DUAL BULLET   作:すももも

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13.手荷物

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 1992年12月12日、俺が12歳の誕生日に、俺は家出をした。

 

 

 1年程前にジョニーが行ったのは、間違いなくジャポンだろう。

 

 俺はとにかくジョニーに会うことの他には何も考えていなかった。

 

 

 ニコラス=ポートネスがジョニーにした仕打ちは、俺の中で許しがたいことだ。

 

 しかし、力のないただの子供に、何ができるというのだろうか・・・。

 

 

 今思えば、遊びの一つだったお菓子争奪戦も、一番あのお菓子が好きだったジョニーがいなくなることで自然消滅した。

 

 シドリアがどんなトレーニングをしていたかは知らない。

 

 しかし、少なくとも俺は約1年間、必死に強くなる為に鍛えてきた。

 

 

 形だけの誕生日パーティーが終わった後、俺はなけなしの金を持って、屋敷の外に出た。

 

 

 かつて、ジョニーとサーカスに行ったことを思い出す・・・。

 

 あのときは、金が何かも知らないで無一文で見に行ったっけ・・・。

 

 

 ジョニーには色々言いたいことがあった。

 ジョニーは俺の実の兄であり、親友だ。

 

 確かに、あの頃はジョニーが怖かったし、今でもそうだ。

 でも、俺はあの日、あの雨の夜に決意した。

 

 強くなって、ジョニーに会いに行くことを――。

 

 

 いつもの公園に行くと、シドリアが待っていた。

 

 妙に大きなボストンバッグを2つも携えている・・・。

 

 

「何?その荷物」

 

「いや、お前こそ荷物ないのかよ。」

 

 

 俺の言葉に、シドリアは笑いながら言った。

 

 

「荷物はこれがあるよ。」

 

 

 俺がそう答えて、懐から出した札束と小さな鍵を見せると、シドリアは黙った。

 

 

 ポートネス家の情報網は広い。

 だから俺達は、あえて小細工をせずにタクシーを使って港まで行った。

 どのみち足が着くのだからと、早さを優先したのだ。

 

 

 リブイエ港に着くと、俺は以前買ってもらった10人乗りのクルーザーを見つけて、先程シドリアに見せた小さな鍵でエンジンを起動した。

 

 そうして俺達はジャポンを目指して、旅立った。

 

 

 事前に食料や水や燃料を積み込めば、家出することがバレるのは分かりきっていたので、船には予備として元々積んでいた数個の燃料ポリタンクしかなかった。

 

 だから早い内に、どこかの港に補給に入らなければならなかったのだ。

 

 幸運なことに、食料や水はシドリアが準備してくれていたので、予想より焦ることもなかった。

 

 

「シドリアが食料とか用意してくれてるなんてラッキーだったな。」

 

「俺からすれば、お前が船を持っていたのがラッキーだよ。」

 

 

 12月13日の早朝、シドリアが持ってきていた食料から、パン2つと缶詰め1つの簡単な朝飯を食べているときにそんな話になった。

 

 片手でパンを食べながら、海図を見ていたシドリアが聞いた。

 

 

「補給は、この島でいいのか?」

 

「うん、あんまりでかい港だとニコラスの追っ手が来るかもしれないしね。」

 

 

 一定速度で一直線にだけ進むシステムのオートクルーズ状態で、缶詰めのオートミールにありついていた俺が答えた。

 

 

「この島は、直線距離で計算しても、この船じゃ10日くらいかかるが、燃料足りるか?食料だって今みたいな食べ方じゃ全然足りないと思うんだが・・・。」

 

「無理かな?かと言ってヨルビアン大陸の沿岸とかで小さい港に行くと、遠回りになってジャポンに着くの遅くなっちゃうと思うんだよね。」

 

「だとしても、海でそんな綱渡りは危険だろう。そうだな――。」

 

 

 シドリアが少し考えてから指差したのは、クカンユ国のドーレ港だった。

 俺は食べていたものを吹き出すのを堪えて言った。

 

 

「だから、でかい港じゃ――。」

 

「いや、ここを中間地点にする。お前の親父もワープできたりはしないんだし、情報を得てから追っ手に指示をするタイムラグがあるだろ。」

 

 

 俺が頷くと、シドリアが続けて言った。

 

 

「ドーレ港までなら大体6日で着く。そしてドーレ港からこの島までも6日くらいだ。

 ドーレ港で6日分の補給を済ませるんだよ。そのくらいの量なら、2人で手分けすれば半日もかからずに終わる筈。」

 

「なるほど、そうすれば物資に余裕を持って着ける訳か。」

 

