幸運なノービス物語   作:うぼのき

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第30話 デートの場所は

 グラストヘイム狩り4日目。

 朝一番にカプラーさん達第1PTと一緒に、例の隠し通路から中央スペースに向かってみた。

 筋肉鎧と戦った場所は石で塞がれてしまい、中に入ることはできない。

 この入り口を塞いだ石は筋肉鎧が倒れても消えることはなかったのだ。

 ホルグレンさんが、カートをぶん回して塞いでいた石を砕きどけていった。

 最後は自らの拳で一発石をぶん殴ると、中の部屋への入り口が開通した。

 

 筋肉鎧はもちろんいなかった。鎧も剣もなかった。

 あいかわらず中央スペースにモンスターの姿は見えなかったので、このままモンスターが出ないならベースキャンプ地として利用することもできるかもしれない。

 しかし、グラストヘイム内で寝泊まりするなんてみんな落ち着かないだろう。

 この中央スペースはカプラ社や秘密の羽が定期的に観察して、今後モンスターが発生するかどうか、そしてあの筋肉鎧が再び現れるか見守ることとなった。

 

 カプラーさん達と別れると、僕達は予定通り騎士団1階で狩りを行った。

 僕の新たなスキル「宝剣」のおかげで、狩りはとても順調に進んでいった。

 手数が単純に3倍ですからね!

 と、最初は思っていた。手数が3倍だから殲滅速度が速いと。

 しかし、異常はすぐに感じられた。

 宝剣ではなく、僕が手に持つスティレットでモンスターを斬りつけた時にそれは分かった。

 そして僕1人でほとんどの敵を倒すことができた。

 

 さすがにグラリスさん達も気付き始めた。

 最初は新しい宝剣スキルの凄さに目を奪われていたが、僕の殲滅速度が異常であることに気付き始めたのだ。

 そしてグラリスさんが聞いてきた。

 

「グライア様。ちょっとお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

「はい、なんでしょうか」

 

「宝剣スキルは本当に素晴らしいスキルかと思いますが……モンスターを倒すのがいくら何でも早すぎませんか?」

 

「ええ、僕も同じ疑問を感じていました。そしてその答えは恐らく……筋力の加護が異常に上がっている、だと思います。

 モンスターを斬った時に手に残る感触が、今までと比べものにならないほど、強烈な感触が残るんですよ」

 

 僕は試しに宝剣を使わず、レイドリックにスティレットのみで戦ってみた。

 昨日レイドリック1匹を倒すのに必要とした時間の半分もかからず、レイドリックは光りの粒子となって消えていった。

 間違いない、僕の筋力の加護が劇的に上がっている。

 

 なぜだ? 昨日の筋肉鎧を倒したからといって、レベルが10も20も上がったわけじゃない。

 むしろ筋肉鎧から得られた経験値はほとんどない。

 それなのに、筋力の加護が跳ね上がっている。昨夜のマンティスは宝剣で全部倒していたから気付けなかったのだ。

 

 宝剣を手に入れたのと同じように、あの筋肉鎧を倒したことで加護の筋力も僕は得ていたのだろうか?

 HPは増えていないが、体力も上がっているように感じられる。

 特にスタミナ、持久力が上がっていて、どんなに動いても息が上がることがないのだ。

 明確な理由は分からないけど、おそらく筋肉鎧を倒したことで筋力の加護を得られたのだろうと結論付けて、狩りを続けることにした。

 

 狩りはあまりに順調でちょっと面白くない。

 昨日の出来事がなければ、2階に行ってみましょう! なんて言いたい気分だけど、そんな雰囲気ではない。

 言おうものならグラリスさんから説教をくらってしまうだろう。

 大人しく1階でひたすらレイドリックを狩っていった。

 

 宝剣スキルは本当に素晴らしい!

