DUAL BULLET   作:すももも

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05.新入り

△△△△△△△△△△△△△△△

 

 

 

 

 暗闇の中、木が鬱蒼と繁る場所で3人の人影が音もなく、動いた。

 

 

 ほとんど、何も言わずに、目的の場所に向かう・・・。

 

 

 10m程の塀を、3人は難なく乗り越え、広い庭を駆けていく・・・。

 

 

 

 

―――バタバタバタッ

 

 

 広い庭に、50人くらいの、武装したスーツの男達が集まった。

 

 

「ありゃ?警報装置か・・・。もう、絶は意味ない?」

 

「ガルナって、ホントにバカなんだね。センサーじゃ正確な位置は特定されないよ。」

 

 

 ガルナの間抜けな言葉に、大きな眼鏡をかけている女が毒を吐く。

 

 

「シズク、ガルナ、目的は分かってるな?あいつらは俺がやるから、お前ら、先に行け。」

 

 

 大柄な男が、そう言って2人に促す。

 

 

「よろしく、フランクリン。」

 

 

 眼鏡の女、シズクはそう言って、先に進む。

 

 ガルナはペコリとお辞儀して、先に行ってしまった、シズクを慌てて追いかけた。

 

 そして大柄な男、フランクリンは、小さく笑い、義指を外して、オーラを高める・・・。

 

 

 2人が駆けていくのを確認し、フランクリンが凄まじい威力の連射型念弾を放つと、辺り一帯が死屍累々の惨劇となっていく――。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「えーと、こっちだっけ?」

 

「最短距離なら、そっちっぽいけど、多分やめた方がいいかな、と・・・。」

 

「なんで?最短距離なら、こっちでいいでしょ?」

 

 

 シズクさんが、そう言って問答無用に、先を歩き始めた・・・。

 

 それを、俺が慌てて、追い掛ける・・・。

 

 ていうか、今の聞いた意味ないんじゃ・・・。

 

 

 

 

 今から2週間前、幻影旅団の本拠地に拉致されて、俺は入団の招待を受けた。

 

 そして流されるまま、俺は幻影旅団に入団してしまったのだった・・・。

 

 念糸で縛られた俺の背後から小さく聞こえた、マチの言葉。

 

 

「逃げたら、殺すからね。」

 

 

 そう囁かれたら、拒否はできなくても、仕方ない・・・筈だ。うん。

 

 

 目の前にいた団長も、絶対に逆らえない、そんな凄みを感じたし。

 

 シャルナークがその後、色々と俺が納得しちゃうような話もしてきたし・・・。

 

 

 そんなこんなで、入団した俺は、欠番だった「4番」をもらった。

 

 

 でも、「4」って、どこかの国じゃ不吉な数字じゃなかったか・・・。

 

 そもそも、欠番って何?

 怖くて聞かないけど。ていうか、聞きたくないし・・・。

 

 

 ちなみに、シズクさんは、俺が入る1年前くらいに入ったらしい。

 

 俺がビビって、皆に気を使って過ごしてるのに、この人遠慮無しに、ズバズバ言うんだよな・・・。

 

 

 

 

 そして今日は、よく分からないけど「遊び」と称して、俺とシズクさんで何か欲しいもの、盗ってこい、とか言われて今に至る・・・。

 

 

 目標は、大富豪ルークスの屋敷。

 

 金に物を言わせて、レアなコレクションを集め、自身の護衛の為に、常に武装した凄腕のガードマン達が屋敷に詰めているという話だ。

 

 

 ビビった俺が有志を募ってみたら、フランクリンさんだけが、来てくれた。

 

 今日からマジ、兄貴と呼ばせてもらいたいところだ・・・。

 

 他の人も割りとそうだったけど、マチは完全に無視していた・・・。

 

 

 

 3日前から、何故か知らないけどマチは口も聞いてくれない・・・。

 

 うう・・・何か怒らせることをしたわけじゃないのに・・・。

 

 

 

 

 

 

 

―――!!

