DUAL BULLET   作:すももも

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 ブリッツが事実上解散した後、父サミエル=ブライトの仇であるギタラクルを討つ為、私は自身の念能力を研究し磨き続けた。

 

 同時に、ギタラクルの情報を得る為、裏の組織の仕事を率先して受け、日々を過ごす。

 

 

 しかし、ギタラクルの情報は、時折その名を聞くこともあったが、それ以上大した情報を得ることはできなかった。

 様々な権限が規制され、制限を受けた立場では、情報収集活動にも限界がある。

 

 

 1年程経過した頃、現状を打開する為、ある方策を思い付き、準備を進めていた。

 そんなある日――。

 

 

 

 

 1997年10月11日、1本の電話が鳴った。

 

 

「お久しぶり――ですわね、シドリア様。」

 

 

 若い女の声で躊躇いがちにそう言うのが聞こえた。私は驚きながら返事をする。

 

 

「まさか・・・ジェシカか?」

 

 

 あれ以来、ジェシカと会うことは無かった。

 あの日、私は怒りに我を忘れて、彼女の気持ちを知りながら酷い言葉をぶつけてしまった。

 

 気まずさに何と言っていいか分からずにいると、ジェシカが笑いながら返事をする。

 

 

「ええ。貴方のおかげで、ワタクシはこの1年の間、とても多忙でしたわ。」

 

「すまない。あの時は感情的になってしまって、君にも迷惑を掛けた。」

 

 

 ジェシカの言葉に、私は心から謝罪の言葉を口にした。

 するとジェシカは笑うのをやめ、少し真剣な声色で話し出した。

 

 

「実は少し、困ったことがありまして、お力をお貸しいただけませんでしょうか?」

 

 

 私は、ジェシカの真剣な口調に気圧され、急ぎノースタリアに向かった。

 

 

 

 

「――こちらですわ。」

 

 

 3日後、ノースタリアに着いた私がジェシカに案内されたのは、広い霊安所だった。

 まだ死亡してから数日しか経過していない、数え切れない程の兵士の遺体が、広い霊安所に見渡す限りあった。

 

 私は、早速念能力を発動する――。

 

 

即席閃光(インスタント・フラッシュ)

 

 

 一瞬だけオーラを光に変化させる簡単な分析能力――。

 

 この能力はカメラのような静止画しか視ることができない。

 

 反面、脳の情報処理能力を上げると同時に、念の光で周囲を視る念能力【絶影雷影(ダーク・ブリッツ)】よりもオーラの消費が少ない。

 

 壁越しでも赤外線走査により生物の位置は分かるし、ただの凝よりも精密にオーラの流れや色を判別できる。

 

 私が能力で分析すると、残留オーラから考えて、その遺体は間違いなく念能力者によるものだった。

 

 素手により急所を突かれた者、玩具の人形のように首がへし折られている者や銃で撃たれた者など、死因はバラバラであることから、おそらく複数の念能力者による殺人だろう。

 

 

「おそらく私と同じ力を持つ者による仕業だろう。」

 

「そうですか・・・。やはり、念能力者による犯行なのですわね?」

 

 

 私がぼかして言った説明を聞いて、ジェシカは悲しそうにそう呟くと、驚く私を気にせずに続けて言った。

 

 

「現場の要塞で監視カメラの映像もご覧いただけますか?」

 

 

 

 

 車に乗り、離れた要塞に向かう途中で私が質問を投げ掛けると、ジェシカは答えた。

 

 

「今やワタクシもこの国の国家元首なので、貴方達が使う不思議な力を調べることもそう難しくはないですわ。」

 

 

 私が感心して頷くと、ジェシカは説明をする。

 

「この1年の間に、ワタクシは父の私兵団を公国兵士として正式に採用し、国の防衛に力を入れ、さらに一部の兵士には専門の訓練をさせましたわ。」

 

「ま、まさか――?」

 

 

 私が言葉を発しようとすると、ジェシカはそれを否定するように首を振りながら言った。

 

 

「さすがに、念を修得させるのは難しく、その代わりに『対念能力者対策』を徹底しましたわ。」

 

 

 ジェシカの説明によると、念能力者の最大の脅威である近接戦闘術に対抗する方法を訓練したらしい。

 

 念能力者は完全に気配を絶つことで、物音や気配に気付く熟練の兵士を相手にしても、気付かれないように接近してオーラを利用した強力な攻撃を繰り出す。

 

 その為、要塞に配置した兵士は正確な巡回ルートによって侵入ルートを潰し、例え相手の位置が正確に分からなくても、多人数の兵士が協力して遠距離から銃による挟撃を行うことで、念に対抗するという案を採用していたそうだ。

 

 

「かなり合理的な作戦だな。しかし一体誰がそんな――?」

 

 

 ブエストタ要塞に着き、歩きながら私が質問すると、問いに答える前にジェシカは扉を開けた。

 

 古びた様式の扉ではあったが、その部屋の中は最新式のモニター室になっている。

 

 

「実は、父が全て考案したものですわ。クーデターを鎮圧した後の数年の間に秘密裏に研究していたようです。

 今思うと、父には父なりの信条のようなものがあったのかもしれません・・・。」

 

 

 ジェシカの顔を改めて見ると、少し痩せたように感じた。

 あれから1年、この国の為に苦労してきたのだろう。

 

 私は、ジェシカに対してできることをしてやりたいと思った。

 

 

 ジェシカは細い指でパネルを操作し、犯行時の映像をモニターに出す。

 

 監視カメラの映像を見て、私が最初に驚いたのは兵士同士が撃ち合っている光景だった。

 

 操作系? まさか、ギタラクル――?