 今はホルグレンさんから借りているサーベル2本に使っている。

 ティアさんがアスペルシオ(武器に聖属性付与)を覚えたのでかけてもらっている。

 アスペルシオを受ければ、スティレットだけじゃなくて宝剣スキルの2本も聖属性となるのだ。

 

 射程20m内の敵に向かって飛んでいく2本のサーベル。

 自動で勝手に戦ってくれるのだが、僕が意思を込めるとそれに従ってくれる。

 例えば、レイドリックとライドワードが同時に向かってきたとして、宝剣スキルはもっとも近い敵に向かっていくようなのだが、僕が後ろにいるライドワードに向かっていけ、と指示を出せばそれに従ってライドワードに斬りかかる。

 

 また、レイドリック1匹を相手にするとき、後ろから斬りかかれとか、横から斬りかかれと指示を出せばその通り動くし、一度出した指示を覚えるのか、次から同じような動きとなっていく。

 

 サーベルが宙に浮いて動き回るのだから、僕の動きの邪魔にならないように左右の後ろ斜め付近から斬りかかるように指示を出しておいた。

 僕が一緒に相手しない敵には、正面から斬りかかるようにとも指示を出した。

 

 しかもこの宝剣スキルによって自動で戦う剣の動きが、これまた素晴らしい。

 斬撃速度は僕の俊敏依存と思われるが、剣の技術が凄まじいのだ。

 僕なんて相手にならないほど素晴らしい剣術です。

 勝手に戦ってくれる達人級の剣……慣れるとこれ無しでは生きていけなくなりそうだ。

 

「本当に便利なスキルですね」

 

 宝剣スキルの威力を目の当たりにして、グラリスさんが呆れた声で呟く。

 

「すごいスキルですよね。

 プロンテラに戻ったら、預けてあるファブルカードでこの宝剣スキルの検証をしたいんですよ。

 もしかしたら、宝剣スキルを使った剣に刺さっているカードの効果が適用されるかもしれないじゃないですか。

 HPが増加されるかどうかで、検証してみようと思います」

 

「もし適用されるなら、グライア様は36スロットの武器カードが適用されることになると……恐ろしいことですね」

 

「そうなったらすごいですよね!」

 

 ゲームの知識から推測すると、ATKアップ系のカードはその剣にしか意味がないけど、ステータスアップ系を刺せば全体に影響を与えることができるはずだ。

 クリティカル率は体感的には80%を超えている。

 コボルトクリップもあるから、ゲーム仕様なら100%なんだろうけど、ここではちょっと違うようだ。

 クリティカル(大)の効果はゲームのように数値化されているわけではないし、もしかしたら上限が設けられているのかもしれない。

 

 宝剣のうち1本は状態異常カードを刺すか。

 サベージベベのスタン、メタルラの沈黙、ファミリアの暗黒でそれぞれ4枚刺しなんてどうだろう。

 

 もう1本は、特化剣にしよう。

 いまはボット帝国との戦いがあるから、中型の人間族相手への特化剣がいいな。

 いずれ平和になってモンスター狩りするなら、各種特化剣を作っていきたいものだ。

 

 僕が装備するスティレットは今のままで十分かな。

 ウルフ、スケルトン、ソルジャースケルトンの4枚刺しでクリティカル確保がいいだろう。

 

 しかしスロット12のフランベルジュを2本も作成するとなれば、必要材料がとんでもないことになる。

 いまは狩りで得られる材料関係をカプラ社や秘密の羽に提供しているから、自分のストックが増える速度が以前より遅い。

 アルデバランを奪還できた際には、それ相応の報酬をもらえることになっているから、その時にスロット12のフランベルジュ2本下さいって言ってみようかな。

 

 いきなり最強装備の高望みをしても無理なので、プロンテラに戻ったらグラリスさんに預けてある鉱石関連の材料と睨めっこして、いま用意できる最良の剣を2本考えよう。

 

 

 明日の5日目は、4日目までの結果を見てPTを入れ替える予定だったのだが、ダンデリオンの第2PTはそのまま第2PTとして狩りをすることになった。

 プーさんの一件が関係しているのだろう。

 

