東方虚真伝   作:空海鼠

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やはりバトル描写とか無理です。


決闘

妖怪は、長く生きれば生きるほど、妖力が溜まる。

種族を人間だと偽ると、妖力が全て霊力に変わる。

なら長く生きた、永く生きすぎた僕の霊力は?

 

「霊力を二割解放する」

 

そう呟くと、自分の中にある霊力が増幅するのがわかる。これを妖力に換算すると、そこらの大妖怪レベルだ。我ながら、チートである。

面白い、と言ったようにこちらを見つめる闘牙。ざわめく観客の皆さん。

そして僕は防御態勢をとる闘牙を、

 

力任せに、ぶん殴った。

 

盛大に吹っ飛び、バトルフィールドの壁にぶち当たる闘牙。一応体を突き破らない程度の手加減はしているが、それでも肋骨が折れた程度の怪我はしているだろう。

だが、壁にめり込んだ闘牙は「ふっ……ふふふふ、ふふははははははは、はっはっはっはっはっ!!!」と今時悪役でもしないような三段笑いをした。どうやら、まだ無事なようだった。

 

「面白い!面白いぞ!人間!!」

 

訂正を求めよう、僕はいんげんだ。豆の方ではないけれど。

 

「まだ動けるのか、もしかして能力ですか?」

 

「いかにも!私の能力は『体を硬くする程度の能力』だ!!!」

 

なるほど、それで鉄腕鋼脚、か。

ならばどうしようか。あまり強い力で殴ったらそのまま砕けかねない。いくら鬼といえど、仲間が殺されたら村を襲わないどころか積極的に復讐に動く可能性が高い。それなら……。

 

「今度はこっちから行くぞ!!」

 

闘牙がこっちに向かって拳を振り下ろしてきた。動き的にはそれほど速くないので、躱すことは容易だ。だが、破壊力は相当なようで、地面が砕け、抉れる。

 

「こんなものを僕に当てようとしてきたんですか。危ないですね」

 

「ハッハッハ!貴様も私のことが言える立場ではあるまい!」

 

まあ、そうだろう。なぜなら、僕は、闘牙の肩に手を触れていて――――――

 

 

――――――闘牙の右腕が、肩から切断された。

 

 

声にならないような悲鳴が闘牙から上がる。同時に、鬼や天狗たちからも歓声とも悲鳴ともつかないような声が上がる。

そして次いで、左腕、右足と、順に切断していく。

左足だけじゃあ、何もできないだろうと思い、切断するのをやめる。

 

「で、これは僕の勝ちでいいですね」

 

確認のためなので、疑問系ではない。

 

「あ………ああ、……見事…だ……」

 

息も絶え絶えに闘牙が言う。そして同時に歓声がわあっと上がる。人間が鬼に勝つのが、相当めずらしかったのだろう。

まあ、勝ちも取れたしもういいか。

闘牙の右腕を持ち、彼の肩にくっつける。ざわざわと観客が色めき立つ。

さらに左腕、右足もくっつける。ざわざわざわ。

四肢が元に戻って痛みがなくなり、息を整えた闘牙が言う。

 

「しかし、どうやって硬化した私の腕を切断したのだ?」

 

もちろん彼の脳に嘘をついて、斬られたように見せかけただけである。

 

「禁則事項です」

 

「キンソクジコウ?なんだそれは」

 

「言わない言えない言うことがないのジェットストリームアタックです」

 

「……?つまり秘密、ということだな?」

 

「ええ、まあ」

 

鬼は嘘が嫌いというらしいしね。取り立てて言う必要もないだろう。

 

「じゃあ、貴方たちはこれから村を襲わない。それでいいですね?」

 

「ああ、鬼は嘘をつかない。約束しよう」

 

そうして僕は、依頼を達成して、酒を受けとるべく村に「ちょっと待った!」戻った。

 

「いやいやいや無視しないでよ!ちょっと待った!って言ってるんだから待ってよ!」

 