 

 

 私がそう考えていると、モニターの中には、銃撃戦に構うことなく歩く3人組が見えた。

 

 その内の1人が携帯を操作している。

 戦闘地帯に似合わない携帯を操作する男が、兵士を操作しているのだろう。

 

 針を使うギタラクルとは別人のようだった。

 

 しかし、かなり高度なレベルの銃撃戦を可能にする程の精度の操作系能力者――只者ではない。

 

 

 そうして操られた兵士の後を追うように、3人組はゆっくりと焦ることもなく要塞の奥に向かった。

 

 激しい銃撃戦の末、操られた兵士が頭を撃たれて倒れた。

 

 その直後、訓練を受けた兵士達はセオリーに従い、間合いを保ったまま遠距離射撃を始めようとする――。

 

 

 だが、兵士が射撃する前に勝負はついた。

 

 それは、最早監視カメラには映りきらない程の早業――。

 

 3人組の1人の小柄な者が飛び出すと、兵士は一斉にそちらに照準を定める。

 しかし、それは誘導されたものであり、瞬時に兵士達は命を絶たれた。

 

 

「こいつらは、相当な手練れだな。何よりも実戦経験が相当なものだ。

 銃を前にしてオーラを全く揺らぎもせずに、ここまで冷静に行動できるとは――。

 正直、私だけでは奴らに勝てない・・・。」

 

 

 私がそう呟くと、ジェシカが言った。

 

 

「この国の専門機関で調べた結果、彼らは『幻影旅団』という盗賊集団だそうです。

 この後、要塞で保管していた歴史的価値のある財宝を全て盗まれてしまいましたわ。」

 

 

 ジェシカはそう言ってから、身体を震わせて吐き出すように言った。

 

 

「兵士と言っても、使い捨ての道具ではありませんわ!

 あんな物を盗む為に、家族のいる兵士達を殺してしまうなんて――。」

 

 

 ジェシカはそう叫ぶと泣き出してしまった。

 きっとそうなると分かっているから付き人を要塞には連れてこなかったのだろう。

 

 

 ジェシカは泣きながら私の方を向き、口を開く。

 

 

「ノースタリア公国首席議長ジェシカ=マーキュリーが命じます!

 シドリア=ブライト、幻影旅団を確保しなさい! 生死は問いません。」

 

 

 ジェシカの威風堂々とした命令を聞き、私は深々と頭を垂れて任務を受けた。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 冷たいシャワーが、女の火照った身体を冷やし、まどろんだ思考をハッキリとさせていく――。

 女が鏡で自分の身体を見ると、上半身には蜘蛛の刺青と多数の手術痕が見えた。

 

 女は軽く溜め息をついてからシャワーを止めると、素早くタオルを巻いて浴室を出た。

 

 

 女が手短に着替えを済ませて寝室に向かうと、全裸の男がベッドで大の字になって熟睡している。

 

 女は、男の口元に強力な粘着テープを何重にも貼り付けてから、男の股関の状態を冷ややかに見て、外に連れ出す方法を考えた。

 

 さすがに服を着せるのは面倒だと思い、そのまま男をシーツに包んでグルグル巻きにして運び出す。

 

 女は個人用の飛行船をチャーターすると、男を荷物のように扱い、故郷に向かった――。

 

 

 廃墟とも言えるようなアジトに着くと、女が見慣れぬ小柄な男を乱暴に縛り連れてきたことに、仲間達は呆れた様子だった。

 

 

「そいつが団長の言ってた奴か? その状態でよく起きないな。」

 

「飛行船の中で薬を打った。多分そろそろ起きると思う。」

 

 

 大柄の男の質問に女が答えると、女の予想通り、縛られている男がゆっくりと目を覚ました。

 

 その様子に皆自然に注目していた。

 中央に陣取っている黒髪のオールバックの男が語り出す。

 一方的な形で話は進み、最後に男が決定的な言葉を言い放った。

 

 それを聞いた途端、縛られてる男は、恐怖で青ざめて体を揺すり出した。

 

 女の指に、自然に力が入る。

 

 

「逃げたら、殺すからね。」

 

 

 女が目の前で動き続ける男に、小さく呟くようにそう言った。

 それまで縛られていながら必死にもがいていた男は、その言葉を聞き、無意味に動くことは諦めたようだった。

 

