ゼロの龍   作:九頭龍

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使い魔の役目


第2話

 それから学園の中をほんの軽く案内してもらってから魔法学園の授業とやらを拝見させて貰った。教師が何を言ってるのかさっぱりわからなかったが、魔法についての理論ややり方などを講義しているらしい。本来使い魔は明日まで主人が授業を受ける際は外にいなければいけないらしいが、ルイズが特別に許可をくれた。

 教室に向かう際、外に見た事のない生物がいて驚いたがルイズ曰く、こちらの世界では普通に生息している物らしい。

 少し遠くで説明している教師を見ていると時々こちらをチラチラ見ては笑っている生徒がいて気が散ったが、なかなかの興味深い物だった。

 授業が終わり、それぞれの生徒が様々な使い魔を従えて寮に帰って行く。ルイズも然りである。桐生を連れ、女子寮へと向かうのを告げられ男の自分はまずくないか? と問い掛けるも、

 

「あんたねぇ……使い魔は主人の側にいるのが普通なの!」

 

 と逆に怒られた。

 案内されたルイズの部屋は十二畳ほどのそこそこ広い部屋だった。夕暮れの淡いオレンジ色の光が差し込む窓が南らしく、西側にはベッド、東側にはタンス、そして今入ってきた北側に扉がある。真ん中には木製のテーブルと木製の椅子が佇んでいる。家具はどれもアンティーク調で高価そうだ。

 自分の世界とは違って電気ではなく、蝋燭で灯りを取るらしい。ルイズが机に飾られた蝋燭に火を灯すと、

 

「夕食を持ってくるから座って待ってて」

 

 と言って部屋を出て行ってしまった。

 とりあえず椅子に腰掛け腕を組んで現状を確認する。どうやらここは本当に自分のいた地球とは違うらしい。まず、日本と言う国はおろか、アメリカやイギリスと言った国もルイズに問い掛けたが知らないとの一点張り。

 寮に向かう際何気なく空を見上げると夕闇の中に月が二つ浮かんでいた。目の錯覚と思い何度も目を凝らしたがどうやら違うらしい。更にどちらの月も日本で見ていた物よりも遥かにでかいのだ。おそらく二倍以上はあった。

 ふとここで、自分のポケットに入っている物を確認しようと机に並べてみる。

 財布。長年愛用している牛皮製の黒い長財布。中身は一万円札十五枚と小銭が数枚ほど。

 煙草とライター。封を切ったばかりの物と、まだ開いていないのもあって数十本あるし、ライターのオイルもそこそこある。

 携帯灰皿。煙草を吸う人間として当然のエチケットだ。

 携帯電話。一瞬これで遥達に連絡をと思ったが、どういう訳か電源がつかない。思わず舌打ちしてしまう。

 メリケンサック。なんでこんな物が、と思ったがニューセレナを出た後絡んできたチンピラをこれでボコボコにしたのを思い出した。

 遥の御守り。遥を食事に連れて行ってあげた時にお礼にと渡してくれた物。頼むから店から出た瞬間に他のメニューが食べたいと言わず纏めて注文してくれと密かに思ってしまったが、渡された時から大切に持っていた。

 

「遥……」

 

 御守りを見た途端、自分の世界にいる遥やアサガオの子供達の顔が浮かんだ。

 林間学校から帰ってきた途端自分が行方不明と知ったらどうなるだろうか。恐らく名嘉原や流道一家のみんなが面倒を見てくれるとは思うがやはり自分にとって、アサガオのみんなは家族だ。

 机に出した私物を再びしまい込み、なんとかして自分の世界に帰ろうと決意したのと同時にルイズが戻ってきた。

 

「ほら、あんたの分」

 

 手に持っていたパンを桐生に渡して向かいの椅子へ座る。

 

「さぁ、教えてちょうだい。あんた、一体どこから来たのよ?」

 

「……まぁ、確かに説明しなきゃいけないな」

 

 そう言って桐生は自分の世界の事を話し始めた。

 魔法使いがいないこと。月は一つしかないこと。建物の造りが違うこと。ここよりもずっと緑が少ない事。使い魔と呼ばれていた生き物が存在しないことなど。

 

「信じられないわ」

 

「だろうな。俺も信じられん」

 

 疑わしい目つきでこちらを睨んでくるルイズに桐生はパンをかじりながら返す。

 

「じゃああんたの世界には、平民しかいないわけ?」

 

