せめて、この身が燃え尽きるまで――
二体の巨大ロボによる幻想郷屈指の謎決闘が開始されている頃、妖怪の山の裏側では別の決闘が始まろうとしていた。
「んん? お前、ここにどうやって入ったの?」
「ふふん、ようやく見つけたわ! ここが、だいだらぼっちの隠れ家ね!」
ある意味で、幻想の生きる土地らしいと言えるかもしれないほどに精密かつ近未来的な機械仕掛けの地下施設。
熱と蒸気が蔓延し、高温となった炉心のど真ん中へと氷の妖精が辿り着く。
待ち受けていたのは、妖怪の山を越える巨大な映像を映し出す射影機の燃料にして、太陽神を飲み込んだ地獄鴉、霊烏路空。
「暑い! 暑いわ! でも、こんなに暑くしてあたいからだいだらぼっちを隠そうなんて、素麺問屋が卸し売りよ!」
「違うわよ! それを言うなら、そうか今夜はお年玉でしょ!」
「そっちこそ違うわよ!」
結論から言うとどちらも違うのだが、その事実を指摘出来る者がこの場には居ない。
「まぁ良いわ。 異物発見! 融合炉の温度低下に要注意。即座に異物を排除せよ!」
爆符 『プチフレア』――
ゆで卵食べ放題を報酬に、この融合炉の温度調節を請け負っていたお空の判断は早かった。
八咫の烏の三本足。少女の右腕に取り付けられた制御棒から、極大の弾幕が次々と放出される。
「わわわわわっ!」
元より熱に弱い「氷」を司るチルノと、核の炎を操るお空では絶望的に相性が悪い。
弾幕を回避したところで、その熱は避けられない。常人であれば即座に熱中症を起こすであろう炉内そのものの室温も併せ、妖精の羽がその肉体と共に徐々に融解を始める。
「これは暑い! 逃げなきゃやってらんないわ!」
死線を悟り、即座に撤退を開始するチルノ。
「ここから排除するまで、逃がすもんか!」
人はそれを矛盾と言う。しかし、異物を追い払えば良いだけだったお空の中では道理が通っているらしく、相手の逃げ道を塞ぐように激しく弾幕を展開していく。
「排除される前に逃げてやる!」
妖精とはいえ、チルノもまた弾幕ごっこという遊戯の熟練者だ。
直撃は避けつつ、僅かな隙間を器用にすり抜けながら上方の出口へ向けて飛翔していく。
「私から貴方が逃げ切れるか。それとも、私が貴方を追っ払うのか。勝負よ!」
当然、お空の放つ弾幕の群れは外周に――つまり、融合炉の隔壁へ次々と着弾している。
幾ら頑丈に作られているとはいえ、太陽神の炎弾を無数に食らっては当然限界が訪れる訳で。
「あのバカ烏! なんて事してんだ!」
「退避ー! 総員退避ー!」
「巻き込まれるぞ! 逃げろー!」
極大射影機――最早、射影施設とすら呼べるだろう地下装置の制御室にて、にとりに雇われていた河童たちが大慌てで逃げ出していく。
炉から熱が漏れれば、そこから施設内のあらゆる機材へと伝播していくのは明白だ。
溜まりに溜まった核融合のエネルギーが、制御を失った果てに起こるものとは何か。
どうやら、妖怪の山の裏手にて天に昇るほどの極大の火柱が上がるのは、時間の問題らしかった。
◇
このままでは、アリスに勝てない。
それが、悔しさに食いしばった奥歯が砕けてしまいそうになりながら、非想天則の機体内で天子が認めた結論だった。
恥ずかしいのでやりたくはないが、技の名前を呼び武装を使用すれば更に勝ちは近づくだろう。
だが、それでもきっと届かない。
それは、単純な操縦者同士の腕前の差だった。
弾幕ごっこと同じ理屈だ。幾ら地力で勝っていようと、技術で劣れば敗北する。
天子は、この戦いの為に自分自身は何もしていない。
身体を鍛える事も、操縦を練習する事も、機体の性能を理解する事も、何一つ手を出さないままこの場に居る。
だが、アリスは違う。
彼女はきっと、天子のしなかったそれら全てを行いこの場に居る。
それは、アリスにとって当たり前の日常でしかないのだろう。
ただ淡々と、愚直なほど素直に繰り返され続けて来たのだろう。
自分の限界を知り、操る機体の限界を知り、肉体の延長として寸分の狂いなく動かせるよう反復練習を続ける。
言葉にすれば、ただそれだけの事。
それだけの事で、アリスはこうして機体の優劣をくつがえし天子を追いつめている。
天子が事前ににとりへ忠告した通り、彼女以上にこの非想天則を動かせる者は少ないだろう。
ただ、それ以上にアリスの操縦技術の方が卓越していた。それが全てだ。
どうやら、相手を舐めていたのは私の方だったみたいね。
認めましょう、アリス・マーガトロイド。
あんたの刃は、私に届く。
なら、ここからは本当に全力で叩き潰す!
