幸運なノービス物語   作:うぼのき

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第24話 今後の計画

 コロシアムにある一室に、関係者全員が集まっている。

 カプラーさんが改めてディフォルテーさん達5人のカプラ嬢を僕とナディアさんに紹介した。

 ナディアさんもカプラ嬢の戦闘力を知らなかった。

 というか秘密の羽に誘われたのも、つい先日とか。

 それで今日、僕がディフォルテーさんと勝負するので、そこでカプラ嬢の戦闘力を見たらいいのでは? とカプラーさんから話があったらしい。

 

「本当はティアにも見せたかったんだけど、勝負するのが貴方と聞いてティアには内緒で来たわ」

 

「え? ティアさんも秘密の羽のメンバーなんですか?」

 

「そうよ。むしろ私より神力範囲外での戦闘経験豊富なティアの方が、カプラーさんにとっては重要視されているわ」

 

「いえいえ~そんなことございませんよ。ナディア様も大事な戦力として期待しております」

 

「ふん! 誰かさんのおかげであんな風になったティアに付き合って、私も神力範囲外での戦闘経験を積むことになったのよ。

 ティア1人で行かせてたら、蝶の羽での離脱タイミングを逃して本当にいつか死んじゃいそうだったからね。

 まあ最近は、誰かさんが何か言ったのか知らないけど、前ほど無謀なことはしなくなったけど……」

 

「そ、そうですか」

 

「ナディア様も! ティア様も! そしてグライア様も~! 神力範囲外での戦闘経験をお持ちというのがポイントなんですよ!

 しかもプロンテラに作られた訓練用の場所ではなく、本当に命を賭けた戦いの経験を持っていることが大事なんです!

 アルデバランを奪還するに当たって、命を賭けた戦いに慣れていることは必須条件と言えるでしょう!」

 

 カプラーさんはずっと上機嫌だ。

 チラチラと怪しい視線を僕に向けてくるので、別の意味で怖くなる。

 そんなに熱い視線を向けられても困るんだけどな。

 

 カプラーさんから説明のあったカプラ嬢の戦闘力は、ソリンさんを除いた4人は同じ能力だった。

 鞭を武器とする。

 矢を鞭で飛ばすことができる。

 スクリームというスキルにより、一定確率で敵をスタン状態に出来る。

 ただし、これは同じPTメンバーも低確率でスタン状態にしてしまうらしい。

 僕との勝負の時に、グラリスさんはディフォルテーさんのPTに入っていなかったそうだ。

 

 さらに、踊り舞うことで特殊なスキルを発動できる。

 ディフォルテーさんの「私を忘れないで」の舞いは、一定範囲の敵の動きを鈍らせることができる。

 グラリスさんの「ハミング」の舞いは一定範囲の味方の命中を上昇させる。

 だからソリンさんのバッシュが僕に当たったわけだ。

 

 他にも「サービスフォーユー」という舞いがあり、一定範囲の味方のSPを増加させて、しかもスキルの消費SPを減らしてくれるそうだ。

 さらに「幸運のキス」という舞いは、なんと一定範囲の味方のクリティカルを上昇させるらしい!

 きたこれ!

 グラリスさんはハミングと幸運のキスを舞えるらしい! いいね!

 

 ソリンさんは突然変異で生まれた戦闘カプラ嬢と呼ばれている。

 なぜかバッシュが使えるし、しかもペコペコに乗ることも出来るそうだ。

 さらには味方のダメージを自分が肩代わりする「ディボーション」に「ヒール」が使える。

 僕との勝負では使わなかったが「リフレクトシールド」というスキルもあり、これは近距離物理攻撃のダメージを相手に反射するスキルだそうだ。

 HPもカプラ嬢としては信じられないぐらい高くて、カプラ嬢の平均的なHPより2000近くも高いそうだ。

 

 ナディアさんはもうすぐナイトの天職を得る予定らしい。

 バッシュに加え範囲攻撃のマグナムブレイクのスキルを得ていた。

 同じくティアさんも、もうすぐプリーストの天職を得る予定だとか。

 