 第1PTと第3PTはメンバーを入れ替えることになっている。

 僕のPTは、ナディアさん(ナイト)、ソリンさん(前衛カプラ嬢)、アイリスさん(ハンター)、グラリスさん(踊るカプラ嬢)、ホルグレンさん(ブラックスミス)、マルダックさん(ブラックスミス)、ロドリゲスさん(ウィザード)、ティアさん(プリースト)、ローラさん(プリースト)となっている。

 僕を入れて10人だ。

 入れ替えるといっても、第1PTから5人とマルダックさんが僕のPTに入る形となっている。

 ウィザードのロドリゲスさんと、プリーストのローラさんは秘密の羽メンバーで夫婦でもある。

 神力範囲外で狩りを行う夫婦ペアで有名だったらしく、カプラーさんやホルグレンさんとも旧知の仲だそうだ。

 そのため信頼も厚く、僕の宝剣スキルを見せても問題ない。

 

 宝剣スキルに関しては、当分の間秘密にすることとなった。

 アルデバラン奪還作戦の時には使うことになるけど、それまではピンチにならない限り秘密にする。

 そのためダンデリオンの人達の前では使わないように指示を受けた。

 昨日の夜の狩りを見られていないことを祈ろう。

 

 明日はナディアさんをリーダーにして、グラストヘイムの各地を回るそうだ。

 ボス級の危険なモンスターがいる地帯は避けるけど。

 

 日が落ちるまで、騎士団1階で黙々と狩りを続けた僕達はベースキャンプ地に戻ることにした。

 今日1日だけでレイドリックカードを7枚ゲットした。

 その他にもエルニウムやオリデオゴンなど大量ゲットなので、十分な成果といえよう。

 カプラーさんの喜ぶ顔が目に浮かびそうだ。

 

 ベースキャンプ地まであと少しのところで、スキルの手紙が届く。

 差出人の名前だけ確認すると中身を読まず、まずはカプラーさんへの報告に向かった。

 しかし第1PTはまだ戻ってきていなかったため、一度自分のテントに戻る。

 そして、誰もいないテントの中で僕は手紙を読んだ。

 

 

  グラちゃんへ

  今夜、デートしよう♡

  プーちゃんより

 

 

 プーさんと2人きりになる機会を得るのは難しいかと思っていたら、向こうからお誘いがきた。もちろん、みんなに見つからないように抜け出す必要があるけど。

 今夜、僕はプーさんの秘密を知ることになるのだろうか。

 それは、僕にとって良いことなのか、悪いことなのか……今は夜を待つばかりだ。

 

 第1PTが戻ってきたと報告を受け、カプラーさんに今日の成果を報告しにいった。

 予想通り、カプラーさんはとても喜んでくれた。

 ホルグレンさんも豪快に笑い、成果を祝ってくれた。

 そして、明日の行動予定に関して軽く打合せをすると僕はテントを出ていった。

 

 食事を済ませた僕はマルダックさんと話していた。

 マルダックさんは明日初めてグラストヘイムの中に入る。

 今朝、師匠のホルグレンさんから急に言われたそうだ。

 

「お、俺の斧がうなるぜ!」

 

「手が震えてますよ?」

 

「うるせー!」

 

 マルダックさんは緊張していた。

 初めてグラストヘイムなのだから、当たり前だ。

 僕も初日はかなりビクビクしていたけど、みんなに守られていたので安心感があった。

 マルダックさんはたった10人で、グラストヘイムで狩りをするなんて無謀な行為をいきなり体験することになるのだ。

 でもみんな強い人ばかりですから大丈夫ですよ、と一応励ましておいた。

 

 マルダックさんと話していると手紙が届く。

 プーさんがデートの場所を指定してきたので、僕は自分のテントに戻ることにした。

 さて問題はティアさんが僕のことをずっと見守っているのだ。

 ティアさんが僕を見守っていることは、全員分かっている。

 ティアさんはそもそも探偵のように隠れて尾行するなんて技術はないし、本人も特に隠そうとはしていない。

 一定距離を保って主である僕を見守っているのだ。

 