「ん?」
決意を新たに機体を動かそうとした天人の眼前へと、青色をした画像が出現した。
天子は何も操作をしていない。損傷を受けた事で誤作動でもしたのかと、少女は眉をひそめて画面を見る。
[lnzq¥6ted@9djrt? e5r/k6]
「何これ……」
そこには、解読不能な文字列が浮かんでいた。
突然現れた空中の画面に困惑し、視界の邪魔になるので消そうとしたところで、天子は天啓を得るように相棒からの訴えを理解する。
「そう、そうなの。ふーん、そういう事ね」
文字の意味は、相変わらず解らない。
だが、独り言を呟く少女の口元にはにんまりとした笑みが浮かんでいる。
「あんたも負けたくないんだ、
そう、この画面は少女の操る人型からの願いだ。
共通の敵に立ち向かう同志として、天子に勝利を掴み取る為の提案を持ち掛けているのだ。
「良いわ、乗ってあげる。一緒にあのバカぶっ飛ばすわよ!」
了承の意思として、青の画面へと拳を打ち付ける。
空中へ浮かぶ一枚の画像の色が赤へと変色し、続いて球体コックピットが映し出す外の映像もより単純かつ狭い範囲へと切り替わる。
無駄を省き、効率を求め機能を鋭敏化させているのだ。
右腕を軽く動かし、機体の反応を確認してみる。先ほどよりも、遥かに天子と非想天則の連動速度は向上していた。
非想天則と天子の出した結論は、奇しくも同じだった。
即ち、確実に勝っている機体性能を更に前面に押し出し、自壊覚悟で相手の抵抗ごと全てを叩き潰す。
「さぁ、行くわよぽんこつ! あんたの意地、私に見せてみなさい!」
足元に這い回る小型の機械を蹴り飛ばし、今まで以上に滑らかな挙動でアリスの機体へと肉薄する。
拳が唸る。
両腕で防がれる。
構わず振り抜く。
先ほどまでの比ではない圧倒的なパワーにより、鋼鉄魔王の右腕が吹き飛ぶ。左腕も大きく歪み、人間で言えば複雑骨折に近い状態となった。
「立ちなさいよ、がらくた人形。まさか、これで終わりじゃないでしょう?」
一撃。たったの一撃で、攻守が入れ替わる。
だが、油断はしない。そんなもの、出来るはずもない。
強者として。また、挑戦者として。
非想天則という名の友と共に、比那名居天子の反撃が始まる。
◇
祭りの会場からほど近い、平原の一角。
お祓い棒で肩を叩く巫女の目の前で、元凶の一人である河童の少女が弾幕ごっこに敗れ地面に倒れ伏していた。
「申し開きがあるなら聞くわよ」
「……ないよ」
「でしょうね」
「ぎゃいっ!」
追い打ちとばかりに、霊夢はうつぶせになっているにとりの背中へと霊符の一撃を叩き込む。
「ぐ、おぉぉぉ……っ」
「まぁ、今回は祭りの盛り上げに寄与してるみたいだし、このくらいで許してあげるわ」
「き、寄与してなかったらどうなってたんだよ、私……」
「想像に任せるわ」
半殺しで「このくらい」ならば、もしも祭りそのものを続行不能にしていたらどんな悲惨な結果になっていたのか。
にとりの問いに答える事なく、霊夢は仕事は終えたとばかりに倒れた敗者に見向きもせずその場を去って行く。
残されたボロボロのにとりは、地面に倒れたまま視線だけを二つの巨人に移しその戦いをしばし眺めた。
性能で勝る天人の乗った非想天則と、操縦技術で勝るアリスの乗った鋼鉄魔王ロボ。
戦況は、頑なに武装を使用しない非想天則が徐々に押される展開になっていた。
否。仮に各種武装を展開しても、この戦況をくつがえす事は難しいかもしれない。
人形の操作について、天子はまったくの素人だ。乗り込んだ非想天則を、自分の身体と同じように操っている。
だが、実際の機械人形は天人よりも脆く可動域にも違いがある。
