DUAL BULLET   作:すももも

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【前書き】
 お待たせしました!(。・ω・。)




30.帰郷

 やはり貴族たる者、どんな時も優雅さを忘れてはいけませんわね。

 

 

 夏の昼下がり、目が眩むような日射しの中で、ワタクシは汽車を待っていましたわ。

 汽車が到着し乗車すると、ワタクシは予約していた個室の扉を開けて、日除け帽を帽子掛けに掛け、ゆったりとした動きで座りました。

 

 ゆっくりと汽車が走り始め、みるみる速度が上がっていきましたわ。

 そしてワタクシは車窓から見える景色を眺めていました。

 

 真夏の太陽を一杯に受けた鮮やかな緑の美しい田園風景が心を洗うようで、ワタクシは流れゆくその景色を見てうっとりとしていましたわ。

 

 しばらくすると、その風景を遮るように別の汽車が追い越してきました。

 せっかく美しい景色を楽しんでいましたのに、なんということでしょう。

 

 でも、貴族たる者、どんな時も優雅さを忘れてはいけませんわね。

 

 

 ワタクシは、ゆったりと優雅な動きで姿勢を直すと、何気なく並んで走る汽車を眺めていました。

 

 

 すると、並んで走る汽車の一室に、短く刈り上げた金髪の小柄な青年と目が合いましたわ。

 彼も、ワタクシと同じように車窓から見える景色を邪魔されたと思っているのかしら?

 

 そんな風に感じたのも束の間、青年の個室の扉が突然開いて、黒いスーツを着た怖そうな顔のスキンヘッドの男性2人が乱暴な仕草で青年に近づきました。

 

 ワタクシがアッと驚きそちらの方を見ていると、信じられない光景を目撃しました。

 

 黒スーツの1人が青年の背後からナイフを振りかざしていましたが、金髪の青年は目にも止まらぬ動きで背後の男性を殴り飛ばしました。

 

 その男性が吹き飛ぶ瞬間、既に金髪の青年は美しいファイティングポーズで構えていて、ワタクシの目では何が起きたかすぐには理解できませんでしたわ。

 

 銃を取ろうとしたのでしょうか、もう1人の男性が懐に手を入れるや否や、青年はその男性も殴り倒していました。

 

 いやですわ。喧嘩なんて野蛮なものは見たくないですわね。

 

 それからも次々と現れる屈強な黒スーツの集団と殴りあっていましたわ。

 青年は、おそらくワタクシと大して変わらない小柄な身体なのに、人間離れした素早い動きで相手を倒し続けています・・・。

 

 それにしても、多勢に無勢とはこのことですわね。

 小柄な青年はたった1人でナイフや銃を持った集団と戦っているようですが、素人目に見ても苦戦しているようですわ。

 

 狭い個室で、倒れたスキンヘッドの男性のせいで足の踏み場を無くしたのか、青年が戦いづらそうにしているように感じました。

 

 遂には、青年は黒スーツの1人に背後から羽交い締めにされてしまい、数人から一方的に殴られていました。

 ワタクシはその光景を見て、思わず目を伏せてしまいました。

 世間知らずなワタクシでも、これが喧嘩なんてものではないということは、既に理解していましたわ。

 

 

 詳細は分かりませんが、きっとあの金髪の青年はいわゆる普通の方ではないのでしょうね。

 もしかしたら、マフィアの娘さんに手を出したとか――?

 

 

 あら、いけない。また空想に耽ってしまっていましたわ。

 

 少女のように、無駄な空想をしてしまうなんて、立派な淑女を目指すワタクシにはいけないことです。

 

 目を瞑り呼吸を整えると、ワタクシはもう一度並んで走る汽車を見ましたわ。

 

 いつの間にか、先程の青年のいた客室は見えなくなっていて、並んでいた汽車は徐々にこちらを追い抜き始めていました。

 

 ワタクシは何とも言えない複雑な気持ちになりながら、それでもあの青年には助かって欲しいと思いましたわ。

 

 それも、空想かしら?

