ハリー・ポッターと暴食の悪魔   作:普段は読み専用

9 / 11
今回は短いです。すみません。
祝お気に入り600件!!


8

 年が明けて学期が再開され、クリスマスの休暇で実家に帰っていた生徒達がホグワーツに戻ってきた次の日。ハリーとその友人であるロン、ハーマイオニーの三人は図書館で調べ物をしていた。調べているものはこの学校の悪魔学教師についてである。異様な腕の長さと、異常な食欲、そして食べている量に反して痩せた身体。外見だけでも怪しいことこのうえない。

 それだけではなく、この三人はグラッドがトロールを食すところを目撃しており、等しくトラウマとして植えつけられている。中でもハーマイオニーは二人と比べても深い心の傷となっているのか、思い出すだけでもパンツの心配をしなくてはならなくなるほどだ。異性の前で漏らすのは二度と御免なので、できれば思い出したくもない事柄である。だが、今回の調べものの内容が他でもない、あの教師のことなのだからそういうわけにもいかなかった。

 

「なぁハリー、本当にあいつがその“ナニか”を狙ってるのか?」

 

「たぶん間違いないよ。僕は確かに見たんだ」

 

 信じられないというよりも、信じたくない、むしろ関わりたくないと思っているロンが確認するもハリーは間違いないと答える。彼らはグラッドが、ダンブルドアが生徒の出入りを禁じた廊下に隠した何かを狙っていると考えていた。

 事の起こりはクリスマス休暇の出来事。ロンもハーマイオニーも実家に帰省しており一人寂しく学校内でクリスマスを過ごしていたハリーにとあるプレゼントが贈られた。それは使用者の姿を隠し見えなくするという透明マント。彼の父親が所持していた一品で、いわば父の形見だった。その思いがけない贈り物に喜んだハリーはさっそくマントを使って夜中の校内を徘徊する。冒険心がうずき、立ち入りを禁じられた廊下まで来てしまった。そこでグラッドとクィレルが揉めているのを見たというのだ。クィレルは勇敢にもあの悪魔のような男に立ち向かうも、何か恐ろしいものを見たのかグラッドをとめることができずに逃げ出したようにハリーには見えた。実際は違うのだが、彼らにはグラッドによる植え付けられたトラウマのこともあり、グラッドは悪魔のような男=悪い奴という図式が成り立っていた。逆にクィレルは闇の魔術の防衛術の担当だ。その使命感から一度はグラッドに立ち向かったのではないかとハリーは考えている。ただ、いかんせん相手が悪かった。あの気弱そうな男では悪魔の相手は難しいだろう。

 この情報を彼等も親しく信頼しているハグリッドに話すも信じてもらえない。他の教師に相談するには夜中に寮を出て徘徊していたことも説明しなければならなかったため相談することができなかった。ハグリッドはグラッドを良い様に思ってはいないようであったが、ダンブルドアが隠したものを狙っているという点については懐疑的な態度だった。「あのグラッドは食欲以外に興味はないはずだ」という、ある意味これ以上ない信用をしているらしい。

 しかしそれで納得しないのがハリーだ。彼の中ではすでにグラッドは黒である。せめてグラッドが何者なのかを聞き出そうとするも、彼は素直に教えてはくれなかった。だが、会話の中でハグリッドがこぼした言葉を頼りにこうして図書館で調べているのである。

 

「g、g、g……あ、あった。グラッド・ラトニー」

 

 まず彼等が調べているのは卒業アルバムだ。グラッドがここの卒業生だと聞き出したことから、まずは何年の卒業生なのかを特定しようと思いついた。結果は1978年。若かりし頃の悪魔学教師の写真の載るアルバムを見てハリーは驚愕する。なんと彼はレイブンクロー生だったのだ。あの残忍なところはスリザリンの卒業生だと思い込んでいた彼等はそのことを意外に思った。しかもその年にはハリーの父と同じ名前の卒業生がグリフィンドールに。スリザリンには嫌味な魔法薬学の教師であるスネイプの名前も載っていた。それぞれ所属していた寮は違うものの、思いがけない共通項に狼狽する。もしかしてあの悪魔は僕のお父さんとなにか関係があったのか? 考えたところで今はまだ答えは出ない。

 

「こっちも、それっぽい記事は見つかったわ。たぶん無関係じゃないと思う」

 

