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暗闇の中、木が鬱蒼と繁る場所で3人の人影が音もなく、動いた。
ほとんど、何も言わずに、目的の場所に向かう・・・。
10m程の塀を、3人は難なく乗り越え、広い庭を駆けていく・・・。
―――バタバタバタッ
広い庭に、50人くらいの、武装したスーツの男達が集まった。
「ありゃ?警報装置か・・・。もう、絶は意味ない?」
「ガルナって、ホントにバカなんだね。センサーじゃ正確な位置は特定されないよ。」
ガルナの間抜けな言葉に、大きな眼鏡をかけている女が毒を吐く。
「シズク、ガルナ、目的は分かってるな?あいつらは俺がやるから、お前ら、先に行け。」
大柄な男が、そう言って2人に促す。
「よろしく、フランクリン。」
眼鏡の女、シズクはそう言って、先に進む。
ガルナはペコリとお辞儀して、先に行ってしまった、シズクを慌てて追いかけた。
そして大柄な男、フランクリンは、小さく笑い、義指を外して、オーラを高める・・・。
2人が駆けていくのを確認し、フランクリンが凄まじい威力の連射型念弾を放つと、辺り一帯が死屍累々の惨劇となっていく――。
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「えーと、こっちだっけ?」
「最短距離なら、そっちっぽいけど、多分やめた方がいいかな、と・・・。」
「なんで?最短距離なら、こっちでいいでしょ?」
シズクさんが、そう言って問答無用に、先を歩き始めた・・・。
それを、俺が慌てて、追い掛ける・・・。
ていうか、今の聞いた意味ないんじゃ・・・。
今から2週間前、幻影旅団の本拠地に拉致されて、俺は入団の招待を受けた。
そして流されるまま、俺は幻影旅団に入団してしまったのだった・・・。
念糸で縛られた俺の背後から小さく聞こえた、マチの言葉。
「逃げたら、殺すからね。」
そう囁かれたら、拒否はできなくても、仕方ない・・・筈だ。うん。
目の前にいた団長も、絶対に逆らえない、そんな凄みを感じたし。
シャルナークがその後、色々と俺が納得しちゃうような話もしてきたし・・・。
そんなこんなで、入団した俺は、欠番だった「4番」をもらった。
でも、「4」って、どこかの国じゃ不吉な数字じゃなかったか・・・。
そもそも、欠番って何?
怖くて聞かないけど。ていうか、聞きたくないし・・・。
ちなみに、シズクさんは、俺が入る1年前くらいに入ったらしい。
俺がビビって、皆に気を使って過ごしてるのに、この人遠慮無しに、ズバズバ言うんだよな・・・。
そして今日は、よく分からないけど「遊び」と称して、俺とシズクさんで何か欲しいもの、盗ってこい、とか言われて今に至る・・・。
目標は、大富豪ルークスの屋敷。
金に物を言わせて、レアなコレクションを集め、自身の護衛の為に、常に武装した凄腕のガードマン達が屋敷に詰めているという話だ。
ビビった俺が有志を募ってみたら、フランクリンさんだけが、来てくれた。
今日からマジ、兄貴と呼ばせてもらいたいところだ・・・。
他の人も割りとそうだったけど、マチは完全に無視していた・・・。
3日前から、何故か知らないけどマチは口も聞いてくれない・・・。
うう・・・何か怒らせることをしたわけじゃないのに・・・。
―――!!
俺は、咄嗟に後方に飛んだ。
床には、無数のフォークが刺さっている。
「くっ」
回避が間に合わなかったのか、フォークが1本、シズクさんの肩に深く、刺さっていた・・・。
「いただきます。」
はっきりと聞こえるようにそう言った、男が前方にいた。
男は右手に食事で使うナイフを持っている・・・。
―――殺気を消すのが、うまいな・・・。
俺は、男の方を向き、オーラを高め、臨戦体勢に入る・・・。
相手は、操作系か具現化系か・・・。いや、多分、奴は操作だな。
――あれ、操作?
なんか、嫌な予感が・・・。
―――!!
