DUAL BULLET   作:すももも

2 / 41
02.発見

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「そいつは、間違いなく、元『ブリッツ』の片割れだな。」

 

 

 アタシは、ドンロ市郊外にある小さな情報屋に話を聞いていた・・・。

 

 あの忌々しい晩から2週間――。

 アタシはあの男を殺すために、各地を訪れている。

 

 

 

 

 

 

 

 あの晩、アイツは逃げるように、文字通り姿を消した。

 

 

「セカンド・ブリット!!」

 

 

 アタシが近づく直前に男が言った。

 

 

「ごめん、また今度会おうねー!」

 

 

 男がそう言い捨てると同時に、男の姿は消え、指先に全力のオーラを込めた私の突きは空を切ったのだった・・・。

 

 

 すぐに、アタシは全身全力の最高速度で屋敷をくまなく探したが――。

 

 結局、朝になってもアイツの姿を見ることはできなかった・・・。

 

 

 そのあと、屋敷の主をオーラで威圧して聞いたところ、アイツは斡旋所の紹介で来たそうだ。

 勤務態度は最悪で、近い内に解雇しようとしていたらしい・・・。

 

 

 

 

 それから、アタシはその斡旋所の情報を買って、各地の情報屋を廻った。

 

 どこの斡旋所も情報屋も口を揃えて言う。

 

 

 

「アイツは最悪だ」と――。

 

 

 1年前まで、「ブリッツ」というそこそこ名の売れた、2人組のアマチュアハンターだったらしい。

 

 情報によれば、優秀な相棒に見限られて今はフリーで活動しているようだ。

 

 名の売れたっていうのは、その優秀な相棒の力だろう。

 ま、これはアタシの勘なんだけど・・・。

 

 

 独立してからのアイツの評判はひどい。アイツが引き受けた全ての仕事先は程度の差はあれ、必ず何かしらかの被害を受けている。

 

 

―――失敗ではなく、被害――。

 

 

 雇用主からしたら、身内に敵がいたようなものだろう。

 

 アイツに殺意を抱いているのは、アタシ以外にもいてもおかしくなさそうだ。

 

 誰かアイツに懸賞金とか懸けてないかな?

 あんな男を無料で殺すのもなんかムカつくし――。

 

 

 それでも――とアタシは考える。

 あの男を殺すことは、世間の為になる慈善事業じゃないか?

 たまには世の為になることをしても悪い気はしない・・・。

 

 私の目的が、たまたま今回はそうなだけ、ではあるけれど――。

 

 

 

 

 

 

 情報屋から出てから、そうやって、とりとめの無いことを考えていると、アタシの携帯が鳴った。

 

 

「なに?」

 

 

 短くそう言って、電話に出る。

 

 

「団長が暇なやつ仕事しないかって。――どうする?」

 

「無理。今、忙しいから。」

 

 

 アタシは即答して、電話を切ろうとする。

 

 

「え?ソロで動いてるんだよね?何なら手伝おうか?」

 

 

 電話の男、シャルナークがそう言った。

 

 

―――どうしようかな・・・?

 

 

 アタシは少しばかり逡巡して、考える。

 

 

 

 こちらとしては2週間もアイツの居場所が掴めなくてイライラしていた・・・。

 

 シャルの情報収集能力なら、今日、明日中にでも見つかるだろう。

 しかし―――。

 

 

 個人的には、自分で見つけて、アイツを泣くまでボコボコにして、土下座で謝罪させて、最後に殺す――ソレ以外に自分の屈辱を晴らす方法はない、そう思っていた・・・。

 

 

 だが、現状ではあまりに情報がない。元々アイツ自身が仕事をバックレる天才だ。

 自分の所在を普段から分からないようにしていてもおかしくはない。

 

 金も無さそうだし、今までの被害者達から請求が来たらアイツはそれだけで死ぬはずだし。

 

 

 

 この2週間でアタシが得た情報は2つ。

 

 

 アイツの名前「ガルナ=ポートネス」

 それと、アイツがとんでもなく最悪な奴ということだけだ。

 

 

 

 

考えがまとまって、アタシは言った。

 

 

「・・・殺したいやつがいるんだけど、そいつの居場所を値段度外視で買うよ。」

 

