東方虚真伝 作:空海鼠
おそらく何らかのスタンド攻撃を受けていたのだと推測します。
僕が妖怪化して、数億年。
久しぶりに人間を見た。
ちなみにそれまでの間は何をしていたかというと、修行をしていた。だってせっかく東方の世界に来たんだ。チートとして振る舞いたいだろ?
だからキングクリムゾン使うなとか言った奴は悟空が精神と時の部屋で修行しているのを五十話くらい連続で見る勇気と覚悟があるんだよな?
……やはり数億年、一人でいた反動なのか。人には見えない何かが見えてるんじゃないかというような考えが浮かんだり、独り言を言ったりしてみたりと。うむ。順調に頭がおかしくなっている。
元々おかしかったか。
「そうして僕は、久しぶりに見た人が向かった方向へと、歩き始めたのだった」
ナレーション風味でござる。ござれろら。意味不明。
と、その前に自分が妖怪であることに嘘をつかなきゃ。久しぶりに見た人間に逃げられたら、泣いてハンカチ噛んで「キーッ!」って言う自信がある。
嘘である。
体中の妖力が霊力に変わるのを実感する。そして、霊力を抑える。何せ、量が異常だ。普通の人間なら対峙したあと、とち狂って「らりるれろ!らりるれろ!」とか言い出しかねない。大体嘘だ。と、思う。
「…諏訪大戦終わってないだろうか」
よく考えてみたら、今が何時代なのかもわからない。平安時代くらいまで飛んでたら泣く。せっかく修行したというのに神と戦えないなんて!と、泣く。嘘だ。そこまで悟空症候群にかかった覚えはない。
服を着替えて、近くに妖怪がいるような髪の毛を鎮める。鎮まれ…僕の髪の毛……。
その間も僕の唯一の大親友である睡魔くんが「あーそーぼー」と、声をかけてくるが僕はそれを「あーとーでー」と返す。かけてくる声が「おーい、加城。野球しようぜ!」なら少し考えた。
「嘘だけどね……って随分と嘘多いな」
何だ。久しぶりに人を見かけて、テンションでも上がっちゃってるのだろうか。心なしかテニスも上達した気がする。きっと今ならラケットにボールを当てるくらいはできるだろう。いやそれもうテンション関係ねえだろと一人ボケツッコミ。
よし、今日も安定の絶不調。
「行ってきまーす」
睡魔くんに半日の別れを告げ、僕は若干早足で洞窟をでたのだった。
捕まった。
いやもうホントびっくり。村っぽいとこに入るなりいきなり「貴様、大和の遣いだな!」とか言われて弁明の余地無く発言の許可も無くすぐに縄でぐるぐるに縛られて洩矢諏訪子の前に転がされた。
「これはもう立派な人権侵害として法的措置を取るしかないと思うのですがどうでしょう」
「何を言っている。それよりも早く要件を言え」
威厳たっぷりな口調で言う諏訪子だが容姿がアレなので全く効果がない。
「いやいやワタクシめは単なる村人Dと言いますか教室の隅の方で本を読んでいるタイプの人となりだったらいいなあと心から思うことをここに誓うのではないかと推測されるのです」
意味のない空の言葉を適当に言う。
すると、諏訪子はどこからか鉄の輪を出して僕の喉元に突きつける。いつも思うけれど何故輪っこなんだろう。と、現状に大変似合わないようなことを思考してみた。
「次は無いと思え」
諏訪子が神力を出してくる。脅しのつもりだろう。だが僕は脅しには屈しない。僕が屈するのはゲーム本インターネットその他諸々の誘惑に対してだけだ。
「次はないと言いますが人生において次のチャンスなど無いも同じです。失敗してもリセットすればいいやとゲーム感覚で事に臨む現代の若者たちに対して僕は一言、もの申」
最後まで言えなかった。人の話は最後まで聞けと学校で習わなかったのだろうか。プリプリ。
ちょん切れる僕の首。まき散らされる血液と肉片。きたねえ花火だ。
「嘘もつき続ければ本当になるとかいうありがちな台詞が絶えない昨今であるが、嘘は嘘であり、嘘以外のものにはなることができないというのが僕の持論であり、つまりはこれも全部嘘になるわけだ」
足下にない死体と神社の内側から聞こえてきた声に戸惑う諏訪子。
