ハリー・ポッターと暴食の悪魔   作:普段は読み専用

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今回から徐々に原作から乖離していきます。




 今日の午前中は授業が無く、暇を持て余していたグラッドは一年生が始めて飛行訓練をすると聞いて、見学でもしようかと考えていた。考えてみれば、悪魔になってから箒というものに乗るどころか一度も触れていないグラッドにとってはしばらく馴染みのないものであった。今年の一年生の中には見所のあるものがいるかどうか、完全に興味本位の見学だ。

 彼の授業は二年生からを対象としたものなので、必然的に寮監でもないグラッドは普通に過ごしている限り一年生との接点はない。護衛対象のハリーが一年生のため、今の一年生のレベルを確認しておくのも悪くはないはずだ。今から行われるのはグリフィンドール生とスリザリン生との合同授業であることからハリーも必ずいることだろうし丁度良い。

 

「……あん?」

 

 校庭に向かって廊下を歩いていると、ふと視界に一匹のヒキガエルが入った。どうやらそのカエルは放し飼いというなの偵察に出していたグラッドのイナゴを食べようとして返り討ちにあい、逆に喉を噛み千切られて絶命しているようだった。普通の地上界のイナゴならば餌になっただろうに、運の悪いカエルである。おそらくは生徒の誰かのペットか、もしくは授業に使う実験動物として飼われていたものが逃げ出したのだろう。元々放し飼いにしていたのかそうでないかはグラッドの知るところではないが、逃げ出すような環境で飼育している飼い主が悪い。グラッドもイナゴを放しているが、命令もなく何かを食べたりはしないから問題はないはず。

 

結論――「俺は悪くないな、うん」

 

 ヒキガエルの死体を掴みあげてみると、見た目よりも重い。餌を普段からよく食べているからか、程好く肥えているようだ。彼は「生徒や教師は食べてはいけない」という契約で縛られているが、ペットやホグワーツの敷地内に生息する動物を食べてはいけないとは言われていない。しかもこのカエルは既に死んでいるわけで……おやつにしても何も問題はないわけである。グラッドはそう結論付けると、朝食の後のデザート代わりとばかりに大口をあけ、一口でカエルを飲み込んだ。

 

「ふむ。大味だが中々……」

 

 どうやらこのカエルの飼い主は良い餌を与えていたみたいである。しかし、味は良くても一匹ではもの足りない。一口食べれば食欲旺盛なグラッドは、同じ味を大量に食べたいと思う癖があった。

 

「……今晩あたり狩りにいくか」

 

 禁じられた森の中にある水場ならカエルも生息しているかもしれない。まぁ、いなければ他の生き物を狩ればいいだけのことだ。あそこの生態系はなかなか変わっているから普段料理で出ないものも取れるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 飛行訓練のため校庭に集まっていた生徒達は、魔法使いの代名詞ともいえる箒に乗れるということもあって興奮が抑えられないのかそわそわしていた……のは先ほどまでの話。

 現在は、皆一様に居心地が悪そうな顔でそわそわとしていた。とある方向が気になって仕方ないようで、時折ちらちらとそちらを見ていた。その方向にはつい二時間程前に朝食を食べたばかりだというのに、グルグルと腹の虫を鳴かせているグラッド・ラトニーがいた。

 

「なんであの人がいるんだ?」

 

「僕が知るわけないだろ。っていうか、見てる……ものすごくこっち見てる!」

 

「ハリー、君何か目をつけられるようなことしたの?」

 

「してないよ。話したことも無いし」

 

「それにあの人、何でもうお腹空かせてるの? さっきあれだけたくさんご飯食べたのに……」

 

「明らかにハグリッドより食べてたよね。むしろハグリッドの身体の半分くらいありそうな大きさの何かの丸焼きを10個は食べてたよね」

 

 入学式から二日後。もはやグラッドの異常な食欲は全校生徒の知るところとなっていた。何せ三食全て明らかにおかしいと思える量の食事をとっているのである。だというのに、普段から空腹の音を鳴らしている。恐ろしく燃費の悪い身体をしているようで、大広間から玄関ロビーまで聞こえるほどの大音量での虫の鳴き声は記憶に新しい。彼の授業中に鳴っていないのは、さすがに我慢できるように授業前に何か食べているからに他ならない。

 そのような食事をしていながら彼の外見はむしろ痩せていた。手足は普通の人間よりも細長く、全体像が歪に見える。何が面白いのかにやにやと笑っていることが多く、唇の隙間から見える歯は肉食獣のそれのように鋭い乱杭歯だ。どこか皆変なところのあるホグワーツの教員勢の中でも一際異質に見える存在であった。

 ハリーとロンは、こちらを見ている視線から目を逸らしつつこそこそと会話をしていた。そんな人物が、接点のないはずの自分達をじろじろと見ているのだ。気にならないわけがなかった。

 ハリーは先ほどまで鬱陶しいくらいに自慢話をしていたとある男子生徒に目をやった。つい数分前までよほど箒乗りに自信があるのか、いかに自分が上手く箒を乗りこなせるか、家にある自分専用の箒がいかに上質な物かなど、周囲の生徒に得意げな顔で話していた金髪の髪をオールバックにした少年。ドラコ・マルフォイというスリザリンの生徒だ。

 彼は先ほどまでの態度はどこへやら。今は借りてきた猫のように大人しくなり身体を小さくしていた。必死でグラッドの方を見ないようにしているらしく、離れた位置にいるこちら側からでも彼がダラダラと冷や汗を掻いているのがわかる。

