ハリー・ポッターと暴食の悪魔   作:普段は読み専用

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今回はみんなのアイドル、ハーマイオニーのトラウマ誕生回です。
一応15禁程度ということで表現は柔らかめにおさえてありますがグロ表現があります。
苦手な人はお気をつけください。




 

 その日、ハーマイオニー・グレンジャーはハロウィンの晩餐に参加せずに一人、学校の地下のトイレで泣いていた。友人だと思っていた少年達の、彼女を嫌っていると思われる発言に深く傷ついたのだ。裏切られたという想いと拒絶されたという孤独感。そして拒絶されるような自分の言動を省みての自己嫌悪。様々な負の感情が混ざり合い、未だ幼い少女の心ははちきれそうなほどの痛みを感じていた。

 

「私一人で友達と思い込んで、馬鹿みたい……」

 

 思えば昔からそうだった。過ぎた親切心は相手にとっては大きなお世話になることが多い。彼女は優秀だがそのへんの匙加減が未だ理解できていなかった。そのせいで相手にも嫌な思いをさせてしまった。昔からそうだ。魔法というものに触れて、今までの世界とは別の世界の住人になれば変われると思っていた。だけど現実はどうだ? 結果を見れば何も変わっていない。相手の気持ちがわからずに、自分ができることを相手にも強要してしまうハーマイオニーには昔から友達ができなかった。できたとしても彼女との付き合いのなかで息苦しさを感じるのか皆離れていってしまう。この学校にきて知り合ったハリーやロンもきっと離れていってしまうのだろう。

 他に誰もいないトイレの中に彼女の呟きが消えていく。かれこれ二時間近く個室の中に篭っていた。備え付けられたトイレットペーパーは彼女の涙と鼻水を拭い去るのに使用され、すでに空になっている。

 自分がこうして悲しんでいる間も皆はハロウィーンのご馳走を楽しんでいるのだろう。誰も私のことなんて気にしたりしない。誰も気づいてくれない。私のことを気にかけてくれる友人なんて、いるわけない。考えれば考えるほど思考がネガティブになっていく。

 その時、わずかに床が振動したような気がした。不思議に思って泣き止んでみれば、徐々に揺れは大きくなっていくではないか。怖くなってきたハーマイオニーは個室を出ると、廊下へと繋がる扉に手をかけた。

 

「……あ」

 

 扉を開けた先、そこには天井に届きそうなほどに高い背をした、醜く太ったトロールがいた。彼女と怪物の視線が交差する。不幸なことに扉を開けなければハーマイオニーに気がつかずに素通りしていただろう怪物は、しっかりと彼女を認識してしまった。

 

「キャアアアアアアアア!!」

 

 想定していなかったものの登場に悲鳴をあげるハーマイオニー。トロールはのんびりとした動作で手にしていた棍棒を振り上げた。それを見てとっさに距離をとるためにトイレの中へと戻る。次の瞬間には棍棒が力任せに振り下ろされ、轟音をたてて扉は破壊された。あんなものが直撃すれば人間など簡単に潰れて死んでしまう。

 しかしその方向にしか逃げられなかったとはいえ、逃げ込んだのはトイレの中。結果は逃げ場の無い袋小路だ。入ってこないでと心の中で懇願したところで、彼女の願い虚しくトロールは緩慢な動きで獲物を追ってトイレの中へと足を踏み入れてきた。自分の怪力で破壊した扉を見て楽しみを覚えているのか、不細工な顔はにたりと嗜虐心によって歪められていた。いかに目の前の小さな存在を潰すかと知能の低い頭の中で下卑たことを考えているのだろう。

 ああ、自分はこんな誰もいないトイレで、こんな怪物に無残な肉塊に変えられて死ぬのか。そうハーマイオニーの思考が絶望に染まりかけた時、更なる怪物がその場に現れた。

 

「見~つけた」

 

 そんな緊張感を感じさせない言葉と、ここ数日で聞きなれた空腹の音と共に破壊された扉の向こうに現れたのは教師のグラッド・ラトニーだ。

 

「おぅ、丸々として良い感じに肥えてるじゃないのトロールちゃん。うむ、実に臭くて美味そうだ」

 

 一人で頷きながらトロールの肥え太った肉体を凝視して涎を垂らすグラッドを見て、これで助かったと安堵するハーマイオニー。どこか得たいの知れない不気味な男ではあるが、そこはホグワーツの教師に選ばれた者の一人だ。この場をなんとかしてくれるに違いない。

 

「ウゥン?……オァウ!!」

 

