ハリー・ポッター ~ほんとはただ寝たいだけ~   作:真暇 日間

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エリー・ポッターと闇の終焉
167-D


 

 

 

 side エリー・ポッター

 

 まずはハリーさんに言われたように待つことから始める。魔法省がダンブルドア先生からの遺品を無断で調べ回していることを知ってしまったから、私は逃げられなくなってしまった。

 本当ならさっさと居なくなりたいところなのだけれど、残念ながらそれもできない。本当に魔法省は面倒な組織だと……つくづく思ってしまう私は悪くないはずだ。

 さて、そんなわけで時間ができてしまった私ができることと言えば、この家の中で静かに待つことくらいだ。

 この家にはシリウスおじさんやムーディ先生が直接かけた強力な保護呪文がかかっていて、そう簡単に敵対者であるヴォルデモートやその部下を入れることはないみたい。

 

「よ」

「でもハリーさんはなんでもないかのように入って来れるんですね」

「まあ、この程度じゃなぁ……」

 

 シリウスおじさんもムーディ先生も、かなり強力な魔法使いなんですけどね。ハリーさんにとってはそう変わりませんか。

 

「あれだな、海と水溜まりを比べるとか、砂粒と泰山を比べるとか、そんなレベルの話だ」

「勝ち目がないじゃないですかやだー」

 

 どう考えても勝てるわけがない。それを聞いて勝てると思うのなら、それはちょっと思い上がりが過ぎると言うものだ。

 

「……ハリーさんならヴォルデモートに勝てるんじゃないですか?」

「前に勝ったぞ。実にえげつない方法で」

「今は勝てますか?」

「ヴォルデモートにか? そりゃ無理だ。ゴーストやアンデッドならともかく、完全な死人と戦うこと自体が不可能だしな」

「……はい? え? ヴォルデモートって生きてますよね?」

「は? 俺が殺した奴が死んでないわけ無いだろうが」

「……え、じゃあなんで……」

「あれはバルバモートだ」

「……まるでヴォルデモートとバルバモートが別人とでも言いたげですね」

「魂からねじ曲がって変われば別人カウントでいいと思わないか? ほんの少しこびりついていた本人の魂も俺の欠片に侵食されて自覚なしに殆ど別人になってるからな。もう別人でいいと思うぞ?」

「……あれ? それってつまりほとんどハリーさん?」

「残念ながら、ヴォルデモートの混じり物になっている時点で俺ではないし、俺の混じり物になっている時点でヴォルデモートでもなくなっている。だからあれを正しく表すには『バルバモート』が最適だと思うがね」

 

 ハリーさんはそう言って紅茶を一口すする。

 

「ところで、娘っ子は今年ホグワーツには行かないんだよな?」

「はい。危なすぎますから」

「懸命だ。まあ、最終的には行く事になると思うがな」

「……それはまたどうして?」

「ヴォルデモートはかつてホグワーツに分霊箱をひとつ隠したからな。最後の一つとして残しておいた方がいいだろうよ」

「……なんで知ってるんですか?」

「バルバモートと繋がってるからな。繋がりを辿って『開心術』で記憶の読み取り余裕です」

 

 なんで敬語?

 ……いやいや突っ込むところはそこじゃない。ヴォルデモートと繋がってるって……あ、前に言ってたね、そう言えば。なんだ、驚くことなんて何もないや。だってハリーさんだし。

 

 ……さて、暫く暇な訳なんだけれど……どうしよう? 学校の準備はしなくていいとして、誕生日までは新しい魔法の練習もできない。やれることなんてほとんどなくて、できそうなことは現状では必要かどうかもわからないことばかり。とりあえず、サバイバル生活で苦労はしないようになんでも食べられる味のわからない舌を取り戻しておくくらい。

 最近は美味しいものを食べ過ぎた。私の身体は以前のような、なんでも食べられる状態ではなくなってしまった。これでは旅に支障が出てしまう。

 食べられるものならなんでも食べられるように。かつては土に混じった虫の死骸や埃まみれでカビの生えているパン等を食べて飢えを誤魔化して生き長らえてきたのだから、昔できたことが今できないわけがない。

 

 ……ただ、もうハリーさんのご飯を食べられないって言うのは悲しいけれど。

 

「……ハリーさんは、ホグワーツに行くんですか?」

「ああ。グリンゴッツもイグノタス・ペベレルの最後の子孫の墓も、娘っ子達ならなんとかできるだろうからな。俺はホグワーツでできることをやるさ」

「できること……と言いますと?」

「主に囮と脅迫係だな。色々とやりすぎって位にやって、精々娘っ子達から目を離させてやるさ」

「それって……凄く危険な立ち位置なんじゃ?」

「おいおい、今この世界のどこに絶対に安全な場所がある? 今のここだって、俺が気紛れで娘っ子を殺そうと思えば簡単にできるぞ?」

「……まあ、ハリーさんにだったら殺されてもいいですよ。ハリーさんはやりたいようにしてくれればそれでいいんです」

 

 何故か正気を疑うような視線を向けられるけれど、すぐに納得のそれへと変わる。

 それはそうだろう。だって私にちゃんとした人間らしい正気なんて残っているわけがないんだから。

 正気なんてとっくに捨てた。死にたくなかったから生きようとして、生きるためにはそんなものは邪魔だったから。

 食べられそうなものはなんでも食べた。小動物だって殺して食べた。ネズミの味を知っている子供なんて、私の知っている限り周りには誰もいなかった。

 だから、シリウスおじさんが私を守るためにアズカバンを脱獄し、私に会うためにネズミをも食べて生きてきたと言う話を聞いて、私はちょっとだけ嬉しくなったんだ。

 けれど、ハリーさんはそんなことはない。なのにどうして私がこんなになついているかと言えば……ハリーさんは、私のことを一番よく見ていてくれたから。

 私を見て、私に優しくしてくれて……なにか、通じ合うものがあったから。

 

 ハリーさんは、多分だけれど人間としてどこかおかしい。人間として大切なものをどこかに置き忘れて来ている気がする。

 そして、私も同じように───とは言わないけれど、人間として大切なものを投げ捨ててきた。だから、私はハリーさんに近しいものを感じているんだと思う。

 実際にはどうなのかはわからない。わかったとして、どうしようとも思わない。なにしろ私は『自分を生かすために生きている』ような存在だ。いつ死んでもおかしくはない。

 

 ……けれど、どうせ殺されるのなら、同族であるハリーさんの手で殺されたい。心の底からそう思っている。

 

「……娘っ子は、とっくに壊れてたんだな」

「ええ。自覚症状もありますよ。……軽蔑します?」

「別に? 壊れてようがなんだろうが、俺にとってはどうでもいいことだ」

 

 私とハリーさんはおたがいに何も映していない曇ったガラス玉のような目を向け、示し合わせたかのようにお茶を飲んだ。

 

 ……あー、美味しい。

 

 

 

 

次回作は……?

  • 鬼滅の刃
  • 鋼の錬金術師
  • 金色のガッシュ
  • BLEACHの続き
  • 他の止まってるやつの続き

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