ハリー・ポッターと暴食の悪魔   作:普段は読み専用

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投稿が遅れてもうしわけない。
この一週間は作者の20数年の人生の中でかなり密度の濃い日々でした。
仕事先では客(男)から告白される(作者は男)
家に帰ると泥棒と鉢合わせ、撃退するも警察の方から「過剰防衛はだ☆め☆だ☆ZO」とお説教。
大学のサークルのOB戦に顔を出すと顔も知らない現役の子達が何故か作者を「えろい人」と認識して広がっていた。
わけわかめ。


7

 

 寮対抗のクィディッチ杯、それは読んで字の如く。

 4つの各寮に別れて試合を行い優勝を競う、ホグワーツ魔法魔術学校で長く続くクィディッチの大会である。自分達の代表が戦うということもあり、ここでの対戦成績は年度末に発表されるその年の寮杯へ大きく影響するので学校をあげてのお祭り騒ぎとなる。試合の日は授業は全て休講で、生徒だけでなく教師も皆観戦にやってくる。

 今年の第一戦目となるグリフィンドール対スリザリンの試合がある今日は、ほお全ての人間が試合会場に集まっている。そのせいかホグワーツの城はもぬけの殻となっていた。毎年この大会を楽しみにしているゴーストたちも観戦に出かけているのだから静かなものだ。試合会場に入れないポルターガイストのピーブスを除けば、現在校内にいるものは管理を任されているフィルチくらいのものだろう。そのフィルチも、他に悪戯の対象がいないこともあってピーブスに纏わりつかれて怒りくるっている。年中悪戯で誰かを困らせているピーブスからすれば、他に誰もいないのであればフィルチを標的とするのは当然のことである。毎年のことなので、校内で唯一、フィルチだけはクィディッチの試合の日というのが大嫌いであった。

 

 しかし、例年であればフィルチとピーブス以外に動き回るもののいない校内で、今年は静寂に包まれる廊下に誰かが歩く靴音が木霊している。頭部にターバンを巻き、にんにくで作られた首飾りをしたマントの男。闇の魔術の防衛術を担当する教師、クィリナス・クィレルであった。

 普段、気が弱くおどおどとしている印象の強い彼であったが、今はそのなりも潜め、真剣な顔をして無人の廊下を歩いている。校内を警備のために巡回している――わけではないらしい。その足取りは巡回しているというよりも、目的に向かって迷い泣く進められていた。

 

「む?」

 

 その歩みがふいに止まる。どうやら何かを踏みつけてしまったらしく、その場で立ち止まり靴の裏を確認してみる。

 

「……これは!?」

 

 クィレルの靴の裏、そこにへばりついていたのは一匹のイナゴであった。彼の体重で潰されたのか、足が何本か千切れてしまっており、体のいたる所から体液と思われる粘度の高い液体を出している。だというのに、その虫は未だに生きているらしく、まるで怨嗟の篭った恨み言を呟くように異常に発達した顎をギチギチと鳴らしていた。

 通常であれば、たかが虫一匹を踏み潰してしまったからといってそこまで気にかける必要は無いだろう。せいぜいが気持ち悪いと思うだけである。だが今年に限っては違う。特に、最近になってホグワーツ内で時折見かけるようになったこのイナゴは特別である。なにせ、誰あろう悪魔学の教師として今年赴任してきたグラッド・ラトニーの使い魔であり分身であるからだ。

 生徒には未だ知らされていないが、教職に就いている者には一応全員にグラッドが悪魔であること、ハリーの護衛としてダンブルドアと契約したためにこの場にいること、このイナゴが彼の体内で作り出された分身であることなどを説明されている。イナゴに発見されたということは、それ即ち、あの悪魔に見つかったも同然である。

 見つかっては何か不都合があるのか、クィレルは顔を不安から来る恐怖心に歪め、頬をひくつかせながらキョロキョロと首を動かす。廊下の先や、曲がり角、今しがた昇ってきたばかりの階段など、どこかにグラッドが隠れているのではないか? そう考えたクィレルは注意深く死角を確認する。

