DUAL BULLET   作:すももも

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26.過去

 ヒソカは語らない。

 

 ヒソカは過去を語らない。

 過去にはあんまり興味が無いからだ。

 

 ヒソカは属さない。

 

 ヒソカは自分以外の誰にも属さない。

 自分が最強だと理解しているからだ。

 

 

 

 

△△△△△△△△△△△△△△△△

 

 

 

 

 少年は、自らの痩せこけた体を眺めた。

 

 

 この部屋でされた仕打ちを思い出すと、身体中の血液が凍るような気がした。

 

 絶対零度の血液――少年は、思わず浮かべたそのフレーズを詩的だと感じて、自嘲的に笑う。

 

 

 少年の目の前には裸の少女がいた。

 

 お互いに名前も知らず、何故かその日も肌を重ねて慰め合っていた。

 

 お互いに、あの連中に散々酷いことをされている光景を飽きる程見ていた。

 一緒になって虐待されることも多い。

 

 不思議と連帯感のようなモノが生まれ、いつの頃からか、何かを言うこともなく、2人は交わるようになった。

 

 

 

 

 数ヶ月前、少年は密入国が見つかってしまい、牢屋に入れられていた。

 男達に引き取られ、少年は部屋に連れてこられることになる。

 

 

 少年が初めてその部屋に来たとき、既に数え切れない少女達がいた。

 

 それぞれ人種も年齢もバラバラで、共通点といえば服を着ていない、ということだけ。

 

 その部屋の男達の多くは、幼い少女が好きだった。

 発育途上の緩やかな曲線を描く肢体を、躊躇うこともなく舐め回し、自らの欲望をぶちまける。

 

 決して男達は肉欲だけを求めている訳ではなかった。むしろ、それはオマケみたいなもの――。

 

 

 男という生物には少なからず「征服欲」がある。

 

 連中は、彼や他の少女達の悲鳴や嫌がる姿を見ることで、異常に強い征服欲を満たしていた。

 

 男達は、性行に飽きると、暴力に走った。

 男のゴツゴツした指を、少女の柔らかい首筋に食い込ませて徐々に締め付ける・・・。

 少女達の多種多様な色の肌に、タバコの火を押し付けて心から愉しむこともあった。

 

 少女達の反応を、表情を、悲鳴を――。

 

 男達は、ゲラゲラ笑いながら、好き放題に虐待を繰り返し、エスカレートし過ぎて殺してしまうと、必ずつまらなそうな顔をした。

 

 

――また、壊れちまった。

 

 

 子供が夢中になり過ぎて玩具を壊してしまったような、そんな罰の悪い顔・・・。

 

 故に、すぐ壊れてしまう少女よりも、少年に興味を持つ男が現れ始めたのだ。

 

 

 

 

 部屋に連れてこられたとき、少年はその状況を理解していた。

 

 部屋の3人の男達は、ニタニタ笑いながら、少年に襲いかかる。

 

 

 しかし、少年は既に、部屋にあった刃物の位置と、男達の人数と強さの全てを素早く観察して、正確に把握していた。

 

 少年は、躊躇うこともなく3人の男達を素早く殺した。

 

 

 少年は高い戦闘能力を隠していた。

 少年からすればむしろ、男達に身柄を引き取ってもらうというのは、幸運とさえ考えていた。

 

 少年は、倒れた男達を一瞥すると、他の仲間が戻ってくる前に部屋から出ようとする。

 

 

「ま、待って!」

 

 

 その声に少年が振り向くと、少女達の1人が彼に近付いた。

 少女の肌の色は健康的な褐色で、右胸に痛々しい酷い火傷の痕があった。

 

 少年は、酷く面倒に思いながら、おそらく少女の期待していることを否定するように言った。

 

 

「逃げたいなら、逃げていいよ。」

 

 

 少年のその言葉に、少女は戸惑いながら、首を振って言った。

 

 

「そうじゃ、ないの。アナタも、その・・・逃げない方がいいと思うから――。」

 

 

 少年は、一緒に連れていって欲しいと、言われるのだと考えていた。

 予想外の言葉に首を傾げながら少女に問い掛けた。

 

 

「俺が逃げたら、どうなるっていうんだい?」

 

 

