東方虚真伝   作:空海鼠

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今回は少し、長めです。


再会

「はい?何ですって?」

 

何とも間抜けなニートもどきの声が聞こえた。しかし難聴を使用するとは、ラブコメの主人公にでもなるつもりなのだろうか。

 

「だから、旅に出るって」

 

「いや、馬鹿なんですか?神様が神社をほっぽり出して旅に出るなんて聞いたことありませんよ」

 

「前例が無いのなら、僕が第一人者になればいい」

 

「いやいやいやいやいやいや。神様なんですよね冥利さん!働いて下さいよ!」

 

一応本名は教えた。偽名のまま言い伝えられるのもアレだしね。

 

「働いたら負けかなと思っている。今の自分は勝ってると思います」

 

「働けえええええ!!!」

 

………自分も巫女の仕事、掃除くらいしかしてないのに働けは無いと思います。そんなのだから職についててもニート呼ばわりされるんだよ。

 

「何かあったらこの緊急用のお札をべりっとはがしてね。暇だったら行くから」

 

「暇じゃなくても来て下さいよ。緊急なんですから」

 

「出来る限り努力することを前向きに検討させていただきます」

 

「確約しろ」

 

おお、まさか古代でもこのネタが通じるとは。前やられたのは曖だったからノーカンだ。……そういえば曖は今どこで何をしているのだろう。どうでもいいけど。

 

「あとは……あ、せっかくの『博麗神社』なんだから博麗の名をきちんとつなげること。ちなみに次世代の巫女は自分の子供、姉妹の他にその辺の村娘を直感で連れてくることも可」

 

「そんなのでいいんですか……」

 

「これでいいのだ」

 

れれれのれ。

 

「はあ……どうせ止めても聞かないんですよね…。いいですよ。旅でもどこにでも行ってきて下さい。私はもう知りませんから」

 

「うん。じゃあ、行ってくるよ。お土産は期待しないで待っていてくれ」

 

幽華に手を振り、出発する。

こんな僕にでも、感傷はある。わざわざ、親しい人が死ぬのを見たくはないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十日経過。絶賛迷子中である。

やっぱり地図くらいは持っておくべきだった。そういえば諏訪を出たときも地図を忘れていたな。僕は親譲りの無鉄砲なのかもしれない。

嘘だけど。

 

「今日も野宿確定ですってよ、奥さん。やーねー」

 

すでにあたりは暗くなってきている。野宿というか地面に寝るのは洞窟生活で慣れてはいたけど布団の心地よさを思い出すとやはり布団が恋しい。布団大好き超ラブしてる。

 

「いつも思うんだけど七つの大罪の嫉妬の「レヴィアタン」ってさ、「レヴィアたん」っていう新キャラが作れると思うんだ。性格はヤンデレ」

 

意外と流行るかもしれないぜ、レヴィアたん。

今日は晴れてるから、外で寝ても大丈夫か。ちょうどのいい草原はないかなどを確認する。お、良い場所見つけた。

 

「明日は………村が見つかるといいなあ……」

 

いや、せめて人の一人でもいてくれればいい。このままだと僕は本格的にぼっちの道を歩み始めてしまうかもしれない。もう大分歩んでしまっているじゃないかという感想の受付は終了しました。どうしてもという方は、後日担当部署までご足労願います。

 

「おやすみ」

 

返事は、聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おっひさー。元気してた?』

 

またきみかよ。いい加減僕の頭から離れろよ。そして人知れず死ねよ。

 

『わお辛辣。でもでも、私はきみの頭の中が勝手に作り出した偽物なわけだからね。私が冥利くんを離さないんじゃなくて、冥利くんが私を離してくれないのさ』

 

それほどに嫌いってことか。

 

『嫌よ嫌よも好きの内って言うだろ?』

 

その理屈だときみも僕を好きってことになるけど。

 

『ごめんやっぱ今の無し』

 

だよね。僕もごめんだよ。

 

『そうだ、今日はきみにスペシャルゲストが来ているんだぜ?はい、ゲストさんのご登場です!』

 

【ど…どうも……】

 

おや、玲華じゃないか。まあ、僕の頭が生み出したものだけどね。というかそれほどまでに玲華は僕の頭に残っていたのか。永淋でさえ出てこなかったのに。

 

『多分あれだろ。どうせまた会えるとか思ってるんだろ?』

 

なるほど、この夢ではもう会えないであろう僕の頭に強く残っている人が出てくるわけだ。

 

【えっと……お、お久しぶり…?です。頼櫛さん】

 

久しぶり…になるんだろうか。僕の頭が作り出したきみとは初対面な訳だよな…。

 

【で、では。初めまして、頼櫛さん】

 

うん、初めまして、玲華。

 

『なあなあ、冥利くん。ずいぶんと私と玲華ちゃんの対応が違うじゃないか?どっちも美少女だぜ。差別するなよな』

 

人間、ある程度の容姿があれば、あとは中身だろ。

 

『「ある程度の容姿があれば」ってとこがきみらしいな』

 

世の中の摂理だろ。

 

【こ、これは……喜ぶところなんでしょうか?】

 

『喜ぶところだろうね。少なくとも冥利くん的には「ある程度の容姿」があって、「私よりも性格が良い」と評価されているからね』

 

【ありがとうございます。私、頑張りますから!】

 

何をだよ。きみはもう死んでるけど。

 

『夢の中できみを癒す係じゃないかな?ほら、きみも玲華ちゃんは癒し系だって言ってたろ?』

 

