東方虚真伝 作:空海鼠
諏訪大戦、当日である。
「例えば明日、世界が滅びるとしよう。そのとき、きみはどうする?突然滅びると決まった世界に文句を言うか?けれどそれには意味はない。最後くらい、意味のある行動をしようじゃないか。だから諏訪子、きみは僕に文句を言うよりも万全の体調で臨むべく、とりあえず苗香が作った朝ご飯を食べることの方が」
「やっっっっかましいいいいいいいい!!!!いきなり一騎打ちが決まって、私がどれだけ驚いたと思ってんのさ!!!」
「んー、これくらい?」
指で表してみた。
「うっさああああああああああああああああああああい!!!!!」
「……………」
うっさいと言われたので、黙ってみた。
「何か言えよ!!何か喋れよ!!!謝罪をしろおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
キャラ崩壊が著しかった。落ち着けよ、ケロちゃん。あんま怒ると、血圧上がるぜ。
「それを言うならこんな嘘つきに交渉役をやらせてそのままお昼寝タイムに突入したきみが悪いだろ。括弧つけなくても僕は悪くない」
「………あーうー…。わかったよ……」
しょぼんとなる諏訪子。罪悪感?そんなもの妖怪にでも食わせておこうぜ。
「諏訪子様、大丈夫ですよ!諏訪子様ならきっと勝てます!」
苗香が根拠のない予想で諏訪子を励ます。ふふふ、「頑張れ」は鬱病患者に絶対に言ってはいけない一言なのですよ…。まーいーにーちーひとーつー。まーめちしーきーらんらんら。
「大丈夫だよ。もしきみが負けたとしても僕が神聖で厳正な勝負の結果を大変気が乗らないけど無視して、卑怯にも相手を不意打ちぎみにぼっこぼこにして無理矢理国を取り返してあげるから!」
「素直に頼みづらい!?」
「……お願いします!」
「苗香!?何頼んでるの!?さっきの『きっと勝てる』は嘘だったの!?」
「え?嫌だけど?」
「しかも冥利も何断ってるのさ!さっきの台詞全部嘘かこの野郎!!!」
当たり前だろう。正直そこまでする義理はない。義理といえば僕はバレンタインデーに義理チョコさえ貰ったことがない。悲しい過去である。もう少しでトラウマスイッチが作成できるレベルだ。兵長になることができる日も近いだろう。
「零次元斬が使えるかもしれないな」
「…諏訪子様、冥利さんは何を言っているのでしょうか」
「…気にしたら負けだよ。だって冥利だもん」
こんな調子で、決戦までの時間は着々と近づいていく…。
「こんにちは、冥利さん」
「こんにちは、天照さん」
天照にエンカウントしてしまった。どうやら一人のようである。ぼっちさんなのだろうか。だとしたら、仲良くなれそうだ。しかし、天照ほどの大物が護衛の一人もつけなくていいものなのか。
ちなみに諏訪子と神奈子は向こうですでにドンパチやらかしている。決着が着くまでそのへんで暇をつぶそうと思ったところでのエンカウントだった。
「そうだ、どっちが勝つか、賭けませんか?」
天照は意外にも、賭け好きだったようだ。
「何を賭けるんだ?僕はお金なんて持ってないよ」
「えーと、お酒とか。そういうのですかね」
「じゃあ僕は神奈子に賭けるから、天照は諏訪子ね」
僕は結果も知っているから、間違いなく酒を手に入れることができる。未来のカンニンガーとは僕のことだ。嘘だけどね。
「自分の陣営の神じゃないんですか!?」
「いや、一日二日泊まった程度の仲だからね。実はそれほど仲がいい訳じゃないんだ」
僕がそう言うと、天照は「ふぅん」といった風に相づちをうち、目を細める。
「そういえば冥利さんは名乗った訳ではない神奈子の名前を知っていましたね」
やばい。口が滑った。さて、どうやってごまかそうか。とりあえず口からの出任せでも適当に言っておこうか。
「僕の能力なんですよ。『知識を得る程度の能力』」
「私のあれやこれやそれも全部お見通しということですか!?」
体を抱えるようにして防御する天照。僕を変態みたいに扱うのはやめていただきたい。
「いえ、この能力は使い勝手が悪くて。一定時間ごとに一定の情報しか知ることができないんです」