 

「うーん、随分怖がっているようだけれど、ガルナにもメリットはあるよ?」

 

 

 爽やかな青年が、縛られている男、ガルナに向かってそう言った。

 ガルナはその言葉を聞いて、若干落ち着きを取り戻して青年を見る。

 

 ガルナの様子を見た青年は説明を始めた。

 

 

「オレはシャルナーク。幻影旅団では作戦立案をしたり、情報収集する裏方みたいな仕事をしてる。」

 

 

 シャルナークは、床にしゃがんでガルナと目線を合わせると続けて言った。

 

 

「何か欲しい物ない? 情報収集なら俺に任せて。

 ガルナ個人じゃ入手不可能な物も、幻影旅団に入れば簡単に手に入るよ――。」

 

 

 それを聞いたガルナは、興味を抱いた表情で小さく頷いた。

 

 

 あと一押し――。

 

 女の勘がそう告げていると、中央の瓦礫に座っている男が言った。

 

 

「俺は同じことを言うのは嫌いだが、もう一度言おう。

 幻影旅団(クモ)に入れ、ガルナ=ポートネス――。」

 

 

 幻影旅団の団長クロロ=ルシルフルが、決して断ることのできない迫力のある声でそう言うと、ガルナは観念したようにゆっくりと頷いた。

 

 

 ガルナの反応を見たクロロは、満足そうな顔で女の方を見て指示を出す。

 

 

「マチ、頼む。場所は任せると伝えてくれ。」

 

 

 

 

 マチと呼ばれた女は軽く頷くと、ガルナの口元に貼った強力な粘着テープを乱暴に剥がして言った。

 

 

「アンタを婆様のところに連れていくわ。」

 

 

「誰それ? ていうか、俺の服無いの?」

 

 

 マチの言葉に、ガルナは思い付くまま疑問を投げ掛けた。

 マチは少し面倒に思いながら、切り捨てるように答える。

 

 

「行けば分かるわ。服はどうせあっちで邪魔になるからそのままね。」

 

 

 それを聞いたガルナは文句を言うが、マチがオーラを込めた目で睨み付けると、ガルナは仔犬のように小さくなった。

 

 

 

 

 その建物は廃墟が多いこの街の中では、比較的しっかりとした建造物だった。

 

 3人の老人達がマチを迎え入れる。

 

 

「――おお、久しぶりだね。マチ、元気だったかい?」

 

「確か、最後に会ったのは、94年の赤い目の悪魔退治を依頼したときかの?」

 

「違う違う。確か1年ちょい前の大仕事の前に挨拶に来たぞい。」

 

 

 3人の老人達がそれぞれ思い思いのことを言っていると、最初に話し掛けた老婆が言った。

 

 

「それで、その男は? それなりに使えるようだけれど?」

 

「ええ。団長が入団させてくれって――。」

 

 

 老婆の問いにマチが丁寧に答えると、別な老人が少し語気を荒げて口を挟んだ。

 

 

「クロロが推薦するなら、あいつが来るべきだろう!?

 全く、奴は儂らを何だと思ってるんじゃ!」

 

 

 老人がそう言うと、マチが答えた。

 

 

「団長に伝えておくわ。

 こいつの推薦はアタシがするし、いいでしょ?」

 

 

 マチが普段よりも口調を柔らかくしてそう言うと、中央にいた老人が毅然とした口調で尋ねた。

 

 

「確か1年程前にも、そうやってマチが推薦しようとしていた奴がいたな?

 サクラバ(4番) を殺したとか言っていた――。」

 

「長老、アイツのことは忘れて!

 コイツは信用できるから!」

 

 

 マチが少し感情的になってそう言うと、先程の老婆が優しい口調で尋ねた。

 

 

「その信用ってのは、勘かい?それとも――?」

 

 

 老婆の質問に対して、マチは何も答えられなかった。

 

 すると、中央に座る長老が言った。

 

 

「まぁ構わん。お主らは本来、独立した組織だ。お主らが決めたことをとやかく言うことはせんよ。」

 

 

 長老はそう言うと、目にオーラを込めてガルナを見る――。

 

 

「よろしい、ガルナ=ポートネスが幻影旅団の4番となることを承認する。」

 

 

 長老が広間に響き渡る声でそう言うと、マチはガルナの後頭部を持って床に顔面を押し付け、自身の頭も深く下げた。

 

 

 それからマチは老婆の方を見て言った。

 

 

「団長が、場所はどうでもいいって――。」

 

 

 老婆は頷くと、ガルナだけを連れて奥の間に連れて行った。

 

 マチはかつて自分もあの部屋で施術されたことを思い出す――。

 

 

蜘蛛の墨入れ(スパイダーズタトゥー)

 

 

 施術中は目隠しをされ、その効果は不明。

 施術は激痛を伴い、終わってから3日間は高熱で寝込んでしまうが、この施術を受けなければ団員として認められない。

 

 

