ログ・ホライズン ~わっちはお狐様でありんす~   作:誤字脱字

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おひさしぶりです
新章の幕開けと言う事で書きました

本編は次からでお願いします


〈善悪〉: 狐と採取者
いーえっくす: 一『フジ』・二『鷹』・三『なすび』


 

「「「「あけましておめでとうございます!!」」」」

 

日本サーバーにおいても1月1日……元旦は特別な意味合いを持っている

新年の始まりであり、新しい年を祝う祝日なのだ

それが、例えゲームが現実になった非常事態においても日本で暮らしていた冒険者達は、その習慣が抜けず、お祭り好きと言う事もあり日本サーバー全体が新年を祝っていた

 

そんなこんなで現在、〈アキバの町〉はお正月真最中なのである

昨夜は、年越しのカウントダウンを友人と共に行っていた少年組は夜遅くまで一緒にお祝いしていた為、起きたのは昼を前にした時刻であったが、それは年長者組も同じだったようでキッチンでお雑煮の準備をしているにゃん太以外は誰も起きてはいなかったのだ

 

「はい、おめでとうございますにゃ。今年もよろしくお願いしますにゃ」

「こちらこそよろしくお願いします!」

 

普段と変わらず笑みを浮かべながらも食卓にお雑煮と一緒にお節料理を並べていけば部屋に良い香りが漂う訳で―――

 

「はぁ~ぁ……にゃん太班長、おはよ」

「はい、あけましておめでとうございますにゃ」

「…あぁ、そうか。今年もよろしくね、班長」

「はいにゃ」

 

年長者組も香りに連れられて次々と起き始め、新年の挨拶を交わして行き一人を除いて全員が食卓に着いたのであった

色取り取りなお節料理は勿論、テーブルの中央に置かれた焼きたてのお餅は、自分で好きなだけ取って良いと云う集団生活に良くあるバイキング形式で振る舞われ、新年早々ギルドメンバーは、にゃん太の手料理を大いに楽しんだ

 

「お雑煮か……久しぶりに食べたよ」

「まぁ、一年に数日しか食わないしな?俺の実家だと作り過ぎて数日どころか二月まで餅祭り!なんて事があったぞ?」

「そうですね~。お餅はお腹に溜まりますしカロリーも高いのでアイドルである私は困っちゃいますね!でも止められない☆」

「私の実家では、余ったお餅は、オカキにしていたが…」

「勿論、用意してますにゃ」

「感謝する、老師」

 

案の上、正月あるあるを語りながら実家はどうだった、私の実家はどうだったと各家の正月事情を話す年長者組に対し少年組は、初めての行事で困惑気味のルティに五十鈴を筆頭に正月に関わる事を話していた

 

新年早々、賑やかに行われた今年初めての『記憶の地平線』の昼食だが、遂に駄狐も動き出す―――――――――

 

「Happy!new!ear!」

「アッツ!?…ってイヤーは耳じゃないですよ!」

 

――――――――シロエの耳に焼きたてのお餅を当てながら

 

新年早々、やらかす駄狐は、年を越しても勢いは止まる所を知らず、今度はその毒牙を少年組に向けようとしたが、食べ物で悪ふざけをする行為をにゃん太は黙っている筈がない

 

最年長であるにゃん太のやった事は簡単

少年組達に飛びかかった駄狐の襟元を掴み、軽く引っ張っただけ

言葉にすれば対した事は無いが、実際には息を止めるには十分な行為であり、慣性の法則に則り駄狐の首は自身の着物で絞められ、力なく項垂れた

 

にゃん太に首元を掴まれた駄狐は、席に降ろされてからもピクリとも動かず、眼は白目を剥いて口は半開きのまま、その口からは白い煙がいまにも飛び出そうであった

しかしながら、彼女の所属するギルドメンバーは『いつもの事』と気にも留めず食事を進めていった……もはや駄狐の口から白い煙が出るぐらいでは慌てる要因にはなり得ないようだ

 

そんな訳で駄狐を放置し、食後の一服を始めるメンバーの話題はこれからの行動であった

 

「お正月、か…実家に帰って寝てた思い出しかないや」

「俺もそうだな~」

「僕は~TV見てましてね☆」

「わっちも、寝正月でありんす!」

「…復活したか駄狐」

 

