でも自分で設定したキャラがそれぞれ少しずつずれてるから、そうなのかも(?)
「大変なことに気が付いた」
「奇遇だね輝君。私もだよ」
お互いに顔を落として視線は机の上に。
何かが広げてあるわけではないその机は、綺麗なまでに木目が揃っていて、コーティングをかけてある事で光り輝いている。蛍光灯は反射によって光を放出しているらしいが、机まで光を反射しなくてもいいのではないだろうか。
その光輝く机とは裏腹に、俺と陽香の顔はえらく陰っている事だろう。その逆に、春樹は相変わらず口笛でも吹きそうな勢いで笑顔のままであり、いつもとは違って真守が今日は本を読んでいる。だが、ただの本ではない。びっしりと文字で埋まっているのは確かだが、それは教科書という悪魔の書であり、ともすれば真面目な生徒のそれはラインが引いてあったり付箋が貼られていて、不真面目な生徒の者ほど綺麗であるという矛盾をその身で呈している本だ。
「……だから、この間も言ったけれど、私の席に集まって話しをする必要は無いと思うのだけれど」
パタンと本を閉じて嘆息を履いている美人さん。
実に絵になる仕草で、やはり美人はそれだけで得をしている。本を閉じてため息を吐く動作がまるで洗練されているようにすら見えるなど、得もいいところだ。これが逆のタイプの人であれば、可愛く笑顔を作ったところでそれが得ではなく損になる事まであるというのに。
「いや、ある。今回に限ってはお前の席で集まる必要が」
「そう、あるんだよ栞ちゃん。そうしなければならない理由が」
言ってみなさいとばかりに少し目を細めた美人さん。
窓から初夏というには少し遅すぎる風が吹いて来て、その長い黒髪が揺れているだけで絵になっている。
夏だというのにその少女の氷の様な視線を受けた際には身が凍るような思いをすることになるのだろうが、今ばかりはそんな視線が来る事も予測した上で頼みこまなければならない。
だから、陽香と二人アイコンタクトをかわしてから頭を再び下げる。
「「勉強、教えて下さい」」
「……陽香については毎度の事だから分かっていたけれど、あなたもなの?」
三枝陽香という少女は、活発で陽気で明るい少女だ。あと、元気。
つまりそういう褒め言葉を千切るしかないというのは、他に適切な表現が見当たらないという事でもある。親友である天才少女と一緒にいるから、という絶対的な比較ではなく、クラスの中で――或いは学年の中で相対的に頭の弱い少女である。進学校と言っても勉強の出来なくなる生徒はいるものであり、成績も何もしなければ下から数えた方が早いことになるのは間違いない。
気がきくとか、優しいとか、親切とか。そう言った言葉は勉強が出来るかどうか、という事には関係ないのである。
「二見栞、お前はいつから俺が勉強が出来るなどと錯覚していた?」
いや、何で自信満々で偉そうに言ってるのさ、という春樹のツッコミは聞こえなかったことにする。鼓膜を振わせる空気の振動ではあったが、それは脳で認識しなければただの音だ。ただの音は、言葉ではない。
「ついこの間も偉人の言葉を例にして喋ってたじゃないの。それに自慢ではないけれど、私と議論の出来る人間というのは少ないのよ。あなた、頭が悪いわけではないでしょう?」
「そうか、ならば自慢ではないが俺も言っておこう。俺はバカじゃない、勉強が嫌いなだけだ」
「……普段なら、そして普通ならばあなたの言葉はバカそのものだ、と断定するのでしょうけれど、私自身が違うと思えるからそういう事なのだと理解しておいてあげるわ」
そう、別にバカではないと思う。
苦手な教科が沢山あるだけで、スペイン語はすぐに習得できたし、他の外国語も難無く喋れるようになっている。ただのバカならばそんな事は出来ないだろうが、こと勉強ということになるとどうしても身が入らない。読書はそれなりに好きだし、それこそ前世という苦い経験を思い出すならばベッドの上では読書しかすることが無かった。あの頃は確かに勉強が出来たのかもしれないが、テストを受けていなかったのだから関係もない。そして、既にその年齢は超えてしまっているのだからテスト範囲を網羅出来ていなくても仕方のないことだ。
つまり、ただのバカではなく、結局サッカーバカなのだ。サッカーが絡んでいないとやる気を発揮できないという、明確な答えがそこからは導き出される。
「俺はただのバカじゃない。サッカーバカだ。そしてお前もただの天才ではない。天才少女だ。つまり、あまり勉強せずに赤点を切りぬける方法も分かっている筈」
「……ごめんなさい、やっぱりあなたはただのバカだったわ」
――あれ? 鞍替え?
