DUAL BULLET   作:すももも

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07.テスト

★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

「そういえばさ、アンタの能力って、『宣言』しなくても、瞬間移動できるわけ?」

 

 

 マチが身体を起こして、ガルナに尋ねた。

 

 

「いや、移動毎に必ず、言わないと発動しないよ?」

 

 

 ガルナは寝転がったまま、感慨もなく答える。

 

 

「でも、アンタを情報屋で見つけたときに、何も言わなかったけど、移動したじゃん。」

 

 

 ガルナの説明に、マチが不満そうな顔で突っ込みを入れる。

 

 

(まだ、気付いていなかったのか。)

 

 

 ガルナはそう考えながら、口を開く・・・。

 

 

「あのときは、念のため、店に入ると同時に『宣言』しておいたんだよ。」

 

 

「はあ!?そんなのアリなの?―――ってことは、要塞のとき逃げたのも、それ?もしかして、この間のも―――。」

 

 

「うん。・・・でも、意外だな。」

 

 

「何が?」

 

 

「とっくにバレてるのかと思ってた。」

 

 

 ガルナが笑いながら、そう言うと、マチは顔を険しくした。

 

 マチはガルナの頭を無言で叩くと、顔を背ける。

 

 

「痛いな!マチ・・・。」

 

「うるさい。」

 

 

 そう言うと、マチはガルナにキスをして黙らせる。

 

 ガルナは、それに応えて、マチの身体を抱き寄せた―――。

 

 

 

 

―――ピピピピッ

 

 

 小さな電子音が、部屋に響きわたる。

 

 

「電話よ。」

 

 

 短くそう言って、マチは覆い被さるガルナの身体を強引にどかした。

 

 

「・・・無視すれば、いいのに。」

 

 

 ガルナが小さな声で不平を言うと、マチが答えた。

 

 

「ダメよ。アタシとの関係が他の団員にバレたら、アンタも色々大変でしょ?」

 

 

 マチはそう言って、服を一切、身に付けずに携帯をとった。

 

 

 マチが電話で会話しているのを聞きながら、ガルナは暇そうに、天井を見る―――。

 

 

 いまだに、ガルナとマチの関係は曖昧だ。

 

 どちらとも雑談以外の話もしない。

 

 寝るときも、ベッドが1つしかないから、とお互いに何も言うことなく、一緒に寝る―――。

 

 

 暗黙の了解で、2人の肉体関係だけは、他の団員に秘密にしていた・・・。

 

 

 

 電話が終わると、マチはそのまま、シャワーを浴びにいった。

 

 

 ガルナは、シャワー室に忍び込むことを考えるが、すぐにそれを諦める。

 

 

 以前、同じことをして、顔面ボコボコにされた上に、丸一日全裸で逆さに吊られた経験があるからだ。

 

 

「団長、なんだって?」

 

 

 マチがシャワーを浴び終わり、タオルを巻いてこちらに来たのを見て、ガルナが聞いた。

 

 

「暇なやつと、ガルナは11月30日の昼頃にカキン帝国に集合ってさ。」

 

 

 身体に巻いたのとは別なタオルで髪を拭きながら、マチが答えた。

 

 

「・・・なんで俺は強制なんだよ・・・。」

 

 

 ガルナは大袈裟に手で顔を覆って言った。

 

 

「なんか・・・とてつもなくデカイものらしいわよ?」

 

 

 マチが面白そうに言う。

 

「・・・マチは―――。」

 

「当然、行くわよ。最近、アンタと部屋でゴロゴロしてばかりで、体が鈍ってるし。」

 

 ガルナが口を開くと、マチが遮るように、答えた。

 

 

「んー、結構『運動』にはなってるような気が―――。」

 

 

 瞬間、ガルナが全て言い終わる前に、マチの拳が炸裂する。

 

 

「ふざけたこと言ってると、殴るわよ。」

 

「イタッ!・・・既に殴ってるし。」

 

 

「ほら、早くシャワー浴びといで。アタシも着替えたいし。」

 

 