 おそらく、現実的には無理でしょうね。

 それに、きっとあの青年にも少なからず何か落ち度があったと思われますし――。

 

 

「ヒッ!?」

 

 

 ワタクシは目の前の窓を見た途端、思わずみっともない声を出してしまいましたわ。

 

 

 目の前の窓に小さなヒビがありました。おそらく弾痕でしょう。

 きっと流れ弾というものですわね。

 先程の黒スーツ集団のものかしら?

 

 弾痕は、ワタクシの頭上数十センチの位置で、窓を貫通こそしていませんでしたが、運が悪ければ――。

 そう考えると、ワタクシは突然の現実感に強い恐怖を感じ、思わず自身の身体を抱きしめ、特に意味もなく足下を見ていましたわ・・・。

 

 

 

 

――バンッ!

 

 

 突然の物音に驚いて見上げると、ワタクシは心臓が止まるかと思いました。

 

 

 そこには、刈り上げた短い金髪の青年が――。

 

 

 

 

 目の前の窓の外に張り付くようにしていました。

 

 

 ワタクシはその光景を見て、驚きで言葉を失い固まっていると、彼は大きく口を開けて、何かを叫んでいるようでしたわ。

 汽車の走行音で何を言っているか聞き取れず、ワタクシが困惑していると、金髪の青年は窓の下の方を指差しました。

 

 その瞬間片手になった彼は大きく体勢を崩し、同時にハッと気付いたワタクシは急いで窓を開けました――。

 

 

「――あぶな、痛たたッ!」

 

 

 金髪の青年は、ワタクシが窓を開けたと同時に目にも止まらぬ速さで飛ぶように半身を車内に入れ、そう呟きました。

 

 彼はそれからゆっくりと、ワタクシの個室に入り、そのままスルリとワタクシの向かいの座席に腰掛けましたわ。

 

 

 彼の衣服は破け、その身体にはあちこち傷がありました。

 間違いなく、あの青年です。

 先程まで並んで走っていた汽車で、強面の男性達と肉弾戦を繰り広げていた、あの青年ですわ。

 

 

 貴族たるものどんなときも――いや、そんなわけないでしょう。

 

 

「ど、どういうことですの!?」

 

 

 さすがの異常な事態に、ワタクシは恥も外聞も捨てて叫びました。

 

 

「ん?ああ、お姉さん、ありがとうね。」

 

 

 金髪の青年は軽い口調でそう言いました。

 ワタクシの疑問などどうでもいいのか、説明をする気配はありませんでした。

 それだけで、彼が軽薄で不真面目な方だということは容易に察することができましたわ。

 

 しかし、よくよく見ると、あんなに袋叩きにあっていたというのに、大きな怪我は負っていないようです。

 ワタクシが不思議に思って質問をしようとすると、その前に彼は無言で立ち上がりました。

 

 青年が立ち上がった途端、彼が背負っていたリュックサックからドサドサと荷物が落ちましたわ。

 きっと先程の乱闘で破れてしまったのでしょう。

 

 青年もそれに気付いて、面倒そうな表情で背後を振り返ると、突然叫び始めました。

 

 

「うそ!? アレがない?」

 

 

 ワタクシが何のことか分からないまま青年を見ていると、彼は必死に何かを探し始めましたわ。

 先程までの軽薄な雰囲気とは違い、何かを恐れて酷く焦った様子です。

 

 

「な、何かお探しなのです?」

 

 

 見かねてワタクシは彼にそう訊ねましたわ。

 

 彼はワタクシの言葉など聞こえていないのか、ワタクシの方も見ずに、窓を全開にすると、青ざめた顔で酷く汗をかき外を睨むようにしています。

 

 金髪の青年の視線の先には、先程の汽車が――。

 

 あちらの汽車は、ちょうど分岐点だったらしく、こちらの汽車とは別な方向に進み始めていました。

 彼は、離れていくその汽車を見ると、焦った表情で両手を合わせましたわ。

 

 長い間彼がそうしていると、彼の両手の中から小さな銀の拳銃が現れました。

 

 

 何かの手品?