なんとも味気ない年長者組に対し、少年組は違った

 

「私達の家の近くには神社があって毎年、お廻りしていたんです」

「ちっちゃな神社だったけど、人も多く集まらないから雰囲気でてるんだ」

「へぇ~、私は友達と年越しして、そのまま初日の出を見に行ってたな~」

「初日の出とは何なのだ、ミス五十鈴?」

 

ルティは兎も角、三人は各々過ごし方を口にし、懐かしむように語った

ゲームの中に問わられて数か月、あと幾月もすれば一年になってしまう程の月日をエルダーテイルで過ごした彼らには、現実の世界が懐かしいのだろう

 

そんな少年組の会話を耳にしたシロエは、自身の正月と比べ活発に動いている彼らを眩しく感じながらも一刻も速く現実世界へと帰る切欠を探さなければと新年早々、只でさえ厚い顔の皮を更に厚くさせた

 

そんなシロエの心情を察したのかにゃん太は、シロエの前に食後の御茶を差し出した

 

「シロエっち…気持ちは判りますが、今日ぐらいは肩の荷を下ろしても良いと思いますにゃ?」

「班長……」

「みなさん、シロエっちが頑張っているのは十分知っていますにゃ。でも……空気の張ったままの風船は、長持ちは出来ませんにゃ。時折は、空気を抜かなければにゃ~」

「……うん、そうだね」

 

差し出された御茶を口にすれば程良い苦さと日本茶特有の香りが口に広がり、焦っていた心を落ち着かせてくれる

 

「そうですにゃ~、空気の入れ替え……気分転換に外に出かけてみては?」

「………え?」

「初日の出には、日が昇り過ぎていますが、神社へ行ったり、〈第8商店街〉で福袋をやっていると聞きましたにゃぁ」

「う、うん。ソウダネ……」

 

正月早々、働く事を止めたシロエは、日曜のお父さん如くダラダラと寝て過ごそうと決めていたのだが、にゃん太は口早に語っていく

次から次へと出てくる正月ならではのイベント事に、途中から話しに加わった少年組は眼を輝かせ、同じ心境な筈の直継やてとらまでもが、乗り気になってしまっている

アカツキは、既に外出を決めたようでミノリと共に何を着ていくのか話し始めた

 

頭の回転が速いシロエは、今の状況が自分の望む『寝正月』から掛け離れていき、段々と追い詰められている事を理解した

少年組は最初から出掛ける気でいるし、直継とアカツキ、てとらは、にゃん太に言い包められている。

段々と追い詰められていくシロエが、この状況を打破する為に考えた最終策は―――

 

「……くーさんは、どうするんですか?」

 

最終防壁!動かざること山の如し!我がギルドのリーサルウェポン!絶対に外出を拒否するであろう自由気ままで、堕落と怠惰を愛する駄狐の面倒を見ると言う策を思いついたのだが―――――

 

「着物用意したであるんす~」

「ちょっと待て駄狐!この着物、裾が短すぎるぞ!?」

「ヘンリーと共同開発のミニ着物でありんす!……ニーソもご所望でありんすか?」

「わぁ~!この着物、裾にひらひらが付いてて可愛い!」

「こなたは、着物ドレスでありんす。洋と和の合体と言っておりんした」

「可愛いんですけど……少し恥ずかしいですね?」

 

シロエは失念していた

お祭りや運動会、年越しですら寝ずに暴れ回っていたうちのリーサルウェポンは、『遊び』が関わるイベントには全力を出す狐であったことを……

 

そのやる気を少しは、仕事にも回して欲しいとは思うが、今は何も言うまい

退路を断たれたシロエは、重い腰を上げた

 

「みんなで行こうか」

 

円卓会議参謀役、根暗眼鏡ことシロエが率いる『記憶の地平線』は、活気あふれる〈アキバの町〉へと出かけるのであった

 

 

 

 

ログ・ホライゾン ~わっちがお狐様でありんす~

 

 一『りんご』・二『アップル』・三『あっぷる~ん』

 

 

 

アキバの町は、年に一度のイベントを楽しむ為に賑やかに色を染めていた

もとより関東屈指のホームタウン、〈冒険者〉が多く集まるこの町は、円卓会議の結成で、治安も安定し物流や商売が盛んになった事は勿論、〈大地人〉との付き合い方を真意に考えているので、〈大地人〉の在住者も多い

