東方虚真伝 作:空海鼠
「今日のお仕事…終ーわーりー。一抜けピッピ」
そういえばこの一抜けピッピのピッピってなんだろうか。ギエピーとかいうポケットなモンスターの名前なのだろうかと考えつつ、妖怪の死骸を食べる。うまうま。
「しかし……年をとらない僕たちを受け入れるとは……アバウトなのか革新的なのか…」
そう、僕と曖は村に長くいすぎたために、不老がばれてしまったのだが、
『何で歳とらないんだよ!さてはお前ら、妖怪か?』←村長の息子
『いえ違います、仙人です』
『仙人って何だよ!?そんなもの聞いたことないぞ!』←村長の息子
『歳をとらなくて何か凄い術とか使える超ぱない人です』
『本当かよ!すっげー!』←馬鹿
という流れで仙人認定されてしまった。きっとあの村の人たちは将来詐欺にあっても気がつかないのではないかと少し心配になってくる。まあ、僕みたいな詐欺師もどきにとっては生きやすくていいけどね。
森を抜けて、村に戻る。
「あ、
この村では僕は、
「そっちもお疲れ。えーと……カンタだっけ?」
お前ん家ーおっ化け屋敷ーって言いそうな顔してるし、きっと合ってるはず。
「健太です」
違っていたようだ。
「そうそう健太。うん、きちんと覚えてるよ」
「絶対嘘だ……」
失敬な。さっきは噛んでしまっただけだ。かみまみた。
「ところで鞍人さん、聞きました?都の噂」
「何?都に足が生えて動き出したって?それは大変だ、すぐに行かなくては」
「都では最近、一度に十人もの話を聞くことができる人が…ってどこ行くんですか!鞍人さん!」
「そうだ、都行こう!さようならカンタ!きみのことは忘れない!」
きっと後半は嘘だけど。
こうしちゃいられない。風呂入って歯磨きして寝て起きたら都に行かないと。聖徳太子だ。豊聡耳神子だ。善は急げ、悪も急げ。とりあえず行動してから考えよう。
突然ですが、問題です。
貴方は、妖怪退治の仕事から帰ってきて、風呂に入ろうとしました。能力で作ったお風呂です。
そこで貴方は脱衣所に入り、服を脱ごうとします。そこに。
水もしたたっちゃってる感じの女の子が全裸でいたらどうしますか?
「…………」
「…………」
朝霧曖が、何故か僕の家にいて、全裸だった。
そしてその一般に胸とか乳とかおっぱいと呼ばれるべき場所は、ものの見事にぺったんこだった。
それはもう、雄大な平野のようであり、波一つ無い大海原のようでもあり、高いところから見下ろした雲海のようでもあり、洗濯板とかまな板とか壁とか地平線とか水平線とか床とかテーブルとかマッギョとかぬりかべとか平たい胸族とか色々表現のしようはあるけれど、やはりぺったんこという表現が一番しっくりくる表現だということを思い知らされるような胸で、もはやこれは胸板と呼んで差し支えないほどではないかというほどにそれはそれはもう起伏がなかった。貧乳とか無乳とかそんなチャチなもんじゃ断じてない。もっと平たいものの片鱗を以下略。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
このまま永遠に続くように思えた気まずい沈黙に耐えかねて、何かしら適当なことを言ってみようとした。
「あー……、何というかこれは……」
「……………ぃっ」
直後、羞恥がピークに達した曖の、この世のものとは思えぬような悲鳴が家をビリビリと震わせた。
「見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた」
劇的、びほーあふたー。ご覧下さい、部屋の隅でうずくまっているこのどんよりじめじめとしていて、キノコでも生えるのではないだろうかと、感想を抱かざるを得ない人物が、朝霧曖だ。
どうやら曖はメンタルが弱かったようだ。僕を見ろよ、きみ以上に神経は細くてすぐちぎれるけどまたすぐ繋がるぞ。何事もりかばりーが大事なのだよ、りかばりーが。
とはいえ、このままにしておくのも僕の良心が痛むわけではないけれど何だか気持ちが悪いので、一応フォローはしておこう。
「曖、別に僕は見たくて見た訳じゃないんだ。ただ帰ってきて風呂場に曖がいるだなんて誰が思うだろうかという話なんだ」
あれ?曖をフォローするつもりがいつの間にか僕をフォローしていた。
「それは私に女性としての魅力が全く無いということかしら?」
地の底から響いてくるような声で質問し、ジト目というかもはやドロ目と言った方がいいんじゃないかという感じの目で睨んでくる曖。だが涙目なので迫力は半減している。
「そもそもきみが僕の家の風呂場で全裸でいるのが悪いんだろう、僕は悪くない」
「しょうがないじゃない、私の家にはお風呂ないんだもの。大体風呂で全裸でいるのが悪いなら、一体どこで全裸になればいいって言うのよ!」
「僕の部屋とか」
「へ、変態だ!!!」
「変態じゃないよ、紳士だよ。もし変態だとしても変態という名の紳士だよ。ジェントルメンだよ。思わず複数形になってしまうくらいの紳士だよ」
「それなら紳士協定として風呂場に行くときはノックくらいしなさいよ!」
「まあ待て、この風呂は僕の物だ。したがってそこに入っていたきみもまた、僕の物ということに」
「ならないわよ!この変態!」
「で、落ち着いた?」
曖は少し不満そうな顔をしたが、すぐにいつものニタニタとした表情に戻った。
「ええ、そうよ。落ち着いてましたわ。落ち着いてましたとも」
まるで最初からそうであったかのように取り繕う曖。その姿は、滑稽と言うべきか、可愛らしいと言うべきか。
「落ち着いたのなら話を聞け。僕は、都に行くことにした。だから村長とかに伝言を頼む」
「いきなりね。急にどうしたのかしら」
「聖徳太子が出た」
「まるで聖徳太子をツチノコかなにかのように言うわね」
「似たようなものだろ」
「うふふ」
「あはは」
この意味のないやり取りにも慣れたものだ。慣れても意味なんてないけれど。
「と、いうわけで僕は明日出発する。後はよろしく」
「行ってらっしゃい、まるで夫の帰りを待つ妻のように待っていますわ」
「はっはっは、やめてくれ。気持ちが悪い」
「まるで喉からせり上がってきて、口から出そうなこの思い。もしかして恋かしら?」
「人はそれを吐き気と呼ぶ」
「イエスザッツライト」
そう言うと僕らは、布団の準備をし始め………。…………?