 いえ、それにしては何の動きもしていなかった筈ですわ。

 

 彼は額から汗を流しながら、両手の中の銀の拳銃を見て満足そうな顔をすると、すぐに拳銃を構えました。

 

 しかし、既にあちらの汽車はこの個室からは見えなくなっていましたわ。

 

 青年は、途方に暮れた表情で茫然としています。

 

 ワタクシが混乱していると、彼は意を決した表情で発砲しました。

 

 反射的に、ワタクシは耳を塞ぎ身を伏せましたわ。

 

 

 しばらくしてから身を起こすと、あの短く刈り上げた金髪の青年は、文字通り消え去っていました。

 

 まさかと思いながら窓の外を見ると、驚くことに遥か遠くの田園風景の線路上を、あの青年が走っているのが見えましたわ。

 おそらく彼が向かっているのは、走り去った汽車の方向――。

 

 人間の足で汽車に追い付ける訳がないと考えながらも、神出鬼没のあの青年ならばあるいは――と想像してしまいましたわ・・・。

 

 窓の弾痕を見て、これは夢や幻ではないことを改めて実感し、ワタクシは溜め息と共に呟きましたわ。

 

 

「――お茶でも頼もうかしら?」

 

 

 それから、ワタクシは給仕に淹れてもらった紅茶を優雅な仕草で飲みながら、心を落ち着けるように努力しましたわ。

 

 ワタクシの名は、ジェシカ。ジェシカ=マーキュリー。

 マーキュリー伯爵の1人娘ですわ。

 

 

 やはり貴族たる者、どんな時も優雅さを忘れてはいけませんわね。

 

 

 

 

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲

 

 

 

 

「ご案内致します。」

 

 

 屋敷の執事はそう言って、来客を案内した。

 

 来客の男は頷くと、無言のまま執事についていく。

 

 

 

 

 男は考えていた。

 

 この国に来るのは、約6年振りだった。

 6年前は、力の無いただの少年だった彼も、今や中堅クラスのアマチュアハンターとなっていた。

 

 念能力者としてもそれなりの実力者であり、何もできなかった少年時代とは違っていた。

 

 

――しかし。

 

 時代が変わっていた。

 

 少年の頃は武力が支配力に繋がると信じて、男は強さを追い求めた。

 

 それから時が経ち、職業柄様々な知識を得た結果、男はかつての事件について自分なりの仮説を立てていた。

 

 

 1970年代、世界中であらゆる革命や、クーデターが起きた。

 その多くは、昔ながらの社会主義国家や、封建的な社会構造を持つ国だった。

 

 その原因として、世界中の民主化の影響を受けたのだと、ほとんどの歴史書に記載されている。

 

 しかし、実際は違うのだと、男は考えていた。

 

 

 社会構造の突然の変革など、外部からの刺激が無い限りありえないのだ。

 しかし、1970年代の動乱は、全て内部からの爆発だった。しかも、無関係な数多くの国でそれは起こっている。

 

 では、何故そのようなことが――?

 

 

 男は、答えは1つだと結論付けた。

 

 すなわち、1970年代の動乱の原因は「電脳」の普及に他ならない。

 

 今でこそ、他国の情報を簡単に「めくる」ことが可能な電脳だが、1970年以前は、ネットワークとして不完全で、地域性の高いものだった。

 偶然かそれとも必然なのか、1970年を境に急速に情報インフラは整備され、ネットワークは世界中で繋がるようになった。

 

 世界中で「情報変革」が起きたのだと、男は考えた。

 

 他国への移動はいまだに長期間かかるものだ。

 

 故にかつての情報交換は限定的で、数日前や場合によっては数ヶ月前の古いものしかやり取りされていなかった。

 

 物流などは、最たるもので、今でこそネットワークサービスが発達して注文は電脳で行い、物理的には発送のみの時間で済む。

 しかし、かつてはカタログを入手し、注文書を発送し、注文した物を受け取るということを完了するのに、場合によって数ヶ月、早くても1ヶ月はかかった。

 特に海外から何かを入手するという非常に手間のかかることは、ほとんど行われず、他国との交流は少なかったと言える。

 

 

 そんな社会的背景が、旧体制の独裁国家を維持してきた理由の1つだ。

 

 しかし、情報変革によって、急激に大陸間の交流は容易に、かつ頻繁に行われていった。

 

 

