ハリー・ポッター ~ほんとはただ寝たいだけ~   作:真暇 日間

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side エリー・ポッター

 

オリバンダーの店には沢山の杖が並んでいる。細長い箱に入り、何千と積み上げられた杖を見ていると、なぜか背中にゾクゾクと震えが走る。まるでこの静寂そのものに、なんらかの魔力が秘められているかのようだ。

 

「……魔力の匂いがするな」

「……わかるんですか?」

 

ぽつりと呟いたハリーさんの言葉に聞き返すと、ハリーさんは当然のように頷いた。

 

「まあ、わかるって言ってもあまりにも種類が多すぎて、どの杖がどの匂いかわかりゃしないけど」

「……ハグリッド? 魔力の匂いがわかるのって……」

「普通じゃねえ」

 

ああよかった。またハリーさん独自の特性だった。さっきからハリーさんの言うことは大体本当だけど異常なことばかりで、普通って言葉が全然当てはまらない。ハグリッドに毎回確認していなかったら、きっと私の常識は変な形に構築されてしまっていただろう。

教科書を買いに行った時も、ちょっと前に勝買ったのを読んで大体覚えたと言うのを確かめてみたら大正解だったし、服を買いに行った時には一度見てデザインを覚えたら自分で作ると言ってたし、大鍋は庭にあった鉱脈から掘り出した鉱石から自分で精錬して作ったと言っていたし……しかもそのどれもが事実だろうと言う結論に落ち着くし。

動物からは割と好かれるか全力で逃げられるかの二択だし、右目はたまに開けることがあっても左目はなぜか一度も開けないし……って、それは常識とは関係ない。

 

「いらっしゃいませ」

 

突然聞こえたその声に私は飛び上がった。私の隣に立っているハリーさんは全く驚いていなかったけれど、後ろで椅子が軋む音がしていたからハグリッドも多分驚いていたのだろう。

 

そこからは長く、そして早く時間が過ぎた。お爺さんは私にいくつも杖を試しに振らせたし、私はよくわからないなりに何度も杖を振った。振る度にお爺さんは納得しないで次々に新しい杖を持ってきて、私はそうして持ってきてもらう杖を振り続けた。

 

「いやいや、難しい……実に難しい客ですな? ご安心くだされ、間違いなくぴったり合うのをお探ししますでな……」

 

するりと棚の向こうに消えていくお爺さんを見送った後、ハリーさんは読んでいた本を閉じてぽつりと呟いた。

 

「……俺のは多分、さっきあった柊に不死鳥のやつかな」

「……わかるんですか?」

「なんとなくだがな」

「……じゃあ、私のもわかったりは……」

「そこの左から二番目の棚の入り口から見て左手の面にある上から三段目、奥から百二十二列目の下から二番目にある(くす)と一角獣の尾の毛のやつかな」

「細かいっ!? そんなところまでわかるんですか!?」

「普通だろ」

「……ハグリッド?」

「そんな顔をせんでもいい。安心しろ。異常だ」

 

ハグリッドのお墨付きをもらった。よかった、それがわかるのが普通じゃなくって。もしもそれが魔法使いにとって普通だって言うんなら、私は多分普通の魔法使いにはなれなかったと思うから。

……うん。

 

「本当によかった……」

「泣かんでもよかろうに」

「泣いている子を見ると弄りたくなるな」

 

ハリーさんの言葉を聞いて慌てて涙を拭き取った。ハリーさんにこれ以上弄られたら……って、今までは弄ってなかったってこと?

恐る恐るとハリーさんの顔を見上げてみる。ハリーさんはすぐに気付いたみたいだが、よくわからないと言う風な表情を浮かべている。

 

「よくわからんが、俺は他人を弄るのは好きだぞ」

「それはつまり今までも私を弄ってたってことですか!?」

「オブラートに包まれた優しい答えと、原液のままの辛い真実。どっちを聞きたい?」

「……じゃあ、本当の方を……」

「当たり前だろなに言ってるの?」

「ほんとだつらーい!」

 

あ、涙が出てきた。

 

「もっと弄っていいか?」

「やめてください!?」

 

初めの頃に感じていた静寂の魔力など今となっては一切感じることもなく、私はハリーさんの言葉に弄られ続けていた。私が返しているその事自体をハリーさんが楽しんでいると言うことに気付いたのは、お爺さんが持ってきた『樟と一角獣の尾の毛の杖』を手に入れて何でも許してあげられそうな気分になっていた時の事だった。

……それが私に合っていると言われた時に、ハグリッドについさっきと同じ質問をしてしまったが、ハグリッドも同じように返してくれた。

 

「さて、次はこちらのお客ですな? ……杖腕は?」

「両方。できれば左で」

 

ハリーさんがそう答えた瞬間、私が試した後の山のように積み重なっていた杖の一本がハリーさんの左手の中に飛び込んでいった。その杖をハリーさんが軽く振ってみると、私の時と同じようにパチパチと綺麗な火花が舞い躍り、辺りを一瞬明るく変えた。

 

「……じゃあ、この杖で」

 

ハリーさんはそう言ったが、お爺さんはその杖を見つめたまま動かない。……ハリーさんが言うには、確かハリーさんに合う杖は……

 

「……柊に、不死鳥の尾羽根……二十八センチ、良質でしなやか……」

「……ついでに、どこかの誰かさんが持っている三十四センチのイチイの杖と兄弟杖」

「ッ!?」

 

ハリーさんの言った言葉は聞こえなかったけれど、その言葉が聞こえたらしいお爺さんは驚愕の表情を浮かべている。しかしハリーさんはほんの僅かに浮かべた楽しげな笑みを消そうとすらせず、お爺さんに言った。

 

「大丈夫。俺は面倒臭がりの眠たがりだから、あんなことにはならないよ」

「……どこまで、知って…………」

「さてね? ……で、いくらだね?」

 

にっこりととても綺麗な満面の笑みを浮かべるハリーさんは、なんだかとっても悪い顔をしているように見えた。外から見える顔はあんなに綺麗な笑顔なのに、おかしいね?

 

結局私とハリーさんは杖の代金に七ガリオンずつを支払ってから店を出た。

 

「それじゃあこれで暫く別れだな。ホグワーツのグリフィンドール寮でまた会おう」

 

そう言ってハリーさんはいつの間にか私の目の前から消えてしまった。いったいどうやってあんなことをやっているのかはわからないけれど、ハグリッドが言うには魔法省が何も言ってこない所を見ると、あれは魔法では無いんだとか。

でも、一瞬で姿を消すだなんて、本当に魔法でも使わないといけないような気が……。

 

「……ねえ、ハグリッド? ハリーさんは本当に普通の魔法使いじゃないんだよね?」

「何度も言うが安心してええぞ、エリー。あいつはかなりぶっ飛んどるからな」

 

……ああ、よかった。

 

次回作は……?

  • 鬼滅の刃
  • 鋼の錬金術師
  • 金色のガッシュ
  • BLEACHの続き
  • 他の止まってるやつの続き

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