「そうだ。そして、島で数日間休憩と充分な補給をしてからジャポンだ。簡単だろ?」

 

 

 素晴らしい計画だと思った。

 俺は、昨晩の家出のことしか考えていなかった。

 それですら、俺としてはかなり頭を使ってなんとか成功したのだ。

 

 

 やっぱりシドリアは頼りになる。

 とても同じ12歳とは思えない。

 

 

「ところで、ガルナ。」

 

「何だい?」

 

 

 当面のプランが決まったところでシドリアが俺を呼んだ。

 

 

「俺にも、ボートの操縦させてよ。」

 

 

 前言撤回、そう言ったシドリアは紛れもなく12歳の男の子だった・・・。

 

 

 実は俺にはC級船舶免許がある。

 ニコラスから言わせると、A級を取れなきゃ人間じゃないらしいが、とりあえず小さい船なら動かせるし、基本的な海上法規も理解はしてる。

 

 そんな俺に分かる範囲で一通り操作を教えたが、シドリアの操船はひどかった。

 

 目と反射神経がいいはずなのに、なんでこんなに揺れるんだ?

 

 

「波の動きをもっと読んで!!」

 

 

 俺が叫ぶと、シドリアが叫んだ。

 

 

「俺の思うように動かねえんだよ!」

 

「『車は急に止まれない』、『船は急に動けない』だよ!」

 

 

 俺とシドリアの叫び声の応酬は1時間程続いた・・・。

 

 

 

 

 ふと気付くと2人とも寝ていた。

 

 お互いにほぼ同じタイミングで起きてから、予想以上に船旅というのが、体力を消耗するということに、少し怖くなった。

 

 

「このままだと、オートクルーズのままどこかに座礁しちゃうな・・・。」

 

「交代で番をしようか?」

 

 シドリアの不安な言葉に俺が提案した。

 

 

「・・・俺、操縦シタクナイ」

 

「いや、何で片言?オートクルーズにしておいて、いざとなれば俺を起こしてくれればいいし・・・。」

 

 

 シドリアにも苦手分野があるんだな、と思いながら俺はそう言った。

 

 

 しかし、それは決して最善策ではなかったのだ・・・。

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 12月17日、天候は雨。

 

 ガルナの天文航法計算では、ドーレ港は近いはずだった。

 

 しかし、2日前からの強風で予想以上に進みが悪く、ドーレ港までの残距離は2日間でほとんど変化がなかった・・・。

 

 食料も残り少なく、2人は1日2食の乾パンだけを食べ、水の使用量も最低限にしていた。

 

 そして何より予想外なのは「孤独感」。

 

 お互いに体力の消耗のせいで、寝るか船番かという生活だった。

 会話もなく、起きているのが苦痛という生活・・・。

 

 ガルナが言った「交代制」は効率を求めた考え方で、大型商船などで何人かのプロのチームで行うものだ。

 

 しかし、少年2人でそのシステムを行うのは事実上不可能。

 そもそも、言ってしまえば2人だけの長期航海というのは、大人2人でも難しいだろう・・・。

 

 

 状況的に2人でなければならなかったとしても、少なくともドーレ港に着くまでは2人とも起きているべきだった。

 そして、休むときはエンジンを切って2人とも休むべきだったと言えよう。

 

 

 未熟な経験者であるガルナのミスであり、素人と自覚して考えることを放棄したシドリアのミスでもある・・・。

 

 

 ガルナとシドリアはそれぞれ声の出し方を忘れるような錯覚を覚えるほどに、疲弊していた・・・。

 

 

 

 シドリアが起きると、妙な感覚に気付いた。

 

 シドリアがガルナを見ると、ガルナは寝ている。

 病気か何かかと思ったが、違うようだ。

 

 

 そしてシドリアは違和感の正体に気付いた。

 

 

「エンジンが止まってるじゃねえか!?おい、ガルナ起きろ!まだお前の時間だろ?」

 

 

 ガルナはゆっくりと目を覚ますと慌てずに答えた。

 

 

「エンジンは燃料節約の為に切ったんだよ。つけっぱなしでも大丈夫だけど――。」

 

 

「はあ!?オートクルーズのままじゃ座礁するんじゃねえのか!?」

 

 

 ガルナの呑気な言葉に、シドリアは叫び声をあげた。

 

 

「いや・・・無理だよ。風が強くて、風向きもランダムだから、止まってても動いてても現在地がほとんど変わらないんだ・・・。陸岸まで距離もあるしね。」

 

 ガルナの説明に、シドリアは怪訝な顔で言った。

 

 

