東方虚真伝 作:空海鼠
「……知らない天井だ」
え?マジで?知らない天井?どゆこと?
…………………………………………………………………………思い出した。
あれから僕は客として、神社に泊まることになったのだ。僕のような不審者を泊めるだなんて、諏訪子も随分とお人好しなのかもしれない。
布団から起きて、無意味に斜め上を向く。これでおそらくアニメ化の際はシャフトに依頼できるだろう。
「嘘だけど…っと」
まだ頭がボーっとする。「おい、起きろよ脳」言ってみても反応が無い。無視するとかひどいいじめだ。先生、このクラスにはいじめがあります。この学校にいじめは存在しません。ひどいや先生!ドラえも~ん、先生がいじめるんだよお。仕方がないな冥利くんはと一人芝居。つまらん。
「あ、冥利。起きたの?」
諏訪子が扉を開けて入ってきた。言葉遣いも容姿相応である。
「うむ。僕の脳内から僕の体中へと嘘物質であるウソヘロゲンが流れ出したら僕は永き眠りから覚めることになるのである。ででん」
「相変わらず意味わかんないや…」
そらそーだ。意味なんてないのだから。
「ま、いいや!朝ご飯食べよ!ちょうど苗香も来たことだし!」
「苗香……?」
「さ、行こ!ほら、さっさと来る!」
そんなわけで、朝ご飯が待ちきれない諏訪子に引きずられて、僕は食卓へと向かうのでした。
常識に囚われてはいけない人が、そこにはいた。
脇を露出させて、緑色というパッションに満ちた髪色をさせている。どう見ても、早苗さんである。
あれれー?おかしいぞー?この時代に早苗さんいたっけ。
何てことを考えているうちに、視線に気がついた早苗さん(何故かさんをつけたくなる)が僕に目を向け、にこっと笑う。
「初めまして、ここの神社で巫女をしています、苗香といいます」
…………。ああ、ご先祖様か。納得。
「初めまして、ここの神社とは全く関係のないところで妖怪をしています、加城冥利といいます」
「はい、諏訪子様から聞き及んでいます。この度は、諏訪子様がご迷惑をおかけして…」
「な、苗香!私悪くない!胡散臭くて怪しい冥利が全部悪い!」
急に声をあげ、責任転嫁してくる諏訪子。はいはい、ワシのせいワシのせい。
「諏訪子様!間違えたときはちゃんと謝らないと駄目ですよ!」
ぷんすか、と怒る苗香。しょぼーん、と萎れる諏訪子。見ていて飽きない。
仕方がないから助け船を出してやる。
「まあ、今回の件に関しては間違いなく、圧倒的に、滞りなく諏訪子が悪いけれど僕はそれほど気にしてないから」
「冥利さんがそう仰るのでしたら…」
「ねえ、冥利。それ全然助け船になってないよ…」
失礼な。立派すぎるほどの泥船じゃないか。言いがかりはよしてくれ。
そんなことよりさっさと食べようぜ。食事が冷める。
食事はとてもおいしかった。自炊歴数億年である僕が自信を失うほどには。
ええ、本当に。嘘…………であってほしかった。
絶望した!数億年自炊した僕よりも数年しか自炊していないであろう巫女の方が料理が上手かったことに絶望した!
「…ところで、冥利さんって諏訪子様よりもお強いんですよね?」
黄昏れてたところに、苗香が話しかけてきた。
「強いと思う者には強い。強くないと思う者には強いわけではなく、また、強さと似て異なるものも持ち合わせるを是とし、強きを潰し弱きを砕く。これまで全部嘘だけど、と」
適当に中二的なことを言ってごまかしてみる。
「強いんですね?では、すみませんけれど大和の方へ洩矢の使者として交渉に行ってきてくれませんか?」
人の話を聞かない子だった。しかも若干図々しいところがやはり早苗の先祖なんだなあと思わせる。
しかし使者か……。まあ、朝食ごちそうになったし、一宿一飯のお礼としてはありかな。
「わかった。で、大和ってどこ?僕、ずっと洞窟暮らしのアリエッティだったから、わからなくて」
「えーっと、ここから…向こうの方に行って、そこを左方向に曲がってそのまま行けば着くと思います」
ふんわりざっくりなチョコ菓子みたいな説明だったが、何故かわかりやすかった。
きっと「かくかくしかじか」で話が通じてしまうのと似たような現象なのだろうと勝手に納得する。
「そういえば、諏訪子は?」
「諏訪子様は、冥利さんに使者をやらせるように言った後、お昼寝を…」
「起こせ、今すぐにだ」
客人に頼み事をした後、すぐに眠りこけるなんて非常識。少しは常識に囚われろよ。
「おい、そこの人間、止まれ!何者だ!」
大和に着いたはいいけど…なんだこの門番。雑魚面さんのさらに上を通り越して雑魚っぽい。ここまでくるともうクズとかカスとかゴミとかしか言葉がなくなる。おそらくこの人はプロの雑魚だ。