「なんできみは普通に僕の家で寝ようとしてるんだよ」
あまりにも自然すぎて気がつかないところだった。さっきは僕に裸見られたくらいで鬱になっていたのに僕と同じ部屋で寝るのは大丈夫って、曖の貞操観念はどうなっているのだろうか。
「あー……、えーと………。あ、裸見られたから責任を取ってもらう。というのはどうかしら」
「即興で考えたにしては良くできてると思うけどきみのキャラじゃないね」
「いいじゃない、減るものじゃないんだし」
「きみが近くにいることで主に僕の精神力がゴリゴリ削れていくんだよ」
同族嫌悪とか近親憎悪とかでストレスがマッハだよ。
「まあ、元々こっちで寝るつもりはなかったからいいけど」
「ならさっさと帰れよ。僕の眠りを邪魔するなよ」
「はーい」
…………何かと疲れる奴である。下手すれば僕よりもキャラがぶれているんじゃないだろうか。人のふり見て我がふり直せとはよく言ったもので、僕もそろそろキャラを統一しようかなとか余計なことを考えてしまいそうになった。嘘じゃないんだよね、これ。
この布団もこれが最後かと考えると感慨深いものがある。明日からまた野宿生活になるけれど、今回は地図を持って行くことにより野宿の日数が格段に減るのだ。当社比三十%減である。
「そんなこんなで、僕は深い眠りに……」
「深い眠りに……」
おい、誰だよ今僕の台詞を復唱した奴は。まあ、どうでもいいか。
「深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに」
ど…どうでもいい…か。
「深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに」
ど……どうでも……。
「深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに」
……………。
「深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに深い眠りに」
……………………。
………『音をシャットアウト』する。
目が覚めたら、枕元で幼女が泣いていた。
……………は?何がどうしてそうなった?不法侵入ですか?犯罪ですか?おまわりさんこっちです。幼女は、肩までの髪を左にまとめていて……サイドテール、だっただろうか。サイドテールにしている。で、服装が異常だ。
異様で、異常だ。
服に木片がくっついていて、その姿はさながら鎧のようでもあり、首飾りまでもが全て木で構成されている。………つまり。
「何だ、木のせいか」
「無視すんなよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
無視はしていない。ただ木の精と気のせいをかけただけだ。
「うるせえよ。誰だよきみは。朝っぱらから大声出すなよ。誰だよきみは。昨日の夜鬱陶しかったのもきみかよ。というか誰だよきみは」
今日の僕は若干不機嫌である。断りも無しに急に家に来るとか、きっと「お義父さん、娘さんを僕に下さい」とか言うつもりなのだろう。とか思ったが考えてみなくても僕に娘はいないので、じゃあおそらく風呂だろう。「お義父さん、お風呂さんを僕に下さい」とか言っちゃうのか。いろいろと末期だな。
「わっ、わたす……私は」
「わたす(笑)」
「うがあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
何か急に叫びだしたよ。やだ何この子怖い。
「私は!
「桂灯か、その桂灯が何の用だよ。風呂はあげないよ」
「いらないわよ!妖怪が取り憑いてるんだから、少しは怖がりなさいよ!」
ああ、家鳴か。たしか家をギシギシ鳴らす妖怪だったかな。
「だから何だよ。僕は今日この家を出発するんだ」
「だからよ!私はずっとこの家に取り憑いていたっていうのに貴方ちっとも怖がらないどころか私を無視して!だから出て行くって聞いて、最後に怖がらせようと思ったのに熟睡してるし!」
そういえば、ここのところ家がギシギシうるさいと思ったら、そういうことだったのか。てっきり隣にDQNでも住んでいて毎晩毎晩とっかえひっかえなのかと思っていた。嘘だけど。
「そうかそうか、それは悪かったね。じゃあ、そゆことで」
「無視すんなあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
もう会うこともないだろう。さようなら、桂灯。きみのことはあと三日は忘れない。
これは嘘になるのだろうかと考えつつ、僕は村を出た。
文字数が多くなった割には中身が薄っぺらい…。ある意味安定しています。