ハリー・ポッター ~ほんとはただ寝たいだけ~   作:真暇 日間

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ホグワーツの地下深くの、秘密の部屋のど真ん中。そこにある大きな石像に向けて、原作を読みつつ話しかける。

 

「えー……と…………スリザリンよ。ホグワーツ四強の中で最強の者よ。我に話したまえ」

 

……しかし、俺の口から出たのは普通の人間の声。ここ二年くらいで一応英語も喋れるようにはなったし読み書きもできるようになったが、やはりどうも使いなれた日本語がよく出てきてしまう。もう二年くらい努力すれば日本語じゃなくて英語が基本言語になってくれるかと思ったが、正直面倒臭い。

と、そんなどうでもいいことは置いておくとして、俺はちょっと坐に魂を繋げた。

『ハリー・ポッター』は、実のところ英霊として成り上がることができるだけの霊格を持っている。正確には未来でそれだけの霊格を持つことになる。それはまず間違いない。

『ハリー・ポッター』……この世界では『エリー・ポッター』だが、他の数多くの平行世界において彼はかなりの功績を残しているし、その事は凄まじく有名だ。『ハリー・ポッター』の名を知らない魔法使いは居なかった時期すらあるし、一時期では非魔法使いすら大半は知っている名前となっていたこともある。

それだけの功績を残しているのに英霊となっていない理由、それは簡単だ。ただ単に、この世界の魔法使いは他の世界の英霊達に比べて全体的に貧弱であり、英霊としての仕事など殆どできると思われていなかったからである。

実際には数人ほど素晴らしい魔法使いが居たかもしれないし、事実として十分に英霊としてやっていけるだけの魔法力を持った者も存在していたが、この世界はとうに世界と言うものから見限られていたためにこの世界からはほぼ全く英霊が選出されていないのだ。

むしろ世界自体がこの世界の存在を忘れていて、俺が今ちょっと坐に繋がってようやく『……あ、そういやこんな世界もあったな』みたいな反応を返すほどだ。

巨人や龍も居る世界で英雄が出ていないってのもおかしな話だが、そもそもその世界全体のステータスが他の世界に比べて相当低いらしい。言うなればFFとドラクエのステータスを比べているようなものらしく、文字通りに桁が違うとかなんとか。

 

とか考えている間にも用が終わったので、坐との繋がりを切る。坐にはあらゆる英霊の知識が眠っているそうなので、とりあえず英語と蛇語をしっかりと習得してみた。

英語に関してはアズカバンで色々やっていたが、これでようやくしっかりと頭の中に入った。蛇語に関しては正確には蛇と話すのではなく動物と心を通わせるスキルを探して見様見真似で使っているだけなので完全とは言いがたいが、左手にちょびっとだけ寄生しているヴォルデモー太君がいるから、それと同調させれば一応使えないことはないはずだ。多分。

 

そこでもう一度チャレンジ。原作ではハリー君は蛇を目の前にしたり蛇の像を目の前にしたりすると無意識のうちに変えることができていたそうなので、今回は俺もそれに肖って千の顔を持つ英雄でかなりリアルな蛇の像を目の前に作ってみた。

そしてもう一度。像を本物だと思いながら、ゆっくりと口を開く。

 

「『スリザリンよ。ホグワーツ四強の中で最強の者よ。我に話したまえ』」

 

俺の口から出たのはシューシューと言う掠れたような音。どうやらこれが蛇語らしい。今度解読してみよう。

そう考えている間にも、秘密の部屋の石像は動いていく。石像の口が開いて行き、その中からは巨大な蛇身が姿を表した。

 

「『初めまして、名も知らぬ蛇の王。俺はハリーだ。好きに呼んでくれ』」

 

俺はそう言ったが、その蛇……バジリスクはただ恭しく頭を下げるのみ。俺を睨み殺さぬようにしているのか、その両目は閉ざされたままだ。

バジリスクの瞼の中にあるはずの魔眼は、その効果を直死の魔眼と言う。月姫に出てくるようなその物の死を視覚化してそれを突くことで相手に死を与えるようなものではなく、ただ相手と視線を合わせるだけで相手を死に追いやると言う反則のような魔眼だと言う。

しかし、欠点として本人(いや、蛇だが)は魔眼の制御ができず、目を閉じることでしかその対処をすることができないそうだ。

バジリスクともなればその知能は人間に匹敵するだろう。理性や知識と言うものがあるかどうかは別として、少なくとも知識の方は教えられないからできないのであって教えられれば十分学ぶことができるだろうと想像している。

想像はあくまで想像であってそれは事実でない可能性も十分にあるが、考えるだけなら只だからな。

 

「『……まあ、いい。取り敢えず……痛みは与えんし治してもやるから、お前の左目と毒の一部をくれ。いいか?』」

「『畏まりました、我が主』」

 

一瞬の迷いもなく、一瞬の躊躇いもなく、バジリスクは俺の言葉に頷いた。

どうやらこの部屋に入った時点でバジリスクはその者の支配下に入るようになっていたらしい。どんな方法か、どんな魔法を使ったのかは知らないが、俺としては有り難いことだ。

これで上手く行けば俺も直死の魔眼を使えるようになるかもしれないし、分霊箱を破壊するためのバジリスクの毒も手に入った。一度どんなものか見てしまえば、千の顔を持つ英雄を使って毒を出せるからな。ありがたやありがたや。

 

……直死の魔眼はどうやらかなり強大な魔力が循環しているらしい。バジリスク───さっき『フリスク』と名前をつけたら粛々と受け入れたように見せつつ尻尾がピョコピョコ跳ねていたので多分嬉しかったのだろう───に軽く麻酔をかけて眼球を抜き取り、そしてその中の魔力の流れとそれによって作られている術式を読み取りつつ、俺はそんなことを考える。

俺の魔力はD-。英霊としてはかなり低い方だが、それでもこの世界の誰よりも強い魔力を持っている。つまり、真似ようとすれば多分できる。

 

「『ありがとうよ、フリスク』」

「『勿体無きお言葉でございます、我が主』」

 

堅苦しい言葉を使いながら頭を下げるフリスクに近付き、虚ろになっていた左の眼窩に眼球を戻す。そしてエンゼル御前を作り出してその傷を俺が……と見せかけて、左手で繋がっているヴォルデモー太君に無理矢理押し付けた。世界のどこかで悲鳴が上がったとか、んなもん俺の知ったことじゃない。

 

「『それじゃあ多分また来るよ。それまで元気にな、フリスク』」

「『はい、お待ちしております』」

 

俺にそう言い残して、フリスクはズルズルとスリザリン像の口の中に消えていった。まるでスリザリンが長ーい焼きそばでも食べているかのようだ。

 

と、そんなことを考えつつも俺はさっさと俺の家の地下12階、睡眠部屋へと転移したのだった。

 

 

 

 

 

 

次回作は……?

  • 鬼滅の刃
  • 鋼の錬金術師
  • 金色のガッシュ
  • BLEACHの続き
  • 他の止まってるやつの続き

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