「とにかく、いつも通りお願い、栞ちゃん!」
「……ハァ。分かっているわ。勉強会でしょう? 各教科のポイントと予想される問題は既に作ってあるわ」
「ヤバい、お前の事女神に見えてきた。どうしよう、うっかり気を抜いたら惚れそうなんだけど」
「気をしっかり持っておく事ね。私に惚れて良い人間は私と同じレベルで語り合える人間だけよ。半端な覚悟で私に惚れるならば、火傷どころでは済まさないわ。焼却炉で灰にするわよ」
どうしようか、春樹、俺振られた。という掛け合いに対しては、まだチャンス残ってるでしょ。後半戦もあるし、ロスタイムもまだ残ってる筈という答えが返ってくる。なるほど、どうやら前半戦は終わったらしい。
いつの間にキックオフしたのかも、前半が過ぎてしまったのかも気がつかなかったが。
何はともあれ勉強会である。
あれよあれよという間に開催されたその勉強会とやらは、今回で既に通算何回目を迎えることになったのか、というのは今までに行われてきたテストを振りかえれば分かることだが、このメンバーでやることになるのは初めてだろう。
何しろ、転校生が加わっているのだからそれは当たり前で、俺以外のこの四人が同じクラスになったのは今年が初めてだ。そして迎え撃とうとしている期末テストは1学期の期末テストであり、中間テストの時に第一回が開催されたわけで、通算二回目という何とも虚しい数字が答えとしてはじき出されることになる。
そしてそんな虚しい数値がはじき出されるのを頭の片隅に、説明してくれている女神の話しに意識を集中させる。
スポーツ特待性として入っていても、赤点を取ってしまえば補習授業の為に、夏休みの部活の時間を削られることになる。それは避けなければならない事で、なんとか赤点だけは回避させろ、というのが田岡監督からの必死の懇願であり、そして春樹と真守に対する命令であった。普通の少年漫画ならば、可愛いマネージャーが勉強を教えてくれるのかもしれないが、この仲間内では生憎とそのマネージャーが筆頭で勉強が出来ないというのだからお話にすらならない。
とは言え、話しになっていないのはこちらも同じ事で、スペインにあった日本人学校よりも進学校という事で一年早く授業が進んでいて、テスト範囲を覚えればなんとかなる文系科目とは違って、基礎から復讐しなければならない理系科目については、女神様の付きっきりでの授業である。ちなみに春樹は女神様が纏めてくれた各教科のプリントを一人で見ながら書きうつしたりしていて、そして真守は女神様が俺の専属となった為に自ら恋人に勉強を教えている。
「だから、感覚で答えを出すのはやめなさいと言ってるでしょう!?」
「いや、ほら、答えあってるんだから別に」
「別に、ではないわ! 数学は途中式が採点対象なのだから、答えだけ書いたって得点になる訳がないでしょう。頭の中で考えた式は全部回答用紙に書きなさい!」
「あ、はい、すいません」
とりあえずなんとなくで出した答えを彼女に告げてみれば、そうやって怒られる。
サッカーでは点が入れば全てであり、それがスコアに表示されるというのに、数学というのは何とも厄介な代物だ。シュートだけではなく、その前のパスと、それを引きだしたドリブルに、選手の配置まで回答用紙に書き込まなければならないのだから。
「随分と難航してるね、二見さん」
「十文字君はバカなのに頭がいいから手に負えないのよ。問題を見てなんとなくで答えが出せる人なんて初めて見たわよ、私」
「輝ってやっぱり面白い♪」
必死こいてシャーペンを動かしている俺をしり目に、それを楽しそうに見ている春樹に、頭を抱えている二見。春樹は勉強しなくていいのかよ、という疑問はすぐに解消されることになり、それは勉強会が始まる直前のテスト順位によるものだった。
成績優秀者には名前が表示されないものの、全ての教科で平均点を上回るという秀才ぶりを見せつけてくれたこの男は、尊敬する飛鳥さんが勉強が出来る超人であるという所から、彼も勉強が出来るように日々努力しているらしい。飛鳥さんに、真守に、春樹。サッカー部は化物揃いなのだろうか。しかも飛鳥さんに至っては、イケメンでサッカー部のキャプテンで、世代別代表にも選出されて、勉強も1位を逃した事が無いとまで言うのだから。天は彼に、二物も三物も与えたらしい。
「出来たぞ、二見」
「そう、見せてちょうだ――だから! 途中式を書きなさいと言ったでしょう!? 『俺の直感が告げている』ってあなた、もしかして私の事からかって遊んでいるの?」
「いや、考えても式が思いつかなかったけど、答えは分かったから答えに至るまでの思考回路を途中式として――」
「一つも数式が無いじゃない。国語の勉強をしているのではないのよ? 今は数学の勉強をしているの。途中式を書きなさいと言ったのに思考回路を回答用紙に連ねるアホがどこにいるのよ。ああ、私の目の前に居たわね。それで? あなたにはこの言葉の羅列が数式に見えるのかしら。だとしたら、テスト勉強よりも眼科の診療を受けることをお勧めするわ。その腐った目を取り出して丸ごと洗浄して貰ったらどうかしら。ついでに、耳鼻科にも行った方がいいわ。私の言葉を理解していないのは、誤って言葉を聞き取り違えている鼓膜が原因かもしれないもの。それならこの勉強会は今すぐに中止して病院を探しましょうか。ねぇ、なんとか言ったらどうなの?」
「……ごめんなさい。ちゃんとやるので見捨てないで頂けるとありがたい」
「最初からそうやって頭を下げなさい。そして真面目にやりなさい。次に不真面目にやったらその床に付けた額を地面にめり込ませるために後頭部を踏み抜くわよ」
土下座というのは実に優秀な謝罪方法である。
ただ、それをしたがゆえに無防備な後頭部を相手にさらすことになって、踏み抜かれるという危険性があるらしいが。
「ふっ……輝やっぱり面白い……」
「おい春樹、他人事だと思って笑って――」
パチン、という頬を何かで叩かれる音。
戻してみれば、お前殺されたいのか、みたいな目をしている女神様。いや、そんな目をしているものだから女神様から転じて阿修羅様になっている。
「や・れ」
「はい、すいません」
例えエリアの王様でも、勉強会の王様にはなれないらしい。
感想見てると賛否両論、色々あるなぁって感じる今日この頃。
ま、自分の好きなようにやると決めたのでなるべく感想に流されないように行きたいと思います。
頭はいいけど、バカだけど、っていう難しいキャラ設定の主人公がいけなかった・・・。
もっと魅力的か、或いは感情移入できそうな泥臭くプレーする選手の方が読んでて面白かったのかもなぁとも思ったり。
そして最低系みたいなタグを付ければ解決だ、と血迷ったり。
主人公のキャラが定まってないなんてバカじゃないのか(´・ω・`)