 前方――まっすぐに伸びる廊下の先には動くものは何もなく、左の壁には等間隔に備え付けられた風景画と教室の扉が規則正しく続いている。右側には窓があり、外から廊下に光が差し込んでいた。

 右方――窓の外に見えるのは絶好のクィディッチ日和の晴天。雲ひとつない青空が広がっている。今は閉じられている窓を開ければ、試合会場の歓声が聞こえてくるだろう。

 左方――中央に人がいればさぞ見栄えがいいだろうに、誰も描かれていないために若干物足りなさを感じさせる風景画。この学校に飾られている絵画の中のモデル達は、好き勝手に絵の中を移動するため、おそらくはこの絵に書かれた人物もどこかの絵に遊びに行っているのだと思われる。

 後方――先ほど上ってきた螺旋階段がある。誰かが上ってくる音もしなければ気配もしない。耳に痛いほどの静寂が広がっていた。

 

「……ごくり」

 

 静まり返る廊下にクィレルの喉を鳴らす音が響く。いやに喉が渇く。口内の水分が失われていくのがわかる。1秒、2秒、3秒……その場を動かずに警戒するも何も現れる気配は感じない。時間の経過がやけに長く感じる。彼にとっては何時間も経過した気がしたが、実際には3分と経ってはいない。

 何も起こらないことに大丈夫なのかと徐々に気を抜き始めたクィレル。確かにあの悪魔は脅威だが、この絶好の機会を逃すわけにもいかない。タイムリミットは刻一刻と近づいている。意を決した彼は目的地へ向けて一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

「こんなところで何をしているクィリナス?」

 

 

 

 

 

 

 その一歩を踏み出した瞬間、すぐ背後から聞きたくない声が聞こえた。

 

「っ!?」

 

 背中を虫が這うような嫌悪感が湧き上がる。急いで背後を確認するため振る向いた。

 

「よぉ」

 

 そこには口角を三日月のように吊り上げながら笑い、天井からぶら下がるグラッドの顔があった。目の前、5センチも離れていない。ともすれば振り返った瞬間にキスしそうになるほどの近距離に悪魔の顔があったことに、クィレルは喉が潰れんばかりの絶叫をあげた。

 

「ひぎゃあああああああああああああ!?」

 

 今この瞬間、最も会いたくない男に出会ってしまった。距離を取ろうと無我夢中で走り出そうとするも、後方を振り向いた状態で無理に走ろうとして足を引っ掛けてしまう。顔面を床に叩きつけるようにして転んでしまった。その衝撃で首からかけていたにんにくの飾りが壊れ、床に無数のにんにくがぶちまけられる。

 

「ふぐっ!?……ぐぅう……」

 

 鼻の奥がつんとして何か熱いものが流れてくる。どうやら鼻の骨が折れたのか、両の鼻の穴から血がだらだらと流れ出てきた。右手で鼻を押さえつつ起き上がるが、今更逃げられるとも思えない。ここは勝ち目がないかもしれないが、応戦するしかない。クィレルには、絶対にグラッドにだけは捕まってはいけない理由があるのだ。しかし、その決意も虚しく懐に手をやるも杖がない。どうやら先ほど転んだときに落としてしまったらしい。

 

「探し物はこれか?」

 

 しかも事もあろうに、クィレルの杖を目の前でグラッドが拾い上げてしまう。しげしげと杖を眺めるも、特に何の変哲もないよくある杖だ。彼の興味を引く対象ではなかったのだろう。「ほれ」とご丁寧にこちらに手渡そうとしてくれている。完全に舐められているが、それだけの実力差が今の二人にはあるのだ。クィレルの顔が、ここにきて恐怖以外の感情で歪む。馬鹿にするなと憤慨したいところだが、ここで敵意をむき出しにすれば自分などどうなるかわからない。

 

「あ、あぁ……これは申し訳ない」

 

 ここは何事もなかったかのようにシラを切るしかない。つい今しがた逃げようとしてしまったが、何とかごまかしてこの場を乗り切らなければ! 差し出された杖を握るも、グラッドがそれを離すそぶりを見せない。それどころか杖ごと引っ張るようにしてクィレルを自分の方へと引き寄せた。

