ハイスクール ワン×パンチ   作:アゴン

40 / 49
最新刊を読んで一言。

白龍皇ェ……

それと前回の嘘予告なのですが、予想外に好評でしたので、もう暫く残すことにしました。

いつも感想を下さっている皆様、そしてこの作品を読んで下さっている皆様、本当にありがとうございます。


36撃目 神様の言うとおり。

 

 

 

 この日、アオヤマは珍しく怒っていた。

 

オーフィスという幼女を一方的に押し付けてきたアザゼル達に対してもそうだが、幼い少女をテロ組織の首領として担ぎ上げた禍の団もそうだが、全ての原因っぽい存在とされるグレートレッドなる龍に対し、アオヤマは酷く憤慨していた。

 

何故幼女を追い出さなければならないのか、オーフィスを次元の狭間から追いやった経緯だけでも聞かなければ、彼女を預かる者としては納得する事は出来ない。

 

手を上げるつもりはないが、もし特に理由もなくオーフィスを住処から追い出したのであれば、アオヤマはその龍に対し、粛正の鉄拳をお見舞いしてやる心算だった。

 

ズンズンと足を進ませ、どうやってそのグレートレッドとやらと話を付けるべきか……そう考えていたアオヤマにふと、ある疑問が浮かんでくる。

 

「そういや次元の狭間って……どこにあるんだっけ?」

 

今更過ぎる疑問にアオヤマは首を傾け、両腕を組んで唸ってみせる。

 

よくよく考えれば次元の狭間なんて名称を教えられても、それがどこにあるかまではアオヤマは知らない。名前からして普通の観光名所とは違うようだし、外国に行ってもそんな場所は存在しなさそうだ。

 

……どうしよう。意気揚々とマンションから出てきたのはいいが、こうも情報不足だとどうすればいいか分からず、手詰まりもいい所である。

 

いっそ家に帰るか? 酷く格好悪いがここは引き返し、もう一度オーフィスから詳しい話を聞いた方がいいのかもしれない。

 

「そこにいるのはヒーローの小僧か? なにをしておるんじゃこんな所で?」

 

そんな時だ。ここ最近聞き慣れた声に振り返ると北欧の隻眼の主神、オーディンが銀髪の麗人のロスヴァイセと体格の良い男性を引き連れていた。

 

今までの魔術師みたいな格好ではないから一瞬誰かと訝しげるアオヤマだったが、特徴的な眼帯と長い髭を見て、目の前の老人が以前出会った神様であると思い出す。

 

「そういうアンタはオデンの爺さんじゃん、そっちこそなにしてんの?」

 

「オデ!?」

 

アオヤマの北欧の主神に対する物言いに、後ろに控えていたロスヴァイセは軽く絶句するが、呼ばれたオーディン本人は特に気にした様子もなく、質問を質問で返すアオヤマに戒める。

 

「問いに問いで返すのは“まな~”違反じゃぞ小僧……じゃが、ま、いいじゃろ。近い内にこの国の神々と会談する事になっての、今日は観光じゃ」

 

「ふ~ん。なんか神様ってのも大変みたいだな。政治家みたいな事までするなんて……」

 

「正確には人間が政を真似てるんじゃがのぅ……して? お主はここで何をしてるのじゃ?」

 

 髭を撫で、改めて訊ねるオーディンにアオヤマは腕を組んで、悩む様に唸る。何を悩むのだと不思議に思うオーディンが首を傾げると、何を思い付いたのか、アオヤマは閃いた様に手を叩き……。

 

「なぁ爺さん、アザゼルから聞いたんだけど、アンタはこの世には知らない事は無いって言う程の物知りなんだよな?」

 

「なんじゃ藪から棒に……まぁ、知っておるが」

 

 北欧の神。オーディンは知識を求めるあまり全ての知を司るユグドラシルの根から湧き出る泉を飲む為、眼球を対価にその泉を口にしたとされる。

 

その恩恵でかの神は全知に等しき知恵を持つとされ、彼には知らないものなどないと言われている。

 

一応以前にアザゼルからミーミルの泉の概要やユグドラシル関連の神話を聞かされたが……本人はややこしいとこれらを一蹴。取り敢えず、何でも知ってる物知りな神様とだけ覚える事にした。

 

その上でアオヤマは問う。

 

「あのさ、次元の狭間って所に行きたいんだけど、どうやって行くか知らない?」

 

 何でも知っている爺さんなら次元の狭間への行き方も知っている事だろう。そんな期待と共に質問すると……。

 

「「「…………」」」

 

時が止まった。いや、この場合アオヤマの言っている事が理解できずに思考が停止したと言う方が正しい。

 

次元の狭間がどういう所なのか理解出来ていない者が故の言葉、それ故に度肝を抜かされたオーディンは苦笑いを浮かべながらアオヤマに聞き返す。

 

「質問に質問で返すなと言ったばかりじゃが……すまん。何故そう思ったのか聞かせて貰っても?」

 

「いやな、オーフィスがテロリストに協力する事になったのは自分の住処に帰りたいが為にやった事であって、別に悪気があってテロリストに荷担してた訳じゃないみたいでさ、そのオーフィスを住処から追い出したのがグレートレッドって奴でさ、なんでオーフィスを住処から追い出したのか、そこら辺が聞きたくて次元の狭間に向かっているんだけど……」

 

「………」

 

「な、な、な、な……」

 

「はぁ……」

 

 サラリと爆弾発言を繰り返すアオヤマに男性は絶句し、ロスヴァイセは顔を真っ青にして狼狽し、オーディンは心底疲れた様に溜息を零す。これが若さ故か、無知というものは哀れであり罪というが、アオヤマに関しては寧ろ恐怖すら感じる。

 