 そして話題は僕のことになった。

 なぜあんなに速く動けるのかと。

 オーディンに会ったことは伏せた。あれを話すのはプーさんだけにしておこうと思う。

 ただ単純に俊敏の加護だけが異常に強くなっていったと説明した。

 特に隠しているスキルもないと説明したけど、実は1つある。

 でも“あのスキル”は自分だけが助かるスキルなので、みんなに伝えるのが嫌だった。

 お前はいざとなったらあのスキルで逃げるんだろ? なんて思われるの嫌だし。

 

 僕が自分のことを説明していると、グラリスさんがチラチラと僕を見てくる。

 ドロップ率のことだろう。

 そもそもグラリスさんが僕を秘密の羽に入れたかったのは、アイテム関連の提供を期待してのはずだ。

 はっきりと僕の口からドロップ率のことを聞いたことがないので、グラリスさんは僕が話してくれることを期待しているのだ。

 

 さて、どうしたものか。

 ぶっちゃけ僕もはっきりと自分のドロップ率がどれくらいなのか分かっていないんだよな。

 しかも、高いドロップ率を得るためには僕が最大ダメージを与えるか、トドメを刺すか。

 となると、必然的に僕にたくさん狩りをして欲しいと願うはずだ。

 そうなると問題なのが、民間の荷物を誰が運ぶかということ。

 フェイさんにはお世話になったし、プロンテラや他の街の人達とも仲良くなったいま、もう荷物運びはしませんでは薄情に思われるだろうし、僕も嫌だな。

 でも何も話さないというわけにはいかないか。

 

「それと、僕もはっきりと分かっていないのですが……僕がモンスターを倒すとアイテムをドロップする確率が非常に高いんですよ」

 

 チラリとグラリスさんを見ると、知的でクールなグラリスさんが、まるで少女のように嬉しそうに微笑んでいた。

 

 

 グラリスさんに預けているアイテムの数々を伝えた。

 そして自分の装備がいまどんな装備なのかも。

 スティレットはホルグレンさんが製作したので、ホルグレンさんは知っていたけど、そのスティレットにカードが10枚刺されているとは思っていなかったようだ。

 しかも同一カード4枚刺しが2つに、残りもソルスケが2枚だ。

 さらには、防具の盾、鎧、肩がスロット4で、靴はスロット3の頭がスロット2。

 それを聞いた時のみんなの表情は、スクリーンショットに撮っておきたかったな。

 

 僕の能力を考慮した上で、今後の計画の打合せが行われた。

 

 

♦♦♦

 

 

「そうか。

 お前がいてくれると何かと助かるんだが、アルデバラン奪還のための大事な任務となれば仕方ない。

 しかしただのノービスのお前にそんな重要な任務大丈夫か? と思うところもあるが、お前の荷物を運ぶ速さからして、ただのノービスではないとは思っていたよ。

 カプラ社が全面的に協力してくれるなら、遠隔地への荷物運びも滞ることはないだろう。

 しっかり任務を果たしてこい!」

 

「はい! ありがとうございます!

 本当に今までお世話になりました」

 

「おいおい。

 その任務とやらが終わったら、また戻ってこいよ?」

 

「フェイさんそんなこといって、可愛いカプラ嬢が来てくれるの楽しみなんでしょ?

 僕が戻ってきたらカプラ嬢と会えなくなるから本当は戻ってこなくていいと思ってるんでしょ!?

 顔がにやにやしていますよ!」

 

「うるせー! さっさとアルデバランを取り返してこい!」

 

 フェイさんに今後は運び屋の仕事が出来ないことを伝えた。

 代わりにカプラ社が荷物運びを手伝ってくれることになった。

 これで僕は狩りに集中できることになる。

 

 寝床の倉庫から寝袋などの荷物は全てアイテムボックスの中に入れてある。

 突然のお別れとなってしまったが、仕方ない。

 今後はフェイさんの倉庫ではなく、カプラ社が用意してくれた宿に泊まることになる。

 グラリスさん達の宿の真正面にある宿だ。

 こっちはカプラ社の男性従業員のための社宅である。

 その一室を僕に提供してくれたのだ。

 