 マチの予想通り、数時間後、ガルナが号泣しながら奥の間から出てきた。

 

 左肩部に真新しい包帯が巻いてあり、シーツを腰に結びつけてヨロヨロと歩いている。

 

 

 マチは軽く肩を貸してガルナを連れて歩き出して屋外に出ると、誰にも聞こえないように小さく言った。

 

 

「ところで昨晩のことは、忘れてよね。流れで何となくそうなっちゃったけど――。」

 

 

 マチが控え目な口調でそう言うが、既にガルナは施術の苦痛に顔を歪めたまま意識を失っていて返事をすることは無かった。

 

 ガルナの様子を見たマチは溜め息をつくと、ガルナを引きずるように歩き続けた。

 

 

 

 

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 ジェシカから命令され、シドリアは幻影旅団の調査を開始した。

 

 1年前にブリッツが事実上解散してからシドリアが新たに構築した裏の情報網を駆使して調査を進めるが、調べる度にシドリアは憂鬱になった。

 

 シドリアは仮にも「盗賊集団」なのだからと、幻影旅団が過去に盗んだ物を洗い、狙う物の傾向を掴もうとした。

 

 それが分かれば、次に狙いそうな物を絞って、鈴をつける――すなわち、あらかじめ盗まれそうな物がある地域の空港、駅その他に密偵を配置する作戦――。

 

 

 しかし、幻影旅団の盗んだ物に傾向などなく、その手口も活動時期も活動場所も全てがバラバラであった。

 

 残虐非道に大量虐殺をして盗むこともあれば、あまり人を殺さずに目的の物だけを盗むこともあり、また時々謎のメッセージを現場に残すこともある。

 まるで、幻影旅団を名乗る別々の集団がいるかのように一貫性がなかった。

 

 その名が表す、幻影(まぼろし)のように掴み所がない――。

 

 1ヶ月の間、シドリアは幻影旅団の足取りを懸命に追い続け、各地に情報網を張るが、捜査は暗礁に乗り上げようとしていた。そんなある日――。

 

 

――トゥルルル。

 

 

 携帯が鳴り、シドリアが応答すると、通話先の男が言った。

 

 

「闇武器商人のダッドだ。シドリア、この間は助かったぜ。おかげで取引はうまくいった。」

 

「大したことはしていない。ただ警察のガサ入れ情報を売っただけだ。

 用件はそれだけか?」

 

 

 シドリアがそう言うと、ダッドが言った。

 

 

「いや、前回は俺が欲しい情報を買ったが、今回はお前の欲しい情報を売ろうかと思ってね――。」

 

 

 ダッドの言葉を聞いてシドリアは沈黙する――。

 ダッドは沈黙に構うことなく続けて言った。

 

 

「シドリアお前、幻影旅団を追っているそうだな。

 アレを追う者がお前以外に1人いる。」

 

「私以外に――? それは誰だ?」

 

「名前は知らねえが、1年前かそれ以前に幻影旅団と直接会った奴らしい。

 お前がそいつと接触したければ、セッティングしてやるぜ?」

 

 

 ダッドが最後にそう言うと、シドリアは一瞬考え込んでから返答した。

 

 

「分かった。手筈を整えてくれ。金はいくらでも払う。」

 

 

 ダッドは快く了承すると、電話を切った。

 

 

 

 後日、ダッドから連絡が来た。

 先方にはシドリアの名前を伏せ、凄腕のアマチュアハンターとして紹介したらしい。

 

 

 3日後、カーンという都市の郊外にある無人の廃屋で待ち合わせとなった。

 

 

 約束の1時間前に、シドリアは離れた所から待ち合わせ場所に念能力の影を張り巡らせる――。

 

 念能力でつくった影は、太陽などの光が当たっても消えない。

 

 1年前のガイアッグとの戦いで発覚したその弱点を克服する為に、シドリアは影の形状にもレパートリーを増やし、何かの影にカモフラージュして展開できるよう訓練した。

 

 シドリアが一番苦労したのは、影の形状を長時間固定する技術だった。

 しかし、必死の修業の結果、今のシドリアはあらかじめセットした影ならば、僅かな揺らぎも起こさずに維持し続けることができる。

 

 影の能力は、オーラを視ることはできない代わりにただの円よりも気付かれにくく、遠距離の情報収集能力としては使いやすい。

 

 シドリアがしばらく見張っていると、探知圏ギリギリの範囲に異様な服装の男が見えた。

 

 オーラが視えなくても、立ち振舞いから相当な達人だということが伺える。

 シドリアの額から大粒の汗が流れ、緊張感に包まれた。

 

 シドリアは、判断に困り、対応に悩んだ。

 

 1年前に幻影旅団に会った男――。

 

 その男が今なお幻影旅団を探す目的は、幻影旅団に協力するか、敵対するか――。

 

 どちらにしろ、現状のシドリアよりも幻影旅団に近い存在。

 

 シドリアは危険な相手ならば、拘束し情報を聞き出すつもりであった。

 念には念を入れて、周囲には武装した傭兵を配置している。

 

 だが、あそこまでのレベルの相手では、無力化して生きたまま確保することは不可能だと、シドリアは考えた。

 それ以前に、返り討ちに合う可能性の方が高い――。

 

 

 シドリアが悩んでいると、男は何の前触れもなく立ち止まった。

 

 シドリアの眼前には、念による4方向からの光学映像が展開され、男の姿を捉えている。

 

 

――!?