 そんなティアさんの行動と重ねて、カプラ嬢の誰かが常に僕を見ている。

 これも見守りなのだろう。

 何から僕を見守っているのか分からないが。

 いまは、ビニットさんが僕を見守っている。

 

 テントの中の寝袋に入った僕は「フリルドラカード」を刺したフードを装備すると、「クローキング」を発動する。

 そして同じテント内にいる人達に気付かれないように、テントの壁伝いに歩いて外に出ていく。

 ティアさんもビニットさんもまだ近くにいたけど、テントの中で休んでいる僕をずっと見守るなんてことはしないだろう。

 僕はそのまま夜のフィールドへ闇に紛れて向かっていった。

 

 

 デートの場所に指定されたのは簡単に辿り着ける場所じゃない。

 グラストヘイム内にある騎士団1階、例の中央スペースで筋肉鎧と戦った場所を指定してきたのだ。

 宝剣スキルと筋力の加護を得た今の僕なら、1人で辿り着くことできるけど、プーさんは宝剣スキルや筋力の加護のことは知らないはずだ。

 それらがなくても、僕なら辿り着けると思っているのだろうか。

 

 レイドリックやライドワードを倒しながら中央スペースに向かっていくと、マンドラゴラカードが落ちた。

 こんなところで運を使ってしまうとは!?

 ゲームでもこういうことはたまにあった。

 ロッダフロッグカードを狙ってカエルマップで狩りをしていた時だ。

 ドロップしたアイテムをポポリンが吸収してしまった。

 カードを狙っていると、ドロップした中にカードがあったんじゃないか!? という疑心暗鬼に陥る。

 そしてそれを確かめようとポポリンを倒すとカードが落ちる!

 やっぱり! と思ってそのカードを拾うと……ポポリンカードだったのだ。

 一瞬ロッダフロッグカードか!? と思っただけに落胆も大きく、カードドロップ運をポポリンで使ってしまったのがさらに悔しくて落ち込んだものだ。

 

 ゲームのことを思い出すとなんだか懐かしい。

 この世界に連れ込まれてしまって、あれよという間に時間が流れ、生きていくことに必死で頑張っていたけど、そういえば元の世界はどうなっているんだろう?

 いきなり僕は消えてしまった人になっているのだろうか。

 家族のことを思い出すと、ちょっと悲しい気分になってきてしまった。

 

 考えたところで、どうしようもない。

 いや、むしろ戻りたいと願うなら、僕は前に進むしかない。

 

 最高神オーディン。

 彼に会うことが元の世界に戻る唯一の道のはずだ。

 会えたところで戻れないかもしれないけど、僕をこの世界に連れ込んだ張本人から戻れないと言われるまでは希望を残しておきたい。

 

 フェイさんの運び屋で各地を駆け回っていた時、オーディンを祭っている神殿などの存在を聞いて回っていた。

 どの街にもそれなりの神殿があって、オーディンを祭っていた。

 そこで祈りを捧げたこともあったが、オーディンの声が聞こえることはなかった。

 

 ここが北欧神話の世界だとすれば、オーディンはアースガルドにいるはずだ。

 神々が住まう世界。

 ミズガルズから虹の橋ビフレストを渡ることでアースガルドに辿り着ける。

 しかし虹の橋ビフレストは終末の戦いラグナロクの時に壊れてしまっているはずだ。

 

 これらは、元の世界にいた頃の神話の知識でしかないから、必ずこの世界に当てはまることではない。

 それでも、それにすがってでも、僕はオーディンに会わないといけない。

 思考を巡らす僕の周りを宝剣が飛び回り、行く手を遮るモンスター達を斬り捨てていく。

 やがて隠し通路の壁をすり抜け、ワープポイントから中央スペースに飛んだ。

 

 そして筋肉鎧と戦った部屋に着いた。

 デートで指定するには辿り着くのが本当に危険な場所だけど、スリルがあるほど恋は燃えあがるんだっけ?

 筋肉鎧の鎧が置かれていた部屋の奥に、真紅の髪の女性の後ろ姿が見える。

 

 

 その姿は……ハイウィザードの姿だった。

 


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