 国は3ヶ月後、アルデバラン奪還作戦を行うそうだ。

 ナディアさんとカリスさんの砦戦が行われる時期と重なるが、既に2人の砦戦は延期が決まっている。

 しかし延期のことは発表していない。

 ボット帝国の裏にはレッケンベル社がいる。

 つまり相手はモンスターではなく、人間だ。

 ルーンミッドガッツ王国の貴族の息子娘が婚姻を賭けて砦戦を行う。

 そう思わせておいて、アルデバランを急襲する。

 ボット戦士そのものは魂のないクローンモンスターだ。

 しかしそれを指揮している人間を欺くことが出来ればと考えたのだ。

 

 国の作戦にカプラ社と秘密の羽も一緒に作戦に参加する。

 しかし、カプラーさんは国の騎士達を信用していない。

 アルデバランでまともに戦えるとは思っていないのだ。

 

 そこで僕達だ。

 命を賭けて戦うことが出来る者を育成しようってわけだ。

 これから3ヶ月、神力範囲外での狩りを軸に鍛錬していくことになる。

 僕にはそれ以外に、対人戦に有効なカード集めの任務もある。

 

 これからが大変だ。

 でもちょっとわくわくしている自分もいる。

 幸運なドロップ率だけではなく、僕自身がちゃんと戦力として期待してもらっていることが嬉しいんだ。

 オーディンに導かれた僕が、この世界のために何か出来る。

 その先に何が待っているのか分からないけど、何もせずに生きていくより、自分の力で自分の道を見つけていきたい。

 

 僕の装備、アイテム、カード集めにはグラリスさんとソリンさんが協力してくれることになった。

 グラリスさんの幸運のキスの舞いと、ソリンさんのディボーションとヒールがあれば、強いモンスターを狩ることも出来るからだ。

 高いドロップ率を期待するには僕1人で倒す必要があるので、この布陣となった。

 

 僕は秘密の羽にアイリスさんを推薦しておいた。

 僕と一緒に狩りをしていたアーチャーで、僕の実力のことも知っていると。

 みんなの前ではさすがに肩車戦法を取ることはできないけど、アイリスさんなら普通に戦っても十分に戦力になるはずだ。

 ディフォルテーさんが接触してみると言ってくれた。

 

 アイリスさんと共にプーさんも推薦した。

 しかしそれはだめだった。

 

「プー様は既に別の組織に所属しておられるそうです。

 神力範囲外で狩りをしている主だった冒険者の方達については全て調査しておりまして、信頼できる方には秘密の羽のメンバーになってもらっております。

 ですがプー様は既に「ダンデリオン」というモロクで活動している組織に所属しておられました。

 モロクで活動するボランティア団体なのですが、幹部は実力者ばかりのようです。

 アルデバラン奪還作戦には協力を申し出て下さっているようなので、共に戦うことになると思います」

 

 プーさんはギルドには所属していないけど、ダンデリオンという組織に入っていた。

 一緒に秘密の羽で活動できればよかったけど、プーさんにはプーさんの目指すところがあるのだろう。

 

 プーさんの話題の時にちょっと気になる情報も耳にした。

 

「そういえば最近、モロクで「どうしてモテないんだ~!」と叫ぶ変なアサシンがいるという噂が……」

 

 僕はその情報を何も聞かなかったことにした。

 

 

♦♦♦

 

 

 翌日から地獄のようなスケジュールが用意されていた。

 寝る時間以外はずっと狩りの状態です。

 ゲームなら廃人と呼ばれるようなスケジュールです。

 

 グラリスさんやソリンさんなど、カプラ嬢さん達と一緒に狩りをしてみて分かったのが、アルデバランに残されたカプラ社の仲間達を1日でも早く救ってあげたいという想いだった。

 特に「ダブリュー」というカプラ嬢を心配していた。

 新人のカプラ嬢の中でも、早くからカプラ倉庫や戦闘スキルに目覚めていた期待の星で、みんなからは末っ子のように可愛がられていたとか。

 