「だとしても、お前が勝手に寝た理由が分からないんだけど・・・。漂流物とか、他の船とか来るかもしれないだろう?」

 

「そりゃ、眠かったから仕方ないよねえ?」

 

 

 すぐにシドリアとガルナの殴り合いが始まった。

 

 だが、一通り暴れ終わると、すぐに2人とも大笑いをし始めた。

 

 

 

 12月19日、天候は晴れ、波は高いが風も弱まり順調な航海を続けていた。

 

 

「フルハウース!!」

 

 

 

 ガルナがカードを広げて自信満々に叫んだ。

 

 

 

 

 乱闘の直後から交代制というのはやめ、夜になると錨を入れてから2人とも寝て、日が昇ったら2人とも起きてエンジンを入れて、オートクルーズにしたまま2人で遊び始めるという航海を続けていた。

 

 実は、ガルナ達は知らないが、この方式は少人数の小さな漁船などではよくとられる方法だ。

 

 ガルナ達が最終的にとったこの航海の方法は、利にかなっていた。

 特にカードゲーム等をして遊ぶことは、航海の精神的な消耗を激減させた。

 

 

 

「なるほど、レイズした意味が分かった。だが甘いな――。」

 

 

 シドリアがそう言って出したカードを見て、ガルナが叫んだ。

 

 

「ろ、ロイヤルストレートフラッシュだと!?」

 

 

 

 

 そうして、ガルナの2粒のチョコはシドリアに取られた。

 

 

 

「なんか、1年くらい遊んでる気がするな。」

 

 

 満足気に4個目のチョコを食べていたシドリアが言った。

 それを聞いたガルナは、ジトッとした目で答えた。

 

 

「今思うと、一直線に10日の航海なんて無謀も良いところだったね。

 出航してまだ7日しか経ってないのに、ただの粒チョコの奪い合いでこれだけギスギスするんだし――。」

 

 

 ガルナなりの皮肉を聞いたシドリアは、フフンと笑うと同時に目を見開いた。

 

 

「お、おいガルナ・・・。」

 

 

 シドリアはそう言って、ガルナの後方を指差した。

 

 

「俺の乾パンまで奪う気か!?そんな手には――。」

 

「違うって!ほら、あれだよ!」

 

 

 そう言われたガルナがゆっくりと船の進行方向に振り返る――。

 

 

 陸地が見えた。

 

 

 ガルナは慌てて海図とコンパスを取り出し、船位と方位を測る。

 

 ガルナはコンパスと陸地を見比べながら、唇を震わせて言った。

 

 

 

「間違いない。ドーレ港だ・・・。」

 

 

 瞬間、2人は歓喜の声とともに抱き合った。

 

 

 

 結果的には、ほぼ予定通り、リブイエ港から約7日後の12月19日にドーレ港に着いた。

 

 

 

 

「3日?」

 

 

 ドーレ港で、ガルナが係留索で船を停める作業をしながら聞き返した。

 

 

 ガルナの言葉に頷いて、シドリアは言った。

 

 

「半日は無謀だろ。3日間は休むべきだと思う。

 お互い、海をなめすぎてた。体力的にも精神的にも、あんなに消耗したし・・・。

 次の島までの航海に向けて、やっぱりちゃんとした宿に泊まって休んで回復するべきだ。」

 

 

 シドリアの言葉にガルナは首を横に振って言った。

 

 

「3日じゃ足りないよ、5日にしよう。後は航路の天気も調べないとね。」

 

「5日って・・・。追っ手がどうとかは大丈夫なのかよ?」

 

 

 ガルナの予想外の提案に、シドリアは驚いてそう言った。

 

 シドリアの言葉に、ガルナはゆっくりと言う。

 

 

「宿の人に金を積んで口止めをする。

 補給も人を雇ってやってもらおう、疲れちゃうし。

 あとは、できれば航海にも2人くらい雇って連れていきたいね。」

 

 

 そう言いながら、ガルナはシドリアにだけ見えるように、100万ジェニーの札束の1つをチラリと出した。

 

 

「なるほど・・・。」

 

 

 シドリアはガルナの手荷物が自分より遥かに優れていると感じた。

 

 

 簡単な変装をしてから、2人はドーレ港のボロ宿に泊まった。

 

 ドーレ港入港初日の19日は、2人とも久しぶりに、揺れないふかふかのベッドで泥のように眠った。

 

 

 3日目の12月21日、宿で航海の疲れを完全に癒した2人は、補給と航海をやってくれる船乗りを探した。

 

 あえて、別々に頼む必要もない。

 燃料や食料、水は地元の船乗りなら手配も慣れているだろうし、それくらい慣れた船乗りならば、安心して客室(キャビン)で遊ぶか寝るかできる。

 