 ハーマイオニーは13年前ごろの新聞の記事を探していた。ハグリッドが漏らした「グラッドは13年前からアズカバンに収監されていたから最近のことは知らない」という言葉。ハグリッドが隠されている何かをホグワーツに移したのはグラッドが出てくる前であり、彼にはそのことをそもそも知らされていないはずだというのだ。ハリーからすれば、知らなかったからといって今もとは限らないじゃないかと問いただしたかったが、ハグリッドにはあまり考えるということは向いていなかったようだ。

 彼女が机に並べたのは丁度グラッドが卒業した年の記事ばかり。そこには例のあの人の部下とされた死喰い人が原因不明の死に方で何人も死んだとされる複数の記事。死んだのを確認されているものの、どれも死因は不明と書かれている。そばに座っている男子二人よりもより長くグラッドの食事風景を見せ付けられた彼女には、なんとなく事実が見えてきていた。この死因不明の死喰い人達はおそらく全員食われたのだ。あの日のトロールのように。その凄惨な現場を目撃した人間が複数いるものの、あまりの無いように詳しく書くのがはばかられたのだろうと推測される。

 そして最後にダンブルドアが他の魔法使い達と共闘してヴォルデモートと戦ったという記事だ。そこには戦いの後、山が一つ丸々消滅している写真が載せられており、その戦いの激しさを物語っていた。それ以降も死喰い人とやヴォルデモートとの戦闘を思わせる記事があることからここで決着はついていないのだろう。そもそもハリーが一歳の時にヴォルデモートを倒している以上、ここで決着がついているわけもないのだが。だが、重要なのはこれ以降、死因不明の死喰い人は極端に減っている。それどころか殆どは逮捕されアズカバン行きとなっているし、戦闘の余波で山が消されるなんてことも起きていない。おそらくはこの山が消滅する事件の時に、グラッドはダンブルドアによって封印されたのだろう。この記事の戦いは本来、魔法使い達とヴォルデモートの戦いではなく、グラッドとダンブルドアとの戦いだったのだ。

 根拠もない不思議な現象や空想を書き連ねることで有名な雑誌ザ・クィブラーの当時の記事では、この山が消えるほどのものは単純な魔法のぶつかり合いでは起こりえないことから、ここでダンブルドアが戦っていたのはヴォルデモートではなく遥か遠い宇宙からきた邪神だと記載されていた。邪神はともかく、あまり的外れではないようにも思える。戦っていた相手が闇の帝王ではないというあたりが特にそうだ。

 

「なぁ、こんなの調べたってあいつの正体なんて解らないよ」

 

「それはあなたが知りたくないだけでしょ? いいから手を動かしなさいよ」

 

 調べ物をしようとせず、先ほどから愚痴をこぼしてばかりのロンを睨むハーマイオニーとハリー。彼はどこか危機感が足りない。そもそも、ダンブルドアが隠した何かをグラッドが仮に狙っていたとしても、それをハリー達が守る義務もないのだが、さすがはグリフィンドール生とでもいうべきか。ハリーの中の正義感は、自分がこの案件に関わらないということは許されないことだと感じさせる。他の誰かを頼るわけにはいかない以上、自分達が頑張るのが筋である。あの邪悪な悪魔の企てを阻止しなければならない。

 

「でもロンの言うとおりかもしれない。ここで調べていてもらちが明かないや」

 

「じゃあどうするのよ?」

 

「あいつが動くとしたらきっと夜中だ。僕らであいつを見張るんだよ」

 

「うへぇ……でもそれしかないのかなぁ」

 

 そんな相談をしているのを誰かが聞いているとは思っていない三人。案の定本棚の背後に隠れ、聞き耳をたてていたマルフォイはハリー達を密告するも透明マントのおかげでハリー達はなかなかつかまらない。業を煮やした彼は自分で三人を捕まえようと同じく夜中に抜け出し、三人を捕まえることに成功するも自分も教師に捕まってしまい、哀れ四人は仲良く禁じられた森で一晩過ごすという罰を受けることになったのであった。




スネイプはハリーにとって単なる嫌な教師という印象でしかありません。
そして、賢者の石についても調べてもいなければみぞの鏡もみちゃいません。
次の話は皆さんお待ちかね、禁じられた森でも怪獣大決戦です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。