「さっきから気になっていたんだが……その平民ってのは何なんだ? 他の奴らも言ってたが」

 

「だってあんた、メイジじゃないでしょ? 魔法が使えないんだから」

 

「そのメイジ、ってのがお前らの言う貴族の事なのか?」

 

「まぁ……例外はあるけどそう言う事ね」

 

 どうやらルイズの話から察するに、こちらの世界は格差社会で成り立っているらしい。

 魔法が使えるのは立派な血筋を持つ貴族だけで、魔法使いをメイジと言うらしい。逆に魔法が使えない者を平民と言う。この分類から行けば、自分は平民なのは理解出来たが如何せん気に入らなかった。

 

「悪いが、俺には合いそうにない世界だな。元の世界に帰してくれないか?」

 

「無理ね」

 

「なに?」

 

 あまりにもあっさり返され思わず間の抜けた声で返してしまう桐生。

 

「あんたは私と契約したのよ。私の使い魔として。契約した以上はもう動かせない」

 

 突きつけられた事実に桐生は言葉を失い、眉を潜める。これからどうすればいいのか。二度と遥達には会えないのか。不安な想いが胸に広がっていく。

 そんな桐生を少し不憫に思ったのか、視線を泳がせながら口を開く。

 

「あのね、別の世界なんて聞いた事もないし、使い魔の契約を解除するには使い魔が……死ぬしかないのよ」

 

 少し間を置いてから最後の言葉を紡ぐルイズに桐生は表情を変えなかった。

 

「それに、私達魔法使いの間では「呼び出す」魔法はあっても「送る」魔法なんて聞いた事がないの。あんたが自分の世界……本当にあるかわからないけど、少なくともそこに帰すのは、私じゃ無理」

 

 どちらにしろ、もう自分にはここで生きていくしか選択肢はないらしい。

 しかし、死んでしまっては元も子もない。信じて生きていれば、元の世界に戻る方法や手がかりが見つかるかもしれない。そんな気持ちを胸に、桐生は独り頷いた。

 

「……わかった。しばらくはお前の使い魔として生きよう」

 

「口の利き方がなってないわね。「なんなりとおもうしつけ下さい、ご主人様」でしょ?」

 

 指を立てて言うルイズに、遥もこんな性格になるのかもなと内心笑いながらパンを飲み込む。

 

「しかし、使い魔ってのは何をするんだ?」

 

 身体を伸ばしながら桐生が尋ねる。元の世界にいた時はアニメなどほとんど見た事がなかったので、実際どんな役割があるのか検討がつかない。

 

「本来使い魔は主人の目となり、耳となる能力を与えられるわ。早い話、あんたが見てる物や聞いている事を私も見たり聞いたり出来るの。でもあんたじゃ無理みたいね。さっきから何にも見えないし!」

 

「運が悪かったんだよ……お前は」

 

 ルイズの残念そうな声に桐生が渋い声で返す。状況を見る限り運が悪いのは桐生の方だと思われるが。

 

「でも使い魔の一番の役目は主人を守る事! まぁ、強い幻獣ならともかく、あんたじゃ無理そうだけど」

 

 その言葉には流石の桐生も少しカチンと来た。今まで屈強な猛者達と戦い、修羅場をくぐってきただけあり力には自信がある。

 

「さっきみた他の使い魔やその幻獣ってのはわからねぇが、人間相手なら負ける気はしねぇぜ」

 

 口元に笑みを浮かばせながら盛大に拳を鳴らして見せる。一瞬ルイズの瞳に驚きの色が走るがすぐさま冷めた表情へと変わっていく。

 

「あのねぇ……相手が人間でもメイジがいるのよ? 喧嘩ならともかく、魔法を使われたらお終いでしょ?」

 

「まぁ……確かに魔法なんて使われたらかなわねぇな……」

 

 悔しいが、ルイズの言う通りである。あちらの世界では殴り合いの喧嘩が主流だったが、こちらでは魔法で闘うのが一般的なスタイルなのだろう。どんな出方をするか全くわからないだけあって、相手をするとなると確かに厄介かもしれない。

 

「だからあんたに出来そうな事をやらせてあげる。掃除、洗濯、その他雑用」

 

「まぁ、その程度なら出来るが」

 

「さてと、喋ってたら眠くなってきたわ」

 