一瞬早く、俺は攻撃を回避する。
俺の嫌な予感って大体当たるんだよな・・・。
拳を振るってきたのは、シズクさんだった・・・。
前言撤回。多分じゃなく、絶対、操作系だな奴は・・・。
男がナイフを動かすと、シズクさんが、その動きに呼応して攻撃してきた。
★★★★★★★★★★★★★★★
ガルナはシズクの攻撃を紙一重で避けて、捌いた。
(ぐ、厄介だな・・・。)
ガルナの予想では、敵の能力は、他者の肉体のみを操作する能力。
おそらく、操作対象の念能力を使ったりは、できない筈。
(それでも、味方を殴るのもなあ・・・。)
シズクの攻撃を避けながら、敵の男を観察すると、食事用のナイフを指揮棒のように振っている・・・。
(なるほど、フォークで刺した対象をナイフを振って操るのか・・・。「いただきます」は、能力のトリガー?・・・その制約って何だろう?フォーク抜いても、操作が外れないとか?ちょっと分からないな。)
ガルナは考えながら、まあ何とかなるか、と気軽に考えた。
シズクの蹴りを避けながら、右手にオーラを集中させる。
ガルナは素早く、小さな銀のリボルバー拳銃を具現化させ、敵の男を狙う。
「ファースト・ブリット」
シズクのさらなる追撃を回避しつつ、ガルナは宣言と同時に銀の弾丸を放った。
敵の男は慌てて弾丸をガードし、銀の弾丸は跳弾し、男の背後に飛ぶ。
(よし。)
ガルナは、既に具現化した黒い弾丸を、左手の中で握って「破壊」していた。
―――「ファースト・ブリット」発動。
気を取り直した、男が指揮ナイフを振り、同期したタイミングでシズクが拳を振った瞬間、ガルナの姿は消えた。
―――――!
ガルナのナイフの如き手刀が、死角から敵の男の首に静かに触れる。
「操作を解除しろ。」
ガルナは冷徹で、有無を言わせぬ威圧感のある声で言った。
「ご、ごちそうさまでした。」
男が呟くと同時にガルナは、手刀を収めた。
瞬間、男が振り向き様に、ガルナにフォークで攻撃を仕掛ける。
だが、既にガルナは銀の拳銃で男の額を狙い、念弾を放っていた。
―――ゴトリッ
念弾が頭蓋骨を貫通し、敵の男は、倒れてピクリともしない。
これは、ガルナの隠している能力。具現化した拳銃による念弾。
ガルナが具現化した弾丸には、攻撃能力はほとんどない。
だが、具現化した拳銃による念弾は、通常の念弾を凝縮して弾丸の速度で飛ばす、速度、貫通力、殺傷力ともに高い能力となる。
(フォークで俺に攻撃したってことは、「解除した振り」じゃないだろうしね。)
ガルナは心の中で考えた。
「あれ?ガルナ?」
シズクがこちらに歩み寄って来る・・・。
さりげなく、ガルナは拳銃の具現化を解いた。
「瞬間移動で、やっつけたんだ?」
「うん・・・。あれ?もしかして、操作されてたときの記憶あるの?」
「うん・・・。喋れないし、身体勝手に動いちゃってたけど・・・。ガルナってバカだけど、強いんだね?」
「何それ?バカって!ひどくない?」
新人2人組は、笑いあった。
「あ、そのフォーク抜きましょうか?」
「ううん、自分でやるから、いいよ。」
ガルナの問いに、シズクが答える。
すぐに、シズクは自身の念能力により、深く刺さったフォークを簡単に取り除いた。
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2人が目的の場所に着くと、辺りを探し始めた・・・。
「あ、これだ。」
シズクが自分の目的のものを見つける。
部屋の奥にある、模様細工のついた箱を開けると、カットの質が良く、透明度も高い、綺麗な30カラットのダイヤモンドが入っていた・・・。
シズクは、ダイヤモンドを丁寧にハンカチに包み、ポケットにしまう・・・。
「それ、もらっていい?」
ガルナが聞くと、シズクはビックリして聞き返した。
「これ?こんなの欲しいの?なんで?バカだから?」
「バカって・・・もう、それでいいけど。あー、あと、アレもやらないと。」
「うん、ちょっと待って・・・。」
ガルナの言葉にシズクが頷き、シズクはオーラを高めて念能力を発現する。
高度な付加能力を持つ、掃除機が具現化した。
本来、高い性能の能力ほど複雑で、具現化に高い集中力が必要だ。
だが、シズクの熟練した念は、それをほとんど一瞬にして具現化させる。
「デメちゃん・・・この部屋の本、全部吸いとれ。」
手に入れたものを見ていたガルナが気付くと、シズクの能力が発動していた。
見る見る内に、本が吸われる。
「ギョギョ」
デメちゃん―――異形の掃除機型の念獣・・・。
生物や念で具現化したものは吸えないらしいが、その威力は計り知れない。