「ん、オッケー。そいつ殺したら、仕事参加するんだよね?だったら無料でやってあげるよ。」

 

 

 アタシはシャルに感謝を言い、知っている情報を伝え、通話を切ると、静かにアイツへの殺意を燃やした・・・。

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 男は雑踏にいた。できるだけ気配を自然に、周りに同化するように――。

 

 

 ドンロ市郊外の情報屋を出てきた女を男は、意識を限りなく向けないように確認した。

 

 女を尾行などしない。あのレベルの人間なら誰かに尾けられていることは、感覚で気付かれる。

 

 

 男は女が十分な距離を離れたのを確認し、情報屋に向かった。

 

 

 男はドアを開けながら、何かを呟く――。

 

 

「いらっしゃ・・・て、てめぇ!!ガルナ=ポートネス!?」

 

 

 男の声は怒鳴り声でかき消された。

 

 その男、ガルナは軽い感じで挨拶を交わす。

 

 

「ふざけるんじゃねえぞ!!

 お前、この間の『荷物運び』の『荷物』はどこやったんだよ!?先方がどれだけ怒って――。」

 

 

 情報屋の主人が言い終わる前にガルナが口を開いた。

 

 

「まあ、アレはちょっとした手違いでブッ壊れた。それより――。」

 

「ぶッ!!!ブッ壊れただとぉ!!?ブッ壊したんだろうが、どうせ、お前がァァッ!」

 

 

 

 情報屋の主人の大絶叫を僅かに早く予想していて、ガルナは既に耳を塞いでいた。

 耳を塞ぐのをやめて、ガルナが聞く。

 

 

「ところで、身長が俺より頭半個分くらい小さい、美人のお姉さん、知らない?」

 

 

 情報屋の主人は、自分自身の大絶叫でゼエッハアッと息が荒くなっているのを整えていた。

 

 

「さっき来た客だろ?お前どうせ、この店に来るのを張ってたんだろうが・・・。」

 

 

 息を一旦飲み込んで、情報屋の主人は続ける。

 

 

「アレは相当キレてたぜ・・・。顔には出してなかったが、内心はグツグツ煮たってるだろうな・・・。」

 

 

 ざまぁみろ、と言わんばかりに情報屋の主人はニヤリとして言った。

 

 

(やっぱり、か・・・。)

 

 

 ガルナは溜め息をついた。

 

 この2週間、あの晩に侵入してきた「泥棒」の女は明らかにガルナの居場所を探っていた。それも敵意を持って――。

 

 そもそもガルナもあの女を探していたのだが・・・。

 

 

 お互いがお互いを探す理由は、ハッキリと両極であった。

 

 

 あの晩に屋敷から逃げ出した直後、ガルナは自分のかつて仕事で関わった斡旋所や情報屋に根回しして、女の足取りを追っていたのだ。

 

 

 そして、どの主人も口を揃えて言っていたのは、「あの女はガルナを殺そうとしている」ということである。

 

 

(あと半年くらいすれば、あの娘の怒りも収まるかな?)

 

 

―――ガルナはどうしようもなく、情けない男だった。

 

 

 ガルナの考えでは、女の怒りが収まるまで、なんとか見つからないように、女の足跡を追いかけるつもりであった。

 

 

 それはガルナの常套手段。

 他人とのトラブルに巻き込まれると、必ず逃げ出し、機を伺う。

 

 

 ガルナは解決する意思も考えもない。

 あわよくば、他人が自分を許すまで逃げ切る。

 その対処で失う人間関係も少なくはなかった・・・。

 

 たが、ガルナは、それでも気にしない。

 

 

 ガルナには執着心がない。故に、去る者は追わない。

 

 

 ガルナは欲しいものがない。故に、努力をしない。

 

 

 ガルナは物をよく壊す。自分にとって大切なものがないから、他人の大切なものが壊される意味が分からない。

 

 

 ガルナは本能に忠実だ。故に、寝たいときに寝て、食べたいときに食べ、死にそうなときには逃げる。

 

 

 無欲、無気力、無責任、怠惰、楽天家、現実逃避、責任転嫁、先送り。

 

 