 

 

 突然、男の姿が消えた。

 

 シドリアの展開するどの影にも映らず、シドリアは焦りながらも影の維持に努め、男の姿を探す――。

 

 数分後、どこからか発砲音が聞こえた。

 

 

 影で見ると、配置した傭兵の全員がいつの間にか倒れている――。

 

 シドリアは、ハッと背後の気配に気付き、サングラスに手を掛けた。

 

 

「やっぱりキミか♠

 いい線いってるけど、まだまだ♥」

 

 

 シドリアの背後からそう言うのが聞こえる。

 シドリアは、その声に聞き覚えがあった。

 

 

「まさか、貴様は――?」

 

「正解◆ ヒソカだよ♠

 あの影ってやっぱりキミの能力だったんだね♥」

 

 

 シドリアの言葉にヒソカがそう答えると、シドリアは聞いた。

 

 

「お前の目的はなんだ?」

 

 

 振り向くことすらできず、緊張を隠せないままシドリアは質問を投げ掛ける。

 

 ヒソカは含み笑いを続けながら、アッサリと答えた。

 

 

「幻影旅団の団長と戦りたいんだ♥」

 

 

 それを聞き、シドリアは思わず背後を振り向きながら叫ぶ。

 

 

「また性懲りもなく、貴様の快楽の為に殺し合いをするのか!?」

 

 

 シドリアが叫ぶよりも早く、ヒソカはシドリアの首筋にオーラが込められたトランプを突き立てていた。

 

 ヒソカは笑うのをやめて語り出す。

 

 

「そう言うキミこそ、目的はなんだ?♣

 ボクの邪魔をするつもりなら、今ここで殺す♥」

 

 

 ヒソカの異様な迫力に、シドリアは息を呑んだ。

 シドリアは、ゆっくりと言葉を選びながら説明する。

 

 

「私は旅団を捕らえたい。

 国宝を盗むだけの理由で、奴らに殺された祖国の人達の為に――。」

 

 

 シドリアは、ジェシカのことを伏せ、そう言った。

 

 ヒソカは鋭い目でシドリアを観察すると、しばらくしてから不気味な笑みを浮かべて言った。

 

 

「なるほど◆ じゃあボク達の目的は利害が一致するわけだ♠」

 

 

「そうだな。私は旅団員の死体を国に持ち帰れればそれでいい。」

 

 

「OK、交渉成立♥

 実は1つ調べて欲しいことがあるんだ◆」

 

 

 ヒソカはそう言うと、1枚の写真を取り出し、続けて言った。

 

 

「彼らが次に狙っているのは、これだそうだ♠」

 

 

 シドリアは写真を見て言った。

 

 

「この写真に写っているモノを調べればいいんだな?」

 

 

 シドリアの言葉にヒソカは頷くと、互いの連絡先を交換した。

 

 

「以後の連絡は、電話かメールで♥」

 

 

 ヒソカはそう言うと、その場を去っていった。

 

 ヒソカがいなくなってから、シドリアは1人呟く。

 

 

「そんな生き方しかできないというのか・・・ジョニー?」

 

 

 シドリアの悲しげな声が、廃墟に響き渡った――。

 

 

 

 

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「カキン帝国で、例のブツの目撃証言が何件かあった。

 どうやらあの国でアレの飛行試験を行っているようだな。」

 

 

「へえ、随分早いな◆

 もう少し調べるのに時間がかかるかと思ったのに♣」

 

 

 私の言葉を聞き、通話先の男がそう言った。

 

 

 私は、あの男の名を、決して呼ぶつもりはない。

 

 どういう経緯があるか知らないが、私の師匠であるヒソカ=サクラバを殺し、その名を語ることは絶対に許せないからだ。

 

 

「私は今からカキン帝国に入り、調査を開始しようと思う。

 奴らのアジトが分かったらまた連絡する。」

 

「OK♥」

 

 

 私の言葉を聞き、通話先の男が了承した。

 

 それから携帯を閉じると、私は椅子にもたれかかった。

 嫌な汗が流れ、シャツが背中に貼り付くのを感じる。

 

 電話だけでもこれ程の緊張感――。

 ジェシカから命じられた任務の為とはいえ、あの殺人狂と行動を共にするのを後悔し始めていた。

 

 

 1週間後、私は幻影旅団の潜伏先を発見した。

 意外にも、幻影旅団の連中は隠れたりするつもりはないらしい。

 

 私の能力で奴らの狙っているブツの周辺を張っていると、下調べをする奴らを見つけ、拠点とするアジトも割りと簡単に見つけることができた。

 