 ロンの話によれば、マルフォイ家というのは魔法界でも名門の貴族であり、ドラコの父親であるルシウス・マルフォイは魔法省の重役であるらしい。おそらくは他の生徒よりも父親経由で色々と情報を持っているのだろう。その中にはグラッドのこともあるのかもしれない。もしかしたらドラコは、あの不気味な教師の秘密を知っているのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、ハリーに見られているドラコはその視線には全く気がついていなかった。彼にとってはそれどころではないのだから当然といえば当然か。

 

「クソッ!なんであの男がこんな所に……」

 

 何故あの教師がここにいるのか考えたところで満足のいく答えが出るでもなく、悪態をついても事態が好転するわけでもない。現実として天敵とも言える最悪の相手がその場にいる。おそらくはハリーが一番の目当てなのだろうが、それにしてもわざわざスリザリンとの合同授業で姿を見せることもないだろうに。心の中で悪態をつきつつも父親の言いつけどおり、グラッドとはなるべく接触しないように、目をつけられないように小さくなって他の生徒の影に隠れていた。

 新任教師が来るという情報がなかったために、あの人物は何者だろう、と父であるルシウスに確認しておこうとフクロウ便を送ったのが昨夜の夕食前。早くても今日の朝食の時にでも返事がくるだろうと思いきや、なんとその日のうちに返事が来たのだからさすがのドラコも驚いた。なにせ直接寮の彼の部屋までフクロウがやってきて、こちらが窓を開ける前に有無を言わさぬ強引さで窓を突き破ってきたのだから驚くのも無理は無い。いきなりのことに驚き騒ぐルームメイトを静かにさせるのに苦労しつつ、手紙の内容にさらに驚くことになる。

 

―――グラッド・ラトニーには近づくな―――

 

 手紙の最初の一文はそう書かれていた。そして、それに続くのはグラッドがいかに危険な男かというものがびっしりと書き込まれていた。それも、自分達にとってどれだけ危険なものか書かれていた。中身を呼んで恐怖に駆られたドラコは昨晩はなかなか寝付けなかった。先ほどまで他の生徒達に自慢げに振舞っていたのも、恐怖心を紛らわし隠すための無意識から来る虚栄心だったのだろう。

 

 

 かつて世界を震撼させた闇の帝王ヴォルデモート。その名は恐怖の代名詞として歴史に刻まれ、名前を呼ぶのもはばかれるとして彼の名前は禁句とされ、「例のあの人」と呼称されている。そんな人物がかつて恐れた人間が二人いた。20世紀最高の魔法使いとされるダンブルドア。そして人でありながら秘儀によって肉体に悪魔を宿し、自身も悪魔へと堕ちた化物グラッド。

 ドラコの父ルシウスもかつては例のあの人の部下である「死喰い人」の一員であった。100名以上はいたとされる死喰い人も今は生き残っているものは半数にも満たない。生き残った死喰い人の多くが捕らえられアズカバンへと送られた。運よく生き残り、帝王への忠誠を捨てて足を洗うと誓ったために今も表社会で生活できているものもわずかではあるがいる。ルシウスもその一人であり、元々名家の出身で自身も重要なポストに座っていたために難を逃れた人間である。

 では、なぜ死喰い人の多くが死んでしまったのか。例のあの人に抵抗する魔法使い達との戦いで命を落としたものもいる。だがその多くは他でもないグラッド・ラトニーに喰われたのだ。文字通り生きたまま彼の餌にされたのである。確認が取れているだけで36名の死喰い人が彼の胃袋に納まった。それも、正義を自称する魔法使い達に同調して死喰い人を襲ったのではなく、グラッド曰く「死喰い人は美味いから」という信じられないものであった。なんでも彼の言葉を借りるなら、闇の魔法を繰り返し使う者の魂はやがて徐々に穢れていくそうで、穢れは悪魔にとって絶妙なスパイスとなるとか。

 死喰い人以外を殺したとされる確認は取れていないものの、一般人が犠牲になっていないとも言い切れないのも事実であった。闇の時代とされた当時、人が行方不明になるなど特に珍しいものでもなかったこともあり確認をすることは難しかった。だが黒に近い灰色とはいえ、一般人に被害が出るのも時間の問題としたダンブルドアは彼をアズカバンの最奥へと封印したというのだ。さすがの最強と謳われるダンブルドアですら悪魔となっらグラッドを殺すのは難しかったらしく封印処理とあいなったのだ。

 多くの死喰い人を倒したという面だけを見れば、本来は英雄視される立場の存在だが、あまりにも人の道から外れていた。生きたまま人間を食すその姿は凄惨なものがあり、内容が内容なので一般人には彼の存在は秘匿とされていた。

 全く、悪い冗談だ……こんな危険人物が自分のそばにいると考えただけで恐ろしい。おそらくは生徒は襲わないという契約をしているであろうことから、ドラコに今のところ差し迫った命の危険はないだろう。だがさすがにその保護者まで対象だと楽観視はできない。彼が元死喰い人であるルシウスのことを知れば、嬉々として捕食しようとするだろう。目をつけられるわけにはいかなかった。

 

「いつまでぼーっとしているのです! 飛行訓練を開始しますよ、各自自分の箒の横に立ちなさい!」

 

 数分後、マダム・フーチが校庭に現れた時、不覚にもドラコには彼女がどんな女神像よりも美しく見えたとか見えなかったとか。その後の飛行訓練は教師が二人もいることからふざける生徒も居らず、ネビル・ロングボトムという生徒の箒が暴走するというアクシデントもあったものの大事にならず無事に終わったのだった。

 

 

 




教師が二人もいてけが人が出たら職務怠慢ですよね。
トレバーはお星様になって、一足先にご主人様を向こうで待ってますよ。
ハリーがクィディッチの選手?一年生は無理ですよjk。

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