 ガルナの普段からの思考回路が、現在の状況を「時間が解決するはず」と答えを出す――。

 

 

―――キコッ

 

 

古い薄い木でできた情報屋の扉が、開く音がした。

 

 

(違う客か、もう用事は済んだしボチボチ出るか・・・。)

 

 

 ガルナは情報屋の主人に女の簡単な情報を聞き終わり、今はクレームを聞き流している途中だった。

 

 

 無責任にもガルナは早々に立ち去ろうと出口に顔を向ける――。

 

 

 

 女、がいた。

 

 

 

 禍々しいオーラに身を包みながら、隠す気もないのか、鋭い殺気をガルナに向けていた・・・。

 

 

「・・・シャル、ありがと。見つけたよ。」

 

 

 女は短く言うと、手にしていた携帯の通話を切った。

 

 

(俺・・・死んだかも。)

 

 

 ガルナは思った。

 

 

「やっと会えたわね・・・ガルナ=ポートネス。」

 

 

 

 

 女は、あの晩の「泥棒」だった。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 俺、死んだかも・・・?

 

 

 だが、俺は自称「慎重派」のガルナ=ポートネス。

 他人からは「逃げ足のガルナ」「トンズラのガルナ」「破壊王ガルナ」「金返せガルナ」と呼ばれるが。

 

 

 

 逃げ道の1つや、2つ用意してるぜ!

 

 

 俺は、情報屋の出入口つまり、彼女から3mは奥にいる。

 抜かりはない!!

 

 

 俺はそこそこの臨戦態勢に入り、女の攻撃の気配だけを警戒しながら、口を開く―――。

 

 

 

「ファーストッ――――!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――キッス!?

 

 

 俺は突然、柔らかい感触を唇に感じた。いやらしい音をたてながら、舌を舌に絡ませてくる・・・。

 

 

 いや、違う!待て!・・・この間合いはヤバい!!

 

 

 俺は死を連想して、間合いを取ろうとするが、既に時遅し。

 

 俺の頭は、彼女の左手でガッチリとホールドされ、俺の両腕ごと腰も、彼女の右腕でホールドされている・・・。

 身動きが――取れない。

 

 しかも、唇と舌が塞がれ、俺の自慢の「ファースト・ブリット」も使えない・・・。

 

 

 先程、彼女は、大した量のオーラを纏っていなかった。

 

 

 怒ってはいたし、殺気も感じたが、攻撃の意思は感じられなかった。

 

 その意識的な隙を突かれて、間合いを一瞬にして詰められてしまったようだ。

 

 

 完全な俺のミス。これは・・・想像以上にヤバい状態。

 

 俺は本気の力で間合いを取ろうとするが、逆に彼女の凄まじい腕力で、締め付けられる。

 すると、彼女の(意外に)柔らかい上半身の感触を感じた・・・。

 

―――え?これ、もしかして・・・?マジ、マジで??おっぱ―――。

 

 

 

 

―――ズドンッ

 

 

一瞬の内に念を集中した彼女の左拳が、俺のレバーを、しこたま打った。

 

 

―――バカか俺は――?

 

 

「カハッ!!?!」

 

 

 俺は内心、自分に毒づきながら、みっともなく舌を出し、口を開けて、言葉にならぬ声を発した。

 

 

 そして、これは俺の致命的なミス。

 

 

 

―――シュシュシュシュシュンッ

 

 

 殴ると同時に唇を離し、超人的な、とてつもなく速い動きを彼女はした。

 

 

 彼女は、既に俺から離れつつ、しっかり自分の唇を拭いていやがる・・・。

 

 

 

 

「あぁうあ、うい、お」

 

 

 俺は、すかさず能力を試みるが、意味不明な音にしかならない。

 

 彼女は言った。

 

 

「アンタの唇と舌を縫った・・・。もうあの変な能力は使わせないわよ。」

 

 

―――この娘と、無傷でご飯行く方法はないのか・・・。

 

 

 俺は絶望して床に手をついた。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 女は、勝利を確信して喜びを隠せなかった・・・。

 

 男、ガルナという名のソレは、女の念能力により、言葉を封じられていた。

 

 ガルナはオウオウと何か言おうとしているが、もはや不可能だ・・・。

 