 

 

 俺は、咄嗟に後方に飛んだ。

 

 床には、無数のフォークが刺さっている。

 

 

「くっ」

 

 

 回避が間に合わなかったのか、フォークが1本、シズクさんの肩に深く、刺さっていた・・・。

 

 

「いただきます。」

 

 

 はっきりと聞こえるようにそう言った、男が前方にいた。

 

 男は右手に食事で使うナイフを持っている・・・。

 

 

―――殺気を消すのが、うまいな・・・。

 

 

 俺は、男の方を向き、オーラを高め、臨戦体勢に入る・・・。

 

 相手は、操作系か具現化系か・・・。いや、多分、奴は操作だな。

 

 

――あれ、操作?

 なんか、嫌な予感が・・・。

 

 

 

―――!!

 

 

 一瞬早く、俺は攻撃を回避する。

 

 

 俺の嫌な予感って大体当たるんだよな・・・。

 

 

 

 拳を振るってきたのは、シズクさんだった・・・。

 

 前言撤回。多分じゃなく、絶対、操作系だな奴は・・・。

 

 

 

 

 男がナイフを動かすと、シズクさんが、その動きに呼応して攻撃してきた。

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 ガルナはシズクの攻撃を紙一重で避けて、捌いた。

 

(ぐ、厄介だな・・・。)

 

 ガルナの予想では、敵の能力は、他者の肉体のみを操作する能力。

 

 おそらく、操作対象の念能力を使ったりは、できない筈。

 

 

(それでも、味方を殴るのもなあ・・・。)

 

 

 シズクの攻撃を避けながら、敵の男を観察すると、食事用のナイフを指揮棒のように振っている・・・。

 

 

(なるほど、フォークで刺した対象をナイフを振って操るのか・・・。「いただきます」は、能力のトリガー?・・・その制約って何だろう?フォーク抜いても、操作が外れないとか?ちょっと分からないな。)

 

 

 ガルナは考えながら、まあ何とかなるか、と気軽に考えた。

 

 

 シズクの蹴りを避けながら、右手にオーラを集中させる。

 

 ガルナは素早く、小さな銀のリボルバー拳銃を具現化させ、敵の男を狙う。

 

 

「ファースト・ブリット」

 

 

 シズクのさらなる追撃を回避しつつ、ガルナは宣言と同時に銀の弾丸を放った。

 

 敵の男は慌てて弾丸をガードし、銀の弾丸は跳弾し、男の背後に飛ぶ。

 

 

(よし。)

 

 

 ガルナは、既に具現化した黒い弾丸を、左手の中で握って「破壊」していた。

 

 

―――「ファースト・ブリット」発動。

 

 

 気を取り直した、男が指揮ナイフを振り、同期したタイミングでシズクが拳を振った瞬間、ガルナの姿は消えた。

 

 

―――――!

 

 

 ガルナのナイフの如き手刀が、死角から敵の男の首に静かに触れる。

 

 

「操作を解除しろ。」

 

 

 ガルナは冷徹で、有無を言わせぬ威圧感のある声で言った。

 

 

「ご、ごちそうさまでした。」

 

 

 男が呟くと同時にガルナは、手刀を収めた。

 

 瞬間、男が振り向き様に、ガルナにフォークで攻撃を仕掛ける。

 

 だが、既にガルナは銀の拳銃で男の額を狙い、念弾を放っていた。

 

 

―――ゴトリッ

 

 

 念弾が頭蓋骨を貫通し、敵の男は、倒れてピクリともしない。

 

 

 これは、ガルナの隠している能力。具現化した拳銃による念弾。

 

 ガルナが具現化した弾丸には、攻撃能力はほとんどない。

 

 だが、具現化した拳銃による念弾は、通常の念弾を凝縮して弾丸の速度で飛ばす、速度、貫通力、殺傷力ともに高い能力となる。

 

 

(フォークで俺に攻撃したってことは、「解除した振り」じゃないだろうしね。)

 

 

 ガルナは心の中で考えた。

 

 

「あれ?ガルナ?」

 

 

 シズクがこちらに歩み寄って来る・・・。

 

 さりげなく、ガルナは拳銃の具現化を解いた。

 

 

「瞬間移動で、やっつけたんだ?」

 

「うん・・・。あれ?もしかして、操作されてたときの記憶あるの?」

 

「うん・・・。喋れないし、身体勝手に動いちゃってたけど・・・。ガルナってバカだけど、強いんだね?」

 

「何それ?バカって!ひどくない?」

 

 

 新人2人組は、笑いあった。

 