そして、この町に滞在する〈冒険者〉は、日本人が多くお祭り好きな人種と言う事もあり、イベント事には常に全力であった

 

アキバの町のメインストリートは、出店で賑わい、すれ違う〈冒険者〉や〈大地人〉は普段の格好とは違うお正月特有の着物を身に纏い町を歩いていた…………時折、いや頻繁に月と狐のマークが付けられた裾の短い着物を来た女性を見かけるが、まぁいいだろう

 

そんな僕達も今は、月と狐のマークがついた着物を着ているのだから……

 

「しっかし、これは計画犯だな」

「……うん、ヘンリエッタさんも関わっているって言ってたし、財源確保?いや、うちに入って来ている財源はないから……趣味、なのかな?」

「趣味で町を染めるっつーのもスゲーな?」

「でも町は賑やかになりましたにゃ~。女性だけではなく、男性も着飾り、新年を新たな気持ちで迎える事が出来たと吾輩は思いますにゃ?」

「……うん、そうだね」

 

行きかう人々の顔は、全員活き活きとしており、長い月日をゲームに閉じ込められている事など忘れ……いや、今を楽しもうと云う気持ちが溢れ出ている様であった

 

………まぁ、仕掛け人達は、そこまで考えて行動したのかは定かではないけど、目の前で尻尾を逆立て騒ぎ経っている駄狐は。絶対にそこまで考えて行動してはいないだろう

 

「なぜに、着んしてくれんですか!折角作ったのに!」

「あ、あんなモノ恥ずかしいに決まっているだろうか!着たい奴だけ着ればいいだろう!」

「ツッキーが普通の着物を着んしたら七五三でありんす!」

「っ!人が気にしている事を云うな!」

「うにゃ!?暴力反対でありんす!」

 

いつもの暗殺者らしい恰好とは違い、鮮やかな色合いの着物を身に纏ったアカツキは、怒りながら駄狐に拳を振るっていた。普段と違う服装なため、持ち味である機敏性が失われおり、全て避けられる結果になってしまっていたが、僕は、七五三だろうとなんだろうと、着物姿のアカツキは、似合っていると思うけどな?

 

「七五三…、私も人の事云えないですね?」

「ならミノリも着ればよかったじゃん?普段着れないんだから冒険しなきゃ!」

「冒険…ですか」

 

五十鈴の言葉に考え込んでいるミノリは、アカツキと同じ普通の着物だが、年相応の可愛らしい柄の着物でミノリにとても似合っていた

一方、五十鈴は、本人の言う通り冒険したようで、着物ドレスって云うフリルの付いた着物を着ている

 

「……なぁ、ルティ兄」

「なんだね、トウヤ?」

「てとら…さんは、男だよな?」

「ん?男性も着物を着るのではないのか?」

「いや、そうだけど……」

 

うん、トウヤの気持ちはわかるよ

自称アイドルのてとらは、袖にフリルが付いたミニ丈着物を着ているのだから何とも言えない。似合っているけど………ねぇ?

 

あぁ、駄狐?

普段と変わらない格好だよ?……ただ、十二単を着ようとしていたけど、途中で面倒になったのか破り捨てていたけど

 

みんなの着物姿を眺めながら進む事、数分。アキバのメイン広場に建てられたアキバ三大生産系ギルド共同建設であるアキバ神社に辿り着いた

マイハマやイコマには立派な神社はあるけど、そこまで行くのには時間が掛るし、モンスターに遭遇する危険もある為、現地の〈大地人〉の事も考え参拝出来ないのであれば作ってしまおうと建設されたアキバ神社は、急突貫の割には、立派な仕上がりになっていた

 

昼過ぎと言う事もあり、来場者は落ち着いていたので直ぐに賽銭する事はできた

なお、賽銭は円卓会議の運営費用に回されるそうだ

 

己が賽銭を投げ、願いを込めてお祈りする

閉じていた眼を薄らと開いて見ればミノリ達は勿論、直継やアカツキ、班長も真剣にお祈りをしている。神頼みで解決うる事象なのかは分かり得ないのだが、何かに頼りたいという気持ちは少なからずみんなの心にあるのだろう

 

シロエも再び、祈り直そうと眼を閉じ掛けたが、やけに五月蠅い鈴の音に視線が向いてしまった

 

「Happy new ear!!!ひゃっはぁぁぁぁあ!!!」

 

閉じかけていた瞼が見開き口が開いてしまう

目の前には常識はずれな行動をするギルドメンバーが……鈴緒にぶら下がりながらターザン如く左右に揺れる駄狐の姿があったのだ

 

罰当たりとかいう前に何でそんな行動に出るのかシロエには理解できなかった

彼女は日本人だよね?いや、外国人だとしてもあんな行動をとる人なんていない!

