ハリー・ポッター ~ほんとはただ寝たいだけ~ 作:真暇 日間
side クィリナス・クィレル
セーブしてから麻雀に挑むこと三時間。東風戦でほぼ全員が思考時間ゼロでやっていたにしてはやけに時間がかかっていたが、ようやく私がマクゴナガルより上位になって終わることができた。
私が選んだものはイージーモード。イージーモードの相手はマクゴナガルが相手だったのだから、マクゴナガルに勝てれば勝ちだと言うのはある意味では当然の事だったのだが、こうして勝って見せるまでその事を忘れてしまった。
ちなみに、私がイカサマのような方法で箱割れさせられた回数は42回。同時にマクゴナガルも飛ばされたのがその内22回。なんともぼこぼこにされたものだ。
だが、これでようやく次の部屋に進むことができる。
次の部屋に進む廊下には一切の罠が仕掛けられていなかった。ご主人様が警戒し、私が走ることによって大幅に移動速度を短縮して見せたが、罠が無いのだったらこんな事をやる必要は無かったかもしれない。
しかし、今までが今までだ。こうして走っているところに突然振り子刃の罠や煉獄の罠があったところで驚きはしない。
しかし、結局廊下には罠も何もなかった。拍子抜けしたような感覚を得ながら次の部屋の扉を開けると、そこはただ白いだけの部屋だった。
『
動くな
この部屋の中で五時間動かなければ先に進むことができる。五時間かけてゆっくりと進んでいくベルトコンベアに乗り、その上で五時間、瞬きすらしてはならない。
失敗した場合には即座にベルトコンベアのスタート地点に戻される。
なお、この部屋の中での一時間は外の時間の一分に相当する。
』
これは幸運、私達に運が向いてきた。五時間動かないだけ、ただそれだけでこの扉は開くと言うのだ。しかもこの中で五時間過ごしたとしても外ではたったの五分。急いで先に進まなければならない私とご主人様にとっては最高の状況だ。
私は嬉々としてベルトコンベアの上に乗り、そしてただゆっくりと進み続けるベルトコンベアの上で目を閉じた。
真っ暗な中でひたすら進み続ける。戻る時には戻されるというイメージと原因が頭の中に浮かんでくるし、ご主人様との会話も行動に数えられることになっているようで会話すらできずにただ横になったまま動かないでいた。
じっと動かず、大人しく……しかしそれでも動いてしまうため、私は自分に『全身金縛り』の呪文をかけることで動かないでいることに成功した。
じっと動かない。視界が閉じられているためいったいどれだけの時間が過ぎたのかもわからないし、ご主人様の声も聞けないので何を考えておられるのかもわからない。
しかし、それでも私はただ待ち続ける。ずっとずっと、ご主人様が『到着した』と教えてくださるまで。
ただ、待った。食事もせず、水も飲まず、ただ待ち続けた。
しかし、何故か試練は終わらない。何度か呪文の効果が切れた瞬間に動いてしまって戻された時に、タイマーをかけて時間を計ってみた。
すると、タイマーで五時間が過ぎたと言うことを知らせる音が鳴ったとき、私は……まだ道の始まりの方にいた。
目を開いてしまったことで即座にスタート地点にまで戻されてしまったが、すぐ目の前にタイマーが置かれていたためにさっきまで自分がどの位置に居たのかがすぐにわかった。
いったいどう言うことかと思っていたら……答えは初めから目の前にあった。
説明文の最後の部分、私が幸運だと思ったそれ。
『なお、この部屋の中での一時間は外の時間の一分に相当する。』
……そう、確かに五時間とは言っていたが、部屋の中での五時間ではなかったのだ。部屋の外での五時間は、この部屋での三百時間。私が過ごした五時間と少しの時間は、全体から見れば1/50にすらならない短い時間だったのだ。
私は半ば絶望しながらも自分に『全身金縛り』をかける。今から三百時間、それは十日以上も飲まず食わずでこの場に居なければならないと言うことだ。
眠ってしまえば呪文の効果が消えてしまうため動いてしまうかもしれないから眠ることもできない。餓えや渇きで気を失うわけにもいかない。動けないから筋肉はどんどんと落ちていって十日後には殆ど動けなくなってしまうだろうし、三百時間後になったとしてそれに私が気付けるか……そして、ご主人様がそんな消耗に耐えきることができるのか…………不安は多い。
しかし、もうやるしか道は残っていない。戻ろうとしてもそれは『動いた』と判断されてスタート地点に戻されてしまうし、『姿あらわし』はホグワーツでは使えない。故に、例えできそうになかったとしても……私とご主人様に残された道はこれしか無い。
