ハリー・ポッター ~ほんとはただ寝たいだけ~ 作:真暇 日間
side エリー・ポッター
……。
時が過ぎた。私が生まれた頃にあった物の殆どは失われるくらいに。
イギリスと言う国は既に無い。五つの大陸に分かれていた大地は巨大な一つの大陸となり、人間は様々な形で進化をして今では私が覚えていたような人間はほとんど存在しない。人間の遺伝子細胞は長い時間太陽光や宇宙から降り注ぐ宇宙線によって傷つけられることで限界を迎え、しかし人間はそれを科学と魔法によって克服した。その結果、人間と言う種族はほとんど消えて、代わりに動物や魔法生物の特徴を入れることで絶滅を免れた新しい人間種……いわゆる獣人と言う存在が地上に君臨している。
一世代あたりの寿命は伸びたし、病気などにもかかりにくくなった。人間はここまで進歩することができた。それは喜べるものなのだろう。
けれど、その結果として地球と言う星はほぼすべて採掘され切った。中心部分の鉄も既に存在せず、代わりに太陽などから受けた光や熱などをエネルギーとして重力を発生させる魔法装置によって形だけは整えられている。そのため溶岩の対流なども止まり、ここ数千年は地球全体で噴火も地震も起きていない。
地球と言う星から生まれた人類は宇宙へと進出し、その多くを手中に収めることに成功した。数々の星を渡り、移り住み、治め、適応し、人類こそが万物の霊長と言うに相応しいだけの進化を遂げてきた。
そんな中で、私の人生は終わりを迎えようとしている。
始めに居なくなったのはフリスクだった。何のことは無い、ただ寿命で死んだだけのことであり、何もおかしいことはない。
次はクリーチャーがいなくなった。ただその首はブラック家の守りとして新しく壁に飾られ、とても誇らしげだった。
あまりにも長い時の流れは、不老不死の存在であっても擦り減らせるに足るものだ。人間はそもそも、あまりに長い生に耐えられるようには作られていないと言うのは誰が言った言葉だったか。私が覚えているのはハリーさんが誰かからそんなことを聞いたと言う話をしていたのを私が聞いただけだから、誰がそんなことを言ったのかはわからない。けれどそれは多分とても正しいのだと思う。
永遠の命と言うには少し足りなかった気もするけれど、それでも人間としては十分以上に生きることができた。もう名前も顔も覚えていない叔父の家に暮らしていた時はそれこそ明日をも知れぬ状態だったのに、まさかこんなに長く生きて、まさかこんなに幸せになれるなんて思ってもみなかった。
そんなことを思いながら、私は憂いの篩に溜め込んだ記憶を杖で掬い上げる。私の記憶も随分と多くなり、人間の脳には収まりきらないほどの記憶の量になってしまった。そのままでは私がおかしくなると言うことでハリーさんが用意してくれたこの憂いの篩から、ハリーさんに関わりのある記憶だけを全て引っ張り出す。ちょっとした競技用プールくらいの量になっているそれを頭の中に押し込んで、押し込んで、押し込んで……。
私の中がハリーさんでいっぱいになる。ハリーさんとの記憶に溺れながら、私の魂が何処かへと向かう。肉体を離れ、この世界を離れ、生きながらにして世界の軛から外れて何処かに行ってしまったハリーさんを追いかける。
ハリーさんとの記憶を繋がりとして、どことも知れない場所を移動する。私と言う存在を削り落としても、ハリーさんとの記憶だけは一雫すらも溢させぬように胸に抱く。
ひょい、と身体が浮き上がった。誰かに抱え上げられたような、そんな感覚が一番近い。
「……ふーん。根性はあるみたいね。一夏ー、なんか来たわよー」
私を抱え上げた……と言うより摘み上げたと言う方が近いけれど、ともかく私を持ち上げたこの人が顔をむけた方向を見てみれば、そこにはハリーさんがいた。
ハリーさんとは顔が違う。人種が違う。けれども私の感覚はあの人が私の探し人、ハリーさんであると必死に叫んでいる。
「……幻霊になってまで、よくもまあ。記憶も擦り切れてるだろうに」
「それでも一緒にいたかったんでしょ。どこの誰かは知らないけど」
ハリーさんだと思うその人は、私を受け取ると指で優しくなでてくれた。そして見たこともない白い服の胸ポケットに私を入れる。
暖かくて、いい匂いがして、とても安心できるその場所。私は何となく、やっとハリーさんの所に戻ってこれたと安心することができた。
「おやすみ、エリー」
———はい、ハリーさん。
次回作は……?
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