質問の返事が貰える処か、厭きられたように溜息を吐かれるオーディンにアオヤマは眉を寄せて何なんだと呟くと……。

 

「散々焦らして於いてなんじゃが、すまんのぅ。それは教えられんわい」

 

「あ? なんで?」

 

「グレートレッドとお主か出会えば、ほぼ間違いなく戦闘になる。次元の狭間という曖昧で不確かな場所で戦えば……勝敗は兎も角世界の方が壊れてしまう」

 

「はぁ? なんでそのくらいで世界か壊れるんだよ?」

 

「次元の狭間というのは世界の境界線みたいなモノじゃ、同時に世界を構成する柱でもあり世界を繋ぐ橋としての意味合いを持つ。そこに巨大な力ぶつけ合わすのは余りにも危険。……そうじゃな、お主に分かり易く例えるなら、築数百年の木製の橋に巨大な鉄の塊を二つ同時に高高度から叩きつけるようなモノじゃ」

 

 オーディンからの比較的分かり易い解説に頭を唸らせると、やがてアオヤマは観念した様に溜息を吐き……。

 

「別に喧嘩をする訳でもないんだけどなぁ、まぁでも分かったよ。今回はアンタの言うことを聞くことにする。少し熱くなってたのも事実だし」

 

「うむ、聞き分けの良い若造は好感が持てるぞ。では、ワシ等はこれで失礼するが……主はどうする?」

 

「買い物でもして帰るよ。オーフィスもここでの飯は経験ないみたいだし、歓迎の意味を込めて腕を振るう事にするさ」

 

「そうか。ではまたの、ヒーローアオヤマ」

 

 今日の所は引き上げよう。行き方も場所も分からないまま、且つ小難しい話を聞かされたアオヤマは次元の狭間に向かうことを一旦諦め、ひとまず今日は買い物をして帰る事にした。

 

「申し訳ありませんオーディン様。少し時間を戴けないでしょうか?」

 

「んむ? 構わんが?」

 

「ありがとうございます。……そこの君、待ってくれ」

 

聞き慣れない声に呼び止められ、なんだと思い振り返ると、そこにはオーディンの付き添いらしき男性が此方に歩み寄ってきた。

 

「えっと……どちら様で?」

 

「挨拶が遅れて申し訳なかった。私はバラキエル。アザゼルと同じくグリゴリに属する堕天使の者だ。君があの“ヒーロー”アオヤマなのだと知り、礼が言いたくて呼び止めさせてもらった」

 

「はぁ、……ん? 礼? 俺、アンタにお礼を言われる様なことした覚えはないけど?」

 

「だろうな。私もお前とこうして面と向かって会うのは初めてだ。……礼と言うのは、朱乃についてだ」

 

「朱乃って……姫島朱乃の事?」

 

何故そこで姫島朱乃の名が出てくるのか、アオヤマが不思議に思う一方でバラキエルはそうだと頷き……。

 

「夏休みの時、君は朱乃に言ったそうだな。どんな事情があろうと、やるべき事とやりたい事があるのならば真摯に努めるべきだと、……己の力の半分を忌み嫌っていた朱乃はその言葉で少し吹っ切れたみたいでな、それ以来自身の力をより昇華させる為に私の所に顔を出すようになってきたのだ」

 

「……はぁ、そうですか」

 

「嬉しかったのだ。最初は私の事を恨み、睨みながらも、それでも仲間の為に懸命に過去と向き合う娘の姿がどこか家内に似ていてな。今は戸惑いながらも私のことを父と呼んでくれる事もある。……全ては切っ掛けを作ってくれた君の御陰だ。ありがとう」

 

「はぁ、……え? 娘? 姫島朱乃が、アンタの娘?」

 

「あぁ。何だ。もしかして聞いてなかったのか?」

 

バラキエルの言葉に聞いてないと返し、バラキエルは苦笑いしながら済まないと軽く謝罪し。

 

「まぁ、色々迷惑を掛けた娘だが、今後も友人として宜しくしてくれると有り難い」

 

「まぁ、それくらいなら……」

 

アオヤマのその返事にバラキエルはもう一度ありがとうと礼を言い、頭を下げるとオーディンとロスヴァイセと共に街の中へと消えていった。

 

親バカな堕天使もいたものだ。娘想いのバラキエルにアオヤマはそう結論付けると……ふと、ある事が思い付く。

 

「なんかこうして見ると、悪魔も堕天使も人間みたいだよなぁ」

 

 魔王やら堕天使の総督やら、一見すれば物々しい名を関する魔の者達。しかし蓋を開けてしまえば、悪魔も堕天使も人間よりも人間臭い人達が大勢いた気がする。

 

貴族等の上流階級制度、そこから生まれる陰謀と欲望、下々の者は虐げられ、上級の悪魔のみが選ばれた存在だと思いこむその古い制度は……昔、人間世界を支配していた制度と酷似している。

 

堕天使も天使から堕天したからといって必ずしも悪と呼べる者はいない。神器マニアのアザゼル然り娘を想うバラキエル然り。

 

良くも悪くも、皆人間と似ている部分があるのだなと改めて実感した時。───そいつは現れた。

 

変わる世界。色と音が無くなり、虚構の世界に取り残されたアオヤマが目にしたのは……。

 

「よぉ、久し振りだなぁハゲ頭ぁ、いや、ヒーローアオヤマァァァァッ!!」

 

嘗て、倒した筈の邪龍。更なる狂気と、更なる殺意を纏わせ、ヒーローの前に降り立つ。

 

怨念すら感じられる邪龍の出現に───

 

「…………え? 誰?」

 

ヒーローは訝しげに眉を寄せた。

 

 

 

 




17巻を読んだであろう皆様に質問。
ケツ龍皇とハゲ龍皇、どちらがマシに思えます?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。