 男の故郷であるノースタリア公国においても、1970年頃に大規模なクーデターが起きた。

 クーデターを公国の武力で制圧した後、水面下の情報戦により男の一族は責任を追及され、事実上の政権交代を余儀なくされた。

 

 

 クーデターが起きたことも、それが原因で権力を失ったのも、全ては情報変革後の「情報戦」に負けたからだと、男は結論付けている。

 

 

 故に――。

 

 男にとって、情報とは武器という認識に他ならなかった。

 

 

 

 

「――シドリア様、こちらになります。」

 

 

 執事はその男、シドリアにそう声を掛け、扉を示した。

 

 

「ここに・・・。」

 

 

 シドリアは、小さく呟きながら重い扉を開く。

 

 

 その部屋には、大きなキングサイズのベッドに痩せ細った人間が横になっていた。

 

 

 

 

「し、シドリア・・・か?」

 

 

 寝たきりの人物は、かすれた小さな声を出した。

 

 シドリアは力強く頷き、芯の通った声で返事をした。

 

 

「はい、お久しぶりです、父さん。」

 

 

 寝たきりの男は、痩せこけて、発する呼吸音にも異音が混じっていた。

 シドリアの記憶によれば、まだ40歳代の筈のその男は、実年齢よりも20歳は上に見えた・・・。

 

 男の名は、サミエル。

 シドリアの実の父であるサミエル=ブライト本人であった。

 

 

「シドリア、立派に・・・なったな。」

 

 

 サミエルは涙を流しながら、そう言った。

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 その1週間前、ガルナとシドリアは仕事もなく、久しぶりの休日を満喫していた。

 

 

「シドリア!これでもくらえ!」

 

「フッ甘いな。その位置からじゃその技の当たり判定はないぞ。ほら、お返しだ。」

 

「ちょっ!何それ?ハメ技?」

 

 

 モニターには勝利したキャラクターが表示されていた。

 

 ガルナは悔しそうに叫ぶ。

 

 

「くそ! また負けた。」

 

「ガルナは本当に学習能力がないな。」

 

 

 シドリアは呆れた顔でガルナに言った。

 

 

 

 

 ミコトがGIに閉じ込められた件で、ガルナが買ったジョイステーションで2人は遊んでいた。

 

 当初は、ゲームをやったことがなかったシドリアは、どのゲームでもガルナに負けた。

 

 しかし、シドリアはすぐに上達して今ではゲームでガルナに負けることはなくなっていた。

 

 

 

 しばらくの間、わめき散らした後、ガルナが何かを思いついて提案をした。

 

 

「次からハメ技禁止にしない?」

「それだと、お前の得意な、壁際で下蹴り連打のコンボもできなくなるがいいのか?」

 

 

 すかさず、シドリアは冷静な口調でそう言い返した。

 

 

「ぐっ!でもさ――。」

 

 

――ピンポーン

 

 

 来客を知らせるベルが鳴った。

 

 ガルナとシドリアは顔を見合わせ言葉を使わずに、どちらもお互いに対して「お前が行け」というジェスチャーをする。

 

 

――トゥルルルッ

 

 

 そこに今度は、電話が鳴った。

 

 ガルナとシドリアは溜め息をつき、束の間の休みが無くなったことを理解してそれぞれが動いた。

 

 シドリアは電話をとり、ガルナは来客を対応する。

 

 ガルナは電話が苦手だ。

 簡潔明瞭に話すことができないし、子供のようにストレートに思ったまま話すので、電話の相手は要領を得ず、場合によっては相手が怒り出してしまうことさえあったからだ。

 

 

「はい、分かりました。では、3日後に――。」

 

 

 シドリアは電話を切ると、要点を書いたメモを確認する。

 

 ふと、来客の方がどうなったか気になり、少し面倒に思いながらもシドリアは玄関に向かった。

 

 

 そこでは、ガルナと男が玄関先で何かを言い争っていた。

 

 

「――だから!どうやって、この家を調べたんだよ?」

 

「うるせえ!