 

「あ、そのフォーク抜きましょうか?」

 

「ううん、自分でやるから、いいよ。」

 

 

 ガルナの問いに、シズクが答える。

 

 

 すぐに、シズクは自身の念能力により、深く刺さったフォークを簡単に取り除いた。

 

 

 

 

△△△△△△△△△△△△△△△

 

 

 

 

 2人が目的の場所に着くと、辺りを探し始めた・・・。

 

 

「あ、これだ。」

 

 

 シズクが自分の目的のものを見つける。

 

 

 部屋の奥にある、模様細工のついた箱を開けると、カットの質が良く、透明度も高い、綺麗な30カラットのダイヤモンドが入っていた・・・。

 

 

 シズクは、ダイヤモンドを丁寧にハンカチに包み、ポケットにしまう・・・。

 

 

「それ、もらっていい?」

 

 

 ガルナが聞くと、シズクはビックリして聞き返した。

 

 

「これ?こんなの欲しいの?なんで?バカだから?」

「バカって・・・もう、それでいいけど。あー、あと、アレもやらないと。」

 

「うん、ちょっと待って・・・。」

 

 

 ガルナの言葉にシズクが頷き、シズクはオーラを高めて念能力を発現する。

 

 高度な付加能力を持つ、掃除機が具現化した。

 

 

 本来、高い性能の能力ほど複雑で、具現化に高い集中力が必要だ。

 

 だが、シズクの熟練した念は、それをほとんど一瞬にして具現化させる。

 

 

「デメちゃん・・・この部屋の本、全部吸いとれ。」

 

 

 手に入れたものを見ていたガルナが気付くと、シズクの能力が発動していた。

 

 見る見る内に、本が吸われる。

 

 

「ギョギョ」

 

 

 デメちゃん―――異形の掃除機型の念獣・・・。

 

 生物や念で具現化したものは吸えないらしいが、その威力は計り知れない。

 

 先程のフォークも、この能力で吸った為、ほとんど傷を広げることなく、処理できた。

 

 

(無限ってことはないんだろうけど、すごい能力だよな・・・。)

 

 

 僅か数分で、広い部屋の本棚が空っぽになる・・・。

 

 

 

「お待たせ、終わったよ。」

 

「早かったね。団長が簡単に『ついでに』って言ってたのは、こういうことなのか・・・。」

 ガルナは改めてシズクの能力の凄さを思い知った。

 

 

 

「おお、もう終わったのか。新入りにしては、やるじゃねえか。」

 

 

 ちょうど、そこにフランクリンが合流する。

 

 

(・・・あの人数を相手にして、この短時間で合流できるとか、この人も化け物だな・・・。)

 

 

 ガルナは心の中で畏れを抱きながら、交互に2人を見る。

 

 

 

 

「じゃあ、帰りますよ。」

 

 ガルナは短くそう言うと、怪訝な顔をするシズクとフランクリンに触れて宣言する。

 

 

 

 

「フォース・ブリット!」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「おお!ガルナの能力って他の人も飛べるんだ?」

 

 

 シズクさんが、目を大きく開けて驚く。

 

 フランクリンさんも面白そうにしている。

 

 

 ここは、本拠地アジトの近くの空き地。

 

 この辺は、相変わらずゴチャゴチャしてる・・・。

 

 そもそも、流星街自体がそんな感じなんだけども。

 

 最近、慣れてきてしまって、居心地が良く感じる自分が怖い。

 

 

 俺は出発前に、こっそり「フォース・ブリット」を仕掛けておいて、能力を使って本拠地に戻ってきたのだ。

 

 

 俺の弾丸は、数字に対応して、瞬間移動の可能時間を決定する。

 

 

 弾丸が「模様」に変わってから、例えば「ファースト・ブリット」なら1時間以内に「宣言」をして、「宣言」してから1分以内に1秒間の「発」をすると、瞬間移動ができる。

 

 

 

 今回のターゲットの屋敷と本拠地までは、約200KMだった。

 

 車を使って大体2時間くらいの距離で、予想では、さらに2時間近く盗みにかかると判断した。

 

 

 実際は盗みにかかった時間は、1時間足らずだったけど、あくまで予想だしね。

 

 だから、「模様」の継続時間が4時間ある「フォース・ブリット」をセットしていたのだ。

 