 有無を言わせぬ、マチの言葉にガルナは黙って従った。

 

 

 

 

 

 新入りの「遊び」から1ヶ月が経過した。

 

 

 

 ガルナは、「2種類の拳銃で弾丸を当てて『対象』と『地点』を指定する」と団員に説明してある。

 

 

 ガルナは、その説明で、いちいち拳銃を具現化しなくてはいけないのを皆が不便に思ってくれる、そう期待していた。

 

 

 もちろん、本来は違う。「弾丸」に付加能力をつけているのであって、「拳銃」はオマケだ。

 

 

 「拳銃」は「弾丸」を発射し、瞬時に「指定」できる点では便利なだけの付属品。

 

 

 しかし、実際は隠すべきところが違った。

 

 正確にいえば、隠すところが足りなかった。

 

 

 以前、シズクやフランクリンと一緒に平気で「瞬間移動」で帰ってきてしまったのだ。

 

 

 人数制限のない瞬間移動能力・・・。

 

 

 すなわち、「用事が終わったら、すぐに皆で帰ってこれる」ということ。

 

 

 団員達は当然、重宝した。

 

 拳銃の具現化が大変なのは、ガルナの話であり、他の団員には関係ない。

 

 

 むしろ、「弾丸」だけで事足りるときですら、「拳銃」をいちいち具現化しなければならないのが、ガルナを無駄に疲れさせた。

 

 ガルナは、2週間の間、団員達の仕事はもちろんのこと、日常の盗み、買い物、食事や遊び等、その他の移動で、毎日のように働かされ、疲れ果てて倒れるように寝ていた・・・。

 

 

 

 

 そんなある日、ガルナが起きると、拉致されたかのように、マチの家にいた。

 

 

 意外なガルナの働きに、マチが少しだけ、労ってくれたのだ。

 

 

 そして、今もマチの家にいる。

 

 

 偶然か必然か・・・ガルナはこの2週間、仕事に呼ばれることもなく、マチと一緒に暮らしていた。

 

 

 一緒に買い物に行き、一緒に料理をして、一緒に食事をする―――。

 

 

 何の変哲もない、幸せな日常をガルナは満喫していた―――。

 

 

 

 

 ガルナはシャワーを浴び終わり、服を着て言った。

 

 

「オッケー。行こうか?」

 

 マチは無言で頷くと、ガルナと一緒に家を出た。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「何してるの?あいつら。」

 

 

「ガルナが寝坊したってよ。」

 

 

 アタシが聞くと、ノブナガが、いい気味だと言わんばかりに、笑いながら答えた。

 

 

 昼過ぎに、アタシがカキン帝国のアジトに着いたときには、ウボォーがガルナを殴ってる最中だった。

 

 

 ぶっちゃけ、アタシより早く着いてる筈のガルナが殴られるのは、理由がある。

 

 おそらくウボォーに「来るのが遅い」とか言われ、ガルナがヘラヘラ笑いながら言い訳でもしたんだろう。

 

―――「寝坊したから仕方ない」とでも。

 

 

 嫌でも絵が浮かぶ・・・。

 

 

 実際、アタシとガルナは3日程早めにカキン帝国に着いて、ホテルの同じ部屋に泊まっていた・・・。

 

 

 正直、「寝坊」したのはアタシも同じ。

 

 

 いや、絶対ガルナのせいなんだけど・・・。

 

 ま、アタシは起きてスグに昼飯買ってから行くって、連絡入れてるけどね。

 

 その後ガルナも起こしてやったし。

 

 

 でも、ガルナは、「本能は何よりも優先すべきもの」という考えを持っている。

 

 故に「寝坊」によって遅刻しても、許されるのだと勘違いしているのだ。

 

 

 アタシも、それなりにガルナを教育したが、駄目だった・・・。

 

 アイツに学習能力はない。

 

 ウボォーがガルナを教育するのを止める義理もない。

 

 

 アタシはそんなことを考えながら、ここに来る途中に買ったピザを切り分けていた・・・。

 

 

