東方虚真伝 作:空海鼠
この村に住んでから数年が経った。
僕は一応妖怪退治をして生計をたてている。生計をたてる必要性は僕にはないが、生計をたてておかないと人外疑惑が浮上してきてしまうし、やはり毎日のご飯は必要だ。
「どうしたんですか?頼櫛さん、早く行きましょうよ」
玲華が僕をせかして仕事に誘う。やはり彼女も博麗の巫女の祖先なだけあってか、戦闘能力が高い。
そのため彼女もたまに僕の仕事を手伝いにくる。いや、自分の仕事しろよ。
「ああ、うん。ちょっと嘘っぽいことを考えてたから」
「……頼櫛さんはいつも嘘ばかりですね」
玲華がぷくーっとむくれる。そして僕はこのむくれた頬をつまんで引っ張ってやりたいという衝動に駆られる「むひゃ!?」実際に、やってみた。
「ひゃ、ひゃにほふふふへふかほひふひはん!?」
おお、やわらかく、それに弾力もあるもち肌だ。ずっとこうしていたいような気持ちになってくる。
「ひゃ…ひゃめて下さい!」
玲華に振りほどかれる。ああ、さわり心地よかったのに。
「な、な、何をするんですか!いくら頼櫛さんでも許しませんよ!」
「いや、玲華は癒し系だなと」
「また適当なこと言ってごまかそうっていうんですね!?そうはいきませんよ!」
あれ、今のは本当なんだが。まあいいか。
「はいはい、じゃあ仕事行くか」
「あ!待って下さい!ちゃんと謝って下さい!!」
「今日の依頼は……えーと、このあたりに出没する謎の妖怪の退治、もしくは交渉ですね」
交渉。僕は妖怪とのネゴシエーター役もかねているのだ。妥協できる部分を提示し、駄目だったら退治。というように使い分けている。
「謎の妖怪ってどんなのだよ。わからないと退治も交渉もできないぞ」
「えーと、報告によると狩りの帰りに持っていた兎がいつの間にか黒い玉になってどこかに消えてしまったそうなんです」
「黒い玉………?」
黒い玉、ね。その黒い玉がもし『闇』なら少しばかり厄介なことになるだろうか。
「それにこのあたりに出かけた人が帰ってこない事例が多数あります」
「………交渉の余地がなさそうな予感…」
不意打ち対策としてあらかじめ僕らがいる場所に嘘ついておこう。僕は不意打ちにめっぽう弱いのだ。ディオだって勘が良くなければホルホースに殺されていただろう。チート能力は基本不意打ちには弱い。これ豆な。嘘というか戯言だけど。
「玲華…」
「はい?何ですか?」
何か言おうと思ったが、脳じゃなく口の経験値も上げるために、唇の自主性を尊重してみた。
「玲華、この戦いが終わったら、結婚しよう」
「はいぃ!?」
いかん、自主性を尊重しすぎた。これじゃただの危ない奴だ。と、思ったがわりと普段から危ない奴だったなと反省。もう少し自重しよう。
「あ、あの……。う、嘘…?で、でしゅ、です、か……?」
「ごめんごめん。つい口から出ちゃったんだ」
「あの………でも、それって…………いえ、何でもないです……」
うむ。若干引かれておる。悲しくなってくるぜわっほい。
そんなやりとりをしていると、不意に、僕の姿が闇に飲まれて。やがて消えた。
………嘘をついていなかったら即死だった…。
「頼櫛さん!だ、大丈夫ですか!?」
「あれが大丈夫そうに見えるならきみの目はきっと節穴だ。おめでとう」
「頼櫛さん!?さ、さっき飲み込まれたのは…!?」
「見間違いだろ」
「え、ええ!?た、確かにこの目で見ましたよ!?」
「節穴なんだろ」
玲華を適当に流しつつさっきの玉について考える。おそらくというか十中八九あれは『闇』だ。つまり……EXルーミアがいるということか。……まずいな。玲華の実力は中妖怪程度になら圧勝できるけど、大妖怪を相手にするにはまだ足りない。
だからといって守りながら戦うとなると『人間』のままじゃ難しい……。
「……玲華、きみはもう帰れ。足手まといとまではいかなくても邪魔だよ」
「じゃ、邪魔って……そ、それでも私は」
「いいから帰れ。下手すりゃ死ぬことになるぞ」
少し強い言い方になってしまう。泣きそうな顔になる玲華。罪悪感は湧いてこない。
「…………わかりました。私、じゃ、頼櫛さんの、邪魔、にしか、ならないんです、よね」
必死に泣きそうになるのをこらえる玲華。それでも罪悪感は湧いてこない、と思う。思いこむ。
「ああ、早く帰れ」
「……………はい」
玲華がとぼとぼと帰るのを見送る。………よし、完全に行ったな。
「出てこいよ、そこにいるのはわかっているんだぜ」
よく小説とかで聞く台詞を言ってみる。
「いや、別に名指ししたっていいよ?宵闇の妖怪、ルーミア」
「…あら、私の名前を知ってる人間がいたとはね。物珍しくて、つい食べちゃいそうになるわ」
………おおう、まさか僕の影から出てくるとは。阿良々木くんになった気分だ。
「おや、お腹がすいているのかい?それなら、僕の顔を食べなよ」
昔はできなかったことも、今なら出来る。
僕の首を切断してルーミアに渡す。うげえ、というように顔を歪まされた。なぜだろう。
「………ええと、これは…何のつもりかしら?」
「聞こえなかったのか?お腹がすいてるのなら、僕の顔を食べなよ、と」
現在絶賛生首状態である僕がルーミアの疑問に答えてやる。
「貴方……それ、生きてるの?」
「何だ、僕のような人間は生きてちゃいけないって言うのか?僕はお腹を空かせた可哀相な妖怪に自分の顔を分けてあげる睡魔と食欲だけが友達の善良なる普通の人間だっていうのに」
数年前に比べて、友達が一人増えました。
「どんな人間よ…」
「まあ、嘘だけどね」
「どうでもいいけど首だけで喋らないで気持ちが悪いわ」
それもそうか、と思い生首から体を首無し僕からは頭を生やす。お久しぶりのプラナリア分裂だ。
「「これなら問題ないだろう?」」
「貴方……本当に何者?貴方みたいな人間、いや、妖怪でも聞いたことがないわ」
「「言ってないからね」」
……やはり二人で話すと何だか、変な感じだ。一人に戻ろう。うにゅん。
「というわけで、僕は斬っても突いても死なないタイプのみんげんだから、きみに僕は殺せないよ」
できるだけ平坦に宣言する。人間と言わないのがミソである。
「できればこのあたりの人を食べるのをやめてもらいたいんだけど」
「貴方だって、目の前に大好物があったら食べるでしょう?」
「じゃあここから遠く離れた土地に行くとか」
「私はここが気に入ってるの」
「じゃあ戦うかい」
「嫌よ、勝てる気がしないもの」
あら意外。戦闘狂っていうわけじゃないのか。
「じゃあ出て行く?」
「さっきも言ったでしょ、ここが気に入ってるの」
一体どうしろと言うんだ。これだから現代っ子はわがままで困る。
「交渉は決裂だ。きみを殺……すとまではいかないでも、封印させてもらう」
「逃げ切ってこの土地で平和に暮らしてみせるわ」
……吉良吉影みたいな奴だな。人を食べずにはいられないという『サガ』を背負っているのか。ずいぶんとロマンシングな妖怪のようだ。
「さようなら、人間。貴方とは二度と会いたくないわね」
「逃げてみろ、妖怪。ヒトごっこだ」
時間がかかったわりには駄文です。