その限界を見極められない少女の操縦は、ありていに言って酷いものだ。
あれでは、幾ら性能が優れていても宝の持ち腐れでしかない。
しかし、それも仕方のない事ではある。何も知らないずぶの素人にしては、むしろ彼女は十分優秀な部類に入るだろう。
だが、それでもアリスに届かなければ全てが無意味だ。
今更機体の性能は上げられない。出来る事があるとすれば、天子の操縦技術の向上しかない。
だが、あの天狗の如き鼻っ柱を持つ傲慢ちきな天人が大人しくこちらの指示に従うかと言えば、割と絶望的だろうと結論が出てしまう。
それでも、せめて口を出すだけはしておこうとにとりが耳栓型のインカムを起動させようとしたその時、非想天則に変化が訪れる。
立ち上がる黄金の機体から、歪な悲鳴が上がり始めた。
更に、関節部から漏れる蒸気の量が急増し、各所の放熱処理では追いつかないほどの熱量が巨人自身を焦げ付かせていく。
明らかな異常事態に、しかし、にとりは呆然としたまま何も出来ずにいた。
「どうして……」
天人という規格外の身体能力に追従する為に用意した、決戦用の最終装置である制限開放。
機械を大事に扱わない天人に教えるのは嫌だと、結局その機能について語った事はなかったはずだった。
それが何故、宣言もなく勝手に作動しているのか。
機能を知らされていない天子には無理だ。しかし、現在の状況では彼女以外の誰もあの機体を操作する事は出来ない。
「――まさか、お前なのか。非想天則」
人の形をしただけの命なき機械に、意思が宿る。
神の焔という高純度の精神体エネルギーを内包し、その熱を全身に張り巡らせる非想天則は、確かにその素質を備えている。
だが、それでも人形が意思を得るには余りに時間が早過ぎる。
それでも、にとりの呟きを肯定するように鋼鉄の巨人は己の肉体が発する異音を無視して敵対する古鉄の巨人へと駆け込み、威力と速度の増した拳を叩き付ける。
「いっけー!」
心血を注ぎ生み出した我が子の成長に涙しながら、にとりが叫ぶ。
親の手から離れ、己の意思で立ち向かう事を決めた鉄と油の赤子が全身を軋ませ吠える。
非想天則に限界が訪れるのが先か、鋼鉄魔王ロボが完全に破壊されるのが先か。
二人の技術者による、このはた迷惑な我が子自慢大会の決着は近い。
◇
右腕が千切れ飛び、左腕が無残にひしゃげる。
余りに強烈な打撃に、胸部装甲すら凹ませながら魔王ロボが吹き飛ぶ。
どう見てもリミッター解除です。本当にありがとうございました。
拳一つでこの有り様とか、河童の技術力マジ変態。ふぁっきん!
ヒソウテンソクが全身から蒸気を吹き出し始めたら、いきなり動きのキレとパワーが五割増しになった。
機体そのものが崩壊する事をいとわず、限界まで性能を高める機能でも搭載していたのだろう。
つまり、犬と猫のケンカだったものが、象と蟻のケンカに変わったのだ。
地力の差を突き放された時点で、私からヒソウテンソクを打倒する手段は失われた。
だが、どう見ても機体に無理をさせている以上勝機がない訳ではない。
即ち、この手の限界突破に対する勝利条件は、相手が勝手に自滅するまで耐える事だ。
幸い、両腕は失ったものの武装が詰まった背後のコンテナは無事だ。
ここからは回避と防御に徹し、逃げ切り勝ちを目指す。
『やりやがったなぁ、こんちくしょう! 食らえ! いなずまパーンチ!』
ロボの背負ったコンテナの上部が開き、普段にとりの使っているのびーるアームを数十倍にした巨大なマジックハンドがヒソウテンソクへと突き進む。
『そんなのもう効かない――あびゃびゃびゃびゃっ!?』
馬鹿め! 「いなずま」って言ったでしょうが!