 ガルナは、ギリギリの致命傷を負わないように頑張っていたが、遂にはウボォーに組伏せられて逆エビのような技をかけられている。

 

 ガルナは地面を何度も叩いてギブアップを示すが、ウボォーは無視してさらに力を加えていった・・・。

 

 

 ぶっちゃけ、完全に2人とも遊んでた。

 

 

 いつの間にかガルナも、仲の良いメンバーが増えている・・・。

 

 あれ?なんだかイラッとした―――。

 

 

 

 

「待たせたな。」

 

 

 団長がそう言いながら、シャルとパクを連れてやってきた。

 

 

 ガルナは分かりやすい笑顔で、ウボォーの方を見る。

 

 

 ウボォーは残念そうに、ガルナの身体を離した。

 

 

 

 

「今回のターゲットは―――。」

 

 

 団長が口を開くと、その場の団員が黙って耳を傾けた。

 

 

「高速飛行船だ。」

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

「―――というわけで俺が調べた限りでは、このカキン帝国には、建造中の高速飛行船があるって話なんだ。」

 

 

 シャルナークが説明を終えると、団員は頷いていた。

 

 

「『高速』ってどれくらいなんだ?」

 

 

 ノブナガが聞くと、シャルナークは難なく答える。

 

「情報によれば、既存の飛行船の10倍程度の速さだね。」

 

 

 シャルナークの言葉に全員が耳を疑った。

 

 

「10倍って・・・なんだそれ。今まで3日かかるとこまで、半日くらいで着くってことかよ。」

 

 

「そいつは、すげえな、オイ。」

 

 

 ノブナガとウボォーギンが感嘆の言葉を洩らす。

 

 

「ガルナ。」

 

 

 団長がガルナに問いかけた。

 

 

「お前の能力、最大何時間『指定』できる?」

 

 

(それは、結構言いたくない系のやつなんですけど・・・。)

 

 

 

 団長の質問に、ガルナは答えるのをためらっている・・・。

 

 

「ガルナ、どうせ言わなきゃいけないんだから、答えなよ。」

 

 

 マチがそう言うと、渋々ガルナが口を開いた・・・。

 

 

「さ、最大なら12時間です。」

 

 

(実は「裏技」も使えばもっといけるんだけど・・・。)

 

 

「最大6時間じゃないのか?」

 

 

 シャルナークが意外そうに口を挟む。

 

 

「ちょっと不確かなやり方なんで、普通は使わないんだけど。『地点』の『指定』だけなら大体使える。」

 

 ガルナが答えると、マチが口を挟んだ。

 

 

「アタシも初耳。アタシが拉致されたときも、6時間で『模様』消えたし。」

「ら、拉致ってなんだ!?お前、マチに変なことしてないだろうな!?」

 

 

 ノブナガが慌ててガルナに詰め寄る・・・。

 

 

「ノブナガ・・・いや、全員黙れ。」

 

 

 クロロが威厳のある言葉で場を収めた。

 

 そして、クロロは考え込んで独り言を言う・・・。

 

 

「『模様』は最大6時間。だが、実際は最大12時間か・・・なるほどな。」

 

 

 クロロは僅かな時間で考えをまとめると、ガルナを見て聞いた。

 

 

「お前の能力、『弾丸』にも具現化継続時間を設定しているな?」

 

 

(っ大正解・・・!)

 

 

 ガルナは分かりやすく顔に出しながら答えた。

 

 

「そうです・・・。」

 

 

(まさか、「弾丸」を遠隔で破壊できることもバレてないよね??)