「――こうなるのさ!」

 

 

 男の声に、少年がハッと振り返ったときには遅かった――。

 

 

 

 

 部屋の連中はメンバーが不定期に入れ換わる。

 ハンター達に嗅ぎ付けられ、殺されてしまうからだ。

 

 しかし、リーダー格の男のザディルは、変わることもなく、少女達を虐待し続けた。

 何故ならザディルだけは、必ずハンター達を返り討ちにしたからだ。

 

 

 

 少年が目を覚ますと、全裸にされ、縛られていた。

 少年が殺した3人以外の他の男達も、少年の周りに座っていた。

 少年の目の前に座っている連中のリーダー、ザディルが不満そうに呟いた。

 

 

「こいつ、男じゃねえか。」

 

 

 男達が何か言い合いを始めていたが、少年は部屋を観察していた。

 

 何かを探すという明確な理由などなかった。

 しかし、無意識に部屋を観察することで、何か突破口のようなものが見つかる可能性はあった。

 

 だが、すぐに少年は絶望する。

 

 部屋の片隅には首の無い死体があった。

 褐色の肌、右胸の火傷の痕――。

 

 少年に声を掛けた少女は、無残にも殺されていた。

 

 ついさっきまで会話をした相手が、首の無い死体になっていたのだ。

 

 少年は心から悲しみ、涙を流した。

 

 

 少年は、身動きが取れずにいた。

 もちろん、縛られているから逃げることはできなかったが、それ以上に恐怖で動けなかった。

 

 少年は連中の仲間の3人を殺してしまった。

 絶対にただで済まされない・・・。

 

 少年は思い出し、考えていた。

 

 背後からの突然の攻撃とはいえ、声がした瞬間に攻撃には備えた筈。

 しかし、先程のザディルの攻撃に、少年は反応しきれずにあっさりと気絶させられた。

 

 何よりも、目の前のザディルを見ると、少年には勝てるビジョンが見えなかった。

 

 少年は見ただけで分かった。

 ザディルの強さは、格が違うということを――。

 

 そして少年は、男達の言いなりになることを決断した。

 

 正確に言えば、それは究極の2択。

 服従か死か――。

 

 

 その夜、初めて少年は男達に犯された。

 少年は強い屈辱感と敗北感を抱き、死にたくなった。

 

 しかし、惰性で流されるように生活している内に、すっかり無感動になり、されるがままになることが苦ではなくなってしまった。

 

 少年は、持ち前の観察力と理解力から、無感動ながらも悲鳴を上げる演技を続けた――。

 

 

 少年は、賢かったから演技以外の無駄な抵抗をしなかった。

 むしろ、連中を率いるリーダー格の男であるザディルのお気に入りになることで、簡単には殺されないようにしていた。

 

 その選択は間違いなく最善ではあったが、かといって少年が絶対に殺されない保証はない。

 

 

 事実、以前連中の1人が戯れに調達してきた電気椅子に押し付けられて、ショック死寸前の所までいったことがあった。

 運が良かったから助かったが、起きたとき自ら撒き散らした糞尿を片付ける間、死の恐怖から涙を流した。

 

 

 そんな地獄の日々が毎日続いた。

 

 最近になって、彼以外にも少年の玩具が増えてきたのは、彼との行為を愉しいと感じて、目覚めた男達の趣味だろう。

 

 少年は、自分以外の玩具で同じ顔を1ヶ月と見ることはなかった。

 その前に、文字通り使い捨ての玩具のように死んでしまうからだ。

 

 そして、きっと近い内に自分も死んでしまうだろう、と少年は考えていた。

 

 今となっては、死の恐怖などなかった。

 この数ヶ月で少年は、人の命なんてものはゴミみたいなものだとすら感じていた。

 自分のも含めて――。

 

 人は簡単に死ぬ。いつか絶対に死ぬ。

 むしろ、人生とは如何に死ぬかではないか、少年はそんな風にも考えていた。

 

 この部屋で死ぬ可能性が一番高かったが、できることならもっと理想的な死に方が良いと考えていた。

 

 理想的な死に方――。

 

 少年は、その答えにはいまだに辿り着けずにいた。

 

 

 