普通に右腕で防御したヒソウテンソクだったが、迸った雷撃により操縦者である天子の悲鳴が木霊する。
『舐めるなぁ!』
『ふん、貴様なんぞ舐めたら汚いわ!』
がむしゃらに突進して来る熱暴走中の機体に対し、魔王ロボの迎撃は伝家の宝刀ローキックだ。
先述した通り、自重の関係上ロボの足腰は非情に弱い。
振り上げられた足にこちらの足をぶつけるだけで、いとも容易く体勢を崩す事に成功する。
『くぅあっ』
『がーはっはっはっ! ざまぁみろい!』
これは、言うほど簡単な技術ではない。
今は私も天子も巨大な機械に乗っているので、相手の呼吸もこちらの動きも本来の肉体とは一致しない。
自分の理想とするイメージと人形の動作に齟齬を生まないよう、長年に渡り研鑽し続けて来た私だからこそ可能な妙技だと言えるだろう。
『どおぉぉぉらあぁぁぁっ!』
『うおぉっ!?』
こけて倒れたヒソウテンソクは、仰向けの状態で魔王ロボの胴体へと両足を伸ばし、カニ挟みを決めて来る。
『ぶった切れなさい!』
『ふんぐっ、ぐおぉぉぉぉぉぉっ!』
鋼鉄と錆鉄の肌が軋み合い、平原一帯に不快な不協和音を響かせる。
装甲で負ける鋼鉄ロボにしてみれば、ヒソウテンソクのカニ挟みはプレス機の押し潰しに近い。
右腕を失い、左腕も大破状態。挟まれた両足に文字通り手出し出来ないまま、私の機体の胴体が潰され始める。
くそっ。相手のパワーが急激に上がってる分、こっちが受けるダメージも跳ね上がってる。
このままだと、ほんとに魔王ロボが「ひでぶ」するかも。
正直に言えば、ここで私が負けたところで大した問題にはならないだろう。
奥の手を出したヒソウテンソクは自壊寸前なので、この後人里まで行って暴れる余力はない。
そもそも、私の敗北が決定した時点で吸血鬼姉妹を始めとしたこのお祭りに参加している列強たちによる介入は必至だ。
勝ちに拘る必要はない。むしろ、私の役目は果たし終えたとさえ言える。
だが、本当にそれで良いのか。
良い訳ないよなぁ。
遊びの誘いを受けときながら、「飽きたから帰る」とか私でも絶交するわ。
良いぜ、最後までレッツパーリィーナイトだ!
『ぐぎぎぎっ。どーこーんーじょー!』
『なっ!?』
機体の上体を背後へ逸らし、腰に掴まったヒソウテンソクを強引に持ち上げる。
そして、右足を大きく振り上げて更に持ち上げたところで、今度は一気に前へと姿勢を倒し相手の頭を地面へと叩き付ける。
『どっせーい!』
『ぐぅぅっ!』
思った通り、ダメージのフィードバックは健在だ。高角度で食らった地面との激突という痛みにより、拘束していた両足が外れ私は自由を取り戻す。
打ち所でも悪かったのか、ヒソウテンソクはその頭部から黒煙を上げ始めていた。
『こんのおぉっ。いい加減、壊れろおぉぉぉっ!』
『ごはぁっ!』
起き上がりざまに繰り出されたヒソウテンソクの手刀が、遂に鋼鉄魔王ロボの胸部を深々と貫く。
だが、その一撃によって捕らえられたのは相手も同じだ。
『ぬぅんっ!』
『くっ』
貫かれたまま一歩を踏み出す事で相手の腕を完全に胴体へとめり込ませ、ぐちゃぐちゃになった左腕を搦めて互いの身体を固定する。
拘束を解く時間は与えない。両足を屈め、背後へと腰を逸らす。
『こーうーてーつー、ばっくどろーっぷ!』
『ぐあぁっ!』
興行を目的とした、職業レスリング。略してプロレスの技によりヒソウテンソクの脳天は二度目の垂直落下を経験する事となった。
体感が繋がっている天子にとっても、この一撃は相当痛いだろう。
それでも、もつれ合うように倒れ込んだ後で先に立ち上がったのは、にとり作のヒソウテンソクだった。
私の鋼鉄魔王ロボの方は、繰り返しの無理な駆動で限界が来たらしく両足が完全に動かなくなっている。
胸部は半壊し、足も動かない。移動が出来ない時点で、もうこの決闘の勝者は決まってしまった。
『はぁっ、はぁっ、はぁっ』
天子の動きに合わせ、全身から黒煙を上げ始めた黄金の御神体も肩で息をしている。
良い勝負だった。お互いが限界まで力を出し切った、誰にも恥じる事のない決着だ。
ヒソウテンソクの両腕が、魔王ロボの両肩を掴み持ち上げる。
『さぁっ! 言いなさい!』
え? 何を?