 分かってるんだ!ここにシドリアがいるってことは――。」

 

 

 シドリアは、影の能力の解像度を上げて来客の顔をしっかり確認すると、持ったままであったメモを床に落とした。

 

 

「まさか、ガイアッグなのか・・・?」

 

 

 シドリアは、驚きを隠せないような声でそう呟いた。

 

 

 

 

 シドリアは、ガイアッグを居間に案内すると、コーヒーを淹れた。

 シドリアがコーヒーを差し出すと、ガイアッグが言った。

 

 

「探したぜ。こんなでかい家まで買ってしまうなんて、随分立派になったじゃねえか、シドリア。」

 

 

 数ヶ月前、シドリアはミコトがプレイ中のGIを保管するという理由だけで、郊外に家を買った。

 仕事柄、依頼人との連絡はホームコードと携帯電話があれば良かったので、この家については、ブリッツと関連づけて調べることは不可能である筈だった。

 

 

「どうして、ここが分かった?」

 

 

 シドリアは、淡々とした口調でガイアッグに尋ねた。

 

 

「そりゃ、不動産の登記簿にシドリア=ブライトって書いてあれば、幼稚園児でも分かるだろ?」

 

「それもそうだな。」

 

 

 シドリアは小さく笑いながら、頷いた。

 

 

「シドリア?」

 

 

 その様子を見ていたガルナがシドリアを呼んでから、わざとらしく咳をした。

 

 

「ああガルナ、悪かったな。紹介しよう。

 彼はガイアッグ――かつてシムズ市で私と暮らしていた、ノースタリア公国の近衛隊隊長だ。」

 

「へへ、俺がシドリアを育てたんだ。言うなれば、親代わりさ。」

 

「ふざけるな。お前はろくに働きもせずに、家事は全て私がやっていただろう?」

 

 ガイアッグは、かつてシドリアとシムズ市内で一緒に暮らし、シドリアに銃器の扱いを教えたノースタリア公国直属の近衛隊隊長だ。

 シドリアが少年時代に共に過ごし、シドリアにとっては年齢の離れた兄のような存在であった。

 

 

 それからシドリアとガイアッグが言い合いをしている中で、ガルナが聞いた。

 

 

「それで、ガイアッグがシドリアを探していたのはなんでなの?」

 

 

 ガルナの問いに、シドリアは少し驚き、ガイアッグを見た。

 ガルナの言葉から、シドリアは無自覚にガイアッグとの再会に喜んでいたことに気が付いたからだ。

 

 すると、ガイアッグは躊躇った様子で話し出した。

 

 

「そうだったな・・・大事な話を忘れてたぜ。

 単刀直入に言うと、サミエル=ブライト、シドリアの父親が病気でもう長くないんだ。」

 

 

 ガイアッグの言葉で、その場の空気は凍りついた。

 

 

 

 

 数分後、シドリアは荷物をまとめながらガルナに言った。

 

 

「先程電話で受けた依頼については、ガルナに任せるぞ。場所については――。」

 

 

 短く依頼の説明をすると、シドリアはガイアッグと一緒に家を出ていった。

 

 

 

 

「なんか、珍しいな。シドリアがあんなに慌てるなんて・・・。」

 

 

 ガルナは考えた。

 

 父親が病気で、亡くなるかもしれない――。

 自分だったら、どうするだろうか?

 

 ニコラス=ポートネス。いまや、世界中で有名な海運会社、ポートネス海運の社長。

 その男は、かつてガルナの母違いの兄、ジョニーに酷い仕打ちをした。

 ガルナにとって、大好きだった「ジョニー」は、あの雨の日に死んだ――。

 

 

 全てはニコラスのせいだと、ガルナは今でも考えている・・・。

 

 

 

 

「ふう、とりあえず出掛ける準備でもしようかな?」

 

 

 そう言って、思考を途中で投げ出し、ガルナは自分の部屋に向かった。

 

 リュックサックに最低限の荷物を積み込むと、ガルナは自室のドアノブに手を伸ばした。

 

 

「ん?・・・誰かいる?」

 

 

 ガルナは、奇妙な気配を感じ、素早く絶を使って窓際の壁に身を潜ませた。

 

 絶を維持しながら、ゆっくりと窓から外を伺う――。

 

 

「え、ウソ?」

 

 

 ガルナは、瞬間的にオーラで全身をガードし、部屋から離れるように跳躍する。

 

 

――――ゴゴーン!

