ハリー・ポッター ～ほんとはただ寝たいだけ～

103

　作業用BGMがダブルラリアットから始まり、幻想郷祭囃子(秋)→悪リンゴ→神さびた古戦場→ペテン師が笑う頃に→U・N・オーエンは彼女なのか？→マトリョシカと続いて金の入り日に手風琴になったところで、ボーバトンの代表が救出された。戻ってきた時には気絶していたが、目が覚めた途端に半狂乱になって湖に戻ろうとして止められていた。どうやらあの歌を本気で捉えているらしいが、普通に考えればあれが本当に起きるんだったら代表の命をできるだけ守らせるためのルールなんて不要になるだろうからあるわけがないと言うことに気付かないんだろうか？

　……気付かないんだろうなぁ……若いから。

　そう考えつつ釣りを続けていると、ブルァが突然俺に襲いかかってきた。とりあえずフォイを盾にして魔法を受け止めてから投げて杖を奪い取ってやったんだが、それでもなぜか凄まじく憎々しげな視線を向けられている。なんでだ？

「げふ……そ……そのBGMが、原因じゃ……ないか？」

「なんでだ？」

「そりゃあ……ふぅ…………そりゃあ、課題を失敗して自分の大切な相手にもう二度と合えなくなるかもしれないって時に『無くしたものは見つからない♪』なんて歌詞のある歌を聞かされたらキレてもおかしくないと……」

「フィッシュ！」

「最後まで聞けよぉ！…………ん？」

「……え！？」

「……また人が釣れたか」

「…………？」

　なんかまた人を釣った。見たこともないプラチナブロンドの幼女だったが……釣ったものは大体食うことにしている俺でも、いくらなんでも幼女を食うのはなぁ……。

　ちなみに、この場合の『食う』と言うのはエロい意味でも性的な意味でも意味深にする必要もなく、カニバリズム的な意味で肉として食んで消化して俺の血肉にするという意味での『食う』だ。俺は確かに『俺が気に入った相手がストライクゾーン』と言われた事があるようなストライクゾーンの広い男だが、ちょっとこの状況でそう言うのはなぁ……。

　まあ、とりあえず……。

「リリース」

「「するなっ！？」」

　釣り針に引っ掛かってぷらーんと揺れていた幼女をリリースしようとしたら、フォイとブルァが突然キレた。フォイはプラチナ幼女に『浮遊呪文』をかけて湖に戻すのを阻止したし、ブルァは俺の釣竿を引ったくってリールを巻いてプラチナ幼女を岸にまで引き寄せていった。

「ガブリエル！無事なの！？　怪我は無い！？」

　……どうやらあのプラチナ幼女はブルァのために用意された人質だったらしい。気付かず釣ってしまったが、まあ別にいいだろう。

　……そう言えば、湖の中にはフォイだけじゃなくてg(グラム)の人質であるハー子と、娘っ子の人質であるロニー坊やが居るんだったか。余計な奴等がいないから、多分娘っ子はちゃんと間に合わせてくるだろう。

　どうせだし、いくつか携帯型ジャグジーバスを千の顔を持つ英雄で即座に新作して並べておいた。仮設トイレような見た目に反して中の空間はかなり広くしてあるし、タオルやらなにやらもしっかり揃えてある。

　中を覗くことはできないように作ったが、これ自体は試作品で、使ってもらった結果の意見を集計して好評なら万屋オリノの新商品として売り出すつもりだ。

　ちなみに悪用された場合には即座に俺に伝わって色々な報復が行われるようになっている。例えばこの中に他人を拐って閉じ込めたりしたら、間違いなくそれをやった相手は不幸な目に逢うだろう。なにしろ破滅神の系譜の言うことだ。破滅へ進む相手への予言で間違うことは、まず無い。

　ただ、完全なイレギュラーがあった場合には多少ずれたりはするが、それでも大雑把な流れは原作とそう変わらないことは理解した。変えようとすれば変えられると言うのもまた重要なことだな。

　そう言うわけで、出したばかりの携帯用ジャグジーバスにブルァとその妹を放り込んでおいた。見てるだけで寒いからさっさと入って温まれ、着替えは『呼び寄せ』と、妹さんの分は洗って再利用で、と。

　ブルァとその妹は多少怪しいと思いながらも普通に入っていったが、警戒方法があまりにもお粗末だったので無視。後はまだ湖に居るロニー坊やと娘っ子、gとハー子の分も用意しておくか。こんな季節に湖に飛び込んだんだし、間違いなく寒いだろう。

　風呂の前に養護教諭に診察されるかもしれないが、それが終わったらすぐに風呂に入れてやれるだろう。何人か嫌がるかもしれないが、風邪を引くよりはずっといい筈だ。

　……とりあえず釣りは続けるが、娘っ子とgは釣らないように気を付けないとな。課題の最中の選手を釣ったりしたら、課題の妨害として得点がかなり下がりそうだしな。

　……妨害無しだとは聞いてないが、流石にここで邪魔しようとするほど俺は外道でも下種でもない。その事はドラゴンから金の卵を拝借したときの事からもわかるだろう。俺は心優しく慈悲深いと言われたことがあるからな。

　……嘘ではない。心優しいと言われたことはあるし、慈悲深いと言われたこともある。回数はけして多くはないが、皆無ではない。だから嘘ではない。

　ただ、心優しいとか慈悲深いと言われた回数よりも遥かに多く鬼畜だとか外道だとか鬼だとか悪魔だとかドSだとか大魔王だとか破滅神だとか異常者だとか暴君だとか言われているだけだ。優しいところだってちゃんとある。

　ただ、あまり見せることが無いというのと、見せたとしても普段から見せている態度にすぐさま埋められていって目立たないから俺は基本的に外道だと思われるわけだ。

　……否定はできないが、元々する気もあまり無い。外道結構。

　……ただし、偶然何かの被害に巻き込まれることが増える可能性が非常に高くなると言うことだけは言っておこう。あくまで偶然だから、気にする必要は全く無い。

　……ブラック機関『埜(ノ)』が嫌がらせや誘拐や脅迫や強盗や窃盗やなにやらかにやらをして来るなんて言う事実は無い。何かをする度に何らかの方法で被害を押し付けようとしているとか、被害を出させることを目標に何かをするなんてこともない。と言うかそもそもそんな組織は無いのだから、存在しない組織の行動を語ろうだなんて事自体がナンセンスだ。

　そうだよな？

　……さて、湖からよく知った気配が近づいてきている。娘っ子が人質を連れてきたらしい。ハー子は……どうやらもう少し時間がかかりそうだ。本格的に死にそうになったら『呼び寄せ』か『空間転移』で拾ってやろう。

　だから、安心してのんびりしているといい。それが本当に安心できるかどうかは俺の知ったことじゃないが、のんびりしすぎて死なない程度にのんびりしていろ。その間、魚でも釣って……お、でかいな。フィッシュ！

　……わぉ。