 リーダー格の男、ザディルは強かった。

 今までも、数え切れない程のハンター達がやってきたが、まるで気にせず返り討ちにした。

 

 少年は、その1点に関してはザディルを尊敬すらしていた。

 

 ザディルは大人の男に対しては、興味が無いらしく、一瞬の内に敵を殺した。

 故に、戦闘を見る機会は少なかったが、少年にとってはそれで十分だった。

 

 彼には優れた映像記憶がある。

 一度見た物は、動画を記録するように、色や形の細部を記憶できた。

 

 ただし、いまだに分からないことが1つだけあった。

 

 ザディルとプロハンターの戦闘で、常人には見えない速度の動きも今は見える。

 しかし、明らかにそれだけでは無いのだ。

 

 誰も触れていない筈の家具が破壊されることがあった。

 物理的にありえない体勢から瞬時に移動することもあった。

 

 何よりも、ザディルが相手を見て表情を変えた途端、空気が歪んで見えた。

 

 少年は「それ」が何か知りたかった。

 

 

 

 

 

 ドン、という音とともに、少年の回想をぶち壊すかの如く、部屋のドアが激しく開けられた。

 扉を開けた男は、言葉にならない言葉を放ち、そのまま目を開いたまま動かなくなる――。

 

 その男は、明らかに連中の中の1人だった。

 

 傍らの少女は、一瞬少年と目を合わせると、何も言うこともなく、いつもいる場所に自然と戻っていった。

 

 少年がその場で耳を澄ませると、微かに外から怒声や罵声が聞こえる。

 彼は、外を見ようと、慎重にゆっくりと体を動かした。

 

 この部屋に窓は無いが、倒れた男が出入口を開けたままだったので、問題なく見えた。

 

 

 

 たった1人だった。

 

 どういう訳か、1人の人物が連中と戦っている。

 

 その戦い方は華麗で、まるで踊っているように、少年には見えた――。

 少年は全身を震わせながら、その流麗な戦いを見ていた・・・。

 

 

 よく見ると、戦っているのは女性だった。

 

 少年は、一瞬にしてその金髪の女性に心を奪われた。

 

 

 

 

△△△△△△△△△△△△△△△

 

 

 

 

 1995年6月6日、男と女が睨み合っていた・・・。

 

 

 男は、奇抜な服装で顔には異様なフェイスペイントを施している。

 

 女の髪は金髪で、シンプルな白いシャツと黒のパンツを身に付けていた。

 

 

 すると、男が不敵な笑みを浮かべて言った。

 

 

「キミの手は、読めているよ◆」

 

 

 男の言葉を恐れた様子もなく、女は右手を高く上げた――。

 

 素早く女は右手を降り下ろす。

 

 

 

 ピシャッという軽やかな音とともに、テーブルの上に出されたのは、1枚のカードだった・・・。

 

 カードには、「ジョーカー」が描かれている。

 

 

 

 

 数年振りに再会した男と女は、トランプゲームの勝負で賭けをしていた。

 

 ゲームの内容は「1枚ポーカー」

 

 このゲームは2人対戦で、それぞれ13枚のカードをランダムで配り、先攻と後攻を交互に交代する。

 

 先攻が先にカードを出して、後攻は先攻の手を見てからカードを出す。

 通常のポーカーと同じように、数字の「2」は最弱であるが、最強である「ジョーカー」にだけ勝てる。

 

 手が弱い方が新たにカードを引き、強い方はそのままカードを捨てられる。

 また、手が同じ数字の場合は、後攻の負けとみなし、後攻のみ新たなカードを引く。

 

 最終的に持ち札をゼロにした方が勝つというゲームだ。

 

 

 このゲームの特徴は、後攻が先攻の手を見てから自分の手を決められるという所だ。

 

 確かに後攻は先攻より必ず強い手を出したくなる心理が働く。

 しかし、何よりも重要なのは、捨て札から相手の手札を予想し、数手先までの展開を読むことだ。

 

 このゲームの要は、弱い手を出す、つまり負けるタイミングだろう。

 

 あえて弱い手で相手の強い手を引き出させることで、一枚の負けも次の勝利に繋げられるという戦略性のあるゲームだ。

 

 

 

 

「予想通りジョーカーか◆」

 

 