むしろ、人としてどうかと思われる行動だ

 

神頼みとか嫌う彼女の事だから出店目当てで一緒に付いて来たんだと考えていたシロエは、己の考えの甘さを後悔し、罰当たりな行為を続ける彼女を止めようとしるが―――

 

「ぁぁぁ!…あ、取れたでありんす」

「取れたんじゃなくて取ったんだよ!」

 

事態は悪化する

カランっと乾いた音を鳴らしながら大鈴は、シロエの足元まで転がっていった

徐に拾い上げ、大鈴と鈴緒を接続部を確認してみるが……完全に壊れていた

ザワリっと冷や汗が背中からあふれ出した

 

「……お餅いる?」

「くーさん、お餅じゃ付かないですから」

 

どこから取り出したのかわからないが、手に持ったお餅を『うにょ~ん』と伸ばしながら見せ付けてくるが、そんなモノでどうにかなるようなモノではない

もはやシロエだけの手には負えない、助けを求めお祈りを続けているであろう仲間に声を掛けようとしたが――――――――

 

「……え?」

 

 

 

 

 

 

そ  こ  に  は  誰  も  い  な  か  っ  た

 

 

 

 

 

 

「シロエ殿、少しいいかな?」

 

困惑するシロエの肩に手が置かれ、振り返ると額に『♯』のマークを浮かべた〈第8商店街〉を始めとした三大生産系ギルドのメンバーたち

 

「っ!カラシンさん!これには訳がありまして!そ、そう!うちの駄狐が!……っえ?」

 

数十人の職人に囲まれたシロエは、焦りながらも全ての原因は駄狐にあると伝えようとするが―――――――

 

 

 

 

 

 

そ  こ  に  は  狐  は  い  な  か  っ  た

 

 

 

 

 

 

「はっ!?…………ゆ、夢?」

 

体を起こし、辺りを見渡して見れば普段と変わらない自分の部屋

急ぎカレンダーに眼を向ければ………元旦

 

「夢、か……はは……よかった」

「主、起きているか?」

「う、うん、起きてるよ」

「そうか……あけましておめでとう」

「あけましておめでとう、アカツキ」

 

机に置いた眼鏡をかけ、アカツキを迎えれば普段の格好と変わらないアカツキの姿

カレンダーを確認しても日付は元旦。あれが夢であった事が、わかり大いに安心できた

 

「老師が朝餉だと。それとお雑煮のお餅は何個が良いかと聞いていた」

「うん、わかった。お餅は……2個でお願い」

「承知した……時に、主よ。寝汗が凄いがどうかしたか?」

「はは……ちょっと夢見が悪くてね。アカツキは、初夢は見た?」

「うむ……自分自身が出て来てビックリした所で夢が覚めた。主は?」

「………クーさんが、暴れてた」

「駄狐は、夢の中でも迷惑をかけるのだな?」

 

苦笑いと共にベットから出て大きく背伸びをした

そう、あれは夢だったんだ。確かに神様とか嫌う彼女ではあるが、あんな常識はずれな行動を取る訳ないよな

 

「そうだ、主」

「ん?どうしたのアカツキ?」

「今日は、みんなでお廻りに行こう。クーが着物を用意してくれた」

「そうだね、たまには…………え?」

 

ま   さ   か

 

「なんでもヘンリエッタと共同開発した着物が多く売れたようで機嫌が良かった。たまには役に立つ事もあるんだなってどうかしたのか主!?」

「ハハ……ナンデモナイデスヨ?」

 

 

この後、めっちゃくちゃ駄狐を監視したのであった

 

 

 

 

 

 

 

NEXT ―――待て、しかして希望せよ


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