東方虚真伝   作:空海鼠

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ポケモンをやっているといつの間にか時間が経過しています。
これはきっと時間泥棒のせいに違いない。


避日常

勝負は僕の勝利で終わった。

『嘘をつく程度の能力』がチートすぎるのだろう。逃げ出したルーミアの闇を、『触れられないものに触れられる』と嘘をつき引っ張ったり伸ばしたりちぎったり食べてみたり。最終的にはこのままじゃ闇が全部無くなると判断したルーミアが降参してゲームセット。

『強固な封印ができる』と嘘をつきルーミアを封印することに成功した。今やルーミアは幼女の姿になり、あれほどあった強大な威圧感が欠片も残っていない。もちろん封印のお札は赤いリボンだ。

 

「あー…、体力が残り三分の一のゲージをきってHPが黄色くなりそうなんですが誰かポーション持ってないだろうかと徒然なるままに呟いてみる」

 

「……私を封印したっていうのに随分とふざけた呟きね…」

 

「むしろふざけない僕は海を泳ぐツチノコレベルに珍しいと思うから見つけたらコレクションすることをオススメするよ」

 

「発言の意味不明さも超一流ね」

 

「相手に意味を悟られるようでは二流としか言いようがないからね」

 

今の幼女状態のルーミアよりも薄い胸板を張って発言する。

 

「誉めてない」

 

けなされていたようだ。

しかし、このルーミアはどうするべきか。僕は自然環境と子供には優しいと近所で評判なのでポイ捨てはできないし。近所にゴミ捨て場は無いしな…。

 

「これどこに捨ててこようかな……」

 

「もう反応しないわ…」

 

なんだ、つまらん。もう少し弄って遊びたかったのに。ああ、雑魚面さんが恋しい。嘘だけどね。

 

「いやあ、日常最高。こういうのがずっと続けばいいのに」

 

嘘………なのだろうか。少なくとも僕は、今の生活を嫌ってはいない。では好きなのだろうか。ずっと続いてもいいと思っているのだろうか。

…………………考えてみてもわからない。わからないから、とりあえず適当な答えを書いて空欄を埋めておくことにしよう。当てずっぽうでも当たれば点数だ。

一応答えの部分には、僕は日常が好きである。と、書いておいた。ま、僕が好きになったものはみんな僕から逃げていくんだけどねと少し自嘲。いつかはこの日常もなくなってしまうのだろうか。そう考えると心の奥に燻るようなものがあるような気がした。

多分嘘だけど。

そんなことを思っているうちに村に到着した。とりあえず村長のところ行ってくるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、いうわけで大部分は無力化したからそこそこ腕に自信のある奴なら勝てると思う」

 

「あ、うん。ご苦労さーん。報酬は後で送っておくよ」

 

おわかりいただけただろうか。この頭の軽そうな若い男がこの村の村長だ。年功序列はどこに行ったのだろうか。この村の将来がとても心配だ。

 

「で、私は何で連れてこられた訳?」

 

「ほら、答えてやれよ。村長」

 

「お、俺ぇ!?」

 

丸投げしてみた。たまには考えてみろ村長。シンキングタイムは二十秒だ。

村長はしばらく考え込むふりをしていたが結局わからなかったのか、「で、何だよ」みたいな視線を投げかけてきた。これだからゆとりは。

 

「ルーミアのその後の処遇についてだよ。弱くなったと言っても人食い妖怪だからね。一般人じゃまず勝ち目もない」

 

「ああ、なるほど。交渉を今からするというわけか」

 

「そういうこと。で、ルーミア。何かゆずれるところは?」

 

「……わかったわよ。じゃあ私の住む場所を決めて、そこに迷い込んできた人間だけを食べるようにするわ。それならいいでしょう?」

 

「村長」

 

一応確認を取る。腐っても村の最高責任者だしね。

 

「あ?うん。いいんじゃない?」

 

もう一度言おう。この男がこの村の村長だ。……きっと、多分。めいびー。

おそらくこの村長は非情に優秀な傀儡になるのではないかと思う。末恐ろしい男だ。しかし最高責任者なのに責任感が皆無とはこれいかに。

 

「というわけだ、ルーミア。何かしら文句があればこの男に言うといいよ」

 

「……この人は食べてもいい人間なのかしら」

 

「……………………………………………………………………………いや、駄目だと思う」

 

「……今すごく考えなかった?ねえ、悩んだよね?ねえ」

 

村長が鬱陶しく絡んでくる。やっぱ食べてもいいって言っとけばよかっただろうか。

 