 男はニヤニヤ笑いながらそう呟いた。

 

 

 最後の勝負だった。

 

 先攻の女は、手札の最後の1枚を叩きつけるように出した。

 そのカードは「ジョーカー」

 

 対する後攻の男も、残りの手札は1枚――。

 

 仮に男が同じジョーカーを持っていてドローだとしても、先攻の勝利。

 

 すなわち、男が数字の「2」のカードを持っていない限り、女の勝利は確定する。

 

 女の予想では、男が「2」を持つことはありえなかった。

 

 何故ならゲームを終了させられる、最後の1枚に最弱のカードを残す必要性がないから――。

 

 女は興奮を隠しきれず、勇ましい口調で言った。

 

 

「ほら、キミの番だよ?」

 

 

 女が小さく笑いながらそう言うと、男は無言でカードを見せる。

 

 

 

 男の出したカードは、スペードの「2」だった・・・。

 

 

 女は愕然として、椅子から転げ落ちるように倒れた。

 

 完全に女の手を読まれていた。

 

 「ジョーカー」を序盤から隠して、最後の1枚を「ジョーカー」に決めたことも――?

 一体いつから気付いていた?

 

 数字の「2」は、完全に死に札。

 女が最後に出すカードが「ジョーカー」であることを読まない限り、数字の「2」を残すことはしない筈。

 

 事実、ハートとクローバーとダイヤの「2」は、序盤の方でお互いが消費していた。

 

 

 茫然としてからしばらくすると、女は頭脳戦で完敗したことを認め、聞いた。

 

 

「それで?何をすればいいの?」

 

 

戦闘(デート)だよ◆お互いの命を賭けて――」

 

 

 男は不気味な笑い方をしながらそう言った。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「キミ、シドリアかい?

 驚いたな◆」

 

 

 目の前の男がそう言った。

 

 俺には分かる。

 見た目も喋り方も何もかもが変わっていた。

 

 もっと言えば、その見た目すら何か見覚えがあるような気がしていた。

 

 だけど、そんなことはどうでもいい。

 

 

 目の前の男は、俺の親友であり、実の兄であるジョニー=ロトスだ。

 

 理屈ではなく直感で、俺はそう確信していた。

 

 

 しかし、その確信は混乱を生み、俺の思考を疑問で埋め尽くす。

 

――何故、ジョニーが師匠を――?

 

 何故、そんな禍々しいオーラを纏っているんだ?

 

 何故、俺達をそんな殺意と悦びに満ちた目で見るの?

 

 

 ジョニーには、言いたいことが沢山あった筈だった。

 

 強くなったことを認めて欲しかった。

 

 でも目の前の男は、間違いなく俺なんか足元にも及ばない程強い。

 見ただけで、歩法も体法も念も、その全ての実力差がハッキリと痛い程に分かった。

 

 同時に今まで見たことがないくらい危険な人間であることも――。

 

 

 シドリアは怪訝な顔で男の方に顔を向けて言った。

 

 

「貴様、何者だ?」

 

「ヒソカだ◆

 ジャポン語で『秘密』を意味する名前だよ♥」

 

 

 ヒソカがそう言うと、シドリアが怒りの表情で叫び始めた。

 

 

「ふ、ふざけるな!その名前は――!」

 

 

 俺は、シドリアの言葉を制止して口を開く。

 

 

「この人、間違い、ない。ジョニーだ。

 ジョニー=ロトスだよ・・・。」

 

 

 俺が小さな声で、しかしそれでいて確信を持ってそう言った。

 

 シドリアが絶句していると、男が言った。

 

 

「クックック♠その名前は捨てたんだ◆

 ボクの名前は、ヒソカだ♥」

 

「な、なんで?ジョニーが――?」

 

 

 俺がそう言い掛けた瞬間、俺の首筋に何かが触れた。

 

 ヒソカが瞬時に間合いを詰めて俺に刃物のような物を突きつけていたのだ。

 

 

 俺が恐怖で身動きが取れずにいると、ヒソカは変わらぬ口調で言った。

 

 

「次、ボクのことをその名前で呼んだら殺しちゃうよ◆」

 

 

 よく見ると、俺の首筋に突き立てられているのはトランプのカードだった。

 鋭い刃物のようなオーラを纏い、その切れ味は相当なものだということが伺える。

 