 

 

 ガルナは不安そうな顔でそう考えながら、クロロを見ていた・・・。

 

 

「ふむ、尚更都合がいいな。」

 

 

 ガルナの答えにクロロは笑みを浮かべる・・・。

 

 

 クロロは自分だけ満足して、それ以上説明しない。

 見かねてシャルナークが口を開く。

 

 

「あー、じゃ俺からの補足ね。予定では、ガルナは高速飛行船の『操縦士』になってもらう。そうすると今後、どこに盗みに行っても、ガルナの黒い方の弾丸を誰か団員に『指定』しておけば―――。」

 

 

「そうか、盗み終わってしまえば、絶対に誰も追い付けない!?」

 

「そういうこと。」

 

 

 シャルナークの説明にノブナガが反応した。

 

 

 ガルナとウボォーギンは理解できずに、キョトンとしている・・・。

 

 

 マチは懐疑的な目でシャルナークを見て、口を開いた。

 

 

「ねえ。それって、かなりムチャな話じゃない?」

 

「ん?なんで?」

 

「ガルナはバカだから、そんなモノ操縦できっこないわよ。」

 

 

 シャルナークのプランにマチが異を唱えた。

 

 

「ちょ、バカってひどくない?俺だって―――。」

 

 

 ガルナが手をパタパタさせながら反論する。

 

 マチはそれを傍目に、ガルナに聞いた。

 

 

「例えば、16等分してあるこのピザを、今いるメンバーで均等に分けたら、何切れ余るか分かる?」

 

 

「えーと、4切れ!」

 

 

 ガルナは自信満々に答える。

 

 

 それを聞いたシャルナークが目を丸くしてから、満面の笑顔で言った。

 

 

「うん、無理そうだね。」

 

 その場にいたメンバーが全員、頷いていた―――1人、怪訝な顔をするガルナを除いて。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 皆でピザを食べ終わってから、2時間が経過した―――。

 

 

 食べ終わってすぐに、マチは団長とノブナガさんとシャルと一緒に、情報収集に出掛けていった。

 

 

 何故か俺は、ウボォーさんとパクノダさんと一緒に、アジトに残ってお留守番だ。

 

 

 しかも、俺は小学生がやるような算数のテストをやらされていた・・・。

 

 

 俺もマチと遊びに行きた・・・じゃなくて、情報収集できるのに。

 

 

 テスト10問をなんとか解き終わり、心の中でフンフン唸っていると、パクノダさんが近寄ってきた。

 

 

「テスト、お疲れ様。ほとんど、はじめましてかしら?パクノダよ。」

 

 

 そう言って、パクノダさんが握手を求めてきた・・・。

 

 身長も高く、グラマラスな大人っぽい女性だ。

 

 

 若干(?)身長差があるし、相手は先輩なので、俺は瓦礫から腰をあげて立ち上がり、握手に応える。

 

 

「ガルナ=ポートネスです。」

 

 

「よろしくね。ところで、マチとはどこで会ったの?・・・随分、仲が良いみたいだけど・・・どんな関係なのかしら?」

 

 

―――うわ、仲良く見えるのか・・・。

 

 

 俺は若干ドキッとしながら、思い出す・・・。

 

 

 

 

―――あの日は、つまらない警備の仕事をしていた。

 

 3人組のチーム「ブリッツ」が事実上解散してから、1人での活動が失敗しまくって、それしか仕事がなかったから―――。

 

 

 そんな日に、マチと出逢った。

 

 

 出逢いなんて生暖かいものでもないけれど・・・。

 

 

 そして色々あって、今はマチと成り行きで―――。

 

 

 今のままの関係をズルズルと続けていきたいと思う自分がいる・・・。

 

 

 なんとなく、マチとは一緒にいたいと思えるんだけど―――。

 

 

 

 

「・・・ああ、ちょっと前やってた警備のバイト中に会って・・・。今は、友達みたいな感じかな。」

 

 

 俺が少し考えてから答えたときには、パクノダさんは既に背中を向けていて、そのまま語りだす・・・。

 

 

「ガルナ、一応忠告しておくけど・・・。」

 

 

「はい。」

 

 

「マチを泣かせたら・・・私も含めた団員全員が貴方を殺すわ。」

 

 

――――ほぇ!!?

 

 

 どんな文脈だ?