 背後に立つグラッドを見たトロールは怪訝な顔をするも、おもむろに彼の首に向けて棍棒を振るった。避けようともしなかったグラッドの首を横薙ぎにするようにスイングされた棍棒が直撃する。グキュリという音と共に彼の首が回転して捩れ、人体の構造上曲がってはいけない方向に曲がってしまっている。

 

「は?……え?……ぎゃああああああ!?」

 

 一周回って正面を向いた顔が、鼻血を垂らしながら首の付け根からぶら下がっている。到底生きているとは思えない。捻じ切れた首の部分はかろうじて皮だけで繋がっているだけであり、断面から真っ赤な血が大量に噴出して女子トイレの中を染め上げる。一瞬にして小さな空間は鉄臭いにおいで充満した。せっかく現れた救いの主が、目の前であっけなく死んでしまった。目の前で人の死に様を見たのは初めてだったのか、先ほどよりも大きな悲鳴をあげる。助けが来たと思ったのにこんなに簡単に死んでしまうなんてあんまりだ。彼女は目から溢れる涙を抑えることができない。恐怖と絶望で膝ががくがくと笑う。その場に縫い付けられたかのように足が動かない。どの道動けたところで逃げ場などなく、目の前のグラッドのように自分も殺される。これが悪夢だというなら早く覚めてくれ。そう考えていたハーマイオニーだったが、その予想は良い意味でも悪い意味でも裏切られる。

 普段の冷静な時の彼女なら気がついただろう、その不自然な光景に。グラッドの首は360度以上回転して首が殆ど捻じ切れるほどの強い衝撃を受けておきながら、首から下の胴体はびくともしていなかった。衝撃でふっとんでいないどころか、倒れもしていなければふらついてもいない。何も無かったかのように微動だにせず直立した姿勢を保っていた。

 

「活きが良いねぇ。やっぱり食材は活きが良いのが一番だ」

 

 なんと、どう見ても致命的な状態であるにも関わらずグラッドは生きていた。かろうじて首の皮だけで胴体と繋がっているはずの頭部は何事もないかのように平然と喋っている。まさか、いくらおかしな教師だとは思っていたとしてもあの状態で生きているとは思っていなかったのか、事態を飲み込めずに呆けるハーマイオニー。トロールも確実に殺したと思っていたのだろう。グラッドを見て驚愕の表情を浮かべていた。だが、呆けてばかりはいられない。なにせ、彼女の目の前で起こる光景はここからこそが悪夢といってもいいものだったのだから。

 

「あー、もう首取れかかってるじゃねぇか」

 

 当のグラッドはなんてことのない様子で、右手で頭部を鷲掴んだ。次の瞬間、あろうことか彼は自分で頭部を引っこ抜いた。かろうじて繋がっていた皮膚が千切れてぶちぶちと音が鳴る。人の首が完全に引きちぎられる光景を目の当たりにして幼い少女は既に正気を失いそうである。

 

「イヤァアアアアアアアア!?」

 

 グラッドは今度は左手で上着を裂き始める。露になった腹部に亀裂が生じると、そこに大きな口が現れた。人の唇を連想させるがそこに生えているのはグラッドと同じ乱杭歯。口腔内は深い闇を連想させるほど真っ暗でどうなっているのかはわからない。グラッドは自分の頭部をおもむろにその口の中に放り込むと、腹部の口は閉ざされて鋭い歯がつき立てられる。バキバキと頭蓋骨でも噛み砕いているのだろうか、固いものを噛む音が聞こえた後にくちゃくちゃと咀嚼される音が聞こえてきた。

 そのホラー映画でしか見たことの無い様子は11歳の少女には刺激が強すぎたらしく、彼女は泣きながらも恐怖で顔を逸らすことができないでいた。いつのまにか彼女の下半身からはチョロチョロと音をたてて黄色い液体が足をつたい床に水溜りを作っている。

 トロールも目の前の光景に戸惑っているらしく、うめき声をあげて動けずにいた。いや、よく見れば距離をとろうとじりじりと後退している。この巨人もグラッドに恐怖を感じているのかもしれない。先ほどまではハーマイオニーを追い込む側であった怪物は、今度は自分が追い込まれる側にまわっていた。

 

 ごくり、と嚥下する音がいやに響いた。いつのまにかグラッドの流血は止まっている。傷口からは血の代わりに何か黒いものが溢れてきた。それは良く見ると黒い髪の毛だ。透明な粘液に濡れ、テラテラと光る髪の毛がぐじゅぐじゅと水音をたてて出てきている。そしてその下から傷口を押し広げるようにして人間の頭部が生えてきた。捲れあがった皮膚は余分なところが剥がれて床に落ちる。べちゃりと落下したそれらにどこにいたのかイナゴが数匹群がっていった。