 イズルートダンジョンではタラフロッグを狩りまくり、Sシールド狙いでカナトゥスも一緒に狩りまくる。

 神力範囲外の3FにいるオボンヌからはSセイントローブを狙い、鍛錬のついでに狩っていった。

 人間型モンスターへのダメージ増加(大)のヒドラカードを狙った時は、ちょっとわざとグラリスさんにヒドラの触手が伸びないかと期待したが、最初にタゲを取る僕以外に触手が伸びることはなかった。

 そしてなぜかヒドラの時はソリンさんもディボーションをしてくれなかった。

 

 Sバックラーを求めて嫌な思い出のあるゴブリン村にも連れていかれた。

 神力範囲内だからと、かなり無茶な狩りをさせられた。

 一度だけゴブリンリーダーに遭遇したけど倒すことが出来た。

 ゴブリンリーダーの仮面がドロップしました……。

 

 僕が中ボスカードのセット効果を狙っていることが分かると、中ボス狩りも手伝ってくれた。

 マスターリング、トード、ドラゴンフライ。

 ドラゴンフライからはS3クリップが出た。

 こいつもクリップ落とすのか!

 トードからは大きなリボンが何個も落ちて、カプラ嬢のみなさんに上げたらすごく喜んでもらえた。

 後でアイリスさんにそのことがばれて拗ねられた。

 

 アイリスさんも秘密の羽に入った。

 そのため、僕のドロップ率のことを知ることになったのだ。

 秘密の羽に入ることになった時に、僕から直接伝えたんだけどね。

 大きなリボンを求めてトードを狩っていた時に内緒にしてごめんと謝った。

 怒られるかと思ったけどそんなことはなかった。

 でも、大きなリボンが大量にカプラ嬢に渡ったことは、ちょっと怒っていたのだ。

 

 エンジェリングとゴーストリングがポリン島に出現すると、深夜でも叩き起こされた。

 天使のヘアバンドは2個出たけど、結局カードは1枚も出なかったな。

 ゴーストリングを倒すのがしんどかった。カプラ嬢総出でサポートしてくれるからゴスリンと1対1の状況になれるけど、念属性相手はしんどい。

 属性短剣はホルグレンさんが用意してくれた。

 

 その他にも、とにかくいろんなところに行っては、延々と狩りをした。

 高いドロップ率のためにも、僕は1人で戦わないといけない。

 グラリスさんとソリンさんは囲まれた時は助けてくれるけど、基本的に補助スキルを使うのみだ。

 汗を流して息を荒げて戦うのは僕である。

 

 アイリスさんは、ナディアさんのPTに入ってレベル上げをしている。

 ティアさんとアイリスさんが初めて会った時、ティアさんがアイリスさんを実に不思議そうに見ていたそうだ。

 とは言ってもあいかわらず目隠ししているそうなので、目と目は合っていない。

 そして、何やら「匂いが」とかティアさんは呟いていたとか。

 僕は一度もティアさんと会っていない(というかナディアさんが会わせてくれない)ので、ナディアさんから伝え聞いただけ。

 たまにアイリスさんは僕に会いにくるけどね。

 それなりに上手くやっているそうなので、一安心だ。

 ただ、ティアさんが自分の太ももや股の匂いを異常に嗅ぎたそうにするのがちょっと怖いとアイリスさんが言っていたな。

 

 

 あっという間に2ヶ月が過ぎた。

 僕のベースレベルは75になっていた。

 いったいどんだけハイペースなんだよと思う。

 

 カプラ嬢の戦闘スキルと一緒に戦ってくれることを事前に知っていれば、僕の装備のカードの考察ももっといろいろ考えられたかもしれないが、あれこれ欲しても仕方ないので良しとした。

 アルデバランを取り返した後も戦いは続く可能性が高いのだ。

 今後、また装備は揃えていけばいいさ。

 これまでの狩りで得た装備、カード、アイテムのほとんどはカプラ社へ提供して、カプラ社から秘密の羽や国などに無償で渡されている。

 全てはアルデバランを奪還するためだ。

 

 

 そして明日から、僕らは鍛錬のためにある場所で狩りを行うことになっている。

 もちろん命を賭けて。

 

 その場所の名は「グラストヘイム」

 

 僕が知る限り最高難易度のダンジョンである。

 


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