 

 フリーの船乗りは昼間から酒場にいたので簡単に見つかった。

 予想外だったのは、無職の船乗りが多すぎて、結果的に5人も雇ってしまったことだ。

 

 

 また、ガルナの考え違いだったのが、ドーレ港は大きな港故に、ポートネス家の手配も徹底されていなかった。

 

 だから4日目の12月22日には、ガルナ達は服や大量のお菓子を買いに出掛けていた。

 

 最終日の5日目、12月23日に、ガルナ達は目的の島に向けて出航した。

 

 

 航海の途中、荒れに荒れた天候で、途中で人魚が溺れると言われる海峡も通った。

 

 しかし、雇った船乗り達のおかげで、転覆することもなく順調に進んだ。

 

 

 また、一番のベテランの船乗りが、ガルナやシドリアに操舵を基本から教えてくれた。

 

 

 ガルナは、悪天候で逆風でもエンジンを利用して最小限に進む技術や、逆に追い風を利用して高速度を出す技術を習得した。

 

 

 1992年12月28日、ガルナ達は目的地に難なく到着することができた。

 

 ガルナ達は船乗りにお礼を言って、2週間後に出航するまでは、この島で休息をとることを伝えた。

 

 

「着いた、着いた。初日から考えると驚く程楽勝だったね。」

 

「お前が船乗りを雇ってくれたからだよ。ありがとな。」

 

 

 ガルナの言葉にシドリアが心から感謝を伝えた。

 

 

 係留作業をしていた2人の船乗りが、小さな声で囁いていた。

 

 

「あの坊主達、何者なんだ?あの海峡を経由したのに、ピンピンしているなんて・・・。」

 

「しかも、ドーレ港に来るまで2人だけで来たらしいしな。」

 

 

 

「おい!てめえら、無駄口叩いている暇あったら、手を動かせ!」

 

 

 一番のベテラン船乗りが、叫んでその会話を止めた。

 その船乗りは、持っていた酒を飲んで、ガルナ達の後ろ姿を眺めていた・・・。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 この島はくじら島という名前で、遠洋漁業をする出稼ぎの船乗り達の休憩地点として、大勢の人が生活していた。

 

 

「とりあえず、肉食べたいな。」

 

 

 俺がシドリアにそう言うと、シドリアは爆笑しながら答えた。

 

 

「さすが、お坊ちゃんの言うことは違うな。高級レストランなんか、この島にはないと思うぞ。」

 

「違うって!船じゃ保存食ばっかりだったし、ちゃんとしたのが食べたいなって――。」

 

 

 俺の言葉にシドリアが頷いて言った。

 

 

「それはまあ、同感だ。あそこで何か食べられるんじゃないか?」

 

 

 シドリアが指を差したのは、小さな酒場だった・・・。

 

 

 

 

「はい、クリームサラダのトースト添え、ベイトリの照り焼き、クットクス鍋よ。」

 

 

 酒場のお姉さんが、見たこともない郷土料理を持ってきてくれた。

 

 俺達は目を輝かせながら、むさぼるように食べる。

 

 

「・・・なんか、あんた達すごい食べっぷりね。」

 

 

 お姉さんは呆れたようにそう言った。

 

 

 

 

 

 

「へえ、あんた達12歳なの?すごいわねー。どこに行くの?」

 

 

「俺達ジャポンって国に行こうと思ってるんです。」

 

 

 ミトさんと言った、そのお姉さんの質問に俺は答えた。

 

 

 食事が終わり、3人でまったりとお茶を飲んでいる。

 

 今日は、最後の漁ということで、島の男達はほとんどが漁に出ていて、客は俺達だけだった・・・。

 

 

 シドリアがコーヒーを飲んでいると、厨房の影に潜む何者かを見つけたようだ。

 シドリアが怪訝な顔で尋ねる。

 

 

「ミトさん、あれって――。」

 

「ああ、村の唯一の子供よ。おばあちゃん、その子連れてきて。」

 

 

 少年は、老婆の背中にひっつくように歩いてきた。

 ミトさんが紹介する。

 

 

「私のおばあちゃん、その後ろにいるのがゴンよ。ほら、お兄ちゃん達に御挨拶!」

 

 

 おずおずと出てきたゴンは、挨拶を始めた。

 

 

「こ、こんにちは。オレ、ゴン、5さいです。」

 

「俺はガルナだよ。年齢は12歳。よろしくね。」

 

「シドリア。同じく12歳。」

 

 

 挨拶が終わり、ミトさんが言った。

 

 