そりゃ助かる。ついでにきみが消えてくれるともっと助かる。

 

『多分玲華ちゃんは今回からレギュラーキャラになるんじゃないかな?きみの思いが薄れない限り、ね』

 

何をおっしゃるうさぎさん。僕は忘れないことに関しては定評があるのだよ。

 

【嘘っぽいですね…】

 

嘘だからね。地図だって忘れたし。

 

【……………忘れないで下さいね】

 

『さて、今週の夢ラジオはここまで。また次回をお楽しみに!』

 

……………。

…………………。

………………………おい、まだ夢、覚めないけど。

 

『まだジャンケンがすんでないからな。あとはうふふふふと言って手を振るだけ』

 

サザエさんかよ。だいたいきみはいつ――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ」

 

覚醒した。タイミングおかしいだろ。せめて言い終わってからにしろよ。

というか。

 

 

何故僕は朝霧曖に膝枕をされているんだ。

 

 

「あら、起きたかしら?」

 

「うん待ておかしいぞ状況を説明しろ早くしろ間に合わなくなっても知らんぞ」

 

「落ち着きなさい」

 

体を起こして、少し深呼吸する。…少し落ち着いた。

 

「さて、説明してもらおうか。何故曖は僕に膝枕をしたんだ」

 

「驚かすためよ。それ以外の理由がありまして?」

 

「まあ、無いよね」

 

「無いわよね」

 

「ねー」

 

「ねー」

 

………僕は何をやっているのだろう。いつの間にか僕を冷ややかに見つめるもう一人の僕がいる。ゲッペルさん、ゲッペルさん。お帰り下さい。

 

「で、ご感想のほどは?もしよろしければ起き抜けに無理矢理キスをして金をせびる人生の墓場(笑)サービスも行っておりますけど」

 

「気の利かないモーニングサービスだったな。ホテルの方にクレームをいれてやろうか」

 

「これが噂に聞くクレーマーというものね。急いで店長を土下座させる準備をしないと」

 

「別に僕は誠意を要求している訳じゃないんだ。僕はただ過剰な賠償とか無料券とかお金とかマニーとかコインとかゴールドを要求しているだけなんだ」

 

「金の亡者め。この私が小判を投げつけて地獄に帰してあげるわ」

 

「小判は怖いな。ちなみに大判だったらもっと怖い」

 

「まんじゅうは?」

 

「一番怖い」

 

「うふふ」

 

曖はじめじめと湿った笑いを漏らした。

 

「あはは」

 

僕はカラカラに乾いた笑いを零した。

 

「それはそうと、何で人間のはずの貴方がまだ生きているのよ」

 

「何だ、僕みたいな屑は生きてちゃいけないと言うのか。悪いがそれはブーメランだ」

 

「ブーメランも捨てたものではありませんわよ。とてもお役立ち」

 

「具体的には」

 

「尻尾が斬れます」

 

確かにハンマー使いとかガンナーには必須だもんな。ブーメラン。

 

「で、人間のはずの貴方が何でそんなにご長寿なのかしら?」

 

「長生きなのさ」

 

「寿命を超越する長生きなんて、聞いたことないわよ」

 

「僕が第一人者だからね」

 

「へえ、是非長生きの秘訣をご教授願いたいですわ」

 

「好き嫌いせずに、何でも食べましょう」

 

具体的には、妖怪とか。

 

「はあ……。貴方に真面目な返答を期待した私が馬鹿だったわ」

 

確か昔は立場が逆だったような気がしたけれど、気のせいだろうか。

もしかしたら僕は急速に不真面目症候群が進行しているのかもしれない。

 

「まあ、簡潔に言うと『僕は人間を超越した』と」

 

「石仮面の力で?」

 

「どちらかというと、HELLSING方式で」

 

「魂を取り込む……、そんな風に嘘をついたと」

 

「ついたつもりは無かったんだけどね」

 

「………?」

 

僕の言うことが理解できない、と言うように可愛らしく小首をかしげる曖。本当にコイツ外見だけなら百点満点なんだけどな……。中身が、勿体ない。お化けや婆さんが出てきそうだ。

 

「いずれわかるさ、いずれな……」

 

含みを持たせた口調で言う。ちなみにいずれが来る日はおそらく一生無いと思われる。

 

「……ところで、お気づきでして?」

 

「うん?ああ、きみ、髪の毛切ったかい?気がつかなくてごめんね」

 

「気がついているのでしょう」

 

やっぱりこいつは苦手だ。無意味な嘘をついてもすぐ看破されてしまう。これが同族嫌悪というやつか。じゃあ僕は僕が嫌いなのかと聞かれると返答に困るけど。

 

「…妖力、だね。何もないところから微妙にもれている」

 

「ええ。何もないところから、というところがポイントですわ。テストに出る可能性が高いですわね」

 

「より正確に表すと、空間と空間の間から、だね」

 

「こんな話をしても出てこないということは姿を現す気はないのではなくて?」

 

「じゃあどうしようか」

 

「じゃどうしましょうか」

 

「……僕がやるよ。能力を使えば楽に引っ張り出せる」

 

そう言うと、能力で『触れられないものに触れられる』と嘘をつく。この能力は消費が少ない割には強力で助かる。

そして、妖力がもれている空間のところへ行き、

 

「そりゃ」

 

シャッターを下ろすように、空間をこじ開けた。

 

「ふぎゃっ!」

 

女の子が、落ちてきた。

 

 

案の定、八雲紫だった。

 

 

 

 

 




冥利が人によって性格変わりすぎと思う今日このごろ。

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