「さて、仕事も終わったし、帰ろうか」

 

「ねえ。さっきすごく考えた末の結論だったよね?ねえねえ、聞いてる」

 

カット。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「湊さん湊さん!お姉ちゃんと喧嘩したって本当ですか!?」

 

女三人寄れば姦しいと言うがそれを一人で体現できてしまう博麗幽華さんである。博麗玲華の妹であり、外見はそれなりに似ている。だから、あとは内気さと人見知りと勤勉さと大和撫子を足してやかましさと騒がしさと姦しさを引けば玲華に見えないでもない。

 

「喧嘩はしてないけどね……ちょっと」

 

「ちょっとって何ですか!?まままままさかお、おお襲った…とか」「ねえよ」

 

瞬間否定だった。このまま努力を重ねれば世界最速否定選手権で優勝することが出来る日も近いかもしれない。うーそーだーけーどー。

 

「じゃあ何なんですか?私、お姉ちゃんのことが心配で朝ご飯と昼ご飯と夜ご飯しか喉を通りませんよ!」

 

「食べ過ぎだよ」

 

この時代に昼ご飯食うなんて贅沢な奴め。少しは働いてそのご飯の種を作れよニート。というかこのご時世に働かない平民なんて幽華くらいのものだ。いや、働けよ。

僕が珍しく真面目なことを考えていると幽華が急に抱きついてきた。抱きついてきたと言うよりもタックルしてきたと言う方が正しい表現だが、そんなことよりも何故こんなことをしたかだ。

試しに幽華に怪訝そうな視線を向けてみた。

 

「お姉ちゃんに何をしたんですか!答えてくれるまで離しませんよ!」

 

「…あー、多分大妖怪級の妖怪と戦うときに先に帰したのが原因だと思うけど…」

 

「……………」

 

「いや、話したんだから離れろよ」

 

「……むー。お姉ちゃん、帰ってきてからすごく落ち込んでるんです。だから、湊さんが慰めてくれたらすごーく元気がでると思うんですね」

 

要約すると、「お前のせいでお姉ちゃんが元気ないから責任取ってお前が慰めてこい」というわけか。確かに僕のせいだがそこまで言う必要は無いんじゃないだろうかと思う。脳内変換だけど。

 

「……きみが働くことを決意するのなら」

 

「わっ、わわ、わ、私に死ねと!?」

 

……………………生粋のニートを見た。働いたら死ぬのか。種族が爆弾岩だったりするのか。爆弾岩の仕事はメガンテだからね。

 

「嘘だよ。…ちょっと謝ってくる」

 

「あ!そうだ!慰めついでに耳元で『好きだ』って言ったら」「ぐっばい」

 

玲華をこれ以上からかってどうしようというのだろうか。今の僕には理解できない。アンインストールアンインストール。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人間、考えもしない事態に陥ると思考が停止すると言うがそうでもないと僕は思っていた。

例えば、トラックでひかれて死んだ後、見知らぬ地にやってきた僕の思考はいつも通りに頭のおかしいような電波をバリ3で送受信していたではないか。

例えば、この世界に来て始めて妖怪に出会ったとき、恐怖を感じてはいても普段のように嘘をつくことができたではないか。

例えば、月夜見に月へと行けないことを知らされたとき、驚きはしたもののシリアスモードへとスイッチが切り替わりやたらと思考が早くなったではないか。

考えの及ばないことがあったら思考は停止するものだと主張する人はそれを話の種にしたいだけなのではないかと昔、いつも思っていたことだ。いつもと言うほど思ってはいなかったが。

もっとも、それは僕が異常なだけだと言う人がいるかもしれない。

それについては概ね同意しよう。「異常な人は自分が異常なことがわかっていない」と、よく聞く言葉だがそれについては「自分のことは自分が一番よくわかっている」と、もうすぐ病死しそうな老人の言葉をもって返答をする。僕は異常である。

だがそんな異常な人間……もとい、異常な人外である僕も案外、普通に近い部類ではないかと錯覚を起こしそうになった。

思考に空白が生じた。

これが人間らしさなのか、などといったふざけた考えも、僕はすでにこれを予測していたなどという嘘さえも浮かばなかった。

考える葦ならぬ考える塵であるこの僕が、考えることさえできなかった。

そこには。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

血まみれで倒れている、博麗玲華の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 




物語が進むのが早い?
そのうち番外編でキンクリされた時の物語を書くかもしれませんのでご了承を。

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