 ルイズが可愛らしく欠伸をしてみせる。時計が無いためわからないが、話し込んでいた為外は完全に真っ暗になっている。

 自分も寝ておこうと思うもベッドは一つしかない。ルイズにどうするか尋ねようとするとブラウスのボタンを外していた。

 白く可愛いらしい下着が露わになる。

 

「おい、何してんだ?」

 

「寝るから着替えるのよ」

 

「お前、恥じらいってもんがないのか?」

 

「なんで使い魔相手に恥じらわなきゃいけないのよ」

 

 どうやらこちらを男と認識はしてないらしい。桐生自身もルイズくらいの年の少女に「女」という認識はあまりない。と、言うのも、ルイズは年相応と言うか小柄な女の子らしい体格をしている。身長も自分よりはかなり低い。百五十センチそこそこと言った所か。

 

「じゃあ、これ、明日洗濯しといて」

 

 ぱさっと何かを投げ渡される。

 見てみると、レースのついたキャミソールに、パンティだ。今着けていた物だろう。

 思わず溜め息を漏らしながら自分もグレーのスーツの上着を脱ぐ。ワインレッドのシャツの姿になって上着を椅子にかけ、渡された下着を椅子に置く。

 ルイズの方は大きめのネグリジェを頭からかぶろうとしている。淡い蝋燭の灯りに照らされた姿は堂々としており、本当に恥じらいを感じてないらしい。

 

「あんたは床で寝なさい。ほら、これ」

 

 言って毛布を投げ渡してくる。そしてそそくさと自分のベッドに潜り込むと、「蝋燭、消して」と伝えてから寝息を立て始めた。

 ふっと、蝋燭に息を吹きかけ灯りを消してから壁にもたれる形で床に座り、毛布をかける。

 今日一日でいろんな事が起こりすぎた。帰る方法はあるのだろうか。

 ……本当に帰れるんだろうか。

 しかし、いくら考えた所で自分を納得させてくれる答えは出てこない。

 じたばたしても何も始まらない。頼れるのは自分の主人と名乗るこのルイズだけなのだ。

 ひとまず眠ろう、とゆっくり目を閉じる。

 良くも悪くも、長年の経験が与えた順応性が桐生に味方した。普通の人間ならパニックになるであろう状況を、自分の運命だと受け入れられた。

 そうすると、背中の応龍を彫ってくれた彫り師、歌彫の言葉が脳裏に蘇る。

 

「刺青ってのは、彫った人間次第でその先の人生を変えちまう。俺の墨は運命を変える。重さに潰されるんじゃないぞ」

 

 あの言葉を、今試されている気がした。

 神室町で歌彫に背中のハブを完成してもらい、自分を守る為、自ら命を捨てて自分を救ってくれた力也。短い生涯を絶つことを運命と受け入れこの世を去った力也の想いは、桐生の心を更に強くさせた。

 運命? そんなもんに負けてたまるか!

 負けず嫌いの性格が幸いし、この世界に来たのも運命と受け入れて、桐生は眠りについた。

 

 

 窓から差し込む朝日に桐生が目を覚ます。視界に入って見慣れない部屋に一瞬戸惑いが生まれたが、すぐさま昨日の事を思い出す。

 毛布を剥いで立ち上がり、上着を着込むとルイズの方に目をやる。

 ルイズはベッドの中でまだ寝息を立てている。あどけない寝顔だ。貴族だ魔法使いだと威張っていたが、こうしてみると可愛らしい。子供の寝顔はいいものだと、改めて桐生は思った。

 同時に、やはりこれが夢ではないと言うことも思い知った。目が覚めた途端、いつものアサガオの布団の中で目覚められたらどんなに良かったか。

 しかし、落ち込んでる訳にもいかない。もう自分は受け入れたのだ。元の世界に帰れるまではここで暮らすと。

 窓を開けて朝の空気を吸う。清々しい青空とどこまでも続きそうな平原、遠くには山や森が見える。吹き込んだ風は暖かく、春風の様に気持ちがいい。

 とりあえず、寝ているルイズの肩をさする。すると目を見開いてガバッと起き上がった。

 

「な、なに!? 何事!?」

 

「朝だぞ?」

 

「へっ? あ、あんた、誰よ!?」

 

 寝ぼけた声で怒鳴るルイズ。こっちの世界に呼び出しといてそれはないだろうと思い、やれやれと言った表情で腰に手を当てる。

 

「桐生一馬だ。忘れたか?」

 