 依頼主に連絡をとりつつ、監視を続ける。

 

 当初3人程度だったが、徐々に数を増やし、12月1日の今日になると倍以上となっていた。

 

 

「メンバーが集結するような動きがある。

 もしかしたら、近い内に決行するかもしれない。」

 

 

 依頼主がカキンに入った連絡を受け、私がそう報告すると、翌日に直接会うことになった。

 

 影の能力が展開しやすい死角が多く、ある程度の明るさがある廃墟で待ち合わせをする。

 

 

 

 依頼主の男は、あのバカに会ったらしい。

 奴が強くなったと言っていたが、私はあまり驚かなかった。

 

 私と喧嘩別れしたときも、まだ未完成ながら発動した私の【絶影雷影(ダークブリッツ)】を、奴は尋常ではない速度の攻防力変化で防御した。

 

 私はあの瞬間、ガルナのオーラの流れを見極めていたからこそ、本気の突きを放ったのだ。

 

 

 ガルナは本来強い。先天的な勘の良さもあいまって瞬間的な攻防に優れているし、人並み外れた危機察知能力もある。

 

 きっとあれからも研鑽を重ねたのだろう。だから私は大して驚くことはなかった。

 

 奴が何をしているか興味はないが、何か因縁めいたものを感じる――いや、決して興味はないが・・・。

 

 

 依頼主の男が報酬を振り込んだのを確認すると、私はガルナのことを考え、物思いに耽りながら歩いた――。

 

 

――ブブッ!

 

 

 宿に着く前に、携帯のメールが着信した。

 相変わらず矛盾しているが、私は普段能力を使う時以外は【偽影】で自分の目を封印している。

 

 手探りで懐から携帯を取り出し、解像度の高い影でメールを見ると、こう書いてあった。

 

 

「蜘蛛が動き出した♣彼らの足を潰したい♥」

 

 

 短いメールだが、おおよそ言いたいことは伝わる。

 私は、急いであの場所に向かった――。

 

 

 今日が決行日だったのだろう。あちこちで発砲音が聞こえる。

 

 私が対象物がある格納庫前に到着すると、依頼主の他に、もう1人の男がそこにいた。

 影の解像度を上げ、その顔を見た途端、私は驚愕した。

 

 私の反応に構わずに奇術師が話し出す。

 

 

「蜘蛛が狙うアレで空を移動されたら困るんでね♠

 キミにも協力してほしい◆」

 

 

 奇術師が、手短にそう説明したが、私は話をほとんど聞き流していた。

 

 何故ならば、当たり前のようにこの場にいたのは――。

 

 

「き、貴様は――!?」

 

「――ヒソカ、こいつ誰?」

 

 

 私の言葉を遮るように、その場にいた男が奇術師に尋ねた。

 

 

「ああ、彼はシドリア◆ 蜘蛛の連中を見つけてくれたアマチュアハンターだ♣

 シドリア、こっちの彼はボクのトモダチの――。」

 

「ギタラクル!」

 

 

 奇術師の説明の途中で、私が短く言い放った。

 まさか、この殺人狂と殺し屋が友人同士などとは――。

 

 だが、好都合だ。この1年で追い続けた父の仇討ちと、幻影旅団の殲滅任務を同時にできる。

 

 私は周囲の状態を素早く見る。

 ここでは条件が悪く【絶影雷影(ダークブリッツ)】を使っても、効果は薄い。

 

 

 場所を変えるか、どうするか――。

 

 私が思考していると、奇術師が笑いながら言った。

 

 

「違う違う♠彼の名前はイルミ、イルミ=ゾルディックだ♣

 パドキア共和国のゾルディック一家って有名だろ♥」

 

「ゾルディックだと――?」

 

 

 私は確かにその名には覚えがあった。

 

 ノースタリア公国の隣国のパドキア共和国で代々殺し屋稼業を営む一家の話を聞いたことがある。

 それがゾルディック一家。家族全員が殺し屋、しかしその実態は不明で、依頼するにもコネクションが無いと受け付けない――。

 

 

 私は自分の愚かさに呆れ果てていた。

 

 ギタラクルという偽名に囚われ過ぎて、知っていたにも関わらず、隣国の暗殺一家のゾルディックを調べることはしていなかったからだ。

 

 

 私が殺気を抑えきれずにイルミを睨みつけていると、ヒソカが形容し難い不気味な笑みを浮かべて私に尋ねる。

 

 

「仕事を引き受けてくれるかい? シドリア♥」

 

 

 奇術師が、異常な程の禍々しいオーラを出しながらそう聞いた。

 

 今、私が仕事を断れば、イルミとの接点がなくなってしまう。

 私は今の状況では、彼らと協力して幻影旅団の殲滅を優先すべきだと判断し、返答する。

 

 

「・・・分かった。仕事を受けよう。私は何をすればいい?」

 

 