 あっという間に新しい頭部が生えたグラッドは、まるでシャワーでも浴びた後のように、粘液でべたつく髪をかきあげる。

 

「自画自賛は趣味じゃないが、やっぱり俺の肉が一番美味いな。悪魔に生まれ変わってから一番に得をしたのは、やっぱり自分で自分の肉を味わえることだよなぁ」 

 

 他の食事と違い、自分の肉体を食べたとしてもそれで得られるエネルギーは全て肉体の欠損を補うために消費される。そのためカロリー的に考えればプラスマイナス0であり空腹を満たすことはできないが、味覚を満足させる点においては最も美味と感じる食事である。当然といえば当然だ。悪魔にとって穢れは最高級のスパイスであり、悪魔へと堕ちるほどに穢れきった自分が不味いわけがないのだから。

 

「…………」

 

 何も言葉を口にできず、沈黙したまま自身が作り出した水溜りに尻餅をつくハーマイオニー。どうやら完全に腰がぬけたようだ。まるで冷蔵庫に放り込まれたかのようにぶるぶると身体を小刻みに震わせ、歯がかみ合わないようだ。

 グラッドは立ちすくむトロールを見上げると、両腕を広げて抱擁しようと近づいていく。彼の掌には腹部同様新しい口が形成されていた。頭部、腹部、両の掌。計4つの口から獲物を前に涎を垂れ流しにしているグラッドは巨人を抱擁した。

 

「いただきます」

 

 生きながら捕食される激痛に、トロールの悲鳴が校舎の中で反響した。

 

 

 

 

 

 

 

「ハーマイオニー、大丈夫!!……っ!?」

 

「おや、ポッターか。どうしてお前がここにいる?」

 

 悲鳴を聞きつけ走ってきたハリーとロンの二人は、破壊された扉から女子トイレを覗き込む。目に映る真っ赤に染まった空間に息を飲む。その空間に佇んでいるのは何故か上半身が裸となっているグラッドだ。彼は残ったトロールの足をぼりぼりと齧っていた。人間と大差ない形状をしている足を口にくわえて噛み千切る。昔従兄弟が見ていたゾンビ映画にあったシーンを思い出して顔を青くするハリー。彼の後ろから覗き込んだロンは耐性がなかったのか、思わず目の前にいたハリーのローブに嘔吐してしまった。

 何故大広間にいるはずのハリーがここにいるのか不思議に思っていたグラッドだったが、そこへ血相を変えたマクゴナガルが走ってきた。

 

「貴方達、なぜこんなところにいるのです!!」

 

 生徒は全員寮に戻るよう指示が出ているのに、それを無視して危険な場所に足を踏み入れている彼らを怒ろうとして声を荒げる。しかし立ちすくむ彼らに何事かあったと察し、彼女も女子トイレを覗き込んでその凄惨な現場を目の当たりにした。

 

「これは……そこにいるのはミスグレンジャーですか?」

 

 彼女はすぐにトイレの隅で倒れているハーマイオニーを発見した。躊躇しているハリー達を押しのけて血の飛び散った空間に足を踏み入れる。どうやら彼女は気絶しているようだが命に別状はないようだ。身体についた血も全て返り血のようである。しかし白目を向いて泡を吹きながら、おそらくは彼女自身の失禁でできたであろう水溜りの中に倒れているのは年頃の乙女にさせてよい格好ではない。急いでマクゴナガルはハーマイオニーを抱き上げると、老いを感じさせない足取りで保健室へと向かうのであった。それを見て初めてハーマイオニーの存在に気がついたグラッド、どうやらトロールを食べることばかり考えていて幼い少女がその場にいたことに気がつかなかったらしい。まぁ、気がついていたところで行動が変わったわけでもないのだが。慌ててマクゴナガルの後を追いかけて走っていくハリーとロンを見て、ああ成程、となんとなく彼らがこの場に来た意味を悟ったグラッドであった。学生時代から今に至るまでそのような存在がいたことがないグラッドにはよくわからないが、あれが友人というものらしい。実に青春といった風情で楽しそうで美味そうではないか。

 

「契約がなけりゃ喰うんだがなぁ……」

 

 早く彼らが立派な魔法使いになって学校を卒業し、契約の対象外になるのが待ち遠しいグラッドであった。

 

 

 




ハリー→げろ臭い
ハーマイオニー→小便臭い
ロン→げろ吐き
の称号を手に入れた的な?

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