「ああ、使い魔ね。そっか、昨日召喚したんだっけ」

 ルイズは起き上がり、大きな欠伸をして見せてから顎をしゃくる。

 

「服」

 

 机の上にあった制服を取って手渡す。気怠そうにネグリジェを脱ぐと今度はクローゼットを指差した。

 

「下着」

 

「そのくらい自分で取ったらどうだ?」

 

「そこのクローゼットの一番下の引き出しに入ってる」

 

 本当に自分では動かないらしい。

 面倒臭そうにクローゼットの引き出しを開ける。確かに中には沢山の下着が入っていた。下着の良し悪しなど検討もつかないので適当にひっつかんで投げ渡す。

 下着を身に着けたルイズが目をこすって口を開く。

 

「服」

 

「さっき渡しただろ?」

 

「着せて」

 

 ルイズの言葉に思わず眉を潜める。そんな桐生の態度が気に入らないのか、頭をボリボリかきながらルイズが唇を尖らす。

 

「平民のあんたは知らないだろうけど、貴族は下僕がいる時は自分で服なんて着ないのよ」

 

「なるほど……」

 

 言って桐生はブラウスを手に取り、ルイズの腕を袖に通し始めた。

 

「つまり貴族ってのは、自分一人じゃ何も出来ねぇ甘ったれ共の総称って訳だな」

 

 服を着させて勝ち誇った表情を浮かべてたルイズの眉がピクリと歪む。そんな事を気にせず制服を着せた桐生は大きな欠伸をして見せた。

 

「あんた……本当に口の利き方がなってないわね」

 

「知らねぇし、興味ねぇな。弱い立場の奴をいびったり、そんな奴にえばる事しか脳のねぇ奴らに媚びるつもりはねぇよ。お前は、俺の主人だ。だから言う事は聞いてやる。だがな、お前以外の貴族とやらがふざけた態度や行動を起こして俺の怒りに触れたら……その時は、お前の命令だろうとそいつは容赦しねぇ。誰が相手だろうが叩きのめす。わかったか?」

 

 しばらく睨み合いが続いたが、無言の凄まじい圧力を持つ桐生の眼光にルイズは忌々しそうに瞳を逸らす。

 

「……まぁ、いいわ。私の言うことさえ聞いていればいいのよ。」

 

 そう言って扉を開け、外に出る。桐生もそれに続いた。

 部屋を出ると、似た様な木で出来た扉が壁に三つ並んでいた。その中の一つが開き、中から炎の様な赤く長い髪の少女が出てきた。ルイズよりも背が高く、しかし桐生よりはやはり低い。大体百六十センチほどか。大人の男にも効きそうな色気を放っている。彫りが深い顔立ちに、突き出た豊満な乳房が艶めかしい。

 一番上と二番目のブラウスのボタンを外して褐色の肌の谷間を露出している。

 身長、肌の色、雰囲気、胸の大きさ……何もかもがルイズとは対照的だ。

 彼女はルイズを見て、にやっと笑みを浮かべる。

 

「おはよう、ルイズ」

 

 ルイズが露骨に嫌そうな表情を浮かべる。それでもしっかりと挨拶は返す。

 

「おはよう、キュルケ」

 

「それがあなたの使い魔?」

 

 キュルケと呼ばれた少女がルイズの後ろに立っている桐生を指差す。

 

「そうよ」

 

「本当に人間なのね! 凄いじゃない!」

 

 キュルケが可笑しそうに大声で笑う。

 桐生は腕を組んで黙って二人を見ていた。人間を召喚するのはそんなに可笑しい事なのだろうか。逆に今まで誰もやった事がないなら凄いのでは、と、内心考える。

 

「「サモン・サーヴァント」で平民を召喚するなんて、流石は「ゼロ」のルイズ!」

 

 ルイズの白い頬が怒りで赤く染まる。

 

「うるさいわね」

 

「あたしもね、昨日使い魔を召喚したのよ。誰かさんとは違って一発で呪文成功よ」

 

「あっそ」

 

「どうせ使い魔にするならこういうのがいいわよねぇ。おいで、フレイム」

 

 キュルケが勝ち誇った様に明るい声で自分の使い魔を呼ぶ。するとキュルケの部屋からのそのそと真っ赤で巨大なトカゲが現れた。トカゲの体から発する熱気が二人を襲う。

 

「こいつは……」

 