 俺は混乱と恐怖のあまり、動くことも喋ることもできなくなっていた。

 

 まるで時が止まったように、俺もシドリアも動かずにいた。

 

 

 

 そこに飛びかかる1つの影――。

 

 それは姫、ミコト=ハガクシだった。

 

 今まで見たこともないような強さのオーラを纏い、姫はヒソカに攻撃を仕掛けていた。

 

 

「許さないです!よくもお姉ちゃんを――。」

 

 

 ヒソカは、無駄の無い動きで姫の攻撃を捌き、恐ろしく鋭いパンチを繰り出す――。

 

 姫は、凝で防御するが、その小さな身体は吹っ飛んでしまった。

 

 姫の身体が空中を舞う中、目の前の光景に現実感を持つことができず、俺はただひたすら傍観していることしかできなかった・・・。

 

 

「ミコト!」

 

 

 素早く移動していたシドリアが、姫の身体を受け止めた。

 姫は激しく泣きながら、シドリアに抱きかかえられている。

 

 すると、姫が小さな声で呟いた。

 

 

「お姉ちゃんはもう――。」

 

 

 そこから先の言葉は嗚咽に変わってしまったが、姫の態度で俺とシドリアには、姫が何を言わんとしているか痛い程分かった・・・。

 

 

 姫は普段から、目の前の全ての怪我人に、治癒の念能力を惜しみなく使う。

 無駄に怪我することを怒られることも多い。

 

 

 それは、姫の性格でもあるが、そんな風に人の負傷を治したいと願うから、能力が発現したんだと思う。

 

 

 そんな姫の治癒能力にも欠点はあった。

 ある意味、制約のようなものかもしれない。

 

 姫の能力は「生きている人間」にしか使えなかったのだ――。

 

 よく怪我をする俺は、そのことを姫から何度も聞かされていた。

 

 

 

「ミコト、頼むから無茶はやめてくれ・・・。」

 

 

 シドリアが搾り出すような声でそう言った。

 

 

 もう1つの致命的な姫の能力の欠点――。

 姫は自分自身に治癒の能力は使えない。  

 

 シドリアは心から姫を心配し、強く抱きしめていた。

 

 

「おや♠もしかしてキミは人の傷を治せるのかい?」

 

 

 ヒソカが姫に対して不気味な表情を浮かべ、そう聞いた。

 

 

 姫の言動だけで、そこまで見抜いたのだろうか?

 俺は、ヒソカの洞察力に脅威を感じながら、先程よりも心の整理がついた気がした。

 

 

「なんで、ヒソカは師匠を殺したの?」

 

 

 殺人には、必ず理由があると、俺は思う。

 

 かつてのジョニーは、俺の父のニコラス=ポートネスの雇った刺客を返り討ちし、結果殺してしまった。

 

 それから数年経ち、今の俺達も仕事でやむを得ない時は相手を殺す。

 仕事の内容が生死を問わずなら気にしないし、何より強い相手程、生きていた場合俺達の身が危険だったから――。

 

 もちろん、技術的に俺は人を殺すのには向いていなかったけれど・・・。

 

 

 すると、ヒソカが答えた。

 

 

「数年前、彼女はボクのセンセーだった◆

 ずっとヤりたかったんだ♠ 思ったとおり、彼女との戦闘(デート)は最高だった♥」

 

 

 ヒソカはそう言って、悦びに満ちた恍惚とした表情で笑った。

 

 

「そ、そんな――。そんなくだらない理由でお姉ちゃんを殺したです!?」

 

 姫が叫び、高まっていた姫のオーラは更に強くなった。

 

 

「ああ♣キミも随分美味しそうだ♥」

 

 

 ヒソカがそう言った瞬間、反射的に俺達はヒソカから遠ざかった。

 

 異常な程、強く禍々しいオーラがヒソカの身体を覆っている・・・。

 

 

「いいものを見せようか◆」

 

 

 そう言って、ヒソカが手をかざした。

 

 俺は、怪訝な顔でその様子を見るが、ヒソカの言葉の意味が分からなかった・・・。

 

 

「ミ、ミコト!何だこれは?」

 