 私の言葉を聞き、奇術師が説明を始めた――。

 

 

 

 私の念能力【幻影偽像(シェイドビジョン)】は、影の面積が広い程、影の色が薄くなり、影の色の薄さに応じて光学情報は少なくなってしまう。

 故に、影の面積を限定しつつ効果的に要所に設置し、私の手元にくる影については限りなく1本の線のように細くさせた。

 

 また、以前依頼主であるあの男に感付かれた経験を踏まえ、解像度とコマ数については、画像が判別可能なギリギリまで低く設定し、限りなく察知されないように影を展開する。

 

 機体周辺や事務室、休憩所など、6箇所の場所を映した質の悪い光学映像が、眼前に映し出される――。

 

 

 今回の作戦の目的は、旅団員に疑問を抱かせないまま対象物を使用不能にすること。

 

 予想より早く、既に決行されてしまった為の苦肉の対応策だ。

 

 影で確認した旅団の動きを私が伝え、イルミがあらかじめ操作した整備員に通信機器を使って命令を出す作戦――。

 

 

 旅団に感知されない距離で待機し、しばらく監視していると、格納庫で戦闘が始まった。

 イルミは、攻撃を受けたら倒れたまま通信を待つように、操作対象に命令しておいたようだ。

 

 私が今回設定した影で得られる情報は、コマ数を限定したせいで、約1分間の空白時間がある。

 侵入経路は分からないが、空白時間の内に旅団員数名が集結し、対象を眺めていた。

 

 数コマ後、集団が休憩室に向かい、しばらくしてから休憩室で茶を飲み始めたので、私はGOサインを出した――。

 

 

 

 

 作戦は予想以上の成果だった。

 

 

 イレギュラーも重なり結果的に対象物は大爆発を起こし、幻影旅団の足留めに成功した。

 

 しかし、私はあの時あの場でイレギュラーとなった、あの男の存在に対する疑問を呟く。

 

 

「どうでもいいが、あいつは何故あそこにいたんだ?」

 

「さあね◆ 彼なりに金稼ぎでもしてるとか♣」

 

 

 目の前の奇術師の予想を聞くと、私は戸惑いを隠せなかった。

 

 

 まさか、G・I購入資金の為に犯罪者集団に加わったとでもいうのか?

 

 私は思わず呟く。

 

 

「だとしたら、相変わらずいや、前よりもバカだな。」

 

 

 私は、自分でも分からない感情を抱き、小さくそう呟いた。

 

 

 その後、影での監視によって、ガルナが団長から拷問を受けているのを見た時は、怒り狂いそうになった。

 

 原因は予想できる。今すぐ叫んでやめさせたかった。

 

 

――あのオモチャの爆発にガルナは関係ない! 私の仕業だ――。

 

 

 しかし、私の実力はまだあの団長と戦えるレベルに達していない。

 

 

 必死に感情をコントロールして、現実的な解決策を考える。

 

 

 

 私は、例の奇術師に連絡をとり、情報を伝えた。

 

 

「幻影旅団の団長は、男1人と同じ部屋にいる。

 今ならお前の求める状況をつくれるかもしれない――。」

 

 

 皮肉にも、またイルミと共同作戦をとることになった。

 

 しかし、作戦が始まると、私が監視していた時と大分状況が変わってしまっていた。

 

 私が希望し担当となった拷問部屋に、ガルナがいなかったのだ。

 

 懸命に部屋の周辺を影で探すが見つからない。おそらく他の場所に移動したのだろう。

 

 

 ひとまず任務を達成すればガルナ救出は可能であると踏んで、拷問部屋にいる旅団員に対して偽影を展開する。

 

 

 しかし予想に反して、奇術師がろくにオーラで防御することなく、女の強烈な打撃を受けて致命傷となってしまった――。

 

 何か考えがあるわけではなく、私は拷問部屋に入る。

 

 

 部屋は狭くて薄暗く、敵は3人――。

 

 条件は、決して悪くない。

 深く考えることなく、私は逃亡する為に私の念能力を使う決意をした。

 

 他人の視界を遮る為に使っていた偽影を凝縮して、自分の両眼に展開させている偽影と融合させる。

 

 偽影で吸収した僅かな光を目に集中させる為に、一定時間、他の全ての能力を使わずに光の処理をしなければならない。

 

 会話で時間を稼ぎ、眼に光が溜まった瞬間、私は能力を発動した――。

 

 

 

 

 運が良かったと言わざるを得ない。

 

 私の能力は、思考速度と反応速度の強化により、予知のように正確に相手の動きを分析することで、相手より初動が早く、ブレーキをかけることなく全開の速さでの動作をすることができる。

 

 ただし、身体の動き1つ1つの速度は、私の身体能力と流の実力に左右されてしまうので、相手の対応によっては失敗する可能性もあった。

 

 だが、私はかつてジョニーと呼ばれた男の救出に成功し、なんとか宿にまで運び終えた。

 

 

 

 

 部屋を出た私は、気掛かりなことを思い出す――。

 