 

 

 耳を破壊するかのような大轟音と共に、辺りは煙に包まれた。

 

 

「ケホッケホッ!

 マジかよ? いきなりバズーカって――。」

 

 

 煙が晴れると、ガルナの部屋は破壊され、窓はもちろん床や天井も歪な形に崩壊している。

 

 

 ガルナは衝撃で痛む身体を起こし、通路を駆け出した。

 

 

 走るガルナの背後の壁は次々に破壊されていく――。

 

 ガルナは足を止めることなく、目当ての部屋を見つけると、走ったまま扉に身体をぶつけて部屋に入った。

 

 

 ガルナは、オーラを纏ったゲーム機を見つけると、素早くリュックサックに入れた。

 

 そしてガルナが何かを呟いたと同時に、尋常ではない轟音と光が辺りを包んだ。

 

 

 

――――!

 

 

 

 

「――うわぁ、1番目の弾丸(ファースト・ブリット)があとちょっと遅かったら、俺死んでたじゃん・・・。」

 

 

 シドリアが買った家は、原形を留めることもなく破壊されていた。

 

 ガルナは、家から少し離れた門の前の石畳で唖然とした口調で呟く。

 

 

「ふう。とりあえず、仕事に向かうか。」

 

 

 ガルナは尾行にだけは気をつけながら、気配を消したまま山を駆け降りた。

 

 

 

 

 それから3日後、ガルナは依頼主に会い、3日で任務を完了した。

 珍しくミスのない仕事で、ガルナとしてはシドリアに褒められると思っていた――筈だった。

 

 

 

 

 

 現在、周囲に広がる田園風景の中、線路上でガルナは途方に暮れていた。

 

 ガルナは呟く。

 

 

「どうしよう、絶対怒られる。

 姫が入ってるジョイステ失くしちゃった。」

 

 

 現状はあまりに絶望的だった。

 

 任務を完了し、依頼主から報酬をもらった翌日、ガルナは汽車を使って移動した。

 

 道中、イレギュラーが発生し、運悪くたまたま所持していたGI起動中のジョイステーションを亡失してしまったのだった。

 

 

 ガルナは迷っていた。

 

 シドリアに連絡をとるべき緊急事態だ。

 しかし、連絡したとしても、遠方に行っているシドリアが何かできるとは思えない。

 

 

 さらにガルナは考えていた。

 

 ガルナがシドリアの家から出発する直前に襲撃をかけてきた連中と、汽車で襲いかかってきた連中は、恐らく同じ集団だ。

 偶然にしてはできすぎている。

 

 

 どういう情報ルートでガルナの現在地が分かったかは不明ではあるが、その目的は――。

 

 

「GIだろうね。やっぱり・・・。」

 

 

 それは、理知的な推理ではない。

 言ってしまえば直感的にそう考えただけではあるが、ガルナには強い確信があった。

 ガルナを殺すというよりも、別な目的があったことを――。

 

 その目的をガルナは、GIだと結論付けたのだった。

 

 

「よし、失くした物は、自分で探そう!」

 

 

 そう言ってガルナが振り返ると、ちょうど背後から胡麻粒大の大きさに見える汽車が向かってきている。

 

 ガルナは集中し、両手を組み合わせる。

 数分後には、両手の中に銀の拳銃が具現化した。 

 

 汽車はすぐ目の前に来ていた。

 ガルナは拳銃を構えて発砲すると、叫んだ。

 

 

3番目の弾丸(サード・ブリット)!!」

 

 

 

 ガルナの身体が消えると同時に、ガルナの立っていた線路上に汽車が走り抜けた――。

 




【後書き】

 ようやく2章も終わりが見えてきましたです(´∀`)


 そして、残念ながら今後しばらくの間は不定期投稿になります( ̄ロ ̄;)

 書き溜めておいて、いいところで毎週金曜日投稿したらいいのかどうか色々悩んだのですが(>_<)

 現在、予想以上にリアルが忙しく、休みがなかなかとれないので、投稿できるときに投稿するスタイルに切り替えます(;´∩`)

 御理解と御了承をお願い致しますm(__)m



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