ハリー・ポッター ~ほんとはただ寝たいだけ~ 作:真暇 日間
142
side クリーチャー
「クリーチャー。右のと左の、どっちがいい?」
ぱちりと目を開けたご主人様は、クリーチャーめにそうお聞きになられた。その両手には一枚ずつ紙が握られており、こちら側からは見えないが何か文字が書かれているようだった。
「ご主人様の御心のままに。クリーチャーめはそれに従います」
「俺は正直どっちでもいいんだ。どっちにしろ多少の手間と多少の面倒があるが、どちらにしろ最後に行き着くところは同じだし結果もそう変わらない。ただ、それでも決めなくちゃならないからお前に決めてもらおうと思ってな」
ご主人様はいつも通りの笑顔でクリーチャーめにそうおっしゃった。ご主人様は時々こうしてクリーチャーめに何かを決めさせようと質問をなさるのだが、どうやらクリーチャーめの答えによってはとても大きく世界が変わっていっているようだった。
前に聞かれたときには、その言葉で動くことをお決めになったご主人様の手によって大きな出版会社が設立し、相当量の金貨がグリンゴッツとマグルの使う銀行に増えたらしい。
その前には突然この屋敷の改装をなされ、玄関のダイヤルを捻れば日本、中国、アメリカ等の様々な国にご主人様が新しくお買いになった屋敷に繋がるようになり、その屋敷の一つをクリーチャーの物としてお与えになった。クリーチャーは喜んでその屋敷をクリーチャーの宝物入れとした。
その前には箒を作る会社を作り、新興でありながらも古き良き技術と革新的な技術とを組み合わせた最高に近い箒を売り出して見せた。その時の金貨を使って後に色々な店を立て始めたそうだ。
このように、ご主人様にとってはどうでもいいようなことでも、世界はそれを受けて大きく変わることを強いられてきた。恐らく、今回も同じようにクリーチャーめの選択によっては今の世界は大きく変わっていくことになるだろう。
しかし、クリーチャーにはそんなことはどうでもいいのだ。クリーチャーの世界はこのお屋敷の中だけ。ご主人様が裏切り者の手から奪い、正しい形にしてくださったこの屋敷とご主人様自身の無事さえあれば、クリーチャーめはそれに関わることの無いどこがどうなろうと関係ないのだ。
「別にどっちを選んだっていいぞ。『今日は天気がいいから右』だとか、『今日の薪はいまいち火が付きにくかったような気がするから左』だとか、『今日の食事の品数は三品だから右』だとか、『今日も屋敷は綺麗だから左』だとか、どんな理由でも繋がりがなかろうともそれでいい。
クリーチャー。お前に任せる。俺に忠実なお前の選んだ道だ。それが善でも悪でも、貫き通して見せよう」
すっ、と挙げられる二枚の紙。それを追って上がるクリーチャーめの視界に優しく偉大なご主人様の笑顔が見える。
ご主人様は、クリーチャーめを信じてくださる。クリーチャーめの意見を取り入れてくださる。
ならばクリーチャーは、屋敷しもべ妖精としてご主人様のために働こう。幸い、老いていくしかないこの身体はご主人様のお作りになられた賢者の石を取り込むことによって不老となり、病も疲労もなくなっている。
クリーチャーは誇り高き屋敷しもべ妖精。この身の全ては、ご主人様のために。
クリーチャーはそう思い、ゆっくりと左右の紙を眺める。真っ白な紙は微動だにせずクリーチャーの視線を受け止めている。
そしてクリーチャーは、そっと左手の紙を指差した。
「……なるほど、こちらか。となると多少忙しくなるな」
ご主人様はのんびりそう呟くと、くつくつと喉の奥で圧し殺すように笑う。クリーチャーにはなぜそうなるのかはわからないが、それでも構わない。ご主人様が『クリーチャーは知る必要がない』とおっしゃったのだから、クリーチャーはそれを知ることはないのです。
クリーチャーはこうして、ずっとご主人様にお仕えするのです。老いぬ身体と、それを動かすための目的を与えてくださった心優しきご主人様に、クリーチャーの全てで恩返しをするのです。
side ハリー
クリーチャーが選んだ方の紙には、たった一つの単語が書かれていた。そこに書かれている側に力を入れ、もう片方を負かすようにする。バルバモートとホグワーツ。どちらが勝っても全く問題ないからこそできる、世界の命運を賭けたゲーム。暇潰しと実利を兼ねた、ある意味最高の遊びだろう。
今回選ばれたのは───『バルバモート』。世界中のマグル生まれを殺害し、マグルを全て支配し、純血の魔法使いである事こそが唯一にして絶対の支配者の証となる、まさに世紀末な世界。
……まったく、ヴォルデモートの奴はどうしてこんな世界を作ろうとしたんだか。俺には理解できないね。
まあ、理解できない物は理解できないなりに利用させてもらうんだがな。俺の思い通りに動くかどうかはわからないが、ある程度矛先を逸らして別の場所に向けてやることはできる。ちょっとばかし面倒だが、なにもできないよりはかなりましだろう。
……さて、それじゃあゆっくり世界を動かしていこう。今から丸二年の時間を使って、世界を都合のいいように変えていこう。今の俺には、それができる。
俺は眠るのが好きだ。正確には、眠りに落ちる瞬間の浮遊感と、眠りから覚める寸前のふわふわとした感覚が好きだ。
無理矢理起こされると、眠りから覚める寸前の感覚が一瞬にして散ってしまう。周りで騒がれると、眠る瞬間の浮遊感がなくなってしまう。
つまり、俺の理想は周囲に誰もいない場所で寝たいだけ眠ることができ、目が覚めて腹が減れば食事を食べることができ、ついでに多少の刺激を得ることもできる状況を手に入れることだ。
だが、まともな方法ではそんな場所を手に入れることはできない。仕方がないので今までは諦めていたが、この世界では念願の怠惰だが刺激のある生活を送ることができるようになるかもしれない訳だ。
店の方はあくまで趣味だし、辞めたくなればいつでも好きに辞められる。そのために面倒な雇用契約とかその辺りのことを完全に自分達の周りの者だけで賄ってきたのだから、そのくらいはできなければ嘘だろう。酷い詐欺だと騒げるレベルだ。
まあ、そう言う訳で───ちょっとこの世界には滅んでもらうことにした。純血の魔法使いの数は、間違いなくかなり少ない。だったらこの行動に成功すれば、俺の周りで騒ぎ回る虫を一掃することもできるだろう。
虫が虫同士で勝手に喰い合ってくれると言うんだから、好きにさせておくのが一番だ。
……さて、寝るか。
今回の話でルートが確定しました。ただし、もう暫くの間共通ルートが続きます。
次回作は……?
-
鬼滅の刃
-
鋼の錬金術師
-
金色のガッシュ
-
BLEACHの続き
-
他の止まってるやつの続き