先程のフォークも、この能力で吸った為、ほとんど傷を広げることなく、処理できた。
(無限ってことはないんだろうけど、すごい能力だよな・・・。)
僅か数分で、広い部屋の本棚が空っぽになる・・・。
「お待たせ、終わったよ。」
「早かったね。団長が簡単に『ついでに』って言ってたのは、こういうことなのか・・・。」
ガルナは改めてシズクの能力の凄さを思い知った。
「おお、もう終わったのか。新入りにしては、やるじゃねえか。」
ちょうど、そこにフランクリンが合流する。
(・・・あの人数を相手にして、この短時間で合流できるとか、この人も化け物だな・・・。)
ガルナは心の中で畏れを抱きながら、交互に2人を見る。
「じゃあ、帰りますよ。」
ガルナは短くそう言うと、怪訝な顔をするシズクとフランクリンに触れて宣言する。
「フォース・ブリット!」
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「おお!ガルナの能力って他の人も飛べるんだ?」
シズクさんが、目を大きく開けて驚く。
フランクリンさんも面白そうにしている。
ここは、本拠地アジトの近くの空き地。
この辺は、相変わらずゴチャゴチャしてる・・・。
そもそも、流星街自体がそんな感じなんだけども。
最近、慣れてきてしまって、居心地が良く感じる自分が怖い。
俺は出発前に、こっそり「フォース・ブリット」を仕掛けておいて、能力を使って本拠地に戻ってきたのだ。
俺の弾丸は、数字に対応して、瞬間移動の可能時間を決定する。
弾丸が「模様」に変わってから、例えば「ファースト・ブリット」なら1時間以内に「宣言」をして、「宣言」してから1分以内に1秒間の「発」をすると、瞬間移動ができる。
今回のターゲットの屋敷と本拠地までは、約200KMだった。
車を使って大体2時間くらいの距離で、予想では、さらに2時間近く盗みにかかると判断した。
実際は盗みにかかった時間は、1時間足らずだったけど、あくまで予想だしね。
だから、「模様」の継続時間が4時間ある「フォース・ブリット」をセットしていたのだ。
ちなみに、俺の能力に人数制限はない。
強いて言えば、瞬間移動対象の人物に触れられるだけの人数だ。
それから3人で少し歩いて、アジトに着くとシャルナークがいた。
正直、蜘蛛の中でも唯一人、この人とは仲良くしてる。
マチは・・・今は喧嘩中だし。
あれ?なんかシャルナークの顔面が滅茶苦茶腫れてるんだけど・・・。
まあ、血気盛んな連中と暇な時間を過ごせば、そうなることもあるか―――。
「お、おかえり。ちゃんと盗めた?」
「盗めたんだけど、念能力者がいて、シズクさんが怪我しちゃった。」
「へえ?強かったの?」
「本体は雑魚だったけど、シズクさんが操作されちゃって、大変だった。」
シャルナークの問いに俺は苦笑いしながら答えた。
「え?あたし操作なんか、されてないよ?」
「へ?いや・・・だから、俺が敵に操作を解除させたから・・・。」
俺の説明に、シズクさんが突然、反論した。
「ガルナ、シズクは忘れたことは、2度と思い出さないんだ。」
困惑する俺にフランクリンさんが言った。
え?じゃあ俺の頑張りも忘れられたのか?マジで?いや、都合いいけど・・・。
「とりあえず、シズクは団長のところへ、ガルナはマチのところへ行きなよ。」
シャルナークがそう言って、場を収めた。
シズクさんと俺は了承して、歩いていく・・・。
え!!ていうか、ちょっと待って!
危うく、すんなり言われたままになる所だった。
なんで、俺マチのところへ行くの?俺、死ぬの?
「俺、マチに用事なんかないよ?」
俺が、振り向き様に文句を言ったが、シャルナークは完全に話を聞かない。
うう・・・正直、すごく怖い。
嫌々ながらアジトの奥に俺は行く・・・。
マチと2人きりとかになったら、マジで死ぬんじゃないだろうか・・・。
マチは、不機嫌そうに無言で瓦礫の上に座っていた。
―――何を言えばいいんだ・・・。
俺は悩みながら、あるものを思い出して、無言でマチに渡す。
屋敷でシズクさんから貰ったものだ。
マチはそれを無言で受け取ると、指で俺に付いてくるようにジェスチャーした。
黙ったまま、マチに付いていくと、マチの部屋に着く。
ベッドがあるわけじゃないけど、仮眠とか着替えとか、他には1人で休むときに使うみたいだ。
部屋に入ると、テーブルの上になんか料理が用意されていた。
マチは既に向かいに座って、こちらを睨む。
うん、食べます。ていうか殺気出すの、やめてほしい。
皿の上には、小さなプレーンオムレツ・・・。
―――!!