 

 

 ちなみに、俺の能力に人数制限はない。

 

 強いて言えば、瞬間移動対象の人物に触れられるだけの人数だ。

 

 

 

 

 それから3人で少し歩いて、アジトに着くとシャルナークがいた。

 

 正直、蜘蛛の中でも唯一人、この人とは仲良くしてる。

 

 マチは・・・今は喧嘩中だし。

 

 

 あれ?なんかシャルナークの顔面が滅茶苦茶腫れてるんだけど・・・。

 

 まあ、血気盛んな連中と暇な時間を過ごせば、そうなることもあるか―――。

 

 

 

「お、おかえり。ちゃんと盗めた?」

 

 

「盗めたんだけど、念能力者がいて、シズクさんが怪我しちゃった。」

 

 

「へえ?強かったの?」

 

 

「本体は雑魚だったけど、シズクさんが操作されちゃって、大変だった。」

 

 

 シャルナークの問いに俺は苦笑いしながら答えた。

 

 

「え?あたし操作なんか、されてないよ?」

 

 

「へ?いや・・・だから、俺が敵に操作を解除させたから・・・。」

 

 

 俺の説明に、シズクさんが突然、反論した。

 

 

「ガルナ、シズクは忘れたことは、2度と思い出さないんだ。」

 

 

 困惑する俺にフランクリンさんが言った。

 

 

 え?じゃあ俺の頑張りも忘れられたのか?マジで?いや、都合いいけど・・・。

 

 

「とりあえず、シズクは団長のところへ、ガルナはマチのところへ行きなよ。」

 

 

 シャルナークがそう言って、場を収めた。

 

 

 シズクさんと俺は了承して、歩いていく・・・。

 

 

 え!!ていうか、ちょっと待って!

 

 

 危うく、すんなり言われたままになる所だった。

 

 

 なんで、俺マチのところへ行くの?俺、死ぬの?

 

 

「俺、マチに用事なんかないよ?」

 

 

 俺が、振り向き様に文句を言ったが、シャルナークは完全に話を聞かない。

 

 

 

 

 うう・・・正直、すごく怖い。

 

 嫌々ながらアジトの奥に俺は行く・・・。

 

 マチと2人きりとかになったら、マジで死ぬんじゃないだろうか・・・。

 

 

 

 

 マチは、不機嫌そうに無言で瓦礫の上に座っていた。

 

 

 

―――何を言えばいいんだ・・・。

 

 

 俺は悩みながら、あるものを思い出して、無言でマチに渡す。

 

 

 屋敷でシズクさんから貰ったものだ。

 

 

 マチはそれを無言で受け取ると、指で俺に付いてくるようにジェスチャーした。

 

 

 黙ったまま、マチに付いていくと、マチの部屋に着く。

 

 ベッドがあるわけじゃないけど、仮眠とか着替えとか、他には1人で休むときに使うみたいだ。

 

 

 

 

 部屋に入ると、テーブルの上になんか料理が用意されていた。

 

 

 マチは既に向かいに座って、こちらを睨む。

 

 

 うん、食べます。ていうか殺気出すの、やめてほしい。

 

 皿の上には、小さなプレーンオムレツ・・・。

 

 

―――!!

 

 

 すごく美味い。

 あれ?半熟になってる・・・これって。

 

 

「めちゃくちゃ美味いよ。」

 

 

 俺はマチにそう言うと、マチは顔を険しくしながら、俺に言う。

 

 

「アンタが文句言うから、シャルに作り方教わった。」

 

「え?別に文句言ってないし。」

 

「は?マジで殺すよ?感想聞いたら『半熟じゃないんだね』って言ったじゃん!」

 

「いや・・・。感想っていうか、思ったこと言っただけだった・・・。いや、でも、あのときも美味かったよ?」

 

 

 マチの剣幕にタジタジになりながら、俺は言い訳する・・・。

 

 

 正直、こんなに気にしてるとは思わなかったし・・・。

 

 そうか、マチは3日前の朝飯のことで怒っていたのか・・・。

 

 

 すると、マチはプイッと顔を背けて言う。

 

 

「・・・35点。」

 

「何それ?」

 

「これの点数」

 

 

 マチの手には、シズクさんのダイヤを入れてた箱があった・・・。

 

 

 細工の感じとか、マチ好みの筈なんだけど・・・。

 

 

「その点数、辛くない?」

 

「アタシの目が肥えてきてるんだね。」

 

 

「うう・・・もっと頑張るよ・・・。」

 

 

 俺は、ガッカリしてうなだれる。

 

 

 

 

―――!?

