エルニーニョ   作:まっぴ~

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第6話 チームメイト

「オラオラオラァ! もっとボール寄越せや! 輝!!」

「言われなくても出しますって!」

 

 一年という時間は割と短いもので、小学生という素晴らしい成長期間にあっては、それは驚くほどの進歩を遂げることになる。

 男子三日会わざれば刮目して見よ、と言うが、その三日が何回も続けばどうなるのか。それすなわち、個人としての成長は当たり前だが、チームとしても成長するという事で、青葉JFCは俺主体のワンマンチームから、見事に組織的な攻撃、守備の出来る立派なチームへと成長を遂げた。本来の慣用句の意味は、日々鍛錬する人がいれば、その人は3日も経つと見違えるほど成長しているのだという意味だが、その本来の意味にも当てはまるかもしれない。

 何しろ、県大会優勝という今までに無かったそれを成し遂げてから、チームメイトにもやる気が満ち溢れて、ついには全国大会まで優勝して。やれば出来るというふうに今までの戦績を理解した彼らは、こうして何人かが俺と真守の自主トレに参加するようになってきた。

 

 そして、先ほどからパスによる裏への飛び出しをして、ペナルティエリアに侵入したところでシュートを放つという練習は割と上手く行っているようにも見える。

パスを要求している若本さんは、ここ最近自主練習に付き合ってくれているメンバーの中では最も頻度が高いであろうウチの一人だ。そして、練習しているが故にこの一年での伸び幅が最も大きい一人だ。

運動神経がいいのだろう。優れたバランス感覚による即座の体勢の立て直しや、当たり負けしないフィジカルの強さは、裏への飛び出しだけではなくセンタリングからのヘディングという形で得点に結びつく働きをしている。それゆえに、チームの中でも一番点を取る働きを見せていて、全国大会では得点王にも輝いた彼は、既に幾つものチームからオファーが届いている。湘南や横浜という近所のプロチームを始めとして、東京のユースチームからも声がかかっていると聞く。

 

「オラァ!! って、それキャッチするのかよ!?」

「当然だ。そんな狙っている場所が丸分かりのシュートなど脅威ではない」

「くっそォ! 次は決めてやっからなァ!」

 

 と言っても、大会MVPの真守が守っているゴールの前では、そのネットを揺らす事が出来ない。結局組織的な守備がある程度出来るようになった青葉JFCの守備の前では、敵チームとなったどのチームも、点数を入れる事が出来なかったのだ。

 それには勿論、DFの力が関わっている事は間違いない。素人でしかない、ボールを追いかけることしかできない様なDFしかいなければ、当然いくら真守でもシュートを全て止める事は不可能だっただろう。だが、青葉JFCというチームは、幸運なことに意外とタレント揃いだったのだ。

 GKと中盤だけで県大会を勝ち上がった後は、積極的に走るFWと、そして頭のいいDFである中江さんがいた事は、非常に幸運な事だった。どれだけ俺が上手くても、どれだけ真守がゴールを守っていたとしても、やはりチームに何人かそういうタレントがいなければ勝負というのは勝てない。そして、8人制のサッカーにおいてタレントと言える様な素材が俺と真守以外に2人もいた事は、まさしく僥倖と言うべきことだ。

 

「中江さん、さっきの若本さんに対するディフェンスですが、シュートを撃つタイミングでコースを限定するだけじゃなくて、パスを貰った後のファーストタッチに気を付けて下さい」

「どういう事だ?」

「若本さんは、ファーストタッチを正確に足元に落としてからディフェンスを確認してボールを運ぶタイプの人です。でも、全国でも相手にしたようにファーストタッチでいきなりディフェンスを抜き去る場所にボールを落とす人もいます」

「うん、確かにそんな奴もいた気がする」

「ラン・ウィズ・ザ・ボールと呼ばれるテクニックですが、中江さんのように身体を張って止めるタイプのDFには有効な対処手段です。だから逆に――」

 

 この中江さんが6年生で、若本さんが5年生。そして俺と真守の二人が4年生という構図は、普通であれば下級生から教わろうなどという気にはならないだろうが、中江さんの方は素直に話しを聞いて実行してくれるから有難い。若本さんの方は年下に指示されたくない、という気持ちが幾分かある様で教える、という事があまりできない。だが、その代わりに持ち前の負けん気がある事で、相手チームのFWの動きをよく見てその動きを自分でも試してみたりと、即座に自分の動きの中に取り入れている。

 それはたぶん、今後彼がサッカーを続けるにあたって、教えられたことだけをこなしていくのではなく、色々なプロの試合を見たりして、自主的に上手くなっていくだろうと予想できる。