 

 

 

 女があの晩の出来事で腹が立つのは、欲しかったものを壊されたこと。

 

 

 女があの晩の出来事で屈辱だったのは、決まった筈の女の技を簡単に外されたこと。

 

 

 女があの晩の出来事でムカつくのは、この男が女を誘うつもりだったこと。

 

 

 あまりに悔しく、女はガルナの能力を道中、分析していた・・・。

 そして、当然その対処法も――。

 

 

 女の見積りで言えば、首を絞められている最中に発した言葉を、念のトリガーにできるのならば、喉を潰しても無駄だと判断した。

 

 

―――故に。

 

 

 女は自身の嫌な方法を取らざるを得なかった。

 

 

(アタシの犠牲もデカイけれど・・・でも、予想通り成功した。)

 

 

 内心、笑いがこみあげる・・・。

 

 

 

(・・・シャルにはホントに感謝しなきゃね。まさか、ものの10分で調べ終わるなんて――。)

 

 

 女は仲間の情報収集力に心から感謝した。

 

 

 

 シャルナークという男が真っ先に調べたのは、ガルナという男の「最近の情報屋の来訪記録」であった。

 

 すると、面白いように女の足跡をトレースしている・・・。

 

 一応、過去の出生や生い立ち等のデータについては情報操作もしているようだったが、その程度、よくある話であったし、今回の調査には関係ない。

 

 

 情報というのは内容を限定して、金を積めば、それに比例して簡単に手に入るものだ。

 

 

 しかも、直近の記録を見ると、男はバカなのか、女が利用した数分後には利用している。

 

 男に限らず、情報屋顧客の利用内容は秘匿性が高く、値段も割りに合わないので調べなかったが、それも簡単に予想はつく―――。

 

 

 

 

 

「アンタ、このアタシをストーカーしてたんだね?」

 

 

 女が言うと、途端にアウアオと言いながら、ガルナが首を横に激しく振る。

 

 

「いや、マジでキモいんだけど・・・。」

 

 

 女がそう言うと、ガルナは悲しそうに下を向いて、微動だにしなくなった。

 

 女は、ガルナを見下ろしながら、この男がどうやって泣き叫ぶだろうか想像して身震いしていた・・・。

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 女は、ガルナの様子を見ているようだった。

 

 確かに、急所は殴られたが、女はそこまでオーラを込めていなかったために、ガルナのダメージは少なかった・・・。

 だからこそ、ガルナは、女の攻撃に気付くのが遅れてしまったとも言えるが。

 

 

(このまま死ぬのは嫌だな・・・。)

 

 

 ガルナは、床に手をついて、下を向きながら、考える。

 

 

 女は、勝負は決まったと確信しているのか、腰に手をやり出入口に立ってニヤニヤしている。

 

 情報屋の主人は、いつのまにか姿を消していた・・・。

 

 

 

 ガルナは、時間を稼ぐ方法を考えていた。

 

 ここでの戦闘は自殺行為。ガルナは、人を即死させるような技術はない。

 実際、彼にはそのつもりもない。

 

 念を極限まで集中させて殴ること、それがガルナの最大の攻撃。

 

 

 狭い店内、拳を振り回すには不適当な店の構造。ガルナの技は、それなりに広い場所に向いている。

 

 

 対して、女は天性の身体能力、暗殺術、投げ技により、念なしでも簡単に人を殺せる。

 

 加えて、女のあの念能力――。

 

 

 状況は、完全にガルナの方が不利であった。

 

 

 逃げるにしても、女の立っている出入口か、情報屋の主人が使った隠し扉しかない。

 しかし当然、ガルナは隠し扉の場所を知らない・・・。

 

 

 

 

 ガルナは覚悟を決め、立ち上がり、女の方を向いて、オーラを高めた。

 

 

「アンタ、戦うつもりなら、やめときな。」

 

 

 すかさず、女が言う。

 

 

 仮に、男が強烈なパンチを打っても、難なく避けられ、捌かれ、投げられ、刺される――。

 

 

 そんなことは、当然、男には分かっていた。

 

 勝ち目がないことは・・・。

 

 

 だからこそ、男は使う。使わせてもらう「発」を――。

 

 