すごく美味い。
あれ?半熟になってる・・・これって。
「めちゃくちゃ美味いよ。」
俺はマチにそう言うと、マチは顔を険しくしながら、俺に言う。
「アンタが文句言うから、シャルに作り方教わった。」
「え?別に文句言ってないし。」
「は?マジで殺すよ?感想聞いたら『半熟じゃないんだね』って言ったじゃん!」
「いや・・・。感想っていうか、思ったこと言っただけだった・・・。いや、でも、あのときも美味かったよ?」
マチの剣幕にタジタジになりながら、俺は言い訳する・・・。
正直、こんなに気にしてるとは思わなかったし・・・。
そうか、マチは3日前の朝飯のことで怒っていたのか・・・。
すると、マチはプイッと顔を背けて言う。
「・・・35点。」
「何それ?」
「これの点数」
マチの手には、シズクさんのダイヤを入れてた箱があった・・・。
細工の感じとか、マチ好みの筈なんだけど・・・。
「その点数、辛くない?」
「アタシの目が肥えてきてるんだね。」
「うう・・・もっと頑張るよ・・・。」
俺は、ガッカリしてうなだれる。
―――!?
そうか、マチはこういう気持ちになったのか・・・。
俺は自分が言った酷い言葉をやっと理解した。
「マチ。」
「何?」
「ゴメン。」
沈黙が続き、マチは立ち上がって、座っている俺にゆっくりと近づいてくる。
すると、突然マチが軽いキスをしてきた。
俺はマチの身体を抱き締めて、それに応える・・・。
「言っておくけど・・・」
マチが小さな声で囁く。
「次は、ないからね。」
「・・・気を付けます。」
俺は、マチの言葉を強く受け止め、深く反省した。
そのすぐ後に、シャルナークに呼ばれ、賑やかな宴が始まる・・・。
基本的に蜘蛛の人達は、飲んで騒いで、が好きなんだろうな・・・。
あ、俺も蜘蛛の一員だった・・・。
「ガルナ、飲んでる?」
「あ、はい。シズクさん、傷は大丈夫でした?」
「全然、大丈夫。ガルナが頑張ってくれたしね。」
――あれ?
「もしかして・・・覚えてるん・・・」
「あ!前から思ってたんだけど『シズクさん』ってやめてくれない?」
俺の言葉を遮り、シズクさん、いやシズクが言う。
「・・・分かった。じゃあ、シズク、お願いがあるんだけど。」
「何?」
「『念弾』のことは秘密にして欲しい。」
「・・・っていうか、知らないし。そんなの。」
シズクの返事に、俺はニコリと笑い、心の中で感謝した。
シズクが操作されていたことと、俺の攻撃能力のことは2人の中で、「なかったこと」になったのだ。
俺達は、新入り同士、改めて乾杯をした。
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その様子をアタシはジッと見ていた。
別に自分の隣にわざわざ来るような男ではない。
そんなことは、分かっていた。
そもそも、アイツは大人数を嫌う傾向にある。
アタシは蜘蛛の中でも、古参だし、気心の知れた仲の奴も多い。
故に、アイツが少し離れたところで静かに飲んでて、他の連中がカードゲームかなんかをする、という構図は、いつものことだ・・・。
―――それでも。
ちょっとは、こっちを見るとか、ないんだろうか・・・。
それとも、アイツにとって、アタシはその程度の―――。
アタシは頭を振り、妙な考えを打ち消す。
うん、これは今日盗んだ酒の質が悪いんだろう。
でなければ、こんなこと、考えない筈だ・・・。
アタシは改めて、ガルナとシズクが話している様子を見る・・・。
いきなり、2人が笑い始めた・・・。
何の話しているんだか・・・。
アタシは、自分の手の中のビールの小瓶が、いつの間にか割れているのに気付いた。
―――ああ、そうか。
きっと、この酒、古くなっていたのね。
勝手に割れるくらい古いから、こんなにムカムカした酔い方になるんだわ、きっと。
トランプが終わり、他の連中が違う遊びをし始めていた。
アタシは無言で席を立ち、自分の部屋に戻ろうとする。
シャルや他の連中に呼び止められた気がするが、気にしない。
とにかく、気分が悪い。
アタシは新しい酒瓶を片手に部屋に戻って、床に座って飲みなおした。
昔、作者も卵が理由で戦争が起きたことが、あります。
作者的には「卵戦争」とか呼んでみたり・・・(´ω`)