「あんた達、泊まるところないでしょ?家に泊まんなさいよ。」

 

「え、そこまでしてもらうのも・・・。」

 

「いいから!準備しておくから、夕食刻までゴンと遊んでなさい。」

 

 

 遠慮すら受け付けない一方的なミトさんの言葉に、ガルナ達は従うことしかできなかった・・・。

 

 

 

 

 島は、ありえないほどの大木や、見たこともない動物で溢れていた。

 

 俺やシドリアはゴンが森を駆け巡るのに付いていくに必死だった。

 俺は見えない木の根に何度も躓いていた。

 

 

「速すぎだし、なんだあの子?」

 

「普段から森の中を走り回っているんだろう。俺達は森で走るなんて経験がないからな・・・。」

 

 

 俺とシドリアがそう言って走っていると、遂にはゴンを見失った。

 

 

 

 

「おにいちゃんたち、どこいってたの?」

 

「追い付かなかったんだよ!!」

 

 

 数時間後に合流したゴンの言葉に俺が叫んだ。

 

 シドリアが考え込みながら、ゴンに尋ねる。

 

 

「走るコースは決めているのか?ひたすら走っているように見えたが・・・。」

 

「きめてないよ?まいかい走るところ、かわっちゃうもん。」

 

「よくそれで帰ってこれるな。犬みたいなもんか?」

 

「迷うことはないとしも、危険な場所に入り込むこともありそうだが・・・。」

 

 俺達は、そんな話をしながら、ミトさんの家に向かった。

 

 

 次の日から、俺達は日中は森を探索して遊び回って、家に帰れば風呂に入って、ご飯を食べて、ぐっすり眠るという感じで過ごした。

 

 大自然に触れ合う機会の少ない俺達は、ゴンと一緒に楽しく遊んだ。

 

 

 1992年12月31日の夜は、新年を祝う村全体での盛大な祭りが行われた。

 

 大人達は酒を飲み明かし、朝まで踊り続けて、大いに盛り上がった。

 驚いたのは、ミトさんも意外と大酒飲みで、酔っ払って楽しそうに踊り続けていたことだ。

 

 漁は1月3日までは休みらしく、祭りが終わっても大人の男達が昼間から酒場で飲んでいた・・・。

 

 1月4日から、漁が再開され、村の男達は出航していった。

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、あんた達も手伝いなさい!」

 

 

 そんなある日の夜中、ミトさんに俺達は起こされた。

 近所の妊婦さんの陣痛が始まったらしい。

 

 ちょうど真夜中で、人手が足りなくて、出産の手伝いに俺やシドリアまで駆り出されたのだ。

 普段は冷静なシドリアも随分焦っていたのを覚えている。

 

 

 数時間後、ゴン以外の島民の子供となる、ノウコという女の子が誕生した。

 

 

「人が生まれるのって、何かすごいね。」

 

 

 

 俺がそう言うと、皆が笑って頷いた。

 

 

 

 2週間はあっという間に過ぎた。

 

 

 

 

 1993年1月11日天気は晴れ、ジャポンに向けての旅立ちの日。

 

 

 

「もうお別れなんて、寂しくなるわね。」

 

 

 俺とシドリアが、岸壁で島の皆に別れの挨拶をしていると、ミトさんがそう言った。

 

 

「いつか、また遊びに来ます!」

 

「またあの郷土料理を頂きにでも――。」

 

 

 俺とシドリアは、そう言ってミトさんと握手すると、船に乗り込んだ。

 

 

「おにいちゃんたち、またねー!!」

 

 

 ふと見ると、ゴンが元気に叫んで、ジャンプしながら手を振っていた。

 

 ゴンに手を振っていた俺があることに気付いて、シドリアに尋ねる。

 

 

「そういえばさ、ゴンって最後まで俺達の名前呼ばなかったよね?」

 

「確かに・・・。」

 

 

 俺の言葉に、シドリアは苦笑しながら答えた。

 

 

 

 船が動きだすと、最後にもう1度、俺達は見送りに来ている人々に手を振った。

 船は、ジャポンに向けて針路を取る――。

 

 

 俺達は、楽しかった2週間のくじら島での思い出を振り返っていた。

 

 

 

【挿絵表示】

 




【後書き】

 はい、全ては作者の設定創作&原作改変です(●´∀`●)/

 ドーレ港やくじら島の地理的位置は調べたけど正確には分からなかったので、ぶっちゃけ適当です!勘です!フィーリングです(´ω`)

 作者的に原作を踏まえた位置にしたつもりですが、違和感あったらゴメンナサイm(__)m



 次回【14.再会】

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