ハリー・ポッター ~ほんとはただ寝たいだけ~ 作:真暇 日間
side エリー・ポッター
今日はスリザリンとグリフィンドールの試合日。そして私とマルフォイの初の公式戦でもある。残念ながら今日の天気は雨。絶好のクィディッチ日和とは言えないけれど、こんな天気でも大丈夫なように沢山練習してきた。だから、きっと勝てる。
……ハリーさんはなんでもないように
「雨が嫌なら晴れさせるか?」
とか珍しく右手で見たことのない杖をもって聞いてきたけれど、丁重にお断りしておいた。ハリーさんの場合、そこまで苦労するような事でもないからって平然とそれを実行してしまいそうだから怖い。
冗談のつもりで何かをお願いして、それを本当にやってしまって驚かされたりするのはもう慣れたと言えば慣れたけれど……だからってわざわざ驚かされに行ったりする気はない。
それに、そんなことをしないでも天気などについては私もマルフォイも条件は同じ。雨でスニッチが見えにくいのも、目を開けると目に雨粒が入って痛い思いをするのも、加速する時にちょっと運が悪いと雨水が鼻から気管に入りそうになって咳き込んだりするのも、全部平等に起きる可能性のあること。ルール上でなんら問題がなく、平等に起きる可能性があるのならばなんの問題もない。
さあ、試合を始めよう。スリザリンは反則が多いと聞いたけれど、少なくとも洒落にならない反則があって選手の誰かが一時的にでも退場しなくちゃならない状態になった場合にはハリーさんが出てくることになっているらしいから酷すぎることはやらないはずだ。
やったとしても精々軽く相手の指を掴んで脱臼させたり、髪の毛を大量に掴んで引っ張って無理矢理減速させたり、横を抜けるときに口に含んだ毒霧を相手の顔に吹き付けるとかその程度だろう。使う毒霧も口に含んで使うと言う問題上大して強いものは使う訳もなく、また使ったとしてもちゃんと自分用の解毒剤くらいは常備しているはず。
「……ポッター。一応言っておくがね……スリザリンチームは卑怯で姑息な戦いを特色してはいるが、だからと言って外道な訳じゃない。勝ちたいがために反則はするが、それはあくまで試合の中、クィディッチの試合での話だ。後々まで残るようなことはしない。それに、毒なんて使わないし事前に敵チームを脅迫したりもしない。クィディッチの選手として、試合の中で相手を倒してこその勝利だ。不戦勝は勝利ではない」
「……つまりマルフォイは『スポーツマンシップに則って、正々堂々真正面から卑怯な手を使って試合で勝つ!』ってことを言いたいの?」
「身も蓋もないが、そう言うことだ」
……確かに去年の試合も全部の組がしっかりと実力を出し切って戦っていた。スリザリンが本当に全力で勝ちに行くんなら、とりあえず試合時間に合わせて効果が出るような薬を朝食か昼食に仕込んでおくくらいの事はするだろう。私がそれをされたら多分本気で怒るけどね。
……と、漸くフーチ先生のホイッスルが鳴り響き、私の人生で一度しかない、初めての試合が始まった。
私は作戦通りに上空に上がって下を眺める。二つのブラッジャー、敵味方のビーター、相手のシーカー、そして未だに姿を見せない金のスニッチ。全てに注意を払いながら空を飛ぶ。
……初めての試合で、ずっと夢に見ていた場所で飛んでいる。その事についさっきまで緊張していた筈なのに、今ではそんな緊張は全く無い。マルフォイとの言い合いと言うか、スリザリンの言い分のようなものを聞いていたら、それだけで私にとってこの場所がいつもとなんら変わらない場所に思えてきたからだと思う。
マルフォイを見てみたら、なんだか凄い偉そうな笑顔を浮かべていた。私の緊張を解すために、わざわざあんな風なことをしてくれたらしい。ロンが言うほど、悪い相手じゃないよね?
と、そこでブラッジャーを避ける。突然方向を変えて飛んできたブラッジャーは大して速くはなかったけれど、それでも私の集中を切らせるくらいのことはできた。
しかも、同じブラッジャーが何度も何度も私だけを狙って飛んでくる。私は確かに世間知らずだけれど、一応何度かクィディッチの試合を見てきたし、自分達で練習もしてきたからこの状態がおかしいと言うことはわかる。
……でも、こんなことではへこたれない。ブラッジャーは鉄の塊で、しかも魔法で壊れないようにされている。当たれば間違いなく骨の一本や二本は折れてしまうだろう。
逆に言えば、当たったところで精々骨の一本や二本で済むと言うことでもある。ウッドが言うには、ブラッジャーが人を殺してしまったことはないそうだ。顎の骨を砕かれた人は居ても、それもすぐに痕すら残さず綺麗に治してもらえるらしい。
だったら躊躇うことなんて無い。痛いのにも苦しいことにも慣れているし、骨が折れたのを無視されたのも、自覚は無かったけれど魔法を使って自分で元通りに接いで固めて治した回数も沢山ある。傷もすぐに跡形も無く治してきたし、麻酔みたいに痛みを消す方法も知っている。
ただ、右腕と頭だけは絶対に守らないといけない。じゃないとスニッチが掴めないし、頭を打たれたら気絶してしまうかもしれない。
息を吐いて、吸って、また大きく吐いて……覚悟を決めた私は、ネビュラスの柄を掴んで加速した。ブラッジャーが着いてこれないほどに、風よりもずっと速く。
私がスニッチを見付けたと思ったのか、マルフォイが私についてこようとするけれど、マルフォイの箒ではネビュラスには追い付けない。それどころか後ろから追い付いてきたブラッジャーにグリグリと押され、ちょっと痛そうだ。
……あ、跳ねられた。でも大して痛くはなかったのか、すぐに一緒に落下した箒に走り寄って空を飛び始めた。
………………見たところ時速で180kmくらいは出てたような気がするけど、マルフォイにとってはそのくらいの速度の箒から落ちても受け身をとれば大したダメージにはならないらしい。やっぱり凄く頑丈だ。ブラッジャーに直撃食らっても、むしろブラッジャーが当たり負けするんじゃないかって思うくらいにマルフォイは頑丈だった。
……じゃなかったら『どこか』からえげつない速度で飛んで来る銅貨を額に受けて四回転しても気絶すらせず普通に……とは言えないまでも、ちょっと足許がふらつく程度で自力で帰るなんて言う真似はできないだろうしね。
ただ、それを見てマルフォイの頑丈さを知らない別学年の人達はポカンとした表情でマルフォイを眺めている。普通はあれで大怪我だものね。仕方無い。
私はそんな風に固まっている選手にぶつからないように競技場の壁ギリギリの所を飛ぶ。私の後をブラッジャーがずっと追いかけてくるけれど、ネビュラスの速度には追い付けていない。
私は、じっと集中する。集中して、集中して、集中して…………そして、降り注ぐ雨の中に僅かに煌めく金色の光を見付けた。
ハリーになってからあまり寝ていないように見える一夏ですが、エリー視点なので男子寮でハリーが寝ているところを見れないせいです。男子寮では大概眠り続けているハリーの姿が見られます。
ちなみに、寮以外では授業中に寝たりもしています。
次回作は……?
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鬼滅の刃
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鋼の錬金術師
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金色のガッシュ
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BLEACHの続き
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他の止まってるやつの続き