東方虚真伝 作:空海鼠
村を出たと言ったな、あれは嘘だ。
村を出ようと思った矢先に村長にエンカウントした。どうやらカンタが村長に、僕が出発する前に伝えたようだ。何してくれてるんだよ、カンタ。お前の家お化け屋敷にするぞ。
「―――と、言うわけできみには最後に鬼を退治して欲しい」
「やだよ?」
正直、面倒だった。すでに僕の意識は都の方へと行っているのだ。いくらイベントっぽいことがあろうと、僕は自分の優先したいものを優先する。自分の意思はそう簡単に曲げれないのだ。
「退治してくれたら上等の酒を五本、いや六本」「やります」
やはり村人とちが鬼によって襲われるのは見過ごせない。それが正義である僕の使命だ。いや、嘘ですけどね?
「…で、その鬼はどこに住んでいると?」
「東の方に大きい山が見えるだろう。そこのてっぺんに住んでいるらしい」
……山登りとか、面倒だ。あ、何だか急にお腹が痛くなってきたぞー。こんなコンディションじゃあ、鬼と戦うのは無理だなー。
「お断りします」
「……七本」
「十二本」
「……九本」
「十三本」
「……十本」
「十四本」
「何で本数が増えてるんじゃああああああああああああ!!!」
急に怒鳴り出す村長。高血圧の予防はきちんとしとかないと、早死にするって教えた方がいいだろうか。いや、もう十分なほどジジイだけれど。
「とにかく十四本です。これ以上は譲れません」
「くうう……。仕方ない、十四本、用意しよう」
「その言葉が聞きたかった」
でも原作のブラックジャックだと『それを聞きたかった』なんだよな。長い時を経て言いやすいように改変されてしまったのだろうか。
さて、報酬も十分になったことだし、お仕事しますか。
その山は、高かった。
無駄に、高かった。
「まさか上る前からやる気がなくなるとは」
しかしやる気って自己申告制だから気とかオーラとかその辺の謎パワーみたいなものだろう。あるかどうかはわからないんだ。本人的にはやる気あっても「何だそのやる気のなさそうな目は!」って言われるんだよ。この目は生まれつきのものだ。
第一やる気があって出来るよりもやる気を出さずとも出来る方がいいに決まっているじゃないか。僕は努力家であるよりも、天才でありたいと常に願っている。
「鬼と戦う予定だから、体力も残しておきたいしな…」
やはり僕は、山登りをしなくてはならないのだろうか。面倒くさい。
面倒くさいが、依頼は依頼だ。仕方がないから一歩、足を踏み出す。
「止まれ!ここは人間の入っていい土地ではない!」
犬っぽい男……おそらく白狼天狗だろう。それに止められた。
そうだ。考えてみたら鬼と山って、まんま妖怪の山じゃないか。
「なら僕はいんげんだから入っていいな」
そう言って進もうとすると首元にチャキっと刀が当てられた。
「止まれと言っているのが聞こえないのか。これ以上進んだら、殺すぞ」
「あー、聞こえない。聞こえない。僕主人公だから難聴のスキル持ち合わせているんだよね。ついでに主人公補正も持ってるからきっと首斬られても死なないよ」
キッと僕を睨む白狼天狗くんだが、童顔なのでいかんせん迫力が足りない。あと、情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ速さなどその他諸々が足りないと思いました。まる。
そんなことを考えているうちに空を舞う、僕の首。
血しぶきが上がりあたりを鮮血色に染めていく。童顔白狼天狗くんはそんな僕を哀れむように見た後、クールに去ろうとした。
「待てよ」
突然地面の方から聞こえてきた声に、剣を構え、「誰だっ!」と叫ぶ童顔くん。
しかしそれにしても誰だとは、さっきいんげんだと名乗ったばかりなのに白狼天狗という種族は、忘れっぽいのだろうか。
「認知症が始まるにはまだ早すぎるよな」
声の出所が地面に落ちている僕の首だということに気がついた童顔くんが驚きを交えた声を上げる。
「人間…!貴様、何故生きている!?」
「人間が何故生きているのか。実に哲学的で高尚で馬鹿らしい質問だね」
人の生きている意味なんて無いというのに、と付け足す。
毎回同じネタばかりだから今回は少し、趣向を凝らしてみました。
「そもそも生きている意味とか理由とかがあったら全人類が」
最後まで言う前に僕の顔が真っ二つに割られた。スイカかよ、僕は。
そしてその季節外れのスイカ割りの実行犯である童顔白狼天狗くん(二十八歳、無職、嘘だけど)ははあはあと息を荒立てながら嫌悪感を露わにした顔で僕(の真っ二つになった顔)を見てくる。
嫌悪や恐怖、嫌忌などが入り交じった、昔を思い出させるような目だ。
「そんな目で見つめるなよ、僕には男色の趣味は無い」
「ま、まだ生きて……!?」
「まあ、待てよ。きみに僕は殺せない。さっきも言っただろう?」
「だが侵入者に容赦はしない!」
だからといって僕を細切れにしながら言うなよ。それが人と話をする態度なのか。
地面が血と肉片でぐちゃぐちゃになったところで、どこから発しているかもわからない声で言う。
「いや、きみの上司……、鬼に伝えて欲しいことがあるんだ」
「いんげんがきみたちに決闘を申し込むってね」
勝負は、山のてっぺんで行われる。
その山の頂上は、特設のバトルフィールドのようなもので、おそらく人を攫ってはここで勝負をしていたのだろう。卑怯な手を使わなければ、結果は目に見えてるけれど。
観客席には鬼、天狗を始めとした妖怪たちが勢揃いだ。少なくとも僕が白狼天狗に勝ったことは伝わっているのか、ざわざわと騒がしい。
どことなく若干豪華な観客席っぽい場所には、鬼のボスっぽい人や天狗のボスっぽい人、それに星熊勇儀や伊吹萃香、茨木華扇とあと一人、鬼の四天王もいる。
そして目の前にいるのは雑魚っぽい顔をしつつも巨大な体格で大きな一本角を持つ男の鬼だ。筋骨隆々で、いかにも鬼という外見をしている。
「こやつが私に決闘を申し込もうという者か。いいだろう、貴様が勝ったら我が財宝をやろう」
「いや、財宝とかそういうのいらないんであの村襲わないで下さいよ」
「あの村の為に私に決闘を申し込むか!ハッハッハ!気に入った!」
何だこいつ、周辺の気温が三度上がったと錯覚させるような暑苦しさだ。周りの鬼からも「いいぞ!」とか「面白い!」とかヤジが飛んでくるし。
「じゃあ、先行はどっちにしますか?僕はどっちでもいいですけど」
「人間に先手を譲られたとあっては鬼の名折れだ。貴様が先に来い」
「おや、人間に先手を譲って一撃で負けてしまうのは鬼の名折れではないとでも?」
「ハッハッハ!もしそのような人間がいたとしたら、その人間に負けたことを私は逆に誇りに思う」
ふむ、雑魚っぽそうな顔つきとは違い、考え方は大物のようだ。こういうのを精神的イケメンと言うんだろうか。
「私は鉄腕鋼脚の鬼人、
「僕はただのいんげん、荘部鞍人だ。いざ、尋常じゃないかもしれなけれど勝負」
オリキャラの名前は適当にパソコンに文字を入力して、
良さそうなのがあったらという形で決めています。