……これしか、無いのだ。
私は自分にそう言い聞かせ、また『全身金縛り』をかける。これからずっと、無理にでも起き続ける。これからずっと、無理にでも気絶から逃れる。そのために同時に『服従の呪文』を使って気絶するな、眠るなと言う命令をする。これで、私にできることは全てやった。後は自分の精神力が持つことを祈るのみ……だ。
もう何度もこれに挑戦できるだけの体力も時間も残されていない。この一度で成功させるしか、道は無いのだ。
……どれだけの時間が過ぎたのか、わからなくなった。意識を失うこともなく、食料も水も睡眠もなく、ただ私は動かずにいた。
もう、何もわからない。もう、私は動けない。私はついに何も考えられなくなり、ただ、それまで続けていたことを惰性で続けていた。
ふと、何かが鳴る音を聞いたような気がした。誰かが私に話しかけているような気もした。だが、私はもう動けない。動く気もしない。ただ横になって『全身金縛り』と『服従の呪文』を自分に掛け続けるのみ。
ごつ、と、頭の先に何かがぶつかったような気がした。
「……ここまで来たのか。まあ、誉めてやる」
……なにかが、何かを言っている。
「貴様は……何者だ?」
「……ああ、なるほど、珍しい寄生虫だな……俺は織斑一夏。一部の奴からは【眠たがりの破壊神】なんて呼ばれてる」
……どういうことか、わからない。わたしはまぶたをとじたまま、みみからかってにながれこんでくるおとをききながしつづける。ただ、わたしのうしろあたまからのこえがそれにむけてなにかをいっているようなきもするが……もうわからない。
「『賢者の石』は……どこだ……」
「……『賢者の石』? なんだそりゃ?」
「惚けるなッ!」
「別に惚けちゃいねえよ。ただ……ここにはそんなものは無い。ここにあるのは『賢者の石』なんてもんじゃなく、『エイジャの赤石』って言うもんだ」
……なぜか、そのことばをきいたとたんにぜんしんからちからがぬけた。わたしのすべてをひていされたような、そのひていがただしいものであるとなっとくさせられてしまったような、きょむかんとむりょくかんがわたしのぜんしんにおそいかかってくる。
きがつけばいままでやっていたこともわすれ、いしきがやみのなかにひきずりこまれていきそうなのをそのちからにまかせてしまう。
「『エイジャの赤石』……だと?」
「ああ、そうだ。……一応言っておくが『賢者の石』とやらとは全くの別物だと思うぞ? ただエネルギーを増幅することができるだけの石だからな、『エイジャの赤石』は」
……わたしはけっきょく、なにものこすことはできなかった。それがわたしのいしきにのこったさいごのことばで…………それっきり、わたしはすべてからにげだし、かんがえることをやめた。
side 織斑 一夏
目の前で痩せ細った男が死んだ。どうでもいいし面影も残っていないからよくわからないが、たぶんこれがあのヴォルデモー疽に寄生されてた先生なのだろう。
とりあえずこの世界の中に置いておいた『エイジャの赤石』を消し、そしてこの死体と死体に寄生していた魂未満の塵芥を一度収納してから外に出る。
ホグワーツから遠く離れた場所に転移し、それから死体を放り出して焼き捨てた。アンダーグラウンドサーチライトはいくらでも作れるが、中で腐られるのも嫌だからな。
俺は焼き捨てた死体を放置して、さっさと分身を解除して消えた。これで俺がやった証拠は残らない……と。
これでクィレル編はおしまい。次は約束通り「ハリーが主人公だったら」のIF話です。
ちなみに、この後クィレルはアルバニアの森にポイ捨てされました。
次回作は……?
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鬼滅の刃
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鋼の錬金術師
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金色のガッシュ
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BLEACHの続き
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他の止まってるやつの続き