諏訪子が見たその先には、軒先でのんきにお茶を飲んでいる僕がいた。ちなみにお茶は中にあったものを拝借した。
「な……!?貴様、何故生きている!?」
諏訪子が驚いた声を出すが、どっかで聞いたような台詞だ。オリジナリティがない。
「そりゃ生きてるさ、にんげんだもの」
嘘だけど、と心の中で付け足す。
今の僕は妖怪だ。よーかいにーんーげん。
「それとも僕が生きてたらまずい理由でもありましたか?悩みがあるのなら相談にのりますよ」
「貴様は……どれだけ私を愚弄すれば気が済むのだ…」
怒りを抑えきれないように声が震えている。それと同時に何か神力の塊っぽいものが出てきた。
こんなもの、丸めてゴミ箱にポイだ。
僕が神力の塊で遊んでいると、諏訪子がまたもや驚いたような声を上げる。
「私の祟りが……!?」
「あ、これ、祟りだったんですか。おお、神力って意外と伸びる」
びよーんびよーんと神力を伸ばして縮める。超楽しい。
「貴様、何者だ…。殺しても生き返ったり、私の祟りをものともしなかったり…!」
「あ、自己紹介がおくれましたね。僕は加城冥利といいます」
すっかり名乗るのを忘れていた。自己紹介は仲良しへの第一歩だというのに。
そして諏訪子に「僕が名乗ったんだからきみも名乗れよ」みたいな視線を送ってみる。
「………洩矢諏訪子だ」
おお、どうやら通じたようだ。どうやら僕の目はテレパシーの類も得意なようだった。
みょんみょんと伸ばして遊んでいた神力をポイ捨てする。煙草じゃないから火事にはならないだろ、多分。
「それで…貴様は何者だ。大和の遣いの者…………いや、その前に貴様。本当に人間か?」
「嘘に人間です」
「………つまり、人間ではないのだな」
おおう。反応薄くてお兄さんちょっと寂しいぜ。
「まあ、分類としては妖怪のカゴテリーに入りますね」
そう言い、妖力をちょっぴりだけ解放、もとい、自分は人間だという『嘘』をやめる。
そうすると諏訪子は、少し驚いたようなリアクションをした後、憤慨したように。
「妖怪が何をしに来た!ここは妖怪が足を踏み入れてはいい土地ではない!」
わお、人種差別。いや、この場合、人妖種差別か?まあ、どうでもいいや。
「何をしにって…観光に来たらとっ捕まって、この神社に転がされただけですけど」
ちなみにここに来た時点ではまだ諏訪子がいることを知らなかったので、これは一応嘘ではない。
「嘘をつくな!おおかた、人を食いに来たのだろう!」
人がめずらしく本当のことを言ったというのにこの言葉。どうやら僕は狼少年の気持ちがよくわかりかねない現状に晒されてしまったわけだ。
さて、どうすれば信用してもらえるだろうか。『信じて!』と、能力で音を諏訪子に染み込ませてみようか。その程度なら体力の消耗も少ないし。
「いやいやいや人なんて食べたらお腹壊しますよ。それとも諏訪子さんってそんなもの食べてるんですか?うへー気持ち悪ーい。もし僕がそのつもりならまずは僕を捕まえに来た第一村人たちをとっくのとうに食べてますよ。勿論、人なんて頼まれたって食べませんけど。食人なんて頭の中がカーニバルな人とは頭の出来が違うんですよ」
主に、悪い方向に。
諏訪子は始めこそ「む………むむ……」と、納得できないようだったが、数分説得を続けるとまあ一応は、といった感じで信じてはくれたようだ。
「…それで冥利って一体何者なの?」
「新世界の神って言ったら信じる?」
「ううん」
「まあ嘘だしね」
「そうじゃなくて、冥利みたいに神にも勝てるような妖怪なんて、なかなか聞かないよ」
「あー………。妖怪としての種族のお話?」
「そう」
「いや、名乗るほどの妖怪でもないよ」
「えー。教えてよ。言いふらさないとは限らないからさ」
「言いふらしちゃうのか」
「おーしーえーてーよー」
「ふっ。それなら教えてしんぜよう。江戸川コナン、探偵さ」
「そういうのいいから」
「何故嘘だとバレたのだろうか。僕は嘘の謎に思考を巡らせた」
「で、本当に何者なのさ」
「いや、僕はただの――――――」
「――――――
諏訪大戦編です。
冥利のチート化がヤバイ。