 

「お前、何か臭いな。実に臭くて美味そうな匂いがする」

 

 ぎくり、とクィレルの体が凍った。床に散らばるのは常に身に着けていたにんにく。いまだに周囲には鼻につくにんにくの臭いが充満しているが、体から離れたことでこの無駄に鼻の利く男には臭いの違いに勘付かれたらしい。この状況はクィレルにとって非常に拙い。

 

「お前さん、そのターバンの下ぁ……見せてみな?」

 

 これ以上この男と共にいては危険だ。自分も、何よりあの方も!! 一瞬でそう悟った彼は、杖を放棄してその場を一目散に駆け去った。もはや今回の目的は果たせない。別の機会を待つしかない。今は一刻も早くあの悪魔から遠ざからなければ!

 

「えっ? あっ、ぎゃあああああああああああああああああああ!?」

 

 焦るあまり踏み外したのか、ごろごろと螺旋階段を転がり落ちていく男の悲鳴が校舎内に反響していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここか?」

 

 グラッドは先ほどのクィレルの行動を不審に思い、目的地であろう場所を探ってみることにした。ダンブルドアが生徒の立ち入りを禁止したこの四階の廊下。ちなみにグラッドにもこの場に近づくなと言及されている。 だが、言及されているだけで契約で立ち入りを禁止されているわけではないので、知ったことかといわんばかりに廊下を置くに向かって歩いていく。途中いくつか空き教室の扉があったが、中からは何の気配もしなかった。

 だが、一番奥の扉の向こうからは何かの気配を感じる。扉を開けようとすると、当然のことながら鍵がかかっているようで開かない。しかしこちらがドアノブを回そうとしたことから中のものが気がついたようだ。グルルルル、と獣のうなるような声が聞こえてきた。心の弱い人間が聞けば、それだけで恐怖で足がすくむような力強い気配。グラッドは鍵穴から中をのぞきこんでみた。

 

「……ほぅ、あいつは……これはまた懐かしい臭いだ」

 

 小さな鍵穴から見えたのは、大きな体をした三頭分の首を持った黒い犬。地獄の門の門番としても有名な悪魔、ケルベロスだ。否、この場合は別の名前で呼んだほうがいいだろう。なにせこの臭いは、グラッドと同様に地獄の深い場所から来たものが放つ強者の臭い。有象無象の雑魚とは違う実力を持っているはずだ。今は三頭の犬の姿をしているということは、門番としてあのダンブルドアに召喚されたのだろうが……あれの本来の姿は黒い烏。その本領は門番としての戦闘能力よりもあらゆる人文学、修辞学、自然科学の知識と教養。

 

「ナベリウスか……こいつは面白くなってきた」

 

 グラッドはべろりと舌なめずりすると、今後のことを考えて嬉しそうに顔をにやけさせる。扉の奥にいたのは19の軍団を従える地獄の侯爵。かつてソロモン王が従えた悪魔達の序列24位。脳裏に思い出されるのは13年前、アズカバンに封印される前にダンブルドアと繰り広げた死闘。他の魔法使い達が箒で空を飛びながらこちらに魔法を放ってきた中、あの老人だけが違った。右手に剣、左手に杖、そして箒の代わりの空を飛ぶ手段として背中から赤々と燃える炎の翼。自由自在に空を飛んでみせ、翼から発生する火の粉は燃え広がることはなく、触れた味方の傷を瞬時に癒していた。おそらくあれは不死鳥フェニックス……悪魔フェネクス。ソロモン王が使役した爵位持ちの悪魔を少なくとも二体は従えている。そこから導き出される結論は……

 

「あの糞爺、指輪を持ってやがるなぁ……」

 

 グラッドの思考の中は、どうにかしてダンブルドアに悪魔達を召喚させて食べることができないかという計算に埋もれていった。

 

 

 

 

 

 




ダンブルドアが強力な魔法使いとなれたわけは?

A、ソロモン王の指輪の所持者だから

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