しかし未来都市といい、大和といい。人物の雑魚っぽさの高さで門番を決めているのだろうか。わたしはふしぎでたまらない。
「はあ、洩矢の使いの者ですが」
「何?貴様がか?はっはっは!」
何がおかしいのかカス面さんは大笑いする。貴方の顔の方がおかしいですよと言いたくなる衝動に駆られたが、ぐっとこらえる。カス面さんと呼びたくなる衝動もこらえる。悔しいとかむかつくとかそういうのではなく、ただ純粋に言いたい。リアクションを見たい。
カス面さんはひとしきり笑った後、「いいだろう、入れ」と、通してくれた。
門を抜けて案内っぽいやたら無口な人に連れられること三分。ようやく神様がやたらといる大広間にやってきた。
「貴様が洩矢の使いか?」
お、八坂神奈子だ。やはり大和の中でも幹部な扱いなのだろうか。部屋の奥のボスっぽい位置に三人並んでいるうちの一人になっている。いや、神様だから三柱と数えた方がいいのだろうか。
「はい、そういうことになってますね」
「ではこれがこちらの譲歩できる交渉の文面だ」
神奈子がそう言うと、横に控えていたモブっぽい神が書類を渡してきた。
えーと…?『一、洩矢は信仰を全て大和に明け渡すこと』。
………………………………。
はっ。思わず思考停止してしまった。交渉と言っておきながらのこの文面とは、きっとこれを書いた人は類い希なるセンスの持ち主なのであろう。
さっきの手紙を渡してきたモブっぽい神がくすくすと笑っているから、きっと「この手紙を書いたのは誰だぁ!」と質問したら元気よく「私だ」とか言ってきて、「お前だったのか」「暇をもてあました」「神々の」「「遊び」」という流れになりかねない。注意しなくては。
注意しつつモブさんに声をかける。
「この手紙を書いたのは貴方ですか」
「そうだとしたら、どうした」
やたらと偉そうな態度で接してくるモブさん。
「いえ、何も。それより、首。大丈夫ですか?」
「は?」
モブさんがそう言うなり、いきなりモブさんの首が落ちる。
一瞬、静かになって。
その後、騒がしくなる。「あいつを殺せ!」だの「あいつ…人間のくせに神を…!」だの「ククク…奴は四天王の中でも最弱の存在…」だのうるさいったらありゃしない。最後だけ嘘。
そんな中、神奈子が騒がしい中でもよく聞こえる怒気を孕んだ声で言う。
「貴様…使者のくせに神を殺すとは……!許してはおけん、私が殺す」
「はい?何を言っているんですか?殺してなんかいませんよ」
「何を言っている…!確かにここに……!?」
神奈子が指を指した先にあったのは、傷一つなく気絶していたモブさんだった。
「それにこの文章ちゃんと読みましたか?ほら、見てみて下さいよこれ」
そう言って文章を神奈子に見せる。すると、神奈子はたちまち驚いた顔になる。
「何だこの内容は…!これでは交渉など成立する訳ないではないか……!」
「じゃあ、そういうことで」
帰る。元々交渉は別に成立させる気はなかったのだ。
諏訪大戦は、してもらわないと。
「待って下さい」
帰ろうと背を向けたとき、柔らかくも、凛とした声が響いた。
「…何ですか?交渉決裂のクーリングオフは受け付けておりませんよ?」
声をかけたのは、神奈子の左隣の柔らかいふいんき(何故か以下略)を持った神様だった。
「いえ、今更交渉をし直そうとは言いません。ですが、私共の軽率な行いで民を危険に晒す訳にはいきません。…ですから、一騎打ちで決着をつけるというのはどうでしょうか」
「……いいでしょう。あ、そういえばまだ名乗ってませんでしたね。僕は加城冥利といいます」
危ない危ない。危うく名も無きモブキャラAに成り下がるところだった。名前がないモブキャラよりも名前があるモブキャラの方がいいよね。
「あ、私は天照といいます」
………超大物だった。びっくり。
僕がびっくりしている間に、天照が続ける。
「あの神の首を斬って、いつの間にか戻した技、一体どうやったんですか?冥利さん、ただの人間じゃないですよね」
「いえいえ、これ以上ないってほどのただの人間ですよ。至って普通、どこにでもいるような嘘つきです」
わざわざ心の中でも嘘だと言う必要は無いだろう。
「…そうですか。では、また…明日」
「おや、決闘は明日ですか。随分と早いですね」
「そうですが………もう少し遅い方がよかったですか?」
「いえいえ、逆に好都合」
早い方がいいしね。
「ではあらためて、また明日」
「また明日」
こうして僕はるんたるんたとスキップしながら洩矢の国へと戻って行ったのだった。
部分的に嘘だけど。
どんどん文字数が増えていく不思議。