ハリー・ポッター ~ほんとはただ寝たいだけ~   作:真暇 日間

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 彼女は山に住んでいた。獣も多く、近くにある崖から落ちれば命が危ういような場所ではあったが、かわりにわざわざ自分の住む場所にまで近付いてくる相手はいなかった。

 彼女は毎日変わらない日を過ごしていた。夫と共に出掛け、獲物を狩り、食べる。それを繰り返している間に、彼女と夫はその山一帯を統べるものとなっていた。

 そうなってから暫くの時が過ぎ、彼女は夫との間に子供を作った。生むまでの間は本当に大変だったが、それでも彼女はその苦労に耐えて子を産んだ。

 

 ……しかし、彼女の幸せは長くは続かなかった。突然彼女の元に何人もの人間が現れ、彼女に一斉に『失神呪文』をかけ、気絶してしまった彼女を産まれたばかりの子供と一緒に拐っていったのだ。

 当然彼女も抵抗したが、多勢に無勢。突然やって来た魔法使い達にあっという間に意識を奪われ、首輪に繋がれて檻の中に入れられてしまっていた。

 

 彼女が目を醒ませばそこは見知らぬ森の中で、夫もいなければ子供もおらず、彼女は縄と鎖で縛り上げられていた。

 ふと顔を上げてみれば、そこには自分の卵を運んでいる魔法使いがいる。彼女は我が子を取り返そうとするが、鎖や魔法のかけられた縄でがんじがらめにされていては身動きがとれない。

 そんな彼女を嘲笑うかのように、魔法使い達は彼女が目覚める度に『失神呪文』を山ほど浴びせて気絶させる。彼女が何度か目を覚ました時、周りに自分と同じように子供もろとも拐われ、鎖と縄で繋がれている存在がいることに気付くが、彼女が話しかけるような猶予はなく失神させられる。

 眠っている間に食事を取らされ、水を飲まされ、死なないように、病気にならないようにと『管理』されるのは、まるで自分が家畜にさせられたような気分にさせられた。

 しかし、魔法使い達はそんなことなど気にするまでもないと言うかのように何度でも彼女達を失神させ、それまで通りに見事に『管理』していた。

 

 ……そして今日。誰かが外に出されていった。何が起こっているのかはわからないが、録でもないことだと言うことだけはわかった。

 何人もの人間の歓声と悲鳴。自分と同じように連れて来られていた彼女の絶叫。やけに大きく響いている誰かの声に、次々と入れ替わっていく同じ境遇の女達。そして、檻の中に戻されてからずっと目を押さえながら悲鳴を上げ続けているその姿を見ると、自分にこれから襲いかかってくるだろう最悪の想像が現実となって襲いかかってくるような気がした。

 

 最後に彼女が子供と一緒に引きずり出されたのは、無数の人間たちの目の前だった。子供を守ろうと覆い被さり、周囲の全てに警戒を続ける。

 

 ───例え自分がどうなったとしても、絶対にこの子達だけは守ってみせる!

 

 

 

 

 

 side エリー・ポッター

 

 ……と、ハリーさんがやっていた独奏劇が終わりを見せた。なんと言うか、やっぱりハリーさんはハリーさんだったと言うのか……今回の狙いはドラゴンの方ではなくてそれを用意した人達だったらしい。

 

「いくらなんでも俺はこんな『子供もろとも誘拐されて首輪で鎖に繋がれた上に何度も何度も複数人に『失神呪文』をかけられた挙げ句に子供への愛情を見世物にされている母親』を相手にして傷付けようとか思わない。そんなことやる奴ってマジで鬼畜外道じゃないか。心優しい俺にはできない」

 

 そう言ったハリーさんに向けて全周囲のホグワーツ生の胸元で【 ハリーさん、自重 】の文字が輝く。ちなみに私の隣にいるロンとハーマイオニーの胸元のバッジも同じように【 ハリーさん、自重 】の文字が輝いている。

 残念ながら私は普段の文字が私を応援するものだったからつけてはいないけれど、気持ちとしては同じだ。ハリーさん、自重。

 ……自重したハリーさんなんてハリーさんじゃないような気もするけれど、言うだけだったらただなのだから一応言っておこう。

 

 ちなみに、ハリーさんの言葉で何人かの人が胃を押さえたり胸を押さえたりしている。ドラゴンの目に何かの呪文を使ってドラゴンに攻撃しつつ卵の半数を潰させてしまったクラムは、地面にうつ伏せに突っ伏しながら懺悔の言葉を口から漏らし続けている。

 

「まあ、どれだけ懺悔しようとやっちゃったことは変わらないし、あのドラゴンの子供達になる筈だった卵は潰れてもう二度と命を得ることもできなくなっちゃったことに変わりはないんだけど」

「…………ごふっ」

「クラムが血を吐いた!エリーの言葉でクラムが血を吐いた!でもある意味自業自得だよな。僕も若干心が痛いし。ごめんドラゴン、見世物として普通に楽しんじゃってごめん」

「とりあえず懺悔しましょう。それからハリーさんが自重するように祈りましょう」

「そうだね」

 

 私はそう言ったけれど、実のところ大してダメージは受けていない。私自身はドラゴンにダメージをまったくと言ってもいいほど与えていないし、最後には守護霊を捕まえさせてあげたからドラゴン的には『遊んだ』って言う感じになってると思うしね。なつかれてはないだろうけど、なつかれたくないからそれは別にいい。むしろその方がありがたい。

 

 ……それはそうと、ハリーさんの点数は50点。流石に文句のつけようが無かったらしく、全員満点を入れていた。

 かわりに、今回のハリーさんの行動による被害は結構多い。

 まず、ここで試合を楽しんでいた私達の心になんだかモヤモヤするものを残していった。それと一部の参加者の心に傷を残し、スキーターに魔法省を責めるネタを与えたことで魔法省の偉い人の胃のライフがまた下がる。

 

 ……ハリーさんは本当に他人の胃のライフをよく削る。何気なく削ったり真っ正面から削ったり自分で削ったり他人や他の物で削ったりと色々なやり方をしてくるけれど……削りダメージだけでも人は死ねるんですよ? ハリーさんは知っててやってそうですけど。

 

 ついでに校長三人のうち、二人をなんらかの事で脅迫しているし、ダンブルドア先生もいつもいつも何らかの事でからかわれているみたいなので……ハリーさんを止めることのできる人がいない。

 ハリーさんを止められないとまた被害者が増える。被害者が増えると止めようとする人は増えるけど、実際に止められる人はいない。だから被害が深刻になっていって、そしてまた被害者が増えて……被害者じゃない人がこの世界からいなくなるまで続く無限ループだなんて、怖すぎるし嫌すぎる。

 

 とりあえず一言。ハリーさん怖い。

 

 

 

 




 
 ……と言う訳で、今回ハリーさんが狙ったのは魔法省の皆さんの胃のライフでした。
 でも、実際に人間に当てはめてみれば間違ってないから質が悪い。




















 ……だけじゃないですけど。

次回作は……?

  • 鬼滅の刃
  • 鋼の錬金術師
  • 金色のガッシュ
  • BLEACHの続き
  • 他の止まってるやつの続き

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