 

「ガルナ・・・。」

 

 

 そう呟いた私は携帯を取り出し、掌の上で長い間持て余した末に、また携帯を懐にしまった――。

 

 

 結果は散々たるものだ。

 幻影旅団は1人も倒せず、イルミにも逃げられた。

 

 何よりも、またしてもガルナを助けられなかった――。

 

 

 私は心身ともに疲れ果てていた。

 

 私は、心が壊れそうになりながら、必死にやってきたのに何も得ていない自分に気付き、空を見上げる――。

 

 

 太陽が真上にあった。

 

 昼刻であることを思い出すと同時に、楽しそうに食事をする彼女を連想させた――。

 

 

「ミコト・・・。」

 

 

 念の影を使い果たした私は、肉眼で見る照り輝く太陽の眩しさに目を細めながらそう呟いた――。

 

 

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

 

 彼女は温かい日差しを感じて、目を開く。

 

 灰色の瞳に映る太陽の光――。

 

 

 彼女は僅かに感じる光の方向から、昼刻であることが分かった。

 

 見渡す限り緑一色の草原の中、起き上がった彼女は猫のように伸びをすると、元気に叫ぶ。

 

 

「んー、お昼ご飯の時間です!」

 

 

 彼女は慣れた動きで、片手を伸ばして唱える――。

 

 

「ブック!」

 

 

 すると、指輪を付けた指先の空間に大型のバインダーが出現した。

 彼女はバインダーのページを楽しそうにめくっていく。

 

 ページにセットされたカードに指先を這わせ、彼女は目的のカードを探した。

 

 

 彼女の指先のオーラは、超高精度の(エン)――。

 

 指先のオーラの僅かな範囲内のみ、僅か数ミクロンの誤差で物体を肌で感じ、彼女は僅かな印刷の凹凸すらオーラで読み取ることが出来た。

 

 

「あったです! 『超特盛焼き肉定食』これです!――ゲイン!」

 

 

 彼女がカードを取り出してそう唱えると、カードが消えると同時に、お盆に乗った異常な程のボリュームの定食が出現した。

 

 彼女は無言でガツガツと定食を貪るように食べる。

 

 1分程度で定食を食べ終わると、彼女は言った。

 

 

「ちょと物足りないです。 モンスターでも狩って、ご飯買いに行くです!」

 

 

 そう言って彼女はニコニコと笑いながら空を見上げる。

 

 

 

 

 彼女は待っていた。あの2人の少年達を――。

 

 

 彼女がこの地に来た時、あまりに現実離れした世界に驚き、すぐにでも帰りたかった。

 

 

 だが、しばらく1人で行動するうちに気付いた。

 

 全ては自業自得だということを――。

 

 

 誘拐された彼女を助ける為に、2人の少年達は死に掛け、1人は失明してしまった。

 

 少年の目を治したい一心で偶発的に発動した彼女の念能力で、少年の目と彼女の目が交換することになる。

 

 盲目となった彼女の目を治す為に、2人の少年はあらゆる手段でゲームを探し、その後ゲーム入手の経緯で喧嘩別れのようになってしまった。

 

 だが、それは全て自分に原因があるということに気付いたのだ。

 

 

 自分が誘拐されなければ――。

 

 治癒の念能力を扱いきれていれば――。

 

 

 1人だけゲーム内に入ったのは業のようなものだと、彼女は考えた。

 2人の少年に守られるだけの存在だから、こうなってしまった。

 

 

 故に――。

 

 

 彼女は2人の少年が来るまで、1人でゲーム攻略することを強く誓ったのだった。

 

 その為に、彼女は努力した。

 

 基礎的な身体能力や念の修行はもちろん、例え目が見えなくても戦えるように、念の応用技の円の精度を極限まで上げる修行をした。

 

 2~3m程度の間合いならば、相手の眼球の動き、呼吸、発汗等を正確に読み取ることで、相手の攻撃を先に察知し、戦闘することができる。

 目だけを頼るよりも、死角もなく早く反応できた。

 

 今や、ゲーム内にいる一般的なレベルのプレイヤー程度では、彼女と勝負にすらならない。

 

 

 彼女が苦手な情報収集も、この2年で大分手慣れた。

 ずっと彼を見ていたから要領が分かったのだと、彼女は考える。

 

 彼女は彼を想い、そして呟く――。

 

 

「シドリア様、ワタシは今日も元気です!」

 

 

 元気にそう呟いた後、彼女はバインダーからカードを取り出して唱える。

 

 

磁力(マグネティックフォース)オン! マサドラへ!」

 

 

 透明感のあるオーラに包まれた彼女は、一筋の光と化して飛んでいった――。

 




 ひとまず、やっと第2章終わりました( ̄ロ ̄;)

 次の第3章以降から本編が始まる予定ですが、仕事が忙しく、なかなか時間がないので、更新ペースはあまり期待はしないでやってください(;^_^A

 よろしくお願いしますm(__)m

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