『私の勝ちだって! あんたの負けだって! 訳わかんないおっさんの声じゃなくて、貴女自身の声で宣言しなさい!』
誰の目から見ても完全に私の負けだろうに、拘る必要はあるのだろうか。
まぁ、敗者は勝者に従うだけだ。ガミガミ魔王音声を切り、私の声を外に出すようスピーカーを調節する。
だが、そのほんの僅かな時間により、天子の願いは叶えられる事なく終わってしまう。
『え? うぎゃあぁぁぁぁぁぁっ!』
なんと、いきなりヒソウテンソクが燃え始めたのだ。
恐らく驚きとフィードバックの痛みによって両手が離され、膝をつく私の機体の前で守矢の御神体のお焚き上げが始まった。
胸部の奥からバチバチと火花のような光が走った直後、胴体から燃え広がった炎が黄金の機体の全身をおおい尽くす。
『あー、ここまでかぁ』
火達磨となって右往左往するヒソウテンソクから、何処か諦め気味な河童の声が流れる。
『ここまでって、まだ半刻も経っていないわよ! 嘘を吐いたの!?』
『いや、リミッターを外したんだからジェネレーターの限界時間が縮まるのは当たり前でしょ。まぁ、それでも想定してたよりずっと早く限界が来たから、案外普通に動かしても一刻持たなかったかもね』
『ふっざけんなぁぁぁっ!』
どちらの言い分も、解らないでもない。
にとりにとっての常識が、天子にとっての常識とは限らない。
結局、手を組む上で二人に足りなかったものは、報告、連絡、相談、という人間社会では当たり前に行われる相互理解だったという訳だ。
『んじゃ。このままだと八咫烏の神力で一帯が全部吹っ飛んじゃうから、迷惑にならないようお前ごと処理するね』
『このクソ河童! 一発ぶん殴らせなさい!』
『お前の犠牲は無駄にはしないよ、天人。ポチッとな』
『ピー。ジバク、ソウチガ、サドウシマシタ。ジバク、シークエンスニ、ウツリマス』
これは酷い。
自爆装置付けるんなら、脱出装置も一緒に付けとこうよ。
なんで、パイロットごと爆散するの前提で機体作ってんの?
醜い言い争いの後、にとりは躊躇う事なくヒソウテンソクの自爆装置を作動させた。
燃え上る巨人の背にある二枚の翼が横に伸びる形で展開され、後ろ腰の辺りから噴出口とみられる筒状の装置が姿を現す。
一帯に被害を出さない為、空中で爆破させるつもりらしい。
『こうなったら、あんたも道連れよ!』
勘弁してつかぁさい。
今にも飛び立ちそうだったヒソウテンソクの両腕が、再び魔王ロボの肩口を掴む。
そして、ヒソウテンソクの背後から凄まじい勢いで燃料が噴出され、二つの巨体が空高くへと飛んで行く。
上へ、上へ。何処まで昇るのかは解らないが、博麗大結界を突き抜けてしまわないか少し心配だ。
とりあえず、頑丈な天人ならばともかく人間とさほど変わらない私がこのまま自爆に巻き込まれると普通に死ぬので、天子には申し訳ないが脱出装置を作動させる。
『え?』
鋼鉄魔王ロボは、原作にてほとんどの部位が動かない。
動かすつもりがなかったのか、動かせるがそうしなかったのかは解らないが、実際に動いたのは機体の一部分だけだ。
コックピットでもある、私を乗せたロボの首が取れる。
落下する途中で頭パーツの下部に内蔵された手足を展開し、
燃え続けるヒソウテンソクは、胴体だけとなった魔王ロボと共にそのまま空の彼方へと飛んで行く。
さよなら、天(子)さん……
五本の爪が伸びる機械の手を振り、私は緑の大地から
『ちっくしょおぉぉぉぉぉぉっ!』
夕暮れには少々遠い、太陽が西に傾いた真夏の午後。
自身の自爆という脅威から幻想郷の平和を守る為、遥か遠くの天へと消えて行った神を模す人型は、哀れな生贄を巻き込み極大の星となって人々に一瞬のきらめきを届けるのだった。
これは酷い(二回目)