「では、昨日の首を斬って戻したのは、どうやって?」
「企業秘密です。バレたらおしまいの手品みたいなものでして」
天照との中身のない会話をひとしきり楽しんだ。きっとこれで好感度が-3くらい上がっただろう。天照ルートに入るにはあと好感度を30000ほど貯めないとな。
「ふむう………。そろそろ決着が着く頃ですかね」
「いや、さすがにまだ早いだろう。今ちょうど後半戦に突入したところじゃないかと」
さて…あと少し、どうやって時間をつぶすべきか…。僕の暇つぶしは日々進化しているので、今やプチプチ程度じゃ満足できない僕である。
「む」
そんなことを思っているうちにビビビときた。僕の電波は通常営業だ。機械に頼らないのも電波のプロフェッショナルであるが所以だ。
「あれ?冥利さん?どこに行くんですか?決戦場はこっちですよー?」
「ああ、ちょっと野暮用ができまして」
「そうですか。では、私は先に行ってますね」
いやー。二次創作でありがちだからと、『悪意の探知』が出来る嘘をついておいて良かった。
ここから西に二キロのところに、無数の悪意。
まさか本当に雑魚神が群れをなして襲ってくるだなんてね。ほんとびっくりだよもう。
「さて、害虫駆除に行きますか」
「本日は当店にご来店いただき、まことにありがとうございます。ですが、本日の営業は終了しました。お還りはあちらになりますので、またのご来店をお待ちしておりません」
どこかでやったネタだったかなと少し考える。が、どうせ思い出せないのですぐに諦める。人間、諦めが肝心だ。ミュージシャン夢を諦めきれずに三十過ぎたおっさんなんか、見てもいられない。
「何言ってんだよ人間。殺される前から頭おかしくなっちまったかあ?」
頭なんか常におかしかった。おかしいまま生きてきたのだ。
「いえいえ、この頭のおかしさは生来のものでして。一生付き合っていくと決めた僕の唯一の相棒でもあったりします」
そう言いつつ、僕は自分が人間だという嘘をやめる。
「……貴様、妖怪だったのか」
モブキャラの中の一人がそう呟くが、僕はリツイートしない。僕は非干渉を貫く孤独の人であった。
「さーてきみたちごときに能力使うのも面倒だからね。純粋に妖力だけで相手してやる。死にたい奴だけかかってこい」
そう言うやいなや、たくさんの神が襲いかかってきた。トレーナーとしてはボールを投げて閉じこめて誘拐監禁するのが正しいのだろうが、僕はどちらかというとモンスター寄りなので近づいてくる神たちを右手で一気にガオンと食べる。妖力を使うと言ったな、あれは嘘だ。
「うまうま。いや、味とかしないんだけどね」
すると今までのゴゴゴゴゴゴといったジョジョっぽい空気が一変。ざわ…ざわ…と賭博黙示録な空気に早変わりした。どうしたのだろうか。
「き、貴様!い、今、食べ……」
「そりゃ食べるでしょう。人は食べなきゃ生きていけないからね」
もっとも、僕は人でもなければ食べなくても死なないけど。
「あと、さっき能力使わないって言ったけど……」
直後、全員が地面に縫い止められたように動かなくなる。
「あれ、嘘なんだ」
僕は右腕を大きく開いて。
「ごちそうさまでした」
挨拶は基本だよね。食材への感謝と侮蔑は忘れちゃいけない。
神力はどうやら、良質の妖力になるようで、妖力が若干増えたのを実感できる。
「敵対する者は食う。おいしいものも食う。親のすねだってきっと食ってみせるさ」
自分でも何を言っているかわからなくなってくるときがある。それが僕らしさというものなのだろう。個性を伸ばす教育の一環として伸ばしてしまった残念個性はどう切り取るべきだろうか。
切り取らなくてもいい。きみはきみのままで………いかん、続かなくなってきた。あんまくだらなすぎると考える気も起きないんだな。数億年生きてて始めて知ったぜ。
そんなことを考えつつ、クールに去る……おっと、忘れてた。
「あなた方が死んでくれたおかげで僕は今日を生きています。ありがとう」
嘲笑と憐憫と感謝を含んだ嘘を吐き捨てて、僕は天照から酒を貰うべく、歩き始めた。
諏訪大戦を期待されていた方、申し訳ありませんでした。