 桐生は前へ出て近づき、物珍しそうにその赤いトカゲを眺めた。

 大きさは虎ほどある。尻尾は燃え盛る炎で出来ており、口端からチロチロと炎を迸らせている。

 思わずしゃがみ込んで、頭を優しく撫でる。触れられなくはない程度の熱い体温と硬くざらついた鱗の感触が掌に伝わり、撫でられたトカゲはきゅるきゅると気持ち良さそうに鳴きながら目を細める。

 

「もしかしてあなた、この火トカゲを見るの初めて?」

 

「まぁな。しかし、見た目とは裏腹に大人しくって人懐こいな」

 

「当然よ。この子はいい子だから、あたしが命令しない限り人を襲ったりしないわ」

 

 桐生の言葉にキュルケは手を顎に添えて、色っぽく笑った。

 

「そばにいて熱くないのか?」

 

 フレイムと呼ばれた火トカゲの頭を撫で続けながら桐生が問い掛ける。汗ばむほどではないがむわっとする熱気がさっきから肌を刺激していた。

 

「あたしにとっては涼しいくらいね」

 

「これってサラマンダー?」

 

 ここでずっと口を閉ざしていたルイズが悔しそうに尋ねる。

 

「そうよ。ねぇ、見て? この尻尾の炎! ここまで鮮やかで大きな炎の尻尾は火竜山脈のサラマンダーに間違いないわ! ブランド物の使い魔よ! 好事家に見せたら値段なんかつけられる訳ないわ!」

 

「そりゃ良かったわね」

 

 キュルケの使い魔自慢を聞かされて苦々しい表情でルイズで相槌を打つ。

 

「素敵でしょ? あたしの属性ピッタリ!」

 

「あんた、「火」属性だもんね。」

 

「ええ、あたしの二つ名、「微熱」の象徴である「火」の属性。ささやかに燃える情熱は微熱。でも、男の子はそれでイチコロなのよ! あなたと違ってね?」

 

 キュルケは得意気に胸を張って見せる。ルイズも負けじと胸を張って見せるが、かなりボリュームに差がある。

 それでもルイズはキュルケを睨み付ける。気付いてはいたが、かなり負けず嫌いな様だ。

 

「あんたみたいにいちいち色気を振り撒いていられるほど、私は暇じゃないのよ」

 

 ルイズの発言にキュルケは一切動じずに笑って見せる。余裕の差も見せ付けられてしまっている様だ。

ふと、視線を桐生に移す。

 

「あなた、お名前は? おじ様」

 

「桐生一馬だ」

 

「キリュウカズマ? 変な名前ね」

 

「そうか?」

 

「じゃあ、お先に失礼するわ」

 

 そう言ってキュルケは炎の様な赤髪をかきあげ、優雅な足取りで去っていった。その後を大柄な体をちょこちょこと可愛らしく動かしてフレイムも追っていく。

 キュルケとフレイムの姿が見えなくなった瞬間、ルイズが拳を握り締め地団駄を踏む。

 

「悔しい! なんなのよあの女ぁ! 自分が火竜山脈のサラマンダーを召喚したからってぇ!」

 

「別に誰が何を召喚しようが、構わねえじゃねえか」

 

「構わなくないわよ! メイジの実力を測るには使い魔を見ろって昔から言われてんの! なんであんなバカ女がサラマンダーを呼べて、私はあんたしか呼べないのよ!」

 

「知らねぇよ。こっちだって好きで来た訳じゃねぇんだ」

 

 ルイズの八つ当たりに額に手を添えながら答える桐生。ふと、ここで昨日から思っていた疑問を思い出して聞いてみる。

 

「そう言えば、お前、ゼロのルイズと良く言われてるが、「ゼロ」って何の事だ?」

 

「はぁ? それは……あだ名よ」

 

「あだ名か。あのキュルケとか言うのは確か微熱と言っていたな。まぁ、年頃の男には確かに熱を上げられそうなタイプには見えるが……。なら、お前のゼロってのはどういう意味だ?」

 

「知らなくていいことよ」

 

 ルイズはバツが悪そうに表情を歪める。

 これ以上は聞けないと悟り、言葉を切って桐生はある事に気が付いた。

 昨日他の生徒がみんな飛んでいったのにルイズは歩いていた。魔法使いだ貴族だと言っている割には、桐生はまだルイズが魔法を使った所を見ていない。

 どうしてなのだろう、と心に微かな疑問が生まれた。


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