 

 

 俺とマチは、確かに冗談で勘ぐられたりはするけれど・・・。

 

 

 俺とマチとの本当の関係は2人だけの暗黙の絶対厳守の秘密の筈・・・。

 

 

 俺の頭の中が疑問で一杯になっていた・・・。

 

 

「・・・ごめんなさいね。つい取り乱したわ。気にしないで。」

 

 

 パクノダさんは、笑ってそう言うと、俺から離れた瓦礫に座った・・・。

 

 

「おい、ガルナ!暇だから筋トレするぞ。」

 

 

 さっきから1人で筋トレしてたウボォーさんに誘われて、何かハードなトレーニングを一緒にやる羽目になった・・・。

 

 

 

 

―――ていうか、絶対これオーバーワークだろ!?

 

 

 ウボォーさんは2時間以上前からやってるし・・・。

 

 

 俺は、ひいひい言いながら、鬼メニューの筋トレをした。

 

 

 

 

 3時間後、俺はさすがに身体がボロボロになって、アジトにあったシャワーを浴びる。

 

 

 そのシャワーは錆びた匂いのする、勢いも弱く冷たい水しか出ないものだったけれど、汗を流すことだけはできた。

 

 

 

「オイッ!勝手に逃げるんじゃねえよ!」

 

 

 そう言いながら、ゴツくて色々とデカイ全裸男がシャワー室に侵入してくる。

 

 ウボォーさんだ・・・。

 

 

「ちょ、なんで入ってくるの!?」

 

 

 俺は文句を言うが、そんなに広くはない筈のシャワー室に男2人が入って、ギュウギュウ詰めになる・・・。

 

 

「ガハハッいいじゃねえか!!」

 

 

 そう言ってウボォーさんは、豪快に俺の文句を無視した。

 

 

―――全然良くないし。

 

 

 ていうか、何か変なモノが触れてるし!!

 

 

 全く悪意もないウボォーさんは、普通にシャワーを浴びている・・・。

 

 

 

 

 

「ちょっと気になることがあるんだが―――。」

 

 

 なんとかシャワー室の肉地獄から解放されて、一緒に体を拭いていると、ウボォーさんが言った。

 

 

 俺は無言で首を傾げる。

 

「お前、マチと付き合ってるのか?」

 

 

―――ぐほっ!!

 

 

 なんで、いきなりその質問?・・・そんなに仲良くみえるか?

 

 

「いや・・・全然そんなんじゃないよ。ご飯食べたり、買い物したりはする・・・仲の良い友達?みたいな感じ?」

 

 

 俺はいつもの言い訳をする。ノブナガさんも、結局ある程度はこの説明で納得してくれてるし・・・。

 

 

「はあ!?今の若い奴ってそうなのか?友達同士で―――。」

 

 

 ウボォーさんは俺の答えに驚いて言った・・・。

 

 

 

 

―――何のことだ?

 

 

 俺が答えに困っていると、ウボォーさんは、こう言った。

 

 

 

 

「だってお前、マチを抱いたろ?」

 

 

 

 

―――!!???

 

 

 なんで、そんなこと・・・しかも断言するって―――!?

 

 

 マチが言った?いや、ありえない。

 

 

 じゃあ何故―――。

 

 

「ああ、悪い。俺は鼻がいいから、色々わかっちまうんだ。お前の全身からマチの匂いがするからな。」

 

 

 事も無げにウボォーさんは、こう言った。

 

 

 いや・・・ズルいでしょ、それ。

 

 そもそも、シャワー浴びても匂いって残るものなの?

 

 

 あ、もしかして・・・シャワー室で密着したから分かったのか。

 

 そうか、服じゃなく、身体に匂いがあったから―――。

 

 

 あれ?ウボォーさんはノブナガさんとも仲良かったような・・・。

 

 

 つまり、ノブナガさんにもバレる?

 

 

 否!それは―――即・・・死!?