 

 シドリアの声に気付いて俺が見ると、シドリアは全力の力で姫を抱き締めていた。

 

 徐々にではあるが、姫とシドリアはヒソカに引き寄せられるような様子だった。

 二人掛かりの踏ん張りも効かないようだ。

 

 俺は何が起こっているか理解しきれず、ただ混乱して見ていた。

 すると、シドリアが怒りを込めた声で言った。

 

 

「おい、ガルナ!凝だ!」

 

 

 一瞬遅れて、俺は凝を使ってシドリア達を見る。

 

 普段からシドリアに凝を怠るなと言われるけど、この状況下で俺は完全に忘れていた。

 

 

「あ!姫の腕にオーラがついてる!」

 

 

 俺は、シドリア達にそう言った。

 凝で視ると、妙な形状のオーラが、姫の腕からヒソカの元に伸びていた。

 引き寄せられるということは、伸縮するタイプのものだろうか――?

 

 俺の疑問に気付いたのか、ヒソカが言った。

 

 

伸縮自在の愛(バンジーガム)って言うんだ◆

 ゴムとガム両方の性質を持っていて、どこでもつけられ、いつでも引き寄せられる」

 

 

「バンジーガムって・・・。」

 

 

 ヒソカの説明に、俺は戸惑いながらそう呟いた。

 バンジーガムってどこかで聞いたことが――。

 

 

「ホントにふざけてる!それは『お菓子争奪戦』の景品の名前だろ?

 確か、ガルナが不味いとか言っていたやつだ――。」

 

 

 シドリアが忌々しい口調でそう言った。

 シドリアは必死に引き寄せられる力に耐えようと、苦悶に満ちた表情を浮かべている。

 

 ヒソカが不敵な笑みを浮かべて言った。

 

 

「いい能力だろ♣

 もう逃げられないよ?つけるも外すもボク次第だ♥」

 

 

「ガルナ!逃げるぞ(・・・・)!」

 

 

 ヒソカの言葉を無視するように、シドリアがそう言った。

 俺もシドリアと同じことを考えていて、既にシドリア達に駆け寄っている――。

 

 

 走りながら俺は、高らかに叫んだ。

 

 

「ファースト・ブリット!!」

 

 

 俺がシドリアと姫に触れた瞬間、俺は最後にもう一度ヒソカを見た。

 

 そして俺は思い出した。

 

 ヒソカのあの姿、服装は俺が5歳のときの、あの時見たサーカスの道化師。

 ジョニーが病院で描いていた絵の姿そのものだったということを――。

 

 

 俺の目から涙が流れると同時に、能力が発動した。

 

 

 

 

△△△△△△△△△△△△△△△

 

 

 

 

 ヒソカは3人の姿が消えると一瞬驚いたが、すぐに小さく笑い始めた。

 

 ヒソカは近くで倒れている金髪の女性の死体を見ると、満ち足りた表情で呟く。

 

 

「トランプは武器に使えるな◆」

 

 

 ヒソカは、そう呟き手に持ったカードを見る。

 

 何かを思い出し、ヒソカは呟いた。

 

 

「おっと、能力解除するの忘れてたな♥」

 

 

 ヒソカがそう言ってカードに触れると、スペードの「2」が瞬間、「ジョーカー」に変わった。

 

 

「最後の1枚が同じ『ジョーカー』だとは、ボク達は似た者同士かもしれないな◆」

 

 

――【薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)

 

 

 平面状の物にイメージした質感を再現する能力。

 映像記憶能力のあるヒソカは、この能力で相当な種類の質感を表現することができた。

 

 これもまた、「お菓子争奪戦」の景品の1つの名前――。

 

 師匠との勝負の1枚ポーカーで、ヒソカは念能力を使ったイカサマをしていたのだった。

 カードを念で書き換えたのは、一度だけ――。

 

 

 

「次の獲物を探さなきゃ♥」

 

 

 ヒソカはそう呟くと、歩き出した。




【あとがき】



 ヒソカと師匠の戦いについては、書いてはいたのですが、出すタイミングがなくて、出せませんでした(汗)


 あと、これから仕事でしばらく忙しくなるかもしれません(>x<;)

 更新止まる場合、よろしくお願いします

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