「痛っ」

 

変な霧に体当たりされた。おそらく萃香だろう。

 

「いきなり何するんだ。急に体当たりしてくる霧がいるような場所にいつまでもいられるか!僕は村に戻るぞ!」

 

「ちょ、ちょっと待って!待ってって!」

 

萃香が幼女スタイルになって押しとどめてくる。このままスルーしてもいいのだが、幼女が僕にまとわりついてくるというこの状況は客観的に見るととても犯罪的なのではないかと思って、仕方がないので話を聞くことにした。

 

「何だよ。僕はさっさと帰って酒を飲むという大切な使命があるんだ」

 

「さ、酒ならこっちでも飲めるからさ!ちょっと待ってよ!」

 

いくらかわいい幼女だろうと、僕はロリコンではないので、こうまとわりつかれると鬱陶しい。

 

「要件を言ってくれ。僕だってそれなりには忙しいんだ」

 

「勝負!私と勝負してよ!私は鬼の四天王、伊吹萃香!」

 

キラキラと瞳を輝かせて、白い歯をキラリと光らせる萃香。

それに対して僕は。

 

「え?嫌だけど?」

 

お断りで返した。

 

「ひどいっ!?」

 

「僕は平和主義者なんだ。何も利が無いのに戦うなんて、理解できないね」

 

「私に勝ったらこの伊吹瓢………無限に酒が出てくる瓢箪あげるからさあ」

 

「おい何やってんだ早く戦うぞ」

 

我ながら、素晴らしい掌返しだったと自負している。

霊力は四割解放。ちょっとした神レベルだ。

 

「……っ!相手にとって不足無し、だね」

 

萃香がニヤリと少し口角を上げて笑う。同じ口角を少し上げる笑い方でも、どうして曖とこんなに印象が違うのだろうか。

萃香はおそらく楽しんで戦いたいのだろうが、残念ながら僕は最初から最後までクライマックスな状態だった。

『触れられないものに触れられる』と嘘をつき、全力全快で、ぶん殴る。

 

「はっはっは、残念だけどその攻撃はぐえへっ!?」

 

幼女にあるまじき声を出し、吹っ飛んでいく萃香。霧状になって回避しようとしたのだろうが、残念ながら僕には通じない。今なら僕TUEEEEEEEEEEE!!とか言える気がする。嘘だけどね。

 

「さあ、その瓢箪を渡してもらおうか。はりーはりーはりー」

 

「は…はは……。指一本動かないよ。これだけ強い人間がいたとはね…」

 

「うん。だから瓢箪を」

 

「約束だからねー……はい」

 

瓢箪を差し出す萃香。ただし、まだ動けないらしく、僕が取りに行くシステムだが。

ねんがんの いぶきびょうを てにいれたぞ!

 

「いかんいかん、このままだと殺されて奪い取られかねない」

 

「…?どうかした?」

 

「いいや、僕は意味のわからないことを一日十回言わないと死んじゃう体質なんだ」

 

「…………?」

 

何言ってんだ、コイツ。とまではいかなくても、よくわからない、というように小首をかしげる萃香。一部の趣味の人々が見たら出血多量で死ぬレベルである。

さて、伊吹瓢も手にれたし、今度こそ村に帰ってさっさと出発「待って下さい」出来なかった。

 

「一度に言ってくれると僕はとても嬉しい……いや、別に呼び止められるのは嬉しくないけど」

 

「まあまあ、そう言わないで下さいよ」

 

僕を呼び止めたのは、鬼のボスっぽい人だった。

彼女はにこにこと、気持ちの悪いほど、気持ちが良い笑顔を浮かべている。さらに髪の毛の色や肌の色は不自然なほどに色が抜けていて、全体的に、色素の足りないようなイメージだ。

