ハリー・ポッター ~ほんとはただ寝たいだけ~   作:真暇 日間

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 side エリー・ポッター

 

 ハリーさんは30分ほど姿を消してから戻ってきたけれど、その姿はなぜかいつもの姿に戻っていた。ホグワーツの制服は燃え尽きてしまったように見えたのだけれど、どうやらハリーさんはどこかで調達でもしたか、あるいはささっと作ってしまったらしい。

 戻ってきたハリーさんは、すぐに周りの炎と結晶を消した。先生達が『消失呪文』を使っても大量の水を被せても消せなかったその炎は、ハリーさんの意思ですぐさまその姿を消してしまった。

 ……ハリーさんってば本当に人じゃないよ。間違いなく人じゃない。ダンブルドア先生を含んだその場に居る魔法使いが総力を結集しても消せない炎を残していくとか、本当に人間じゃない。

 

 ハリーさんが炎と結晶体を消し去り、溶岩の海になっていた地面を元通りの柔らかな土に戻し、芝を生やして完全に迷路をクィディッチ・ピッチに戻している光景を箒に乗りながら眺める。

 実は、あの火が燃えている間は迷路のあった場所に近付くとそれだけで肌が痛くなり、私の脳裏に警告音が響き渡るほどだった。水をかけても水が炎に触れる前に全て蒸発してしまい、火の勢いは全く衰えなかった。

 それを、ハリーさんはできて当然と言うように消してしまった。ハリーさんの魔力はいったいどれだけ強力なのだろう?

 

 そして炎がおさまったところで、ハリーさんは優勝杯を掲げ持った。

 その途端に響く歓声。ハリーさんのことをよく知らない人達も、よく知っているホグワーツ生達も、等しくハリーさんに拍手を送った。

 ……私としては内容はともかくとして結果だけ見ると予想通り過ぎて拍手とかする気もあまり起こらない。でも、学校としてホグワーツが優勝したことは嬉しい。だからとりあえず拍手をしておいた。

 

 だけど、よく考えてみるとあれは明らかにおかしい。優勝杯に触れれば優勝だと言われていたのに、優勝杯に触れてどこかに消えてしまうだなんて……。

 それに、ハリーさんが消えてから暫くしてカルカロフが腕を押さえて全速力で逃げ出した。スネイプ先生も腕を押さえていたけれど、あの場所に何かがあるのだろうか?

 それに、一番おかしいのはムーディ先生だ。ハリーさんが居なくなった瞬間から慌て始め、そしていつの間にかいなくなってしまった。ハリーさんが戻ってきた今も、ムーディ先生はまだ戻ってきていない。

 

 けれど、それはそれ、これはこれ。今はホグワーツが優勝したことを素直に喜ぶことにしよう。疑うことはいつでもできるけれど、安心することはできない時だってあるからね。

 私は熱くなくなった地面に降りて、そのままハリーさんに飛び付いた。ネビュラスの最高速度からの飛び付きはぶつかっていくこっちの身体も結構痛かったけれど、ハリーさんは普通に受け止めてくれた。

 ただ、『妨害呪文』を無言で撃ち込まれたため一気に速度が落ちていたので途中で落ちそうになってしまった。顔面から地面に落ちるのは流石に痛いので遠慮したい。

 でもまあとりあえず、受け止めて貰えたんだしこれだけは言っておこう。

 

「優勝、おめでとうございます。ハリーさん」

「……ああ、そうだな」

 

 ハリーさんは私の頭をよしよしと撫でながら、いつも通りの面倒臭げな笑みを浮かべて返してくれた。

 

 …………こうしてハリーさんに抱き付いた時に、ふと気付いたことがある。

 ハリーさんから、血の臭いがする。凄まじく濃厚で、凄まじく新鮮な、たくさんの生臭い鉄の臭いだ。

 それも、料理をしている時のように手首から先だけで香るわけではなく、それこそ全身のあらゆる場所に怨念と共に染み付いているように感じる。

 殺された時に相手に恨みを持つのは、人間かそれに匹敵、凌駕する知恵を持つ生物に限られる。知恵を持たない動物などは、相手に恨みを持つよりも生きていたいと言う思いに集中するためだ。

 そして鉄の臭いから、恐らく人間に準ずる種族の物だろうと予想する。怨念の強さからしてマグルのような魔法力を持たない者ではなく、ある程度の魔法力を持っている相手であるはずだ。

 

 私が知る限りでこれらの条件を満たすものは、まずは人間の魔法使い。それから小鬼(ゴブリン)や屋敷しもべ妖精などの種族に、吸血鬼や人狼などの怪物と呼ばれる種族。巨人やトロル等の……かつてヴォルデモートに忠誠を誓っていた者たち。

 ただ、水中人等は血に鉄分ではなく銅が使われているそうなので例外とする。

 

 そして、優勝杯に触れてどこかに跳ばされる前にはそんな臭いはしていなかった。つまり、それは跳ばされた先で起きた出来事のはず。

 今年、私は三大魔法学校対抗試合に参加させられてしまった。そして、もしも私が一番初めに優勝杯に触れていてどこかに跳ばされていたとすれば……そこに居るのはきっと───。

 

 そこまで考えて、私は今の考えを投げ捨てた。こんなことはハリーさんに聞いたところで絶対に教えてくれないだろうし、どうして面倒臭がりで気紛れなハリーさんが三大魔法学校対抗試合なんて言う面倒極まりない大会に参加していったのかと聞いたところで嘘ばかりの答えではぐらかされておしまいだろう。

 ハリーさんは、嘘を言う時には目を閉じて笑う。普段話している時に目を閉じているのは、きっと嘘をついた時に目から心を読まれやすくするのを防止するためだろうし、この癖の存在を自分で知っているからこそいつもそうしているんだろう。

 そして恐らく、本当に相手を騙したい時には目を開いて自分の心すらも偽装する。そんなことをされてしまえば、私でなくてもハリーさんが嘘をついていることを知ることすらなく話にある程度納得してしまう筈だ。

 

「……ねえ、ハリーさん」

「どうした、娘っ子」

 

 ……けれど、それでも……私はそれを知りたいと思って行動する。ハリーさんに抱きつきながら、ハリーさんにしか聞こえないような声で、ハリーさんに問いかけた。

 

「……誰を、殺してきたんですか?」

 

 その問いの答えは、無反応と言う何よりも明確で何よりも雄弁な形で返ってきた。

 やっていなければハリーさんなら『やっていない』と答えるか、あるいは『何の話かわからない』という惚けた答えになるだろう。ハリーさんは嘘をついてもすぐに嘘だと理解できるようにしてくれる。

 だからこそ、ハリーさんが何も言わずに黙っていると言う反応が雄弁な答えになる訳なんだけれど。

 

 私の問いに、ハリーさんは反応しなかった。驚愕もなければ怒りもなく、図星をつかれたという反応も焦りや悲しみ、なぜそんな事を聞いてきたのかという感情すらも無かった。

 

 ……ハリーさんの無反応は、きっと何よりも分かりやすい答えなんだろうな。

 

 私は心でそう囁いて、ハリーさんを抱き締める腕に力を入れた。

 ハリーさんが何を考えているかなんて知らないけれど、私にはこうしてハリーさんを抱き締めてあげるぐらいしかできないからね。

 ……それが、ハリーさんに必要な事なのかどうかはわからないけれど。

 

 

 

 

 

次回作は……?

  • 鬼滅の刃
  • 鋼の錬金術師
  • 金色のガッシュ
  • BLEACHの続き
  • 他の止まってるやつの続き

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