 

 

 

 

 そうか、マチはこういう気持ちになったのか・・・。

 

 俺は自分が言った酷い言葉をやっと理解した。

 

 

「マチ。」

 

「何?」

 

「ゴメン。」

 

 

 

 

 沈黙が続き、マチは立ち上がって、座っている俺にゆっくりと近づいてくる。

 

 

 

 

 

 すると、突然マチが軽いキスをしてきた。

 

 

 

 

 俺はマチの身体を抱き締めて、それに応える・・・。

 

 

「言っておくけど・・・」

 

 マチが小さな声で囁く。

 

「次は、ないからね。」

 

 

「・・・気を付けます。」

 

 俺は、マチの言葉を強く受け止め、深く反省した。

 

 

 

 そのすぐ後に、シャルナークに呼ばれ、賑やかな宴が始まる・・・。

 

 

 基本的に蜘蛛の人達は、飲んで騒いで、が好きなんだろうな・・・。

 

 あ、俺も蜘蛛の一員だった・・・。

 

 

「ガルナ、飲んでる?」

 

「あ、はい。シズクさん、傷は大丈夫でした?」

 

「全然、大丈夫。ガルナが頑張ってくれたしね。」

 

 

――あれ?

 

 

「もしかして・・・覚えてるん・・・」

 

「あ!前から思ってたんだけど『シズクさん』ってやめてくれない?」

 

 

 俺の言葉を遮り、シズクさん、いやシズクが言う。

 

 

「・・・分かった。じゃあ、シズク、お願いがあるんだけど。」

 

「何?」

 

「『念弾』のことは秘密にして欲しい。」

 

「・・・っていうか、知らないし。そんなの。」

 

 

 

 

 シズクの返事に、俺はニコリと笑い、心の中で感謝した。

 

 

 シズクが操作されていたことと、俺の攻撃能力のことは2人の中で、「なかったこと」になったのだ。

 

 

 俺達は、新入り同士、改めて乾杯をした。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 その様子をアタシはジッと見ていた。

 

 

 別に自分の隣にわざわざ来るような男ではない。

 

 

 そんなことは、分かっていた。

 

 

 そもそも、アイツは大人数を嫌う傾向にある。

 

 

 アタシは蜘蛛の中でも、古参だし、気心の知れた仲の奴も多い。

 

 

 故に、アイツが少し離れたところで静かに飲んでて、他の連中がカードゲームかなんかをする、という構図は、いつものことだ・・・。

 

 

―――それでも。

 

 

 ちょっとは、こっちを見るとか、ないんだろうか・・・。

 

 

 それとも、アイツにとって、アタシはその程度の―――。

 

 

 アタシは頭を振り、妙な考えを打ち消す。

 

 

 うん、これは今日盗んだ酒の質が悪いんだろう。

 

 

 でなければ、こんなこと、考えない筈だ・・・。

 

 

 

 アタシは改めて、ガルナとシズクが話している様子を見る・・・。

 

 

 いきなり、2人が笑い始めた・・・。

 

 何の話しているんだか・・・。

 

 

 

 

 アタシは、自分の手の中のビールの小瓶が、いつの間にか割れているのに気付いた。

 

 

―――ああ、そうか。

 

 

 

 

 きっと、この酒、古くなっていたのね。

 

 

 勝手に割れるくらい古いから、こんなにムカムカした酔い方になるんだわ、きっと。

 

 

 トランプが終わり、他の連中が違う遊びをし始めていた。

 

 アタシは無言で席を立ち、自分の部屋に戻ろうとする。

 

 

 シャルや他の連中に呼び止められた気がするが、気にしない。

 

 

 

 とにかく、気分が悪い。

 

 

 

 アタシは新しい酒瓶を片手に部屋に戻って、床に座って飲みなおした。

 




 昔、作者も卵が理由で戦争が起きたことが、あります。

 作者的には「卵戦争」とか呼んでみたり・・・(´ω`)


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