ハリー・ポッター ~ほんとはただ寝たいだけ~ 作:真暇 日間
side エリー・ポッター
決闘クラブが開かれるらしい。誰が主催なのかはわからないけれど、とりあえず私の予想だと今年ハリーさんに最も被害を受けた某闇の魔術に対する防衛術の先生が主催者だろうと思う。
あの先生は目立ちたがり屋だから、こう言う時に自分の力を見せつけずにはいられないんだろう。ハーマイオニーが言うには呪文学のフリットウィック先生が若い頃に決闘チャンピオンだったらしいのでフリットウィック先生だったら嬉しいけれど……ハリーさんが凄いにっこり笑顔で殺る気満々だから望み薄だろう。
ハリーさんが持っている中で二番目に相性のいい杖(私と一緒に買ったあの杖らしい)を丁寧に磨きながら、くつくつと押し殺すような酷薄な笑みを浮かべていたハリーさんを見たらなんだか背中に冷たい刃物を突き込まれたような寒気がした。
別にあの先生は好きじゃない……と言うよりも、むしろ嫌い。あの人の言う言葉には実が殆ど無いし、魅力もない。だからあの先生がどうなったところで私はいっこうに構わないのだけれど、それが原因でハリーさんがこの学校を追い出されてしまうような事になったら困る。
……いや、ハリーさんの事だから絶対に何らかの方法で……それこそ、ダンブルドア先生の胃に多大なダメージを与えてでも、魔法省の機能の七割以上を力任せに破壊してでも……この学校に残るだろうけれど。
心配事だと思っていたことが別に心配するようなことではなかった事に気付いたので、何の気兼ねもなく決闘クラブに参加することにする。ロンとハーマイオニーも乗り気になっていたので参加していたけれど、ハリーさんが参加すると言うことを知った人達がかなりの人数参加を辞退しようとしてから『ハリーさんはロックハートを無理矢理相手に指名してフルボッコにする気だから被害は無い』と言う私の話を聞いて元通りに……むしろそれまでよりずっと参加する人数が増えていた。
マルフォイもクラッブとゴイルをいつものように連れて参加するつもりらしく、今からあの無能教師の鼻が顎より低く潰れて見る影もなくなって悶え苦しむ姿が楽しみだと言っていた。悪趣味だとは思ったけれど、実際にそんな場面に遭遇したらマルフォイは怖がって逃げちゃうんだろうな……と考えてみた。
事実はまたいつかわかるかもしれないけれど、できることならそんなことを確認する必要のない人生を送っていけることを願いましょう。
……あ、でも目の前のあの笑顔が消えるのは悪いことじゃないかも。
「娘っ子。スネ夫に『先生、頑張って!』と言ってみろ。面白いから」
「え? あ、はい……」
ロックハートと杖を向けあったスネイプ先生を見て、息を吸い込む。ハリーさんへのツッコミ以外で大きな声を出すのは苦手だけど、これくらいなら今の私でも十分できる。
「スネイプ先生、頑張って!」
私がそう言った途端に、スネイプ先生の杖が閃いた。生徒達にも聞き取れる程度の速さと、とても綺麗な呪文の発音に驚いたけれど、そんな風に驚いている間にスネイプ先生の杖先から真紅の火花が飛んでロックハートの胸を貫いた。
なんだかスネイプ先生は杖を一振りしかしていない上に呪文も一つしか唱えていないはずなのに、二本か三本の閃光が杖から放出されているように見える。
「あ……あれはっ『多重無言呪文』!」
「知ってるのかいハーマイオニー!?」
「ええ、前にハリーにお願いして図書室の禁書の棚からパチって来てもらった本で見たことがあるわ」
「なにやらせてるのハーマイオニー!? そしてなにやっちゃってるのハリーさん!?」
なんだか突然ハーマイオニーがスネイプ先生の今の技術について語り始めた。ロンがすかさず合いの手を入れると、ハーマイオニーはきりっとした表情のまま頷き、私のツッコミを完全にスルーして話し始める。
「そもそも魔法とは、生き延びるための戦いの中に産まれ、勝てば生き長らえ負ければ死して喰らわれる、厳しくも正しい自然の摂理の中で磨かれ、現在までに幾つもの技法が産まれ、淘汰され、あるいはそのあまりの難易度に失伝してしまっていたものも数えきれないほど存在するわ。
そして、今スネイプ先生が使った『多重無言呪文』もそうして失われていった技術の一つ。戦いの中で、呪文は魔法を完成させるために一々唱えていては相手にその隙をつかれてしまう可能性も十分にあるし、ある程度の腕を持つ魔法使いや魔女ならば呪文が完成する前にその呪文に対する対抗呪文を作り上げてしまう。それを阻止するために考え出されたのが、現代にまで伝わる『無言呪文』の原型よ。
けれど、無言呪文ではあまり高い威力を出すことはできないし、威力が低ければ相手が呪文を唱えて張った防御呪文を貫くことは難しい。そこで考えられたのが、同じ呪文をいくつも同時に使うことで威力を何乗にもすることができる『多重無言呪文』なの。
それを成功させることができれば、例えそれが二つだけだったとしても凄く大きな効果を持つの。例え一つの呪文の威力が0.7倍になっていたとしても、それを単発で撃ち込んだ場合は元々の最高値を10として考えても合計は20。けど、二つの呪文を完全に同時に撃ち込めば二乗されて49……単純に考えても元々の合計より2.5倍近い威力になるわ。
ただ、有用性を鑑みても失われるだけの難易度を誇るの。そもそも無言呪文自体が相当難易度が高いのに、それを全く同時に二つ重ねるなんてことが簡単にできるわけがないのは言うまでもないわね? それを実行するのには、自ら精神をいくつにも分割して、それを統合して同時に別のルートから呪文を完成させる必要があるわ。分かりやすく言うなら、右手でペンを使って文章を書きながら左手でタイプライターを使って同じ文章を書くようなものね。
そして今回、スネイプ先生はさらに普通に呪文を唱えて同じ魔法を発動して見せたわ。さっきの状況でさらに自分の口で全く別の話をするようなもので、難易度は更に跳ね上がる。あんなことをしたら自分の精神を統合することができずに精神崩壊を起こす可能性だって十分に考えられるって言うのに……いったいどれだけの修練を積んでいると言うの……!?」
ハーマイオニーの説明が一段落したところで、スネイプ先生に尊敬の視線が向けられる。スネイプ先生は吹き飛んで壁にぶつかって倒れたロックハートに杖を向けたまま、じっと相手を睨み付けている。
……きっと、ロックハート相手にストレスが溜まっていたんだろうなぁ……。
無力化させたことを確認したらしいスネイプ先生が懐に杖をしまい、それから私達の方に向き直る。
「……『武装解除の術』。相手の持つ杖などの武器を奪い取る呪文だ。諸君にはこの呪文を習得して貰おう……では、我輩の言う通りに組を作れ」
スネイプ先生はそう言って、近場の生徒達から一組ずつ組を作らせていった。ハリーさんがニタリと恐ろしい笑みを浮かべていた事には……気づかなかったと言うことにした。
「ところでハー子、お前ハー子とハーマライデンとどっちがいい?」
「普通に呼びなさいよ!」
「普通にハー子がいいか。わかった」
「何もわかってない!?」
「まあまあハーマイオニー……」
私はいきり立つハーマイオニーを宥めるべく、ハーマイオニーとハリーさんの間に割り込んでいった。
次回作は……?
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鬼滅の刃
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鋼の錬金術師
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金色のガッシュ
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