 

 逆に、中江さんの方は持ち前の頭の良さでこちらの言う事をすぐに吸収してくれる。

 DFには現代的な戦術面において、閃きなどのクリエイティビティはいらないとされている。それよりも、状況を俯瞰的に見る事の出来る客観的で広い視野と、それを正確に判断できる頭の良さが必要だと言われる。勿論フィジカル面は重要で、身体を張ってボールを止めるDFには体格が必要だが、6年生にしては身長の高い中江さんはそれもクリアしている。

 今は小学生だが、これから中学生、高校生へと進むにつれて、OFは想像も及ばない様なプレーをしてくる選手も出てくるだろう。その時に頭が良いだけでは対応できないだろうけれども、その頭の良さにもよる。一度でそれを学習してしまえる様な柔軟性があれば、二度目は確実に止められるだろう。そんなDFになる予感が、彼からもする。

 

「それじゃあ、もう一回今のパターンでやりますよ」

「うん」

「おっしゃ! 次はやるぞ!」

「何度でも止める」

 

 なるほど、いい仲間を得たものだ。

 だが、足りないのだ。

 最高のプレーをするためには、上手いと思える様な選手では足りない。そうではない、こちらの想像を超えてくれる様な選手が必要なのだ。じぶんの想像すら及ばない様な、とんでもないプレーをしてくれる選手が。そう言った選手に、小学生という幼さとは言え、全国大会優勝まで勝ち上がって会えなかったのだから、やはり最初から世界という観点を持つべきなのだろう。

 そう思えばこそ、来年からはこのチームではなく海外でプレーするとチームメイトには既に告げてあるし、ここにいるメンバーは来年までの残り少ない期間をみっちりと練習しようと、今では俺が誘う前に家の前で待機して誘ってくるまでになった。それは実に喜ばしい事で、もしかしたら彼らと一緒に青いユニフォームを着る日が来るのかもしれないとまで思える。

 

 今はまだ、日本はサッカー後進国と呼ばれるほどに、世界を相手にした戦いはぶが悪い。それは、勿論個々人のレベルが世界のレベルに追い付いていないという事も上げられるのだろうが、それよりも突出したFWがいない事が原因だ。中盤はサッカー漫画で描かれる主人公のポジションがMFである事が多いために、一番人気だという事もあって少なからず充実していると言える。DFにしても、体格で劣っていると言っても、それを補って余りあるほどの戦術眼を持つ者がいるし、組織的なディフェンスは日本人の肌に合っていて、それなりの脅威となっている。

 だが、ことFWに限れば後進国と言わざるを得ないほどの力しかない。それは、DFには体格が求められるという戦術論に従った各国の防御の前に、日本人の小柄な体では競り合う事が出来ず、結局クロスを上げても潰されることになるからだ。だから、ドリブル突破を図って相手のディフェンスを崩さなければならないが、そんなテクニックを持っている選手は数少ない。それこそ、物心つく前からボールを蹴っている南米の選手などで無ければ、難しい。

 だから、超一流と呼ばれる世界の攻撃陣の中には、そう言った分厚いディフェンスを突破するだけの閃きを生み出せる創造性に富んだ選手が一人は必ずいる。彼らは個人技と呼ばれる超人的なドリブルで活路を見出し、誰もが予想しない場所にパスを出すことで決定的なチャンスを作り出す。そう言った選手には間違いなく、そんな場所に走りだしてくれる味方がいて、そのパスがつながる事で初めて両者とも脚光を浴びることになる。

 

 別に脚光を浴びなくてもいい。

 ただ単に、最高のプレーをすることが出来れば、それでサッカーの神様への恩返しというそれは果たせると信じている。だから、スター性は俺には必要ない。必要なのは、自分のパスを受け止めてくれる、自分にパスを出してくれる相棒と呼べる存在だ。それが今のチームに居ないのが残念で仕方がないが、既に外に出るのは決めた事だ。

 だからこうして一緒に練習しながら、手に持っているスペイン語、日常会話という本を読みながらボールを蹴る事で語学の勉強をしながらパスを出す練習をしつつ、且つ広い視野と二つの事をいっぺんに考える思考方法までもを身に付けようとしているのだ。流石に欲張りかもしれないが、それくらいして乗り越えられなければ世界最高の選手など夢のまた夢だ。

 




とりあえず出さなければならなかった人物はコレで全てなので、後はもう原作に飛びます。
中途半端すぎて書く必要すらなく本来なら原作に飛ばすつもりだったので、ここまでの話数はメモ書き程度のつもりです。
次からようやく原作だ!

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