 店の主人の話を聞いたのが、1分。

 

 女に会って、色々されたのがさらに1分。

 

 

 すなわち、間もなく―――だ。

 

 

 これは、男にとって命懸けの賭け。

 

 だが、今でなければ、本当に手は無くなる。時間がない。

 

 

 

 

 女は、先程まで、余裕そうではあったが、若干、警戒している。

 

 

(その調子だ・・・。)

 

 

 男はジリジリと近づいたり、離れたりしながら、間合いをとる振りをした。

 

 

 女に少しでも隙があれば攻撃する、そのような命懸けの演技・・・。

 

 

 

 

 女が構えをとる。

 目に殺意を宿らせているから、おそらく本気で殺しにくる。

 

 

 男が「発」を開始してから、1秒経過した。

 

 

(考えろ・・・。もっと時間を稼がないと・・・。)

 

 

 女は間もなく、攻撃を仕掛けてくる。

 

 

「あい、あい、あお」

 

 

 男は駄目元で女に喋りかけた。

 もちろん、女の動きを止めるため。

 

 

「アンタがおとなしくしていれば、危害は加えないよ。」

 

 

 忌々しそうに、女が言う。

 

 それは、男も考えた。すぐには殺されない。

 

 しかし、言葉を封じられた今の状況は、先伸ばしにすれば、逃げるチャンスが完全に潰れてしまう・・・。

 

 

(長い・・・あと1秒・・・。)

 

 

 女が歩いて、ゆっくり間合いを詰めてきた。

 

 女にしても、男に暴れてもらうのは面倒なのだろう。

 女は慎重に、ゆっくりと近づいてくる。

 

 

 本来、ガルナはこの手を使いたくはなかった。

 

 

 何故なら、これは奥の手。ガルナの念能力の秘匿事項に関わる事実。

 

 これが知られるのはできれば避けたかった・・・。

 

 

 女が、男にゆっくり手を見せる。「隠」も使わない念の糸を見せて、これで拘束するという意思を伝える。

 

 

(それが、一番、駄目なやつなんだよ!)

 

 

 男は、心の中でひどく焦っていた・・・。

 

 

―――3秒経過!

 

 

――「サード・ブリット」発動!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 男は、暗闇の中にいた。おそらく、浮遊感から飛行船。その貨物室だろう。

 

 

 

 命懸けの時間稼ぎ、「発」だとバレないように、一定時間やり過ごす・・・。

 

 代償はでかいが、男は成功し、生還した。

 

 代償は能力の秘密。

 

 

 

 男の能力は、数字に対応して移動可能時間を決定する。

 

 

 一番、汎用性が高く、使用頻度も高いのが「ファースト・ブリット」であるが、これは術者が宣言してから、1分以内に術者が1秒間の「発」をすることにより発動する。

 

 この「発」は、かなりの量のオーラが必要なので、ほとんど肉体は無防備になってしまう。

 

 ちなみに、さきほど使った「サード・ブリット」は、店に入ったときに宣言し、3分以内に3秒間「発」をした。

 

 

 難しいのは、タイミング。

 発動時に他者に接触されると、その他者も一緒に移動してしまう。

 

 

(最後、ギリギリだったな・・・。)

 

 

 

 

 女は、おそらく能力の仕組みに気付いたはず。

 

 

 何故なら、男はこれで「1st~3rd・ブリット」を女に見せたことになる。

 

 

 極めつけは最後の「発」。

 

 

 能力のための「発」のオーラか、普通の「堅」かは、見た目はほぼ同じだが、触れば簡単に分かる。

 

 

 あのときの状況ならば、後で考えても分かる。

 

 

 能力バレ。男がそう呼ぶそれは、人を選ぶ。

 

 そして今回は、バレたらマズイ人間にバレた。

 

 

 しかし――。

 

 

 

 

 

 自分の唇に触れながら、男は考える。

 

 

 

 

 

(本気で欲しくなっちゃったな・・・。)

 

 

 執着心のない男が、初めて、何かを「欲しい」と思った。

 

 

 

 




 今回で発覚しました!

 相棒はしばらく出ません!(笑)

 あらすじ嘘ついてるとか、言わないでね(。≧∇≦。)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。