暗殺未遂には、不自然な点があるんだ」

 

相手の方は、まだだんまりだ。冷静にこちらを見ている。

 

「例えば、いきなり矢が飛んできて誰かに刺さったとしたら、まずはその誰かの方を見るだろう。そして次に、矢の飛んできた方向を見るはずなんだ。二発目が飛んできたら、仕留められてしまうかもしれないしね。当然、神子だってそうした。だけど、そこには誰もいなかったんだ」

 

まあ、当然だろう。見つかりそうになったら、逃げる。基本ではある。しかし。

 

「僕の傷の方向から判断すると、矢はほぼ真横から飛んできたことになるんだ。しかし、そこには誰もいなかった。袋小路で、行き止まりのはずの場所に、誰も、いなかったんだ。どういうことだと思う?矢を構えて、撃って、袋小路から神子に見つからないように逃げる。言葉にすると簡単だけど、実に難しいことだ。じゃあ犯人はどうやって逃げたか?」

 

神子はあのとき、変な音を聞いたそうだ。何かが倒れるような、落ちるような音を。

 

「答えは簡単だ。犯人は、壁を壊して逃げて、それを元通りにしたんだ」

 

犯人が、愉悦堪えることなく、顔に表しながら、ゆっくりと口を開く。

 

「あら、貴方に私が壁抜けを出来ること、伝えていました?」

 

「それが真実である限り、僕には隠し事はできないよ。真実は、いつも一つだからね」

 

おどけるように、答えになっていない返答を返す。

僕は、見た目は青年だが、中身はお爺さんほど生きているのだ。

 

「そう……で、貴方、仙人じゃありませんわよね?」

 

唐突に、青娥が切り出してきた。

 

「勿論」

 

「何者かしら?」

 

「さあ。怠け者とか、痴れ者とか、馬鹿者あたりがぴったりな気もするけど」

 

僕の脊髄は、秘密を守るにはうってつけのようだ。考える前に、嘘を言ってくれる。

青娥は少し笑って、呆れたように溜息をついた。

 

「どれにしろ、ろくな者じゃないわね」

 

「人畜有害ってところかな。僕の存在は、害にしかならない」

 

「あら、意外と太子様には高評価よ?貴方」

 

「命を助けられたと思ってるからだろ」

 

「命を助けた時点で人畜有害ではありませんわよね?」

 

白々しい言葉を投げかけてきた。どうせ答えを知っているくせに。

 

「僕を狙って撃たれた矢を僕が受けて、もし運悪く躱したら神子に当たる。十分有害だろ」

 

「私が貴方を狙った理由は?」

 

「そんなもの、知るかよ」

 

「あら」と少し驚いたように目を見開く青娥。この反応は少し物珍しいな。

 

「人を殺す理由も、人を助ける理由も、何だっていいだろう。むしろ、一々理由を求める方がおかしいんだ」

 

『私には動機がありません』なんていうのは証拠にはならない。人は、いつだって狂えるし、いつだって人を殺せる。ただ、それをしないだけなんだ。

急に、青娥がすっと両手を広げた。何かの儀式だろうか。

 

「……………何やってんの?」

 

「あら、復讐。しませんの?私は看破されたら大人しくやられるという遊戯をしていましたのに」

 

………さすがに、遊び感覚で刃物を刺されたのは、これが初めてだ。これまでは全員、憎しみだとかいらだちだとか、そういった感情を持っていたからな。

 

「しないよ。僕はそこまで暴力的じゃないんだ」

 

ぽかんという表情のまま固定され、笑顔を貼り付けることも忘れている。

そして、それに背を向けてすたすたと歩く。謎解きあどべんちゃーは終了したのだ。あとは神社に向かうだけ。さあ、行こう、ルーラを使用して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神楽布瀬……さん。ふふっ」

 

 

 

 

何やら、不吉な呟きが、聞こえたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 




オリジナル作品で、『ぼくの終わらない日常』というのを書いてみました。
よろしければご覧になって下さいという宣伝。

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