 

 

 

 

 俺が何を恐れているか、ウボォーさんは察したようだった。

 

 

「フン!まあ、ノブナガには言わないでおいてやるよ。だが、俺だって小さいときからマチの兄貴分だ。お前がマチを泣かすようなことをしたら、ボコボコにしてやるからな!?」

 

 

 ウボォーさんは力強く俺の肩を叩きながら、そう言った。

 

 

―――助かった・・・。

 

 

 それにしても・・・。

 

 

 マチを泣かすなって、今日だけで2人に言われてしまった。

 

 

 

 

 マチを大切にしなきゃな・・・。

 

 

 俺は心の中でそう誓った。

 

 

―――あれ?ていうか今更だけど、なんで俺はこんなにもマチを大切に思うんだろう・・・。

 

 

 別に女なら誰でもいいわけじゃないんだよな・・・。

 

 

 誓いとともに、新たな疑問が生まれた・・・。

 

 

 

 

△△△△△△△△△△△△△△△

 

 

 

 

 その男は、深い森の中にある、崖を登っていた―――素手で。

 

 

 その長身を活かし、細い岩棚に腕を伸ばし、指を掛け、登っていく・・・。

 

 

 細く切り立った崖だった。

 

 飛行船が降りるスペースもないその崖は、道具を使って登れば、脆い性質のその岩石が崩れ落ちてしまうだろう・・・。

 

 

 前人未踏の高い崖を登っていき、突然その男は、片手で岩の窪みを掴み、全身のバネを使って高く跳んだ。

 

 

 

―――シュタッ

 

 

 6日間の慎重な崖登り・・・。

 

 獲物に逃げられないように、気配を殺して登った。

 遂に、男は崖の頂上にたどり着いたのだ。

 

 

 男の勘によれば、ここには大物の怪鳥コスモペリカンの巣が―――。

 

 

 

 

 

―――なかった・・・。

 

 大人2人分くらいの狭い頂上には、何の痕跡もない。

 

 男には知識がある。

 あらゆる動物が残す痕跡、足跡や排泄物から抜け毛まで―――。

 

 

 未練がましく、男は念入りにその一帯を調べたが、全くそんな痕跡は見つからなかった・・・。

 

 

「今回も・・・ハズレか。」

 

 

(大物狙いにも程がある、と仲間に笑われそうだな。)

 

 

 スラリとした長身で長い髪のその男は、自嘲ぎみにそう言うと、ベレー帽を目深にかぶり直して、小さく笑った。

 

 

 男がふと、夕日を見ると、遠くの方に見たことのないものが飛んでいる・・・。

 

 

(鳥?いや、金属製の――?まさかな・・・。)

 

 

 男は、思い出したように空を見るのをやめて、携帯の電源を入れると、仲間に連絡をとった。

 

 

 

 

「カイトだ。今から戻る・・・うるさい!どうせ今回も駄目だったよ。」

 

 

 その男、カイトが通話を切り、先程の方向を見ると、既に何もなかった。

 

 

(やはり、見間違いか。あの距離の飛行船がすぐ視界外に出るわけない。)

 

 

 男は、そう思い、高い崖を飛び降りた。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

「あれが、例の『高速飛行船』か。思っていたよりも、随分速いな。」

 

 

 ノブナガが双眼鏡で覗きながら呟いた。

 

 

「シャルの言うとおり、この時間にテスト飛行してるっぽいね。」

 

 

 マチがノブナガの言葉に反応する。

 

 

(―――あれ?)

 

 

「ちょっと、双眼鏡貸しな。」

 

「いや、もう行っちまったから見えねえよ。」

 

 

 マチが慌てて言うと、ノブナガは呑気な返事をした。

 

 

「いいから!」

 

 

 強引にマチが右手を伸ばして双眼鏡を奪い、左の方向を見たが、細く切り立った崖以外には何もなかった・・・。

 

 

(気のせいか・・・。)

 

 

 マチは心の中で呟くと、ノブナガに双眼鏡を返して、携帯を取り出す。

 

 

「獲物を視認した。速すぎてルートは完璧に把握できないけど、南西の方に行ったよ。」

 

 

 マチは、報告を終えると、電話を切って、夕日を見る・・・。

 

 

(さっき、崖の上に誰かいた気がしたんだけど・・・。)

 

 

 マチは心の中で呟くと、ノブナガと一緒に、深い森の中を歩いていった・・・。

 




 次回【08.遭遇】よろしくですヽ(´▽`)/

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