そして、彼女は鬼だ。角も生えている。しかし、全身から漂う嘘と真実を織り交ぜたような雰囲気は、彼女が嘘つきであるということを証明してる。

鬼なのに、嘘つき。

嘘つきの、鬼。

嘘鬼。

僕が半ば冗談として決めたような種族が、僕以外にいるとは思わなかった。

しかもこの人、僕みたいなただの嘘つきと違って、嘘と真実を織り交ぜる、詐欺師やペテン師のような人種に思える。詐欺師相手はどうも、苦手だ。

僕が初対面の人に対して非常に失礼なことを考えていると、その彼女が顔を近づけてきて、こう言った。

 

「私と、勝負し」「嫌です」「振られてしまいました、残念」

 

正直言って、こんな雰囲気を持つ人々とは、関わり合いにならないまま過ごしたい。嘘と本音が入り交じっているため、どれが嘘でどれが本当なのかわからなくなってくる。

それに、単に僕がこういう人が苦手だというのもある。別に嫌いではない。僕が嫌いなのはこの世で唯一、アレだけだ。

 

「あ、自己紹介がまだでしたね。私は夜文褥(やぶみしとね )です。鬼子母神を少々、営んでおります」

 

「はあ、それはご丁寧に。ですがもう下校時間ですから、僕はもう帰ります。それでは先生、みなさん、さようなら」

 

「いえいえいえ、帰る必要はありませんよ。どうぞ、ご自分の家と思っておくつろぎ下さい」

 

「僕は今日、自分の家に帰ったら、都に行こうと思っていたんです。ちょうどいいので、ここを自分の家だと思って出発しますね」

 

「はい。三日たっても帰ってこなかったら浮気だと見なして泥棒猫の所へ突入します。行ってらっしゃい」

 

「いえいえ、三日四日の泊まりがけはサラリーマンなら当たり前ですよ。浮気なんてしませんから、褥さんはずっとこの場所で僕の帰りを待っていて下さい」

 

「それでも、夫の顔を一日でも早く見たいのが妻というものです。三日と言わず、一日でも帰ってこなかったらすぐに貴方の元へと」

 

「僕は愛する人と一日、一緒に過ごしたらその後百年は必ず会えないという、七夕的な呪いを患っていまして」

 

「その呪いの解呪方法は愛する人と接吻を交わすことだと聞いていますけど」

 

「白雪姫方式はもう古い。これからは赤ずきん方式で愛する人が狼に食べられないといけません」

 

「男はみんな狼ということで鞍人さんが食べてくれることで呪いが解けるのなら、喜んで」

 

「食べてもいいですよ。物理的な意味で」

 

「食べてもいいですよ。性的な意味で」

 

「…………」

 

「…………」

 

そしてしばらく流れた沈黙の後。

 

「…うっくっくくっくくくく」

 

「…ふふっふふふふふ」

 

僕は気持ち悪く、褥さんは上品に笑った。

この人はやはり、苦手だ。だけど、この人との会話は、すでに顔さえも忘れたとある詐欺師さんとの会話を思い出せて。

下らなく、面白い。

笑えるほどに、楽しい。

懐かしい気持ちに浸ることができる。

 

「褥さん、貴女は僕が昔会ったことのある人にとてもよく似てますよ」

 

「奇遇ですね。私も貴方によく似た素敵な男性と出会ったことがあります」

 

常ににこにこスマイルを浮かべてるところなんかも、そっくりだ。

もっとも、どちらも苦手だけど。

 

「では、僕は都へ行きます。もう二度と会えないといいですね」

 

「はい。では私はここに残ります。もう一度会えるといいですね」

 

そして僕は褥さんに背を向けて――――――

 

 

 

「そういえば褥さんって昔、笠盾咲恵(かさだてさきえ )って偽名使ってませんでした?」

 

 

 

「…………………………………………………………………………………何のことでしょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




自分で書いておいて何だか、萃香の扱いが小さいことに驚